2023年12月27日水曜日

ドラマ:スカイローズガーデンでの成瀬の杉下への手繋ぎの意味

これは世間での理解が全く間違っています。

スカイローズガーデンにおいては『罪の共有』は存在しない

よくあるのは罪を共有した成瀬が、杉下を庇う意思を示すための行動、つまりさざなみ炎上における杉下の『罪の共有』の裏返し、という見解です。

でも、この理解は間違っています。

まずスカイローズガーデンにおいて『罪の共有』は有りません。あるのは『共謀』です。以前(『偽証を匿うための偽証は罪の共有?』)にも書いていますが、彼らにあったのは共謀であり『罪の共有』でないのです。ここを踏み間違えるので、以後の推理も間違うのです。

成瀬は杉下のN=安藤と誤解した

成瀬は杉下のNを安藤と誤解しました。その誤解は杉下の成瀬に対する鍵の隠蔽依頼から生じたものです。成瀬がこの杉下の行動を、杉下のNが安藤と誤解したのは、島時代の経験からです。

1話で成瀬と杉下が東屋にいた際、高野が杉下に『大丈夫か?』と問いかけました。二人が東屋へ来る前に、成瀬は杉下の母親が壊れているのを目撃しています。この時杉下は成瀬に『お母さんのことは言わんといて』と成瀬がその直前に目撃した事を隠すよう依頼している。この経験から成瀬はスカイローズガーデンにおいて杉下が安藤を庇おうとしている、と取ってしまったのです。

また、成瀬が安藤が杉下にプロポーズしようとしている、という情報を知っていた事も、この誤解を生んだ小さくない要員でしょう。プロポーズを考えるほどの間柄であれば、杉下が安藤を庇う(ように成瀬には見えた)のも当然であるからです。

成瀬は安藤の罪を許せない

事件は、安藤が外鍵を掛けた事から密室となってしまい、西崎が逃げ出す事が出来なくなったために発生したものでした。安藤が野口宅に入った際の西崎とのやり取り、すなわち
西崎:「逃げられなかった」
安藤:「俺のせいだ」
から、安藤が外鍵を掛けた事実が成瀬にも共有されます。

10話で安藤が成瀬を訪ねたシーンで、このような会話がなされます。
成瀬:「話せる事はなにもありません」
安藤:「君から何も聞けなかったら、もう事件の事は吹っ切ろうと思っていた。ありがとう、時間取らせて悪かった」
成瀬:「あの日、杉下が考えていたのは安藤さんの事だったと思います。あなたを守ろうとしていました」

このシーン、当時からすごく人気のシーンで杉下をめぐる二人のさわやかなやり取り、として書かれるケースが多いのですが、その見解は間違っています。

会話の論理的展開としては、成瀬は事件の事を安藤に話す事を拒絶しています。それを受けて安藤は事件についての話を成瀬から聞けないのなら、もう事件の事は吹っ切る、と宣言したんですね。それに対して成瀬は事件の一端を口にしたわけです。

これは成瀬の側からすると、『事件の事を吹っ切られてはこまる』から当初の拒絶から一転して、事件当日の一端を明らかにした行為と言えます。平たく言えば『吹っ切るなんて都合のいい事言ってんじゃねーよ』という心理です。この論理展開に気づくことが出来れば、会話の最後の「あなたがいてくれてよかった」が安藤に対する強烈な嫌味である事が判る。つまり成瀬は現代においても安藤を許していないのです。

成瀬は安藤を庇う(ように見えた)杉下を嫌悪した

成瀬にとって安藤は嫌悪の対象です。その安藤を杉下が庇っているように見えた。そのような杉下も成瀬には安藤同様嫌悪の対象だったのです。
杉下が外鍵の隠蔽を依頼した直後、杉下を凝視する彼の瞳。
警察に導かれ部屋を出てゆく杉下へ向けられる冷めた彼の視線。
西崎から「護ってやってくれ」と杉下を託されたにも関わらず早々に電話番号を変え、10年間接触を断った事実。

ですので、成瀬がスカイローズガーデンで杉下の手を取ったのは、彼女への怒りの絶縁宣言であったのです。

2023年12月24日日曜日

ドラマ:杉下の病気に対する高野と西崎の行動の違い

 杉下の病気を西崎と高野が知っていました。

それを受けての、それぞれがとった成瀬への対応には差異があります。

高野は成瀬には連絡を取るように促しますが、杉下の病気については口を噤んでいます。

一方西崎は成瀬に対して病気の事を話し、彼女を救ってほしいと頼んでいます。

同じ情報の取り扱いについて、成瀬に対する対応が二人で割れている。これはどうしてでしょう。

高野と西崎はほぼ同じ情報を持っていたと言えます。

  • スカイローズガーデン後、成瀬と杉下が接触を断っている事
  • 成瀬と杉下が島時代に特殊な関係にあった事

二人に違いがあるとすれば、それぞれの情報に対する細かさと言えるでしょう。

高野は島時代の杉下と成瀬の関係性をよく知っており、西崎はスカイローズガーデンの詳細を知っている。

もう一つの違いは、事件における成瀬、杉下との関係性があります。高野からすれば二人はさざなみに関して真相を追求すべき相手、つまりは成瀬、杉下から見れば『外』であり二人を追及するの人間ですが、西崎からすれば成瀬、杉下はスカイローズガーデンでの『内』、同志の関係性です。

高野には、自ら余命を明かし、それでもなおさざなみ、スカイローズガーデンについて偽証を続ける杉下の覚悟を目の当たりにして、二人の関係性に”不可侵性”を見たのだと思います。不可侵であるが故に、二人の関係性に何がしか変化を起こす情報を自分が与える事に躊躇した。

一方西崎にすれば、成瀬と杉下の間にある種の不可侵性を認めつつも、特に杉下に対する西崎の罪の意識から彼女が一人孤独に朽ちてゆくのは耐えられなかったのでしょう。そのような立場からすれば、成瀬を動かすことが出来るのであれば、あらゆる情報を成瀬に与える事も辞さない、という立場となるでしょう。

西崎と高野の、杉下の病気の情報の取り扱いに関する成瀬への態度の違いは、二人の杉下に対する罪の意識の持ちようと言えるでしょう。

ドラマ:高野の「彼女はかわらんよ、強い娘やけん」

高野が夏江と供に青景島に出向き、偶然成瀬と再会し、成瀬に杉下の電話番号のメモを渡す際に成瀬に向かって杉下の様子を伝えた言葉です。

高野は青景島に向かう前に杉下自身から彼女が病気で余命宣告を受けている事を聴かされています。それにもかかわらず、高野は杉下の病状には触れず、このように成瀬に言いました。そして「電話してやりぃ」。

恐らくですが、この状況下で高野が優先した事は杉下がそのような状態であるにもかかわらず、あいも変わらず成瀬を庇う為に嘘を付いている、という事を彼に伝える意図があったのではないかと思います。

『病気で余命いくばくもないにも関わらず、あいも変わらずお前を庇っている』

通常であれば、成瀬に杉下の病状を伝えるでしょう。ですが高野はそれをしなかった。なぜ彼は杉下の病状を成瀬に伝える事を憚ったのでしょうか。

それは以下のようなものでしょう。

『二人の関係性に立ち入りたくなかった、アンタッチャブルなものを感じた』

高野は杉下の独白後も、さざなみについて成瀬が放火犯で、杉下が嘘の証言で彼を庇っている、と見ています。その心情を成瀬にも話しています。しかし一方で自身の病状を明かしてまで偽証を続ける杉下(及び彼女の成瀬への強い思い)を見て、もう、事件を追う事を止めようとも考えていたと思われます。つまり、杉下と成瀬の間に踏み入るのはアンタッチャブルな行為である、と高野には思われたと思うのです。自身の後悔の念と、杉下の思いとの間にケリを付けたいとの思いで青景島へのやってきたと考えられます。

2023年12月16日土曜日

ドラマ:成瀬のマフラーの違い 東京編と現代編、そしてその意味

成瀬が、東京編でしていたマフラーと、現代編で杉下に巻いたマフラーが実は別のものである、という点に気づかれているでしょうか?

①8話 野ばら莊に杉下を訪ねた際のマフラー


②8話 野ばら莊に杉下を訪ねた際のマフラー


③9話 杉下に巻いたマフラー


④10話 杉下に巻いたマフラー


見ての通り、二つは裏地は非常に良く似ていますが、表地の青の深さが異なり東京編でのマフラーは青が深く、杉下に巻いたマフラーの青はそれより明るい青である事が判ると思います。
また記事の色味だけでなく、フリンジ部の毛糸の色と長さが異なります。

⑤ ①の拡大


⑥ ③の拡大


だから何?と思われるかもしれませんが、このドラマではマフラーもそこそこ大事な役割を担っているんです。

西崎とマフラー

1話 出所後高野と
西崎は赤身の入った(何色といえばいいのかわかりませんが)マフラーをしていました。この画像は1話での、出所後高野が西崎に接触した際の画像ですが、東京編(8話)で奈央子からの電話でスカイローズガーデンに向かう西崎の手には同じマフラーが握られていました。



安藤とマフラー

2話 杉下との再会時
10話 高野との会話
10話 スカイローズガーデン現場

安藤もマフラーをしています。現代編では色は異なりますが、モノトーンのも2本登場です。東京編ではチェック柄のもの1本、スカイローズ時が唯一の出番でした。



成瀬とマフラー

6話 大学を辞める時
2話
3話 出所後の西崎からの電話
9話 杉下へさざなみの真相の告白


成瀬については、東京編では1本です。大学を辞める際にしていたマフラーは杉下を訪ねた際にしていたものと同じものです。実はここの描写は徹底されていて、すべてのカットで同じようにマフラーを掛けているのです。つまり、
  • マフラーは首に掛けるだけ。巻かない
  • 必ず表地、裏地ともに見えるように首の裏で反転させている
一方東京編では一転して、彼はマフラーをしっかり整えて身に着けている。東京編のような首に掛けるだけ、といった着装はしていません。
もう一つ東京編についていうと、2話及び3話でしていたマフラーはどうも9話のモノと同じようです。裏地やフリンジが見えないので難しですが、どうも色味的には杉下に巻いたものと同じように見えます。
すると、成瀬に関しては東京編1本、現代編1本の計2本です。

3人のマフラーの演出上のちがい

3人のマフラーに注目すると、その演出上の違いがはっきりします。
西崎については10年の歳月を経過しても同じものをしている。安藤については東京編と現代編で断絶している。
一方成瀬については、その着装方法は年月の経過によるものか、東京編と現代編では明確な差異が付けられており、かつモノも異なる。しかしながら、その選択の色味については2つの時代で連続性がみられる、という点です。
これがどういう事かというと、現代編で成瀬がしているマフラーは実は東京編の頃、まだ東京編でしていたマフラーをしている時に別途購入した可能性を示していると言えます。

安藤への対抗としてのマフラー

他にもいろんな可能性があるだろう、といった突っ込みは有りうるんですが、そうかもしれない、というのも結構妥蓋然性のある推理だと思うんですね。
一つは安藤杉下に現代編でプロポーズした際に渡した指輪は実はスカイローズガーデンの時に用意していたものであった訳です。
そして、成瀬は安藤が杉下にプロポーズするかもしれない、という事を事件前に知っていました。そんな彼にシャルティ・ヒロタのオーナーは成瀬に”いったもん勝ちだ”と成瀬の背中を押す発言をしています。成瀬は杉下の事が好きであるのは間違いありません。そうでなければ西崎の質問”今にも崩れ落ちそうなつり橋の向こうに杉下がいたとしよう”に対して、”呼ばれれば、渡ります”と答えるわけがありません。
また客観的にみて、彼がこの状況で杉下にプロポーズをしよう、と判断しても視聴者も納得できるだけの島編での濃密な関係が成瀬にはある。それは彼自身が感じていた事でもあるでしょう。つまり成瀬はこの時、安藤に対抗して杉下へプロポーズしようとしていたと考えても、なんら可笑しくないのです。

作戦会議をキャンセルしたのはマフラーを準備するため

このような視点を持つと、実は成瀬が第3回の作戦会議がしたい、と会いに来た杉下に”忙しくて”と野ばら莊に出向く事をキャンセルしたのは、実は彼が安藤への対抗としてプロポーズする際の品を準備する時間が必要だったから、という可能性が浮上します。
成瀬は安藤と異なりアルバイトの身で高価な指輪などを用意する事は当然無理でしょう。とすると、この時自分がしているマフラーと似たものを選び、彼女にプレゼントしようとしていた、そして10年後に彼女に巻いたマフラーはその時用意していたものであった、という推理は決して荒唐無稽なものではないのです。

23年12月26日追記

杉下のマフラーと西崎のマフラーの色はよく似ている

8話で野口宅からの帰り道、安藤と橋の上を歩くシーンで杉下はこのドラマで唯一のマフラー姿を見せます。
実はこのマフラーの色が画面からは西崎のマフラーと非常に良く似ているんです。
フリンジ部分が杉下のマフラーは短く、西崎のものは長いという特徴があり、この2つは別モノである事ははっきりしているのですが、色味はよく似ています。
画像は探したのですが、見つけられませんでした。
このドラマでは上記の通り、何がしかマフラーに意味を持たせています。ドラマ内では全くこの二人のマフラーに関するエピソードをうかがえる言動はありませんが、スカイローズガーデンでの杉下の行動同期が西崎に対する『究極の愛』だった、と見ている私には、この当時の二人の関係性について示唆を与えているモノであるように見えます。