2024年1月16日火曜日

ドラマ:スカイローズガーデンを読み解く入り口

謎解きの入り口としての鳥瞰カットの内、2つ(西崎との会話後の成瀬の後ろ姿、杉下の成瀬からの電話を出た際の立ち姿)からスカイローズガーデンを紐解く入り口を与えてくれています。

  • 成瀬と杉下が距離を取る事になった理由
  • 杉下のN=成瀬である事の理由

成瀬と杉下が距離を取る事になった理由

これは成瀬が西崎に話したはずの内容です。成瀬と杉下の間にこの事件の後に接触がない事から、理由はスカイローズガーデンの中にあります。これは成瀬が西崎に語った内容ですので、端的に言えば、成瀬から見てスカイローズガーデンでの杉下の行動がどう見えたのか?がポイントになります。

成瀬には杉下が安藤を庇っているように見えた

西崎が警察に犯人が自分である事を自供し、杉下は成瀬に「外からドアチェーンが掛かっとった事、警察には言わんで」と依頼しています。これが成瀬には杉下が安藤を庇っていると見えたのです。

成瀬には過去に似た経験があります。島時代、初めて杉下の買い出しに付き合い、幽霊屋敷を訪れた際に早苗の壊れっぷりを見た後に二人で東屋へ立ち寄ります。そこへ高野が訪れ杉下に大丈夫か、と問いかけがありました。この時杉下は成瀬に『母親の事は黙っていてほしい』旨を頼んでいます。

成瀬は、ドアチェーンを安藤が掛けた事を認識しています。この島での経験から成瀬にはドアチェーンの隠蔽の依頼する杉下は安藤を庇おうとしている、と見えたのです。

また、この見え方を補強してしまった事前情報がありました。安藤がこの食事会で杉下にプロポーズしようとしている、というシャルティ・広田でシェフから聴いた情報です。少なくとも成瀬には安藤は杉下と恋仲なのか?と考えさせられる情報を持っていた事が、杉下が安藤を庇っていると見えた要因ともなっています。

成瀬には安藤は許しがたい存在

成瀬はこのドラマでは性格的には『普通』な存在として描かれています。自身の父親がさざなみ炎上の放火犯であると疑っていた彼は、杉下の勘違いを訂正できずにいました。

また、その父親が亡くなった事から自暴自棄に陥り、詐欺まがいの事までしてしまった。決して強靭でも聖人君子でもない普通の青年なのです。

そのような成瀬から見たとき、結果野口夫妻が亡くなり、西崎が奈央子を庇う為に無実の罪を被る決意をし、自分も杉下も偽証するという危険な橋を渡る事になる状況を、鍵を掛ける事で作り出した安藤は許しがたい存在です。

成瀬にとっては安藤を庇うようにみえる杉下も許しがたい存在

そんな成瀬には、安藤を庇うように見える杉下の行動は驚きであり、またそのような行動をする杉下は安藤同様に許しがたい存在であるのです。

事実成瀬は、杉下の依頼に対して目を見開いて彼女を凝視し、警察と部屋を出ていく安藤に視線を送り、再び杉下を凝視しました。その後杉下の手を取り、杉下が部屋を出るのを見送りますが、彼の視線は一貫して冷めたものであり、杉下の背中に向けられたそれは、敵意さへ感じられるほどのものです。

そこには、それまでの杉下を護ろうとする意思、彼女をいたわる感情が全く見られません。

血濡れの手繋ぎは成瀬からの杉下への決別宣言

そのような状況下、成瀬は杉下の手を取ります。杉下は成瀬に視線を送りますが、成瀬は杉下へ視線を送りません。

この手繋ぎは、先の成瀬の杉下への視線、安藤についての成瀬の反応、事件の後10年間成瀬と杉下に接点がない点を考えると、この行為は成瀬から杉下への、決別の意思表示と考えるべきです。

成瀬が西崎に話した事

成瀬と西崎の電話において、西崎は成瀬に何故二人に距離が出来てしまったのか?を問うたでしょう。成瀬は以下の点を西崎に話したはずです。

  • 『杉下からドアチェーンが掛かっていた事を警察に話さないよう頼まれた』
  • 『それは杉下が安藤を庇う意図と理解した』
  • 『安藤は許されざる存在。その安藤を庇う杉下を嫌悪した』

杉下のN=成瀬である事の理由

これは西崎と成瀬との会話において、西崎が成瀬を説得する事を意図し、成瀬に話したはずの内容です。これが説得の決め手となり、成瀬は翌朝、杉下を訪ねます。二人の会話の内容・流れを推測するならば、順番的には先に成瀬が、杉下と自分が距離を取る事になった事情を西崎に話した内容のカウンターとして西崎が話した事項になります。

まず西崎は、成瀬がと杉下の距離を取った理由に対する、彼の誤解を解く

ここでの成瀬の誤解とは杉下が成瀬にドアチェーンの隠蔽を依頼した真意です。西崎は『安藤を庇う』事とは別に存在する、杉下がそうする必要性を成瀬に説明する事になります。

西崎にはドアチェーンの隠蔽の意図が判る

杉下が成瀬にドアチェーンの隠蔽を依頼した事実は西崎は知りません。その時既に彼は警察に導かれ、部屋を退いているからです。しかし西崎は杉下が成瀬にドアチェーンの隠蔽を依頼した真意が判ります。何故なら、西崎自身がドアチェーンについて、警察には話をしていないからです。

当然西崎は安藤がドアチェーンを掛けた事を判っています。西崎は後に入室した安藤に向かって「逃げられなかった」と彼の行為を責め、また出所後西崎を訪ねてきた安藤に対して冷たい対応をしています。西崎の対応には、安藤を庇う意図は見られません。しかしドアチェーンについては杉下と同じ行動を取っているのです。

三人の謀議内容

成瀬が入室した後に3人による謀議の内容は以下のものです。

西崎:「作戦は失敗だ。警察に通報してくれ。警察には作戦の事は黙っておこう。俺が一人で奈央子を連れ出すつもりだった」

杉下:「でも」

成瀬モノローグ:(どうして、今自分がここにいるのか解った。4年前杉下は何も聴かず俺を庇ってくれた。今度は俺の番だ)

成瀬:「大丈夫。全部偶然だ、って言えばいい」

西崎:「ああ」

成瀬:「杉下と俺はなんも知らんかった、今日会ったのも偶然。(杉下に)それでいいね」

(頷く西崎、西崎が自分に向ける笑顔に膝まづく杉下)

つまり、3人の謀議のポイントは以下の通りです

  • 西崎単独計画・単独実行
  • 3人が現場に居合わせたのは偶然

3人の謀議を覆しうる存在

しかし、この3人の謀議を覆しうる人物が存在しています。それが安藤です。

  • 杉下へ電話した際、部屋に『男性のお客さん』が訪ねてきている事を知っている(7話)
  • 蟹を杉下の部屋へ届けた際、西崎の話から西崎と杉下及び『杉下の友人』が食事をしていた事を知っている(8話)
  • 冷蔵庫内にシャルティエ・広田のケーキが在るのを確認している(8話)(そして安藤がその光景=『シャルティエ・広田のケーキが冷蔵庫内にある事』を見ている事を杉下は認識している)
  • 安藤と杉下の会話で、野口宅でのパーティがシャルティエ・広田の出張サービスによるものである事を安藤は知っており、杉下が同級生が働いており、その同級生が特別にクリスマスイブにキャンセルが出た事を教えてもらった事を安藤に話している。また安藤はその同級生が杉下の部屋を訪ねてきた『お客さん』である事に気付いており、杉下も同意している(8話)
  • 安藤と西崎がスカイローズガーデンのエレベーターで鉢合わせした際、西崎に『杉下の同級生の関わり』を問い、「3人そろって偶然な訳ないだろ。何考えてる?」と3人による何がしかの計画に気付いている(10話)

つまり、これらの事実を安藤が警察に証言した場合、上記の3人の謀議は簡単にひっくり返るのです。

杉下の成瀬へのドアチェーンの隠蔽依頼は安藤の口封じ

西崎及び杉下は安藤が謀議内容をひっくり返しうる存在である事は判っていました。そして、3人(西崎、杉下、成瀬)がドアチェーンに言及しなければ、西崎と杉下には安藤は自らドアチェーンを掛けた事は証言しないだろう、と推測したと思われます。

ドアチェーンは野口夫妻の死亡の間接的な原因であり、故に自ら進んでドアチェーンを掛けた事は安藤は証言しないだろう、との判断です。人間は自らに都合が悪い事象については口を紡ぎがちとなりますから、この推測は妥当と思われます。

しかし、成瀬は安藤が謀議をひっくり返し得る存在であるという事を知りません。上記の諸点はいずれも成瀬が認識しえない場所で展開されています。ですから杉下は成瀬にドアチェーンには触れる事がないよう、成瀬に依頼したのです。

ですので、西崎も成瀬に対して杉下のドアチェーンの隠蔽依頼の意図を『安藤の口封じ』が目的であった事を説明したと考えられます

西崎からみて杉下の行動が誰を護るためのものであったのか?

西崎が成瀬に対して、杉下のN=成瀬である、と成瀬に説明するには、西崎自身が見聞きしている杉下に関する情報から説明する必要があります。

  • 西崎との会話で杉下は『究極の愛』の概念を持っており、それが『罪の共有』である事も西崎は聞いている(4話)
  • 早苗が杉下を訪ねてきた際、西崎に匿われた杉下は彼女の『罪の共有』相手に対して感情を駄々洩れさせた(5話)
  • 奈央子救出作戦に成瀬が加わる事を報告した杉下に西崎は成瀬が杉下の『罪の共有』相手であるかを問い、杉下もそれを否定しなかった(8話)
  • 成瀬が杉下の部屋を訪ねてきた際、杉下が非常に成瀬に気を配っている事を見ている(7、8話)
  • 杉下が複数回に渡り、自分と成瀬が共同で事に対処するという趣旨の発言をしており、西崎はそれを聞いている(8話)
    • 「そしたら私が体当たりして成瀬君を助けるよ」
    • 「後の事は私と成瀬君がなんとかするから…」
    • 「なにかあっても、私と成瀬君がついているから」

つまり西崎は成瀬に以下の点を話したはずです。

  1. 成瀬は杉下の『究極の愛』の概念を生んだ相手
  2. 彼女にとって成瀬は『罪の共有』をさせるに至った事件を抱えるにいたった特別な存在
  3. 疎遠であった間も彼女が成瀬に強烈な感情を有していた事
  4. 奈央子救出作戦を契機に杉下が成瀬との関係を再開させようとしていた

決定的な証拠は杉下が謀議を受け入れたタイミング

野口を殴打した奈央子から、西崎と杉下は退去を求められます。西崎は既にドアチェーンが掛かっている事を知っていたため動きませんでしたが、杉下は玄関へ向かいました。そこでドアチェーンが掛かっており、脱出不可能である事を知ります。

奈央子が自殺をし、西崎が偽装工作をしつつ、杉下に偽証を求めます

  • 「野口を殴ったのはおれだ、奈央子を刺した野口を俺が殺した」
  • 「何も見なかった事にしてくれ」
  • 「愛はないかもしれないが、罪を共有してくれ」

しかし杉下はこの西崎の要求に対して杉下はこれを拒否します

  • 「なんでそんな嘘つかなきゃならないの。西崎さんが罪を被る事はないでしょう」
  • 「そんな嘘、つきとおせる自信ない」
  • 「そんなの、出来ないよ」

しかし、その後成瀬が入室し、成瀬が3人が居合わせたのは偶然、という謀議内容を西崎・杉下に提示した段階で、杉下はそれを受け入れました。成瀬の示した内容は、西崎が先に提示した『西崎単独計画・単独実行』を補強するもので、西崎が杉下に要求した偽証と方向性は変わらず、西崎が杉下に要求した偽証の方向から必然として生じる内容なのです。

しかし西崎の要求には拒絶し、成瀬の指示にはそれを受け入れたという事は、成瀬が状況に加わる事で杉下に偽証を行わなければならない理由が生じたという事です。『罪の共有』という彼女の概念を知る西崎には杉下が成瀬と『罪の共有』をするに至った事件は当然未解決である事が予想されます。

つまり西崎には杉下が偽証を受け入れたのは、成瀬が状況に加わる事で、未解決である過去の事件が蒸し返され、再び成瀬が危険な状況に陥る事を杉下が恐れたから、と見えます。

安藤は杉下が偽証を受け入れた理由には入らない

西崎は杉下が野口宅を出ようと玄関に向かった事を知っています。ドアチェーンが掛かっており外に脱出出来ないという事を彼女も認識したと判断したはずです。一方西崎は鍵を掛けたのは安藤と判断していました。彼が入室した際に安藤に向かって「逃げられなかった」と言ったのは、西崎の安藤に対する非難です。

西崎から見たとき、杉下の偽証受け入れに安藤の存在が感じられるでしょうか?

もし西崎からみて杉下が安藤の存在を意識する場面があるとするなら、それは彼女がドアチェーンが掛かっているを確認した時でしょう。しかし、その後の西崎との会話においては彼女は西崎の偽証要求を拒絶しています。つまり嘘を付く事に拒絶をしているのです。もし安藤を庇う意思があるのであれば、西崎の要求には拒絶しないでしょう。そうすると、彼女が偽証の受け入れた理由に安藤を庇う意図はなかった、と見る事ができます。

西崎が成瀬に語った事

以上をまとめると、西崎が成瀬を説得する為に語った事は以下の通りとなります
  • 杉下にとっての成瀬とは『究極の愛』『罪の共有』の相手であり、強烈な感情を抱いている
  • 杉下は奈央子救出作戦を機に『罪の共有』概念に含まれる『だまって身を引く』ことで距離を取っていた成瀬との関係を再度取り戻そうとしていた
  • 杉下が成瀬にドアチェーンの隠蔽を依頼した理由は安藤が3人の謀議を覆し得る存在であった為の口封じ
  • 西崎の偽証要求に対して杉下は拒絶しており、杉下の偽証受け入れは、状況に加わった成瀬の過去の事件の蒸し返しを恐れたからであり、杉下が護ろうとしたのは成瀬である、という事

2024年1月13日土曜日

ドラマ:成瀬が訪ねた際の杉下の驚きの事情

 

9話で成瀬が杉下を訪ねた際の二人の会話です。

杉下:「もしもし」

成瀬:「杉下」

杉下:「…はい」

成瀬:「家におる?今下におるんやけど」

(部屋からベランダへ出る杉下)

杉下:「なんで成瀬君がおるん?」

成瀬:「島に帰っとった。これ、うどん」

杉下:「ありがとう。だけど、なんで成瀬君がここにおるん?」

成瀬:「西崎さんが教えてくれた。何度か府中に差し入れしたけん、出てから連絡くれて」

杉下:「急に来んでよ、私こんな格好やのに」

成瀬:「少し…話さん?」

杉下は電話を掛けてきたのが成瀬である事を、電話に出る前に判っていた

まず、電話が鳴った時の杉下の反応です。手に取った携帯の画面を見つめた後、小さな吐息をついてから電話に出ます。携帯画面には相手に関する情報が表示されているはずです。それが登録されている名前であるのか、単に電話番号だけであるのか、は不明です。最初の携帯が鳴るカットにおいては、画面に何が表示されているかは、ピンボケで判りません。

次に注目したいのは、杉下が驚きの表情を見せたタイミングです。彼女が表情を変えるのは、成瀬の「今下におるんやけど」の発言の後です。その前の「杉下」に対しては表情を変えていません。また、成瀬は自分から名乗っていないという事実があります。そうすると、彼女は電話に出る際に既にこの電話が成瀬からのものである事を判って出ていると考えられます。

成瀬は既に一度杉下に電話を掛けています。その際には杉下は痛みの発作でその電話に出ることは出来ませんでしたが、後に履歴から電話があった事は把握していると考えてよいでしょう。また、杉下はその前に西崎を訪ねています。杉下が西崎を訪ねたシーンにおいては成瀬の話題は描写されてはいませんでしたが、西崎は成瀬の電話番号を知る存在です。西崎は成瀬と杉下が長い間接触を断っている事を知ってはいますが、杉下にとって成瀬は彼女の『究極の愛』の相手である事を知っている存在でもあります。杉下が誰も頼ろうとしていない事は会話から判っている事ではありますが、成瀬を頼るよう西崎が杉下に成瀬の電話番号を教えてた、と考えていいと思います。

そうであれば、既にあった着信履歴と西崎から教えられた番号から、杉下は既に一度成瀬から電話があった事を認識してから電話に出たと考えるべきです。ですから、彼の「杉下」という呼びかけそのものには、さして反応しなかったのだ、と考えられます。

杉下は成瀬の来訪の意図を図りかね、動揺している

彼の来訪に杉下は明らかに動揺しています。成瀬の「家におる?今下におるんやけど」に眼を見開き、「なんで」の声が震えています。

杉下はまた『なんで成瀬君がおるん』と2度問うています。成瀬は最初の問いに訪問の目的が杉下に島の土産(うどん)を渡すため、と返していますが、杉下はなおも同じ問いを彼に投げかけます。彼女の疑問は、もっと深い意図に対するものであったからです。

杉下は成瀬との間に心理的ハードルを抱えている

成瀬の電話に出る前、彼女は小さく吐息を付いています。これは電話に出る前に心を落ち着けている為の動作です。また、先の推論のように、この時成瀬からので電話である事が判っているはずであるのに、彼女の冒頭のやり取りには高揚が見られません。冷静さを保とうとしている、というよりは彼の電話に出る事に心理的な抵抗があるように見えます。

西崎から彼の電話番号を教えられたであろにも関わらず、その後杉下から折り返しの電話もしていない事実からも裏付けられると思います。

また「急に来んでよ、私こんな格好やのに」という言葉に彼に対する心理的なハードルが存在している事が表れています。これは1話で早朝に寝間着のまま成瀬の自転車に乗った時と対照的な反応です。

杉下には成瀬が自分を訪ねてくる事そのものがあり得ない事

杉下は再度の問いの時「なんで成瀬君がここにおるん」と聞いています。「ここに」の部分が初回から増えている部分です。

「ここに」の意味は2通り考えられるでしょう。一つは杉下の住所にどうしてたどり着いたのか?という意味。それともう一つは『ここ』=『自分の前』にという意味。

成瀬は杉下の「ここに」の意味を、情報の伝達経路と捉えました。ですので「西崎さんが教えてくれた」と返したのです。

しかし、杉下の本意は情報経路であったのでしょうか?先に検討した通り、杉下は成瀬の電話番号を西崎から聴かされています。つまり成瀬と西崎には接触が在る事は判る事です。そして西崎は自分の住所を知っている存在です。つまり杉下には成瀬に自分の住所が成瀬に伝わる事も十分予測出来たはずなのです。

そうすると、杉下の「ここに」の意味は、成瀬に自分の住所が伝わるであろう事を十分踏まえた上で、それでも成瀬が『自分の前』に現れると彼女が考えていなかったが故の「なんで成瀬君がここにおるん?」であるのです。つまり成瀬は例え自分の住所を知っていたとしても自分の前には表れない、と杉下が考えていたのです。

これは杉下が西崎を訪ねた際の、西崎の笑みとは対照的です。西崎の笑みには懐かしみが感じられます。西崎は杉下が自分を訪ねてくる事を十分予測しており、笑みで彼女を迎えたのです。

二人の10年の関係はスカイローズガーデンで決定した

10話、成瀬のプロポーズに対して杉下は「甘えられん」と返しています。彼のプロポーズは拒絶はしたものの、彼女の中には成瀬に対して『甘えたい』という感情があるのです。それにも拘らず、彼女は成瀬に対して心理的障壁を持ち、成瀬が自分を訪れる事はないと考えていて、故に来訪に動揺し、来訪意図への勘繰りをする反応を取ってしまう。

4話、安藤とのレストランでのシーンで、杉下は安藤に『あれから誰とも会っていない』と返しています。つまりスカイローズガーデンの事件現場で成瀬と別れた以降、成瀬と接触がない事が語られています。そうすると、杉下の成瀬に対する反応はスカイローズガーデンの出来事により形成された、という事になります。

2024年1月12日金曜日

ドラマ:成瀬と西崎の会話の再構成

再構成が必要な二人の会話は、9話における成瀬と西崎の電話での会話です。

成瀬:「はい」

西崎:「西崎です。成瀬君、もう一度杉下を助けてやる気はないか?杉下本人は誰の助けも必要としていない。だがあるいは成瀬君なら、と思ってね」

成瀬:「相変わらず回りくどいですね」

西崎:「単刀直入に言おう、杉下は…」

(西崎の前を車が割り込む形で会話を遮る)

(携帯電話を持つ右手をゆっくり下ろす成瀬を背後から鳥瞰で撮った後、翌朝の成瀬が杉下を訪ねるシーンへ)

再構成しなければならない、つまり隠されている会話の内容は西崎の「単刀直入に言おう、杉下は…」の後の部分です。

【ドラマ:西崎が成瀬に伝えた事】で指摘した事ですが、ここで話されているはずの内容は、一つは杉下が病気で余命宣告を受けている事が一つ。そしてもう一つは、成瀬がさざなみの真相を杉下へ話す必然性が生ずる、成瀬が知らないスカイローズガーデン及び東京編における杉下についての西崎の観察内容、となります。ただし、その前に幾つかの副次的な問題についても、考える必要があります。

西崎は成瀬と杉下が10年間接触がなかった事を知っている

西崎の「単刀直入に言おう、杉下は…」の後に続く言葉は『杉下は病気で、余命宣告を受けている』であろう事は容易に想像がつきます。しかしここに至るまでの過程を見ると、西崎は成瀬が杉下の事をどれほど知っているのか?という点について探りを入れるような会話がありません。つまり成瀬は杉下が病気で余命宣告を受けている事を知らない、という前提でいます。

1話で西崎は出所後他の二人より先に成瀬と接触しています。そして10話ではスカイローズガーデンでの謀議を図った際に、成瀬に対して「杉下を護ってやってくれ」と頼んでいます。

しかしながら彼が杉下の病気の情報を得たのは8話で杉下が西崎を訪れた際の会話から、興信所の調査結果からです。またこの時杉下は『病気の事で誰かを頼る意思がない』事を西崎に話しています。

つまり、西崎から見ると成瀬に杉下を護るよう頼み、その頼みに対して成瀬は同意していたにも関わらず、二人は事件後接触を断っており、杉下が病気である事も成瀬は知らない、という事が判っていたのです。

西崎は成瀬が必ずしも杉下を助ける行動を取るだろうとは考えていない

西崎は成瀬に杉下の病気の情報を伝えれば、彼が必ず杉下を助ける、とは考えていませんでした。それは西崎の言葉に現れています。

「成瀬君、もう一度杉下を助けてやる気はないか?」

この言葉は、西崎が成瀬が行動を起こさない可能性もある、と考えているからこその言葉です。西崎が成瀬が行動を起こさない可能性を考えていなければ、このような言葉は不要であり、いきなり杉下の病気について話せばいいはずです。

西崎の電話は単に情報の伝達ではなく、成瀬の説得も目的だった

西崎のこの時の関心は、いかに杉下を助けるか、でありその目的の為に安藤を呼び出したにもかかわらず、安藤では杉下が現在の態度(誰からの助けも拒絶する)を変えられないとみて、安藤を断念し最後の砦として成瀬に連絡をとったのです。

(西崎が安藤を断念した理由も、なかなか面白いテーマです)

しかし、成瀬は西崎とのスカイローズガーデンでの「杉下を護ってやってくれ」という約束を反故にして、10年間二人は接触を断っている。そこには当然感情面を含む障害がある事が予想されます。西崎には杉下の病気を伝えるにせよ、成瀬を動かすには説得が必要だ、と判っていたはずです。

説得するからには、西崎は当然二人が距離を取った理由を成瀬に問う

西崎は杉下の『究極の愛』の定義を知っていて、その定義が形成された何がしかの事件が存在し、そしてその相手が成瀬である事を知っています。

5話で早苗が訪ねてきた時、自室に匿った杉下が『究極の愛』の相手(=成瀬)に対する感情を駄々洩れさせている事も知っています。

そしてスカイローズガーデンにおいて『杉下を護る』事を成瀬は西崎に対して約束していたにも関わらず、成瀬と杉下の間には距離が出来、挙句杉下が病により余命幾ばくもない状況にある。

西崎にはなぜこのような状況に二人が陥ったのか?現状を知っている西崎が成瀬の行動を促すからには、当然西崎の中にある疑問を成瀬に問うはずなのです。

成瀬は杉下と距離を置く事となった理由を語り、西崎はスカイローズガーデンでの『杉下のN』が成瀬であった事を語った

これはスカイローズガーデンの謎を解く事に他なりません。成瀬が杉下との距離を置くこととなった理由は、杉下が成瀬の訪問に驚くシーンに繋がります。そして西崎から杉下のNが自分である事、そしてその根拠を聴いた事が、成瀬が杉下にさざなみの真相を話す理由でもあるのです。

この部分に関しては、とてもこの項で語る事が出来ません。別途項建てして順々に紐解いてゆきます。

2024年1月8日月曜日

ドラマ:西崎が成瀬に伝えた事

9話で西崎が安藤と串若丸で飲んだ後、野ばら莊のかつての杉下の部屋の前から成瀬に電話を掛け、『杉下を助けてやってほしい』、と伝えます。

この時の会話の内容は、西崎が杉下の事を話かけたところで、車が通りすぎる事で遮られ、視聴者には明かされませんでした。

この時、西崎は成瀬に何を伝えたのでしょうか?

杉下が病気で、余命宣告を受けているという事。これは10話で杉田が成瀬に『病気の事、西崎さんに聴いた?』と問い、成瀬もそれを否定していません。否定をしないとはそれは実質的には肯定です。

ただ、西崎が成瀬に伝えた事はこの点だけなのでしょうか?

この疑問は西崎が成瀬に電話したシーンの演出方法2点に端を発しています。

  • 車が通りすぎる事で会話の内容をあえて隠すようにしている事。
  • このカット直後の、成瀬の後ろ姿を鳥瞰で捉えたカット

鳥瞰カット

先に書いた通り、鳥瞰カットはこのドラマにおいて、謎解きの入り口として設定されています。二人の会話の内容を推理する事は、このドラマの謎解きの入り口なのです。

なぜ会話を隠すのか?

杉下が病気であり、余命宣告を受けいている事は7話での杉下と高野との会話で明らかにされています。既に視聴者には既知の情報です。もし西崎が成瀬に伝えた情報が彼女の病気だけであるなら、杉下の病気を西崎から伝えられる事による成瀬の表情の変化を追ったほうが演出的には面白いのではないでしょうか?わざわざ車が遮る、という形で視聴者に対して『会話を隠してます』と判る演出をしています。つまり杉下が病気である事以外の情報が西崎から成瀬に伝えられたと考えるべきではないか?と思えるのです。

ヒントは杉下との会話にある

この時、成瀬が杉下に話した内容は以下の3点です。
  • さざなみの真相
  • 島へ還る事
  • プロポーズ
プロポーズは、西崎が成瀬に期待した行動(『もう一度杉下を助けてやってくれないか?』)に対応しており、隠された会話の内容に関連するとは言えないでしょう。
島へ還る事についても、自身の今後の予定を告げたものであり、隠された会話との関連は有りません。
西崎が成瀬に対して話す内容とは、西崎が知っていて、成瀬が知らない事項であるハズです。そうすると成瀬が知らない事項は、
  • 杉下の病気
  • それにも拘わらず彼女が誰からの援助も拒絶している事
  • 安藤が杉下にプロポーズした事
  • スカイローズガーデンを含む東京編での事項
という事になります。
杉下の病気と彼女が誰からの援助も拒絶している事は、ドラマ中でも描かれていることから、ここで問題とすべき『隠された会話の内容』ではありません。
成瀬が杉下に話した内容はさざなみの真相についてでした。安藤が杉下にプロポーズした事に関しては、もし実際に成瀬に対して話されていると仮定した場合、後のプロポーズへの影響はある可能性はあります。しかしその結果は彼女が誰からの援助も拒絶している、という情報と併せると、少なくとも成瀬がさざなみの真相を杉下に語る行動には実質的には意味のない情報と言えます。
そう考えると、西崎から聞かされた『スカイローズガーデンを含む東京編での事項』とさざなみの事件とがリンクしているからこそ、成瀬は杉下にさざなみの真相について話をする必要が生じた、と考える事が出来ます。

成瀬と西崎の会話の再構成の為には、スカイローズガーデンでの二人の杉下の行動原理の理解の差について紐解く必要がある

成瀬がさざなみの真相を話すに至った事項を理解するには、成瀬と西崎の電話での会話内容を再構成し、何が語られたのか、その内容が話されるにいたった経緯について再構成をする必要があります。その再構成の為には、先に検討した謎の入り口である、スカイローズガーデンにおいて、二人からは杉下はどう見えたのか?について検討が必要ですし、そこから生ずる成瀬と杉下の10年の関係の原因を考えねばならないでしょう。またその過程において、杉下が成瀬の電話に驚いている理由も見えてくると思われます。

2024年1月7日日曜日

ドラマ:謎解きの入り口としての鳥瞰カット

ドラマで印象的なカットといえば、スカイローズガーデンでの死んだ野口夫妻を囲む4人のカットです。

 


ミステリーであるこのドラマの象徴的なカットです。登場人物を鳥瞰で捉えた特徴的なカットです。

実はこの鳥瞰カットはここだけではなく、あと2か所存在しており、全部で4か所使用されています。

  • スカイローズガーデンで亡くなった野口夫妻を4人が囲むカット
  • 成瀬が西崎からの電話を終えた後、成瀬の背中を捉えたカット
  • 自室で成瀬からの電話を取った直後の杉下を捉えたカット
  • 島へ帰った杉下と成瀬が抱き合うラストカット


他の3カットについては、ごく自然な流れの中で使用されているのですが、3つめの杉下のカットは、明らかに不自然な形で挿入されています。つまり鳥瞰カットには何がしかの意味がある、と視聴者に気付かせるためのカットと言えます。

そういう形で鳥瞰カットを探し出すと上記4シーンのカットになるのですが、ではそれがどのような意味があるか?が次の問題となります。

スカイローズでのカットは正に事件現場で4人がそろった場面で、普通に考えればミステリー・謎解きの確信がある場面である事は明瞭です。そうすると、この鳥瞰カットとは、この場所にミステリー・謎解きすべきものがある事を視聴者に占める標である、と推論する事が出来ます。つまりこのドラマの謎解きの入り口がこの4か所だ、という事です。

では、この4か所に設定されているミステリー・謎解きの入り口、それは解くべき事として制作者から提示されているものとは何であるのか?を考えなければなりません。

スカイローズでのカットは4人でのカットですが、現代編での3カットは成瀬及び杉下のそれぞれ単独でのカット、及び二人でのカットです。

このドラマのラストは青景島で二人が手を取り、抱き合うシーンです。そうするとこのラストシーンに向けた、スカイローズガーデンに端を発し、ラストシーンへ向けたプロセスが設定されている謎?という仮説が設定できます。

なぜ杉下は成瀬の訪問をあれほど驚いているのか?

これは成瀬の電話を取った杉下のカットにおいて設定されている謎です。ベランダに出た杉下は、成瀬を目視すると「なんで成瀬君がおるん?」と2回繰り返しています。これは単に久しぶり、という意味合いを超えた驚きと考えてよいと思います。

西崎から何を伝えられ、成瀬は愕然としたのか?

西崎との会話を終えた成瀬の背中を捉えたカットで設定されている謎です。この後杉下を訪ねた成瀬に対し、杉下が「病気の事、西崎さんから聴いた?」と問い、成瀬はそれにこたえていません。これは暗黙の了承と考えてよいでしょう。確かに西崎が成瀬に伝えたことの一部に、彼女の病気と余命宣告が含まれているのは間違いありません。ですが、それだけでなのか?それだけではない何かが存在していると考えるべきだと思います。
理由の一つは西崎が杉下の事を話始めた段階で車がカットインし、二人の会話の内容を隠している事が示唆されている点です。既に杉下の病気及び余命宣告は視聴者に対して明かされています。わざわざ、隠している事を伺わせる方法をとる必要はありません。
理由の二つ目は、成瀬の背中を撮っている点です。上述の通り既に視聴者に明かされている事実を成瀬に聴かせるのであれば、彼の表情の変化を捉えるカット割りのほうが見栄えの良いカットになるのではないでしょうか?あえてそうしない、という事は杉下の病気と余命宣告以外の、何かについて西崎から成瀬に伝えられ、その内容に彼を愕然とさせたと考えるべきでしょう。

杉下のNは誰で、成瀬には杉下のNはどう見えたのか?

スカイローズガーデンのカットで設定されている謎です。このカットは、多様な謎を包含しており。それらに丁寧に答えないとドラマ全体の謎解きに矛盾を抱えるのですが、ここでは他の2カットとの関連に集中した形で謎を設定します。これに正しい答えを与えられないと、その他二つの謎との接合が上手くゆきません。

杉下が成瀬の元に還る事にした理由は?

杉下は成瀬のプロポーズに対して一旦「甘えられん」と断っています。それにもかかわらず彼女は最後、成瀬の元に還りました。そこにな何がしか彼女の心境の変化、彼女なりの理由があるはずです。それはなんであるのか?という点が謎です。単に『好き・愛している』とだけ表現される事ではなく、ドラマ全体を通しての、必然としての理由があると考えたい。よってこのシーンにも鳥瞰カットが用いられていると考えるのです。

本当の謎は「十年間の二人の関係性」と「杉下にとっての成瀬の意味」

謎解きの入り口としての鳥瞰カットはスカイローズガーデンと現代編に設定されています。しかしこれらの謎を全て繋げるには、ドラマ全編に渡って遡り、一つ一つについてその因果を繋いでいかなければなりません。意味のないシーン、カットは一切ありません。二人の十年間の関係性・その原因は、「あの」シーンに対する一般的な解釈を逆転させねば成立しませんし、そうなった原因も島編にまでさかのぼらなければ説明出来ません。
また、成瀬の元に最後帰った杉下の心理、その理由もやはり島編までさかのぼりかつ、二人の14年間全体を見渡して考えなければ到底理解出来ないものであったのです。
このドラマの、最初に提示されているこれらの問題に解を与えようとすると、次々と新たな問題が見えてきて、それらにも解を与えなければならない。しかしそのように与えた解がこれまで、何気なく理解してきた部分に対してさえ疑義を発生させ、理解の修正を迫る。このドラマはそのようにずっと謎解きを楽しめるドラマであるのです。
そのようなドラマの、私のこれまでの推理の成果を少しずつ再構成して綴ってゆこうと思います。