このドラマで使われたトリックについて書きます。
このドラマをご覧になった方の内、トリックが挿入されているということに気づかれた方はどれだけいらっしゃるでしょうか。殆どの方がトリックが挿入されていたという事自体に気づかれていないのではないでしょうか。
しかしこのドラマがミステリーである以上、トリックは存在しているし、事実挿入されていました。
それは何か。何処に挿入されていたのか。
それは安藤が外鍵を掛けた事の、4人による捜査機関に対する隠蔽行為です。これがトリックです。
この部分、杉下が安藤を庇う為に成瀬にも口止めした、と思われている方が殆どの筈です。
オフィシャルサイトでも安藤派は勿論、中間派、成瀬派もこの部分の杉下の行動は安藤を庇うのが意図、ということで一致していました。
杉下は野口との将棋において自分の手で安藤の人事が決まるという状況に追い込まれ、安藤の僻地行きの阻止行動を取ります。野口に懇願し、それがダメだとなったら西崎による奈央子救出作戦を野口にバラし徴発した。野口に自分へ手を挙げさせ、警察沙汰にする為です。そして悲劇が発生し、安藤を庇う為に外鍵の隠蔽を計った。
これが一般的な理解であると思います。確かにこう書くと杉下の行動は一貫して安藤を庇う為の行動と見える。
製作者はトリックを何処に挿入するのか?
殆どの人間が、疑問に思わず、しかし論理的必然性を持ち得ない場所。
状況証拠は一杯ある、でも良く考えると論理的な必然性は成立せず、あまつさえそれを前提とせずとも同じ行動を起こし得る場所。
状況証拠は一杯ある、でも良く考えると論理的な必然性は成立せず、あまつさえそれを前提とせずとも同じ行動を起こし得る場所。
確かに野口に対する行動は安藤の僻地行き阻止が目的です。
ですが事件以降の行動は安藤の保護ではありません。行動対象が野口から捜査機関に変わっているのですから、杉下の行動原理も変わっていると考えるとべきなのです。
四人にそれぞれ個別の行動原理が存在し、それぞれ個別の利益が存在していた。そのそれぞれの利益を達成する条件が安藤の外鍵を捜査機関に隠蔽する事だったのです。
それを理解するには四人の行動原理、それぞれの利益がなんであったのか、を理解する必要があります。それは明日以降詳述する事にします。
なお、ここで視聴者は製作者のミスリードの狙いにまんまとはまったわけですが、ここで威力を発揮したのが、昨日ミステリーとしての仕掛けとして書いた『一番大切な人の事だけ考えた』というミスリードの誘導です。
杉下の野口に対する安藤の僻地行き阻止行動も、作品全体としてみると謎解きの一部なんですが、それは後日触れる事にします。
1 件のコメント:
ここでも”取引”という表現を使っていますね。この後も何度か出てくると思います。しかし、偽証が成立した事情に関しては少なくとも安藤側に関しては、彼に”取引”に応じた、という感覚は無いでしょう。彼は彼なりに、彼のN=杉下を守る事を意図した行動が、捜査機関に対する”知らぬ・存ぜぬ”だったのです。
しかしここで一つ、ドラマの謎解きを真剣にしている人からすると解せぬ部分が生じるでしょう。それは、安藤がかつて西崎・杉下との会話で、自分の愛する人が犯罪を犯したときに、その人を庇うような行動はしない、警察に出頭する際に自分が付き添う、といった趣旨の発言をした点についてです。この発言と、矛盾しないか?という部分です。
実はこれは矛盾しないのです。のちの本編で解説していますが、安藤は野口夫妻の死亡が奈央子の心中であり、西崎も杉下も手を下していない事を理解しているからです。無実の杉下を捜査機関の嫌疑から守る訳ですから、先の自身の発言と彼のこの時の行動は矛盾しないのです。
ですので、安藤からしたら、自身の信念を曲げて行動した訳ではなく、また自己保身からの行動でもない為、この偽証の成立は彼としては”取引”にのった、という意識はないのです。
コメントを投稿