これは世間での理解が全く間違っています。
スカイローズガーデンにおいては『罪の共有』は存在しない
よくあるのは罪を共有した成瀬が、杉下を庇う意思を示すための行動、つまりさざなみ炎上における杉下の『罪の共有』の裏返し、という見解です。
でも、この理解は間違っています。
まずスカイローズガーデンにおいて『罪の共有』は有りません。あるのは『共謀』です。以前(『偽証を匿うための偽証は罪の共有?』)にも書いていますが、彼らにあったのは共謀であり『罪の共有』でないのです。ここを踏み間違えるので、以後の推理も間違うのです。
成瀬は杉下のN=安藤と誤解した
成瀬は杉下のNを安藤と誤解しました。その誤解は杉下の成瀬に対する鍵の隠蔽依頼から生じたものです。成瀬がこの杉下の行動を、杉下のNが安藤と誤解したのは、島時代の経験からです。
1話で成瀬と杉下が東屋にいた際、高野が杉下に『大丈夫か?』と問いかけました。二人が東屋へ来る前に、成瀬は杉下の母親が壊れているのを目撃しています。この時杉下は成瀬に『お母さんのことは言わんといて』と成瀬がその直前に目撃した事を隠すよう依頼している。この経験から成瀬はスカイローズガーデンにおいて杉下が安藤を庇おうとしている、と取ってしまったのです。
また、成瀬が安藤が杉下にプロポーズしようとしている、という情報を知っていた事も、この誤解を生んだ小さくない要員でしょう。プロポーズを考えるほどの間柄であれば、杉下が安藤を庇う(ように成瀬には見えた)のも当然であるからです。
成瀬は安藤の罪を許せない
事件は、安藤が外鍵を掛けた事から密室となってしまい、西崎が逃げ出す事が出来なくなったために発生したものでした。安藤が野口宅に入った際の西崎とのやり取り、すなわち
西崎:「逃げられなかった」
安藤:「俺のせいだ」
から、安藤が外鍵を掛けた事実が成瀬にも共有されます。
10話で安藤が成瀬を訪ねたシーンで、このような会話がなされます。
成瀬:「話せる事はなにもありません」
安藤:「君から何も聞けなかったら、もう事件の事は吹っ切ろうと思っていた。ありがとう、時間取らせて悪かった」
成瀬:「あの日、杉下が考えていたのは安藤さんの事だったと思います。あなたを守ろうとしていました」
このシーン、当時からすごく人気のシーンで杉下をめぐる二人のさわやかなやり取り、として書かれるケースが多いのですが、その見解は間違っています。
会話の論理的展開としては、成瀬は事件の事を安藤に話す事を拒絶しています。それを受けて安藤は事件についての話を成瀬から聞けないのなら、もう事件の事は吹っ切る、と宣言したんですね。それに対して成瀬は事件の一端を口にしたわけです。
これは成瀬の側からすると、『事件の事を吹っ切られてはこまる』から当初の拒絶から一転して、事件当日の一端を明らかにした行為と言えます。平たく言えば『吹っ切るなんて都合のいい事言ってんじゃねーよ』という心理です。この論理展開に気づくことが出来れば、会話の最後の「あなたがいてくれてよかった」が安藤に対する強烈な嫌味である事が判る。つまり成瀬は現代においても安藤を許していないのです。
成瀬は安藤を庇う(ように見えた)杉下を嫌悪した
成瀬にとって安藤は嫌悪の対象です。その安藤を杉下が庇っているように見えた。そのような杉下も成瀬には安藤同様嫌悪の対象だったのです。
杉下が外鍵の隠蔽を依頼した直後、杉下を凝視する彼の瞳。
警察に導かれ部屋を出てゆく杉下へ向けられる冷めた彼の視線。
西崎から「護ってやってくれ」と杉下を託されたにも関わらず早々に電話番号を変え、10年間接触を断った事実。
ですので、成瀬がスカイローズガーデンで杉下の手を取ったのは、彼女への怒りの絶縁宣言であったのです。