2015年5月15日金曜日

ゴンドラで杉下が解放されたもの

安藤にサプライズで乗せてもらったゴンドラで杉下は価値観の変化が発生し、トラウマから解放されました。

「世界は広いんだな、とわかったら冷蔵庫の隙間ぐらいどうって事ない」と冷蔵庫へのトラウマが解消されました。そして野ばら荘の大家から「辛いことは忘れる事」と諭され、涙します。
この、「辛いことは忘れる事」に実は成瀬に会いたくても会えない、会ってはいけないという感情に伴う辛さも含まれる。これ以降、事件までの期間杉下はチケットを手にしていません。この感情(成瀬に対するトラウマ)が払拭された事により、後にN作戦2の際に成瀬に感じた感情の戸惑いが発生する事になったんです。

この時の価値観の変化は、他にも影響を与えています。
杉下は世界を「広い」と感じ且つそれが自分の足元とつながっている、と認識しました。
それまで杉下の世界観は、『上に行く』と言っていた通り、階層構造である意味一次元的なものだったのですが、広さとして認識された時自らのいる世界が二次元として認識出来たのだと思われます。
で、この認識に至った際、杉下はたじろいたんです。「怖くない?」と安藤に聴いている。そして更には、自分の限界に気づいた。自分が怖いと感じた世界に挑もうとする安藤に後に「日本じゃ勝ち目はない」と言っています。

人は世界が広いと認識できた時、そしてその広い世界の中で自分という存在がちっぽけなものであると気づいた時に、自分の根っこ、アイデンティティー、本質を再認識します。

ですから、これ以降スカイローズガーデン殺人事件までの期間は、杉下のかなり素が出ている期間です。



1 件のコメント:

motoさん さんのコメント...

ここも修正が必要ですね。

まず、冷蔵庫へのトラウマが解消された、と書いていますが、杉下に冷蔵庫のトラウマなるものは存在しないですね。これは後に本編でも語っているはずなのですが、彼女が冷蔵庫をいっぱいにしてしまう癖を持っていたのは、冷蔵庫がいっぱいでないと安心できない、といったものではなく、彼女は精神的ストレスが掛かると食事を大量に作る事でそのストレスを発散しようとする結果として、冷蔵庫が満杯になるのです。

では、彼女がこの時解放されたものとは何でしょうか?それは、島を出てもなお3年間も彼女にストレスを与え続けていたものを答える事になります。

ゴンドラで、彼女の心理に起こした変化は、この本編で書いた通りだろう、と思います。そして彼女はこの時自身の本質に気づいた。それは、『自分は大した才能もない、気概もない。ごく普通の人』というものなのです。

彼女の方が長く清掃会社のアルバイトをしていたにも関わらず、後から入った安藤がさっさとゴンドラ作業の認可をとり、かつ杉下がゴンドラ作業が出来ないとされた体重の問題もウェイトジャケットを付ける、という方法で解消してしまうのを見せつけられた事。ゴンドラから見た景色にたじろいだ事。この2つが彼女に自己の再認識に至らしめた事項だったとみていいと思います。

つまり杉下がゴンドラの経験から手放したものの一つは、自身の上昇志向およびその為の背伸びをしているような努力だったと言えます。それは彼女が成瀬に語った”野望”を諦める事です。

実は杉下にとって、成瀬との繋がりを自覚出来るものとして、フェリーチケットがあります。フェリーチケットは、島からの脱出の希望であっただけでなく、成瀬と語り合った野望の実現への期待であり、そして相互の”がんばれエール”と結びついています。彼女にとって、連絡も途絶えた成瀬と”今も繋がっているんだ”と思えるシンボルだったのです。

そのフェリーチケットをその後彼女は手にしなかったという事は、このゴンドラで彼女は成瀬とつながり続けよう、という意思を放棄した=成瀬を諦めた、と理解する事が出来ます。

ここまで認識が進むと、ではそれまで杉下に料理を作らせ続ける事になったストレスとはなんだ?となります。そのストレスとは、成瀬との制約=”がんばれエール”です。恐らく彼女は薄々自分は大した事が出来ないのではないか?と自分の能力に懐疑があったのではないでしょうか?
しかし、彼女は成瀬を”何にだってなれる”と信じており、そこに向かって彼が努力し続けている、きっと近づきつつある、と考えていたはずです。
その一方で、自分は?と言えば遅々として野望は実現せず、自分の能力の限界を感じつつ、それでも成瀬との制約を実現するべく努力を強いられる、という強烈なジレンマに陥っていた、それが強いストレスとして彼女に料理を作らせ続けた、と考えられるのです。