2024年1月16日火曜日

ドラマ:スカイローズガーデンを読み解く入り口

謎解きの入り口としての鳥瞰カットの内、2つ(西崎との会話後の成瀬の後ろ姿、杉下の成瀬からの電話を出た際の立ち姿)からスカイローズガーデンを紐解く入り口を与えてくれています。

  • 成瀬と杉下が距離を取る事になった理由
  • 杉下のN=成瀬である事の理由

成瀬と杉下が距離を取る事になった理由

これは成瀬が西崎に話したはずの内容です。成瀬と杉下の間にこの事件の後に接触がない事から、理由はスカイローズガーデンの中にあります。これは成瀬が西崎に語った内容ですので、端的に言えば、成瀬から見てスカイローズガーデンでの杉下の行動がどう見えたのか?がポイントになります。

成瀬には杉下が安藤を庇っているように見えた

西崎が警察に犯人が自分である事を自供し、杉下は成瀬に「外からドアチェーンが掛かっとった事、警察には言わんで」と依頼しています。これが成瀬には杉下が安藤を庇っていると見えたのです。

成瀬には過去に似た経験があります。島時代、初めて杉下の買い出しに付き合い、幽霊屋敷を訪れた際に早苗の壊れっぷりを見た後に二人で東屋へ立ち寄ります。そこへ高野が訪れ杉下に大丈夫か、と問いかけがありました。この時杉下は成瀬に『母親の事は黙っていてほしい』旨を頼んでいます。

成瀬は、ドアチェーンを安藤が掛けた事を認識しています。この島での経験から成瀬にはドアチェーンの隠蔽の依頼する杉下は安藤を庇おうとしている、と見えたのです。

また、この見え方を補強してしまった事前情報がありました。安藤がこの食事会で杉下にプロポーズしようとしている、というシャルティ・広田でシェフから聴いた情報です。少なくとも成瀬には安藤は杉下と恋仲なのか?と考えさせられる情報を持っていた事が、杉下が安藤を庇っていると見えた要因ともなっています。

成瀬には安藤は許しがたい存在

成瀬はこのドラマでは性格的には『普通』な存在として描かれています。自身の父親がさざなみ炎上の放火犯であると疑っていた彼は、杉下の勘違いを訂正できずにいました。

また、その父親が亡くなった事から自暴自棄に陥り、詐欺まがいの事までしてしまった。決して強靭でも聖人君子でもない普通の青年なのです。

そのような成瀬から見たとき、結果野口夫妻が亡くなり、西崎が奈央子を庇う為に無実の罪を被る決意をし、自分も杉下も偽証するという危険な橋を渡る事になる状況を、鍵を掛ける事で作り出した安藤は許しがたい存在です。

成瀬にとっては安藤を庇うようにみえる杉下も許しがたい存在

そんな成瀬には、安藤を庇うように見える杉下の行動は驚きであり、またそのような行動をする杉下は安藤同様に許しがたい存在であるのです。

事実成瀬は、杉下の依頼に対して目を見開いて彼女を凝視し、警察と部屋を出ていく安藤に視線を送り、再び杉下を凝視しました。その後杉下の手を取り、杉下が部屋を出るのを見送りますが、彼の視線は一貫して冷めたものであり、杉下の背中に向けられたそれは、敵意さへ感じられるほどのものです。

そこには、それまでの杉下を護ろうとする意思、彼女をいたわる感情が全く見られません。

血濡れの手繋ぎは成瀬からの杉下への決別宣言

そのような状況下、成瀬は杉下の手を取ります。杉下は成瀬に視線を送りますが、成瀬は杉下へ視線を送りません。

この手繋ぎは、先の成瀬の杉下への視線、安藤についての成瀬の反応、事件の後10年間成瀬と杉下に接点がない点を考えると、この行為は成瀬から杉下への、決別の意思表示と考えるべきです。

成瀬が西崎に話した事

成瀬と西崎の電話において、西崎は成瀬に何故二人に距離が出来てしまったのか?を問うたでしょう。成瀬は以下の点を西崎に話したはずです。

  • 『杉下からドアチェーンが掛かっていた事を警察に話さないよう頼まれた』
  • 『それは杉下が安藤を庇う意図と理解した』
  • 『安藤は許されざる存在。その安藤を庇う杉下を嫌悪した』

杉下のN=成瀬である事の理由

これは西崎と成瀬との会話において、西崎が成瀬を説得する事を意図し、成瀬に話したはずの内容です。これが説得の決め手となり、成瀬は翌朝、杉下を訪ねます。二人の会話の内容・流れを推測するならば、順番的には先に成瀬が、杉下と自分が距離を取る事になった事情を西崎に話した内容のカウンターとして西崎が話した事項になります。

まず西崎は、成瀬がと杉下の距離を取った理由に対する、彼の誤解を解く

ここでの成瀬の誤解とは杉下が成瀬にドアチェーンの隠蔽を依頼した真意です。西崎は『安藤を庇う』事とは別に存在する、杉下がそうする必要性を成瀬に説明する事になります。

西崎にはドアチェーンの隠蔽の意図が判る

杉下が成瀬にドアチェーンの隠蔽を依頼した事実は西崎は知りません。その時既に彼は警察に導かれ、部屋を退いているからです。しかし西崎は杉下が成瀬にドアチェーンの隠蔽を依頼した真意が判ります。何故なら、西崎自身がドアチェーンについて、警察には話をしていないからです。

当然西崎は安藤がドアチェーンを掛けた事を判っています。西崎は後に入室した安藤に向かって「逃げられなかった」と彼の行為を責め、また出所後西崎を訪ねてきた安藤に対して冷たい対応をしています。西崎の対応には、安藤を庇う意図は見られません。しかしドアチェーンについては杉下と同じ行動を取っているのです。

三人の謀議内容

成瀬が入室した後に3人による謀議の内容は以下のものです。

西崎:「作戦は失敗だ。警察に通報してくれ。警察には作戦の事は黙っておこう。俺が一人で奈央子を連れ出すつもりだった」

杉下:「でも」

成瀬モノローグ:(どうして、今自分がここにいるのか解った。4年前杉下は何も聴かず俺を庇ってくれた。今度は俺の番だ)

成瀬:「大丈夫。全部偶然だ、って言えばいい」

西崎:「ああ」

成瀬:「杉下と俺はなんも知らんかった、今日会ったのも偶然。(杉下に)それでいいね」

(頷く西崎、西崎が自分に向ける笑顔に膝まづく杉下)

つまり、3人の謀議のポイントは以下の通りです

  • 西崎単独計画・単独実行
  • 3人が現場に居合わせたのは偶然

3人の謀議を覆しうる存在

しかし、この3人の謀議を覆しうる人物が存在しています。それが安藤です。

  • 杉下へ電話した際、部屋に『男性のお客さん』が訪ねてきている事を知っている(7話)
  • 蟹を杉下の部屋へ届けた際、西崎の話から西崎と杉下及び『杉下の友人』が食事をしていた事を知っている(8話)
  • 冷蔵庫内にシャルティエ・広田のケーキが在るのを確認している(8話)(そして安藤がその光景=『シャルティエ・広田のケーキが冷蔵庫内にある事』を見ている事を杉下は認識している)
  • 安藤と杉下の会話で、野口宅でのパーティがシャルティエ・広田の出張サービスによるものである事を安藤は知っており、杉下が同級生が働いており、その同級生が特別にクリスマスイブにキャンセルが出た事を教えてもらった事を安藤に話している。また安藤はその同級生が杉下の部屋を訪ねてきた『お客さん』である事に気付いており、杉下も同意している(8話)
  • 安藤と西崎がスカイローズガーデンのエレベーターで鉢合わせした際、西崎に『杉下の同級生の関わり』を問い、「3人そろって偶然な訳ないだろ。何考えてる?」と3人による何がしかの計画に気付いている(10話)

つまり、これらの事実を安藤が警察に証言した場合、上記の3人の謀議は簡単にひっくり返るのです。

杉下の成瀬へのドアチェーンの隠蔽依頼は安藤の口封じ

西崎及び杉下は安藤が謀議内容をひっくり返しうる存在である事は判っていました。そして、3人(西崎、杉下、成瀬)がドアチェーンに言及しなければ、西崎と杉下には安藤は自らドアチェーンを掛けた事は証言しないだろう、と推測したと思われます。

ドアチェーンは野口夫妻の死亡の間接的な原因であり、故に自ら進んでドアチェーンを掛けた事は安藤は証言しないだろう、との判断です。人間は自らに都合が悪い事象については口を紡ぎがちとなりますから、この推測は妥当と思われます。

しかし、成瀬は安藤が謀議をひっくり返し得る存在であるという事を知りません。上記の諸点はいずれも成瀬が認識しえない場所で展開されています。ですから杉下は成瀬にドアチェーンには触れる事がないよう、成瀬に依頼したのです。

ですので、西崎も成瀬に対して杉下のドアチェーンの隠蔽依頼の意図を『安藤の口封じ』が目的であった事を説明したと考えられます

西崎からみて杉下の行動が誰を護るためのものであったのか?

西崎が成瀬に対して、杉下のN=成瀬である、と成瀬に説明するには、西崎自身が見聞きしている杉下に関する情報から説明する必要があります。

  • 西崎との会話で杉下は『究極の愛』の概念を持っており、それが『罪の共有』である事も西崎は聞いている(4話)
  • 早苗が杉下を訪ねてきた際、西崎に匿われた杉下は彼女の『罪の共有』相手に対して感情を駄々洩れさせた(5話)
  • 奈央子救出作戦に成瀬が加わる事を報告した杉下に西崎は成瀬が杉下の『罪の共有』相手であるかを問い、杉下もそれを否定しなかった(8話)
  • 成瀬が杉下の部屋を訪ねてきた際、杉下が非常に成瀬に気を配っている事を見ている(7、8話)
  • 杉下が複数回に渡り、自分と成瀬が共同で事に対処するという趣旨の発言をしており、西崎はそれを聞いている(8話)
    • 「そしたら私が体当たりして成瀬君を助けるよ」
    • 「後の事は私と成瀬君がなんとかするから…」
    • 「なにかあっても、私と成瀬君がついているから」

つまり西崎は成瀬に以下の点を話したはずです。

  1. 成瀬は杉下の『究極の愛』の概念を生んだ相手
  2. 彼女にとって成瀬は『罪の共有』をさせるに至った事件を抱えるにいたった特別な存在
  3. 疎遠であった間も彼女が成瀬に強烈な感情を有していた事
  4. 奈央子救出作戦を契機に杉下が成瀬との関係を再開させようとしていた

決定的な証拠は杉下が謀議を受け入れたタイミング

野口を殴打した奈央子から、西崎と杉下は退去を求められます。西崎は既にドアチェーンが掛かっている事を知っていたため動きませんでしたが、杉下は玄関へ向かいました。そこでドアチェーンが掛かっており、脱出不可能である事を知ります。

奈央子が自殺をし、西崎が偽装工作をしつつ、杉下に偽証を求めます

  • 「野口を殴ったのはおれだ、奈央子を刺した野口を俺が殺した」
  • 「何も見なかった事にしてくれ」
  • 「愛はないかもしれないが、罪を共有してくれ」

しかし杉下はこの西崎の要求に対して杉下はこれを拒否します

  • 「なんでそんな嘘つかなきゃならないの。西崎さんが罪を被る事はないでしょう」
  • 「そんな嘘、つきとおせる自信ない」
  • 「そんなの、出来ないよ」

しかし、その後成瀬が入室し、成瀬が3人が居合わせたのは偶然、という謀議内容を西崎・杉下に提示した段階で、杉下はそれを受け入れました。成瀬の示した内容は、西崎が先に提示した『西崎単独計画・単独実行』を補強するもので、西崎が杉下に要求した偽証と方向性は変わらず、西崎が杉下に要求した偽証の方向から必然として生じる内容なのです。

しかし西崎の要求には拒絶し、成瀬の指示にはそれを受け入れたという事は、成瀬が状況に加わる事で杉下に偽証を行わなければならない理由が生じたという事です。『罪の共有』という彼女の概念を知る西崎には杉下が成瀬と『罪の共有』をするに至った事件は当然未解決である事が予想されます。

つまり西崎には杉下が偽証を受け入れたのは、成瀬が状況に加わる事で、未解決である過去の事件が蒸し返され、再び成瀬が危険な状況に陥る事を杉下が恐れたから、と見えます。

安藤は杉下が偽証を受け入れた理由には入らない

西崎は杉下が野口宅を出ようと玄関に向かった事を知っています。ドアチェーンが掛かっており外に脱出出来ないという事を彼女も認識したと判断したはずです。一方西崎は鍵を掛けたのは安藤と判断していました。彼が入室した際に安藤に向かって「逃げられなかった」と言ったのは、西崎の安藤に対する非難です。

西崎から見たとき、杉下の偽証受け入れに安藤の存在が感じられるでしょうか?

もし西崎からみて杉下が安藤の存在を意識する場面があるとするなら、それは彼女がドアチェーンが掛かっているを確認した時でしょう。しかし、その後の西崎との会話においては彼女は西崎の偽証要求を拒絶しています。つまり嘘を付く事に拒絶をしているのです。もし安藤を庇う意思があるのであれば、西崎の要求には拒絶しないでしょう。そうすると、彼女が偽証の受け入れた理由に安藤を庇う意図はなかった、と見る事ができます。

西崎が成瀬に語った事

以上をまとめると、西崎が成瀬を説得する為に語った事は以下の通りとなります
  • 杉下にとっての成瀬とは『究極の愛』『罪の共有』の相手であり、強烈な感情を抱いている
  • 杉下は奈央子救出作戦を機に『罪の共有』概念に含まれる『だまって身を引く』ことで距離を取っていた成瀬との関係を再度取り戻そうとしていた
  • 杉下が成瀬にドアチェーンの隠蔽を依頼した理由は安藤が3人の謀議を覆し得る存在であった為の口封じ
  • 西崎の偽証要求に対して杉下は拒絶しており、杉下の偽証受け入れは、状況に加わった成瀬の過去の事件の蒸し返しを恐れたからであり、杉下が護ろうとしたのは成瀬である、という事

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