10話現代編において、安藤と高野の会話で高野はこう話しています。
高野:「空気のいい処に戻る事にしました」
安藤:「そうですか」
高野:「私が長年知りたいと思っとった事はようやく解りました。ですが安藤さんが知りたいと思っとる事は未だ半端になっとります。みんなあなたに何も話さんのですね」
高野:「仕事柄、人が何かを隠すのはやましい事があるからだと思ってました。独りよがりやな、と思わんこともないですが、誰かを護るために無心に嘘を付く人間もおるんですね」
安藤:「高野さん、一つ教えてください…」(この後安藤と成瀬の対面シーンへと移る)
この会話から判る事は、安藤と高野は協力関係にあったという事です。
この会話はいわば高野が自身の知りたかった事(=さざなみ炎上の真実)が判った事の報告であり、それに伴う協力関係の解消を安藤に申し入れたものです。そして安藤にはスカイローズガーデンに関して彼が知りたいと思っている事が存在しており、それは未達である事が高野の口から語られています。
『みんなあなたに何も話さんのですね』と高野が発言している事から、安藤は西崎や杉下との接触、そこでの会話、問いに関する回答などを高野に報告していた事が解ります。
安藤から高野に伝わった情報
2,3話に最初に高野と安藤が接触した会話より、安藤から高野には以下の情報が伝わっています。
- 成瀬とは『ほとんど面識がない。居合わせたのは偶然』
- 野口の死亡で自分のポジションが社内で変わった事。わずか入社2年で海外赴任となった
- 自分のNは杉下であった事。そして杉下、成瀬にもそれぞれのNがいた、という見解
- 海外に赴任する事となったら杉下にプロポーズするつもりでいた(但し交際については否定)
- 杉下とは10年間接触がない事
- 杉下のNの問いには回答を拒否
5話及び6話において、安藤と高野の会話シーンが描かれています。その中で2つの事が安藤から高野へ提供されています。
- 燭台には火が付いていた事。西崎が火を恐れており、その西崎が火のついた燭台を手に取る事はできないという見解。
- 野口家のドアチェーンは掛かっていたはずである点。
さらに言えば、5話で高野が杉下の自宅を訪れていますが、その杉下の住所情報を提供したのも、西崎の部屋を訪れた際に西崎が杉下に送ろうとしていた現金書留の住所を見た安藤からのモノと考えていいでしょう。
ドラマでは表現されていないが、安藤から高野に伝えられたであろう情報
更にドラマでは直接的に触れられる事は有りませんでしたが、安藤から高野には他にも情報が伝わっていたと思われます。具体的にはスカイローズガーデンに関して安藤が認識している事全体です。(参照:Nのために 論考: ドラマ:なぜ安藤は自身のNを杉下と言えるのか? (ronkouforn.blogspot.com))
なぜ、そう言えるか、というのは、西崎・杉下にとって一番の謀議内容を脅かす存在が安藤であり、その安藤の口封じのためのドアチェーンの隠蔽だったのですが、安藤自らドアチェーンについて成瀬の証言を覆しにかかった、という事は彼がドアチェーンを掛けた実行者である事を自ら明らかにする事と同義であり、当然なぜ鍵を掛けたのか、を高野に話したであろう事が容易に想像されるのです。(参照:Nのために 論考: ドラマ:スカイローズガーデンを読み解く入り口 (ronkouforn.blogspot.com))
安藤には作戦における各人の役割分担も判っていた
3人による作戦の存在を前提とした場合、安藤には各人の役割分担も把握できたと考えてよいでしょう。何故なら、彼は関係者の行動時間と、杉下の将棋における役回りを了解しているからです。
安藤は同期との焼肉忘年会に杉下を誘う前、杉下に対して彼女が野口の将棋のブレインを務めていると認識している事を明かしています。杉下はこの安藤の発言を否定はしていますが、この認識と事件の時間関係を考えるならば、3人の役割分担を類推可能です。
西崎が奈央子の連れ出し担当。これは彼が杉下より後に野口宅に入った事から判ります。そして西崎が連れ出し担当とすると、それを実現するには奈央子と野口を分離する時間を作る必要がある。杉下は野口の将棋ブレインであり、その役割を利用して西崎より先に部屋に入り野口と奈央子を引き離す役割だと推測出来ます。
なぜ杉下が野口と奈央子を引き離す事が可能であったか、という点については、その前に野口と安藤が奈央子の前で将棋を指していた際に奈央子が発作を起こした事があり、それ以降奈央子の前で野口が将棋を指さなくなった(賭け将棋を持ち出された際の場所は2階)事を安藤は知っている為、杉下が野口と奈央子を引き離す役割であった事は推測可能です。
そして成瀬は奈央子不在となった野口宅から杉下を回収する(引き揚げさせる口実)役割だったと推測可能なのです。
高野から安藤に伝わった情報
それに対して高野も安藤に対して高野の持つ情報を提供するはずです。情報の提供に対する対価は情報であるはずだからです。高野が持つ情報とはすなわちさざなみ炎上をめぐる杉下と成瀬の関係性に関するものであったはずです。そこには高野がさざなみの放火犯は成瀬と見ている点、杉下が成瀬を庇う偽証をしている点、事件が未解決で翌年に時効を迎える点なども含まれるでしょう。
杉下と安藤の、地下鉄口での会話(6~7話)
安藤:「逃げないで聴いて…警察には言わなかった事を話すから、杉下も話して」
安藤:「あの日、西崎さんはあの部屋から奈央子さんを連れ出そうとしていたんじゃないの?本当のことを知りたい」
安藤:「10年前の杉下にもう1回逢って、これからは一緒に居たい」
杉下:「どういう意味?」
安藤:「あの日、事件の日に渡そうと思ってた」(指輪を差し出す安藤)
安藤:「結婚してくれって言うつもりだった」
杉下:「これ、買ったの?」
安藤:「10年前に」
杉下:「一度も付き合ってないのに思い切りが良すぎる」
安藤:「10年前はいけると思ったんだよ」
杉下:「私と安藤が結婚したら、家に安藤”のぞみ”が二人いる事になるよ、そんなめんどうな夫婦ってどうなの」
安藤:「そんなこと大して面倒じゃない」
杉下:「これまで付き合ってた娘、いたんでしょ?」
安藤:「いたけど、誰とも結婚したいって思わなかった」
杉下:「私もそう、今は誰とも結婚したいって思ってない」
安藤:「わかった。会ったらすぐ元に戻れるって思ったけど、10年は永いな」(指輪を返そうとする杉下を制して、再度杉下側に押し戻す)
安藤:「とっといて」
杉下:「貰っても困る」
安藤:「今は思わなくてもさ、そのうち結婚したいって思うかもしれないじゃない。3年先とか、5年先とか」
杉下:「そんな先の事わかんない」
安藤:「そ、わかんないんだって、先の事なんか」
これはプロポーズが主たる会話ではない
この会話のシーンは安藤の杉下へのプロポーズシーンとして話題になっていました。杉下が病気でなかったならば、プロポーズを受けていた、とか言われていました。そこについてはこの場での主たる関心ではないので、おいておきます。
話を戻すとこの時の会話における安藤の本当の意図はプロポーズではありません。もし安藤がプロポーズする事が真の目的であるなら、「10年前の杉下にもう1回逢って、これからは一緒に居たい」からいきなり始めればいいのです。それにも拘らず会話の開始が「逃げないで聴いて…」という事は、実はこの会話の構造上のメインは『西崎さんはあの部屋から奈央子さんを連れ出そうとしていたんじゃないの?』という問いであったのです。
彼の10年前にプロポーズするつもりだった、という点に関しては、会話構造からすると、上記の問いに対する杉下の回答を引き出すための対価として、彼側が持つ情報を提供した、というのが正しいのです。
安藤は杉下が作戦の存在を知っている事を確信している
安藤は西崎・杉下・成瀬が杉下の部屋で逢っているのを知っています。その後クリスマス・イブにおける野口家での食事会が決まりますが、それには杉下の友人である成瀬の情報によるものです。本来野口家と何ら関りがないはずの西崎が食事会の日時と、その場に杉下の友人である成瀬がその場に現れる事を西崎が知っている、という事はそれらの情報に杉下が介在している事は明らかです。
また、西崎が訪れたタイミングも野口と奈央子が分離されるであろうタイミングであり、先行して杉下が野口宅を訪れる事にしたのは、そのためとも見えます。
ですから安藤は単に可能性としてではなく杉下が作戦を承知していた事は確信です。だからこそ、安藤は「逃げないで聴いて」と彼女に覚悟を求めて問うているのです。
この問いへの対応は三つしかない
「YES」は作戦が西崎・杉下・成瀬で共有されており、警察への偽証『3人が居合わせたのは偶然』を否定する事になります。
「判らない」は「知らない:NO」とは異なります。安藤の問いは『西崎は奈央子を連れ出そうとしていたのではないか?』であり、これに「NO」と答える事は逆説的に西崎・成瀬・杉下の間で情報が共有されている事を認める事になります。そうするとそれは結局「YES」と答えている事と同義になるのです。
ですから、この逆説的な肯定に陥らない為には作戦の共有を否定する必要があり、その場合の回答は「判らない」になるのです。
「YES」は杉下のNは西崎で、自分が杉下から「赦された」
杉下の答えが「YES」であるなら、彼女のNは西崎と安藤には見えます。
まず安藤は自分が杉下のNであるとは考えていません。もし杉下のNが自分であるならば、事件後彼女が自分を拒絶などしないはずであるからです。(参照:Nのために 論考: ドラマ:スカイローズガーデンの深読み (ronkouforn.blogspot.com))
もう一つ、安藤から見たとき、杉下が問いに答える行為は杉下が自分を「赦した」と取れます。『許されざる者』として拒絶され、情報を共有してもらえなかった自分に事件時の状況を共有してくれる行為は、彼からすればそれは「赦し」と取る事が出来ます。
「判らない」は拒絶の継続であり、杉下のNは成瀬
”答えない”は情報の共有を認めるが、杉下は自分のNを知られたくないという事
安藤の目的は
安藤は高野へ自身が知る、推測しうる事件の真相を伝えた後に杉下と会っています。高野からはさざなみ炎上事件と杉下と成瀬の関係性の情報も伝わっていたはずであり、それを受けて彼は行動したと考えるべきでしょう。具体的にはさざなみ炎上の時効がまだ成立していない、という状況で彼女がどう反応するのかを安藤が知る事は意味があります。
正確には安藤は杉下が『作戦を知っていた』かどうかが知りたい事ではなく、その問いを発する自分に対してどうこたえるか、が主たる関心であったという事になります。
事件後、安藤は杉下から接触を拒絶されています。それは杉下には安藤が許されざる者であったからであり、そうであるがゆえに真実を教えてもらえない、という事も理解しています。(参照:Nのために 論考: ドラマ:スカイローズガーデンの深読み (ronkouforn.blogspot.com))
このような経過をたどった杉下が、現代にどう答えるか、が安藤の真の目的だったと考えられるのです。
杉下が作戦を『知っていた』と答えたならば、それは真実であり、真実の共有相手として杉下が安藤を受容したという事であり、それはある意味安藤には杉下からの『許し』となるものです。
それ以外の答えは、真実の共有相手としては受容されていない事を意味します。それは許しを得られていない、という意味です。