2015年6月6日土曜日

安藤と成瀬があったシーンの評価


成瀬と安藤が夕焼けの中で対峙したシーン。
最初で最後の、杉下を想う二人の男が対峙する場面で、短いシーンでしたが成瀬派、安藤派とも賞賛した名場面とされていますよね。

でも、私は当時から違和感を感じていたんです。
正直、このシーンは不要だったと思っています。

これは視聴率欲しさに強引にストーリーに挿入されたもの、と疑っています。
その疑いの根拠は成瀬が安藤に向かっていった「杉下があの時考えていたのは安藤さんの事だと思います。あなたを守ろうとしていました」というセリフです。
この成瀬の発言、 明らかに嘘なんですね。 真実と異なる、という意味ではなく、成瀬自身の認識と異なることを成瀬は言っているんです。

成瀬は杉下の心に西崎がいる事を計画段階から知っていました。ですので、杉下が偽証を受け入れたのも西崎のためと理解している。そして安藤の外鍵を隠蔽する目的は〝計画はなかった、三人が居合わせたのは偶然だった〟という偽証を成立させるために必要なのであり、それが安藤の保護のためではない事は明白なのです。

このドラマでは幾つかのトリック、レトリックの操作を行っていますが、キャラクターに嘘は言わせていません。この成瀬の発言が唯一の嘘です。
それが視聴率欲しさに急遽入れたシーンでは無いか、と疑っている理由です。

仮にこのシーンが事前に予定されていたもの、と仮定したとするとどのような意図で入れられたのでしょうか?

狙った効果としては、安藤の外鍵の隠蔽が、安藤の保護が目的である、というミスリードの刷り込みです。原作では杉下のモノローグで語られた部分をドラマでは成瀬に言わせた。事後的な刷り込みです。
ですが、ここであえて成瀬に嘘までつかせてそれをさせる必要はなかった筈です。何故ならその直前の高野とのシーンで高野に「安藤には誰も何も言わない、何かを守るために無心で嘘をつく人間もいる」とすでに事後的刷り込みを視聴者に行っているんです。更に言えば夏江というキャラクターは、この時高野にこう言わせるため、視聴者へのミスリードの事後刷り込みを行うために設定されたキャラクターなんですね。

つまり、さざなみで夏江は成瀬親子を守りたいその一心で真実を明かさず、声を失った。
スカイローズガーデンで同じポジションだった杉下は、安藤を守りたい一心で外鍵を隠蔽し、病を患った。

高野との安藤の会話は、このような刷り込みの為のシーンだったのに、更に輪をかけて成瀬にそれをさせる必要は無かったと思います。これでは夏江のドラマでの設定意義が失われてしまいます。

ですので、この成瀬と安藤のシーンは、ドラマの作りとしては唯一汚点となったシーンです。残念です。

参照
『成瀬が事件の時唯一認識できなかった事』
『ミステリーとしての仕掛け 一番大切な人の事だけ考えた』

1 件のコメント:

motoさん さんのコメント...

ここは訂正が必要ですね。

多分本編でもどこかで触れたとおもうのですが、このシーンは最初から予定されていたシーンだった、というのが現在の判断です。

考えを変更した理由は、成瀬の警察への偽証意図が自己保身だった事です。
当初、成瀬の警察への偽証意図は、怒りを抱えつつも杉下に嫌疑がかかる事を避けるため、ととっていました。でも彼の警察への偽証意図は自己保身だったのです。

その意味で私もこの投稿を書いた時点では製作者が慎重に巻いたミスリードのタネを完全には克服出来ていなかった事になります。

このあたりは後々投稿や呟きページで触れているので、ここでは詳しくは述べませんが、その事に気付いた時、このシーンは実は成瀬が安藤をどう評価しているのか?という事を表す為に最初から用意されていたシーンだと考えを改めました。

このシーン、1人の同じ女性を愛した男同士の、爽やかな対面シーンというのが一般的ですが、そんあもんじゃないですね。
このシーンの本質は成瀬が安藤に対して強烈な嫌みと皮肉をかましたシーンですよ。

もし世間で言われる、『成瀬は愛する杉下の罪を共有した』『杉下の安藤への思いを理解し、愛する杉下の望む安藤の保護の為に偽証した』『安藤の将来を慮って彼には何も教えない』。
もし本当にそうであるなら、成瀬のこの時の行動はじょ上記と矛盾するんです。それは成瀬のこの行動です。

成瀬から何も聞けなければ『事件の事は吹っ切る』と言い、場を離れようとした安藤に向かって間髪入れず『杉下があの時…』と返し、自身の事件時の認識の一部を明かしています。

この行為、可笑しいと思いませんか?

もう『事件の事を聞けなければ、吹っ切る』つもりでいる人物に対して事件の様相の一部を明かしているんです。それってつまり、成瀬は安藤が事件の事を吹っ切るのを阻止する行動なんですよね。これは成瀬の安藤に対する『事件の事を吹っ切るな』というメッセージなんです。

ではそのメッセージの意味は?となるんですが、これは成瀬というキャラクターと、そのキャラクターが安藤をどう思うか?に掛かってきます。

まづ彼はこのドラマではごく普通のセンスを持つ青年、として描かれています。親を庇う必要から好きだった杉下の勘違いに乗ったし、父を失い自暴自棄に陥り闇堕ちもした。けっして聖人君子でない。
そんな彼は事件の真相の殆ど全てを理解している。安藤が鍵をかけた動機も彼が偽証した意図も、杉下が野口から安藤の事で追い込まれて作戦をバラした事も。
そういう成瀬からみて、安藤が警察へ何も喋らなかったのは評価出来るとしても、彼が鍵をかけた動機と行為をどう評価出来るでしょう?彼が鍵をかけなければ、野口夫妻が死ぬ事も西崎が服役する事も、自分と杉下が十年にも渡る空白を生む事も、そして杉下が病に余命いくばくもない状況になる事も起きなかったのです。

成瀬からみたら、『安藤は許されざる者』です。ですから当初の安藤の問いには『お話しできることはなにも…』と拒絶の姿勢をしめした。しかし安藤が『事件の事を吹っ切る』と言い出したので、前言を覆すような、事件の一部について口を開いた。

つまり成瀬はこの時、安藤に向かって『お前のせいで2人も死んで、お前以外の三人もそれぞれ苦労してきてるのに、自分だけ都合のいい事いってんじゃねえよ』と強烈な嫌みを放ったんですね。

世間一般の理解とは全くの逆評価です。世間一般は杉下のNを読み違えているし、成瀬がほぼ全ての事件の真相を理解している事をわかっていない上、この時の安藤を中にいた当事者としてどう評価するか?といった部分を軽視しています。そんな綺麗事で安藤に接する事など、中の三人には不可能ですよ。

ちなみに、成瀬か語った『あの時杉下が考えていたのは安藤の事』というのは、鍵の隠蔽依頼の事ではないですよ。確かに成瀬はこの部分で杉下の意図を誤解したけれども、この段階で彼は西崎から、成瀬が知り得なかった杉下の偽証受け入れの経過を聞かされていますから。
成瀬がこの時言ったのは、杉下が安藤のことことで野口から追い込まれて、やむなく作戦を野口にバラしたという部分を言っているんです。