2024年2月10日土曜日

ドラマ:安藤の僻地行きは左遷ではない

出典:https://www.tbs.co.jp/

 これは以前から指摘している事です(参照:Nのために 論考: みんな『安藤の僻地行き』の意味を取り違えている (ronkouforn.blogspot.com)

これは野口が安藤の能力を高く買っている事の、抜擢人事です。

この辺りについては、参照先記事に書いている事ですので詳細はそちらに譲ります.今回はその参照記事に書いていない部分でも、この説を裏付ける描写がありますので、そのあたりについて書きます。

「君が勝ったら、名前が挙がっても僕が取り下げる」

8話で野口が安藤に賭け将棋を持ちかけるシーンでの、野口の発言です。これは、安藤がプロジェクトのメンバーとしてふさわしいと、周囲から声が掛かる可能性を野口が認めている発言です。つまり野口は安藤が周囲からも評価されている、という事を認識している訳です。

安藤は杉下にプロポーズするつもりだった

6話現代編で杉下を呼び出した安藤が彼女に告げています。

「あの日、事件の日に渡そうと思っていた。(指輪を差し出す安藤)結婚してくれ、って言うつもりだった」

ここで問題なのは、安藤のドラマ中での性格付けです。

仮に安藤がダリナ共和国赴任を『左遷』と取っていたとした場合、それば彼のキャリア上の『敗北』であるでしょう。彼はドラマ内では常勝者として描かれています。にも拘わらず、ここで仮に敗北だと取っていた場合に、杉下へプロポーズしよう、などと考えたでしょうか?敗北を契機としての杉下へのプロポーズであるならば、それはそれは安藤が精神的な慰撫を求めた事になり、ドラマ内での安藤の描写とそぐわないのです。

彼はダリナ共和国行きを自身のキャリア上のチャンスと捉えていたからこそ、杉下にプロポーズする事を決めたと考えた方が妥当です。

彼が杉下にプロポーズする事を決めたのは、8話東京編で野口宅からの帰り道での杉下との会話の結果だと思います。彼は杉下に成瀬との関係を問い、杉下から「付き合ってない」という言質を取りました。海外赴任の可能性を明かし、また『僻地』であるダリナ共和国を『無人島』に例え、「無人島に行け、と言われたらどうする?」と問い、彼女の『行ってみてもいいかな』という答えを得ます。

これは、安藤に以下の情報を与えたことになります。1つは、杉下にステディな関係の男性は現在存在していない。2つには、『僻地』である事が杉下がプロポーズを断る理由にはならない、という事です。この情報で彼はプロポーズを決めた、と考えていいでしょう。

また、彼は9話東京編で同期との焼肉忘年会に杉下を連れて行っています。これはある意味同期への杉下のお披露目とも言える行動です。安藤がダリナ共和国行きを『左遷』と取っていたなら、彼はこのようなお披露目などしないでしょう。

野口の言動も安藤のポロポーズを後押ししている

8話東京編において、取引先から縁談を持ちかけられた安藤に、「結婚する気があるなら、早い方が良い。海外駐在に連れてゆくとなると、誰でもいいって訳には行かない」とアドバイスしています。安藤の左遷を考えているなら、そのパートナーについてなど、どうでもいいはずです。

同じく8話東京編において、野口は自らシャルティ・広田のシェフへ安藤が杉下にプロポーズする可能性を伝えている事がシェフと成瀬との会話で明かされています。シェフがそれを受けてシャンパンの追加とデザートの変更をしていますし、シェフが成瀬に演出の指示をしています。これは野口がシェフへ演出を依頼したと考えられます。左遷する者のプロポーズに対して、このような配慮をするでしょうか。

また、この野口の行動は9話での安藤の動機への杉下のお披露目より前です。野口がこのような行動をこの時点でする、という事はドラマでは描写されてはいませんが、賭け将棋に自身が負けた場合には、安藤は杉下にプロポーズを決めた後に自身のダリナ共和国赴任に併せ杉下へプロポーズする意思を野口に伝えていたと考えられるのです。

杉下が『僻地行き阻止行動』をとった際(9話)、このように杉下に言っています。

  • 『そんなつもりはないよ』(杉下の『人の足を抄うようなことは、しないでください』に対して)
  • 『悪い話じゃないよ。若いうちから経験を積めるんだ。有難いと思って貰わないと』
  • 『安藤君が僻地に赴任になったら、希美ちゃんついてく?それとも別れて日本に残る?』
特に最後の部分は、野口が安藤のダリナ共和国赴任、及び安藤のプロポーズを後押しする立場の文脈から見ると、ラウンジに待機する安藤に対して、彼のプロポーズの成否の可能性を探り、それを安藤に伝える事を目的としていると考えられます。

2024年2月3日土曜日

ドラマ:杉下の安藤の僻地行き阻止行動を杉下のN=安藤の根拠とは出来ない

出典:https://www.tbs.co.jp/

 Nのために 論考: ドラマ:スカイローズガーデンの深読み (ronkouforn.blogspot.com)において、野口に対する杉下の『安藤の僻地行き阻止行動』に纏わる周辺の状況・シーンから杉下のNは安藤ではない、と説きました。

しかし放送当時から杉下のN=安藤の根深い誤解の根拠として、この時の杉下の行動が挙げられる事も事実です。今日はこの点について述べます。

スカイローズガーデンにおける一番の問題は警察に対する偽証

スカイローズガーデンで中の杉下を含む中の3人の一番の問題は、野口夫妻の心中をどう言い逃れるか、という点です。

「その時考えていたのは、大切な人の事だけだった。その人の未来が明るく幸せであるように。みんな一番大切な人の事だけを考えた」

この杉下のモノローグのいう、『その時』とは野口夫妻の心中以後、警察への証言を終えるまで、という時間的に区切られるものです。杉下の『安藤の僻地行き阻止行動』はこの時間の中には入りません。

また、『その時』の杉下の敵は警察ですが『安藤の僻地行き阻止行動』における杉下の敵は野口です。つまり二つのタイミングにおける杉下の敵が異なる事から、一方の行動の類推からもう一方の行動の結論を得る事は論理的には不可なのです。

杉下の『僻地行き阻止行動』は安藤に対する恋愛感情とは別の動機がある

もう一つの論理展開としては、『安藤の僻地行き阻止行動』は杉下が安藤を愛していたからの行動であり、その愛している相手を警察から守ろうと行動した、というものです。

「護るべき人」=「愛する人」=「大切な人」という、メロドラマにおける三段論法です。

しかし杉下の場合、『護る』行動の動機がその対象者に対する恋愛感情とは切り離されて存在しうる、という点に気付く必要があります。

『大人の身勝手さ、自分の手の届かない処で本人の努力に関係なく人の将来が閉ざされる事への抵抗(レジスタンス)と脱出(エクソダス)』

Nのために 論考: 安藤の僻地赴任阻止行動の杉下の源泉 (ronkouforn.blogspot.com)で指摘した事項です。

彼女は父親や母親の身勝手な行動に振り回され、自分の夢や希望が閉ざされそうな状況に対して必死に抗い、そこから脱出したのです。このような経験から杉下は『本人の努力の外の力による、人の将来を弄ぶ行為及び人』全般に対する激烈な反発心を持っていたと考えられます。

彼女は野口に対してこう言っています。

『安藤が…目標を持っているのは確かです。そこに向かって真っすぐな人の足を抄うようなことは、しないでください』

この杉下の発言は、『安藤の足を抄う事』ではなく、『夢を持って努力している人の足を抄う事』をしないでくれ、として対象が一般化されているのです。

安藤の僻地行き=左遷と理解した杉下には自身の島時代と類似する状況に対して、激烈な反発心が発生し、彼女はその阻止行動に走ったと考えるべきでしょう。