ドラマで印象的なカットといえば、スカイローズガーデンでの死んだ野口夫妻を囲む4人のカットです。
ミステリーであるこのドラマの象徴的なカットです。登場人物を鳥瞰で捉えた特徴的なカットです。
実はこの鳥瞰カットはここだけではなく、あと2か所存在しており、全部で4か所使用されています。
- スカイローズガーデンで亡くなった野口夫妻を4人が囲むカット
- 成瀬が西崎からの電話を終えた後、成瀬の背中を捉えたカット
- 自室で成瀬からの電話を取った直後の杉下を捉えたカット
- 島へ帰った杉下と成瀬が抱き合うラストカット
他の3カットについては、ごく自然な流れの中で使用されているのですが、3つめの杉下のカットは、明らかに不自然な形で挿入されています。つまり鳥瞰カットには何がしかの意味がある、と視聴者に気付かせるためのカットと言えます。
そういう形で鳥瞰カットを探し出すと上記4シーンのカットになるのですが、ではそれがどのような意味があるか?が次の問題となります。
スカイローズでのカットは正に事件現場で4人がそろった場面で、普通に考えればミステリー・謎解きの確信がある場面である事は明瞭です。そうすると、この鳥瞰カットとは、この場所にミステリー・謎解きすべきものがある事を視聴者に占める標である、と推論する事が出来ます。つまりこのドラマの謎解きの入り口がこの4か所だ、という事です。
では、この4か所に設定されているミステリー・謎解きの入り口、それは解くべき事として制作者から提示されているものとは何であるのか?を考えなければなりません。
スカイローズでのカットは4人でのカットですが、現代編での3カットは成瀬及び杉下のそれぞれ単独でのカット、及び二人でのカットです。
このドラマのラストは青景島で二人が手を取り、抱き合うシーンです。そうするとこのラストシーンに向けた、スカイローズガーデンに端を発し、ラストシーンへ向けたプロセスが設定されている謎?という仮説が設定できます。
なぜ杉下は成瀬の訪問をあれほど驚いているのか?
これは成瀬の電話を取った杉下のカットにおいて設定されている謎です。ベランダに出た杉下は、成瀬を目視すると「なんで成瀬君がおるん?」と2回繰り返しています。これは単に久しぶり、という意味合いを超えた驚きと考えてよいと思います。
西崎から何を伝えられ、成瀬は愕然としたのか?
西崎との会話を終えた成瀬の背中を捉えたカットで設定されている謎です。この後杉下を訪ねた成瀬に対し、杉下が「病気の事、西崎さんから聴いた?」と問い、成瀬はそれにこたえていません。これは暗黙の了承と考えてよいでしょう。確かに西崎が成瀬に伝えたことの一部に、彼女の病気と余命宣告が含まれているのは間違いありません。ですが、それだけでなのか?それだけではない何かが存在していると考えるべきだと思います。
理由の一つは西崎が杉下の事を話始めた段階で車がカットインし、二人の会話の内容を隠している事が示唆されている点です。既に杉下の病気及び余命宣告は視聴者に対して明かされています。わざわざ、隠している事を伺わせる方法をとる必要はありません。
理由の二つ目は、成瀬の背中を撮っている点です。上述の通り既に視聴者に明かされている事実を成瀬に聴かせるのであれば、彼の表情の変化を捉えるカット割りのほうが見栄えの良いカットになるのではないでしょうか?あえてそうしない、という事は杉下の病気と余命宣告以外の、何かについて西崎から成瀬に伝えられ、その内容に彼を愕然とさせたと考えるべきでしょう。
杉下のNは誰で、成瀬には杉下のNはどう見えたのか?
スカイローズガーデンのカットで設定されている謎です。このカットは、多様な謎を包含しており。それらに丁寧に答えないとドラマ全体の謎解きに矛盾を抱えるのですが、ここでは他の2カットとの関連に集中した形で謎を設定します。これに正しい答えを与えられないと、その他二つの謎との接合が上手くゆきません。
杉下が成瀬の元に還る事にした理由は?
杉下は成瀬のプロポーズに対して一旦「甘えられん」と断っています。それにもかかわらず彼女は最後、成瀬の元に還りました。そこにな何がしか彼女の心境の変化、彼女なりの理由があるはずです。それはなんであるのか?という点が謎です。単に『好き・愛している』とだけ表現される事ではなく、ドラマ全体を通しての、必然としての理由があると考えたい。よってこのシーンにも鳥瞰カットが用いられていると考えるのです。
本当の謎は「十年間の二人の関係性」と「杉下にとっての成瀬の意味」
謎解きの入り口としての鳥瞰カットはスカイローズガーデンと現代編に設定されています。しかしこれらの謎を全て繋げるには、ドラマ全編に渡って遡り、一つ一つについてその因果を繋いでいかなければなりません。意味のないシーン、カットは一切ありません。二人の十年間の関係性・その原因は、「あの」シーンに対する一般的な解釈を逆転させねば成立しませんし、そうなった原因も島編にまでさかのぼらなければ説明出来ません。
また、成瀬の元に最後帰った杉下の心理、その理由もやはり島編までさかのぼりかつ、二人の14年間全体を見渡して考えなければ到底理解出来ないものであったのです。
このドラマの、最初に提示されているこれらの問題に解を与えようとすると、次々と新たな問題が見えてきて、それらにも解を与えなければならない。しかしそのように与えた解がこれまで、何気なく理解してきた部分に対してさえ疑義を発生させ、理解の修正を迫る。このドラマはそのようにずっと謎解きを楽しめるドラマであるのです。
そのようなドラマの、私のこれまでの推理の成果を少しずつ再構成して綴ってゆこうと思います。
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