2話現代編で安藤は高野にこのように答えています。
「あの時あの場所にいた全員に大切なNがいました」
安藤は自身のNを杉下と答えていますが、安藤からみて、他の3人についてもそれぞれにNがいた事を認識できている、という事になります。それでは安藤からみて、それぞれのNは誰だったのでしょうか?
安藤は情報源が限られる
安藤の場合、作戦についてもその情報は断片的で野口宅内での情報交換もほとんどありません。相互のやり取りもや事の推移についても情報がないため、状況証拠から類推するしかありません。恐らくその類推は現場での判断とはならず、後の証言段階や報道で得られる間接情報を含めた判断なのではないかと考えられます。
3人の事件の処理方針は判る
Nのために 論考: ドラマ:なぜ安藤は自身のNを杉下と言えるのか? (ronkouforn.blogspot.com)で指摘した通り、安藤には野口夫妻の死亡は奈央子による心中である事は判っています。しかし、他の3人が事件をどう処理しようとしているのかの情報は彼らから得られませんでした。
警察が野口宅に入ってきた際、西崎が自分が野口を殺した、との証言を警察に行っていますが、その場所は廊下状の箇所であり、その証言は安藤には聞こえていないでしょう。
一つの情報としては警察への証言時の反応です。安藤は慎重に計画性に繋がりかねない情報を証言から除外しています。自身が除外した部分について警察が安藤に聴かなかったとすると、3人の処理方針も計画性の否定、隠蔽である点は判るでしょう。
その他の情報源としては、報道と考えられます。ドラマ内でもテレビ報道の場面がありました。そこでは奈央子を刺した野口を西崎が殺害したと報じられています。
この二つの反応から安藤には3人の事件処理方針は「奈央子救出の西崎単独計画・実行」であり「西崎による野口殺害」であった事が理解できるはずです。
なお、杉下は情報源としては使えません。彼女は安藤の来訪を拒絶しています。(参照:Nのために 論考: ドラマ:スカイローズガーデンの深読み (ronkouforn.blogspot.com))
安藤は西崎・杉下・成瀬の供述内容を知らない
![]() |
出典:https://www.tbs.co.jp/ |
安藤は自身の証言について警察からの追求は有りませんでした。その結果から3人の事件処理方針は理解しえましたが、それ以上に3人の供述内容を調べる、確認するといった行動はとっていません。
ドラマ内で4人の証言シーンが描かれます。4話で高野が事件の担当弁護士の元を訪れ供述調書を読むシーンから杉下の証言シーンへとつながっている。つまり4人の証言シーンは供述調書の記載の再構成と言えるわけです。
一方で西崎が担当弁護士へ話した証言を高野は西崎に問うています。『すべてはNのために。俺たちがやったことはそういう事だ』。同じ内容を高野は安藤に対しても問うていますが安藤は『何ですか、Nって』と反応しています。つまりこの西崎の弁護士への証言を彼は知らない、という事です。
これらの記録は、状況的に弁護士事務所に弁護記録として一つ綴りのファイルで管理されているものであるはずです。そして安藤は西崎の弁護士への証言を知らなかった。つまり安藤は一連で綴られているであろう証言記録も目を通しているとは考えられず、彼は他の3人の供述内容はしらない、という推測ができるのです。
安藤には西崎のNは奈央子に見える
安藤は野口夫妻の死は奈央子による心中であった事が解っています。野口を殺害したのは奈央子です。しかし事件は「野口による奈央子殺傷、西崎による野口殺害」として処理されてゆきます。そうすると安藤には西崎は野口殺害犯である奈央子を庇い、自身が犯人となったと見えます。
安藤に杉下、成瀬のNは判断可能なのか?
安藤が成瀬について知っている情報を列挙します。
- 杉下の同級生が作戦に参加している(10話、東京編)
- 杉下の同級生は杉下の『罪の共有』、『究極の愛』の相手(10話、東京編)
- 杉下の同級生はシャルティ・広田で働いている(8話、東京編)
- 食事会の日(12/24)に空きが出たのを教えてくれたのは杉下の同級生(8話、東京編)
- 杉下はその同級生とは「付き合ってない」(8話、東京編)
- 西崎、杉下、杉下の同級生は杉下の部屋で一緒に食事をしていた(8話、東京編)
- 友人の結婚式で島に帰った際、西崎から”再会したい相手がいる”のでは?とけしかけられる(7話、東京編)
- 杉下の『究極の愛』とは『罪の共有。誰にも知られずに相手の罪を半分引き受ける。相手にも知られずに黙って身を引く』である事を知っている(6話、東京編)
- 杉下は“今いる処よりもっと高い処へ行く”事を同級生と約束している(4話、東京編)
- 杉下は街中で見かけた同級生を追いかけ、同意した安藤との食事をドタキャンした(4話、東京編)
- 杉下の子供じみた野望を『真面目に聞いてくれた』のは同級生(3話、東京編)
成瀬のNは杉下以外にない
安藤には成瀬のNは杉下以外に設定する事は出来ないでしょう。何故なら成瀬には杉下以外に事件の関係者との接点がないからです。また、杉下の中にかねてよりかなりな重みを持って存在している同級生=成瀬がいた事を認識しており、二人の間には相応の関係性が推測できます。そう考えるとやはり安藤には成瀬のNは杉下以外に設定のしようがない、といって良いでしょう。
安藤から見て杉下のNは自分ではない
安藤は高野から『杉下さんのNはだれだったのか』と聴かれた際、「答えなければなりませんか」と返しています。その声、表情には苛立ちが見えます。彼は杉下のNを答えたくないのです。
一発逆転を狙ったドアチェーンでも結局杉下は安藤に助けを求める事はありませんでした。(参照:Nのために 論考: ドラマ:安藤がドアチェーンを掛けた理由 (ronkouforn.blogspot.com))
彼は杉下が究極の選択を求められた際には、自分は選択されないという事を思い知らされているのです。
これらの事から、杉下のNは自分ではない、と彼は考えていたはずです。ですから自身がプロポーズしようとしていた杉下のNについて、自分以外の名前を出す事は彼なりに逡巡・葛藤があるのでしょう。それは高野に対する反応として表れたと考えられます。
物語内において杉下の西崎に対する恋愛感情と思しきエピソードはない
杉下と西崎の間に、杉下が西崎に対して恋愛感情を抱いていると思われるエピソードは描かれていません。まして安藤が野ばら莊を退去する為、部屋を片付けている際の西崎との会話「杉下には落ち着いたら迎えに来る、と言っといて」という発言があります。つまり安藤からみて杉下と西崎との間は、そのようなものが存在しうる関係とは見なされていないのです。そうすると事件時における杉下のNを西崎とすることは安藤には不可能でしょう。
安藤からすると杉下のNは成瀬に見える
結局安藤から見たとき、消去法で杉下のNは成瀬に見える事になります。成瀬が杉下の心の中に以前から存在している事は早くから安藤も判っていました。また、西崎から杉下の『罪の共有』の定義を聴いていた事、二人が長らく接触がなかったことから、恐らく成瀬がなにがしかの事件を起し、杉下が偽証する事でその事件が未解決であるであろうと予想出来ます。スカイローズガーデンの事件に関する3人の処理方針が、計画の隠蔽=計画の否定=3人が現場でそろったのは偶然、とすることは、成瀬と杉下が抱える未解決の事件との関連性を発生させない為にも有効であろう、との推測も可能です。そうすると杉下には成瀬を庇うための動機が見出せます。やはり安藤からは杉下のNは成瀬に見えるのです。
0 件のコメント:
コメントを投稿