2015年5月29日金曜日

成瀬、杉下が偽証を選んだ理由

成瀬と杉下には、スカイローズガーデンでの事件処理に二つの方法があり得ました。

一つは事件の真相を正直に開示する事。
もう一つが西崎単独犯として偽証する事。

事件の真相は夫婦による心中です。これについては、西崎、杉下はおろか事件後入室し、事情を殆ど説明されていない成瀬も理解していた事です。

※5月23日投稿 事件に対する成瀬の認識の到達度の検証 を参照

そうであるなら、捜査機関に対して真相開示するという選択もあったはずなのに、二人はそれを選択しなかった。西崎が自分が犯人になる事を望んだから、では有りません。成瀬は杉下のために、杉下は成瀬のために。

※5月29日投稿 結局杉下は誰のために偽証したのか? 参照

実際杉下は西崎に対して〝罪を被ることはない〝と言っています。
捜査機関に対して、全てを真っ正直に開示し、それが認められれば、西崎も杉下も成瀬も安藤も、全ての関係者が罪に問われる事はない。
西崎には不服かもしれないが、側からみればそちらの方が西崎にとってもいいはず。

しかしそれでも二人は偽証を選択した。それはなぜか?

主に成瀬の判断として描かせてもらいますが、仮に捜査機関に対して全てを開示したとしても、捜査機関機関はそれを信じないだろう、というのが成瀬の判断です。
そもそも3人が計画を立て実行した結果が夫婦の心中、と説明したとしても捜査機関が信じる訳がない。信じない前提で4人を捜査する。信じて貰う為に、より多くの情報を提示しようとも、全員が全員同じ物を正確に表現できる筈はないので何処かで証言が食い違う。そうすれば4人にとっての真相も、捜査機関にとっては真相で無くなる。結局は心中事件は殺人事件ににならざるを得ない。
これは一般的にも十分感じ得る事であるし、成瀬にとっては身をもっての経験がある。成瀬はさざなみ放火事件で捜査機関が真相に到達することが無かった事を知っています。

そんな成瀬とすれば、成瀬には杉下は殺害へは関与していない事は明白ですが、捜査機関から殺害の嫌疑を掛けられ、展開によっては杉下が殺害犯とされてしまう可能性のある方法は選択できない。成瀬が庇おうにも成瀬は事実を見ていないから、庇えない。

そうであるなら、西崎が自分が単独犯として奈央子の罪を被るつもりであるなら、西崎を切り捨てる事で杉下に嫌疑が掛かる事を避けるために偽証する事にした。

杉下には真実を話す事=自分と成瀬が一緒に計画を立てる関係である=さざなみでの自らの証言が嘘である=成瀬を捜査機関にさざなみの放火犯として差し出すことになりますから、これは絶対に避けなければならない。そのためには成瀬の判断通り偽証して西崎を切り捨てる事を選んだ。

これが2人が偽証する事にした理由です。

2 件のコメント:

motoさん さんのコメント...

杉下が、さざなみの蒸し返しから成瀬を護ろうとして偽証を選択した、とする推論には当時から批判もあったんですね。

その一つが、島で再開して以降、作戦会議を通じてちょくちょく成瀬と会っていた事実から説明が付かないのでは?といった点についてです。

これを考える際のポイントは、『捜査機関がどう行動するか、という点について偽証するものがどう考えるか』なんです。

もし、スカイローズガーデンの事件がなかったとして、捜査機関が二人が東京で会っていた事実を掴んだとして、それでさざなみ炎上が偽証だとして再度操作する事は困難でしょう。

しかしスカイローズガーデンの事件が存在している上での事であるなら、話は別です。スカイローズガーデンで二人が会っていた、作戦を一緒に遂行するような関係であった、とした場合、当然さざなみ炎上の真相はどうだったのか?さざなみの際の証言も偽証であったのではないか、と相当突っ込まれるのは容易に想像がつきます。なぜなら、さざなみは未解決事件であるからです。さざなみが偽証である、として成瀬がそれで逮捕・起訴となるとは必ずしも断言できませんが、そうとう成瀬に対する操作・聴取は厳しくなる事が杉下に予想される訳です。

スカイローズの問題があって、さざなみが蒸し返されたとして、それでさざなみが成瀬を実行犯として逮捕・起訴はむりだろう、どちらであってもさざなみに関する結果は変わらない、という推測から、杉下の偽証意図は成瀬ではない、安藤だとする論がやはり当時からありました。

しかし、この問題について杉下が大事な事を言っています。彼女はモノローグで『一番大切な人の事だけ考えた。大切な人が一番傷つかない方法を考えた』と語っています。この”一番傷つかない方法”が重要なんです。

逮捕・起訴といった帰結に変わりがないとしても、その中間過程で成瀬が傷つく程度に差が生ずるのであれば、より成瀬が傷つく可能性の少ない方法を杉下は選ぶという事です。
ですから、逮捕・起訴という最終的な結果に差異は無くとも、さざなみで相当程度突っ込まれるであろう方法(スカイローズガーデンでの真実を話す=成瀬と杉下は会っていた、作戦を練っていた)は取らず、共謀した偽証内容を採用するほうがよい、となるのです。

motoさん さんのコメント...

この杉下の『大切な人が一番傷つかない方法』を選択するのは、もう性(さが)としか言いようがないレベルだ、というのが全体を通して謎解きを進めた際の評価です。
つまりそれは具体的に言えば、『成瀬が一番傷つかない方法』を選択してしまう、というものです。

一つ目はお城放火未遂時の成瀬の「俺に何ができる?」に対する返事「なんもいらん!なんもいらん!」です。これは杉下の独立心(”誰にも頼らず、上に行く”)と関連付けられて理解されていますが、状況的に彼女はお城放火行為を起こすまでに追い込まれており、その状況で独立心からくる言葉を吐くとは考えられない。私は当初この発言は、成瀬が代理放火をしようとする様に直面した杉下が、何かを要求したら、成瀬が何をしでかすか判らない、と考えた杉下の恐怖心から成瀬の申し出を「なんもいらん!」と返したものとみていました。しかしこの行動もある意味『成瀬が一番傷つかない方法』を選択した、と評価可能なのです。

二つ目はさざなみ放火時の彼女の行動です。
成瀬がさざなみに放火したと思った彼女は、一緒にいた、と偽証し、自身が島を脱出する為の切り札とみていた奨学金の資料さえ偽証の為に成瀬に差出し、あまつさえ捜査機関が成瀬と自分の関係を疑っているとみるや、成瀬との接触を断つという選択をしました。これも『成瀬が一番傷つかない方法』の選択です。

三つめが、島で再開し、東屋で成瀬が奨学金を無駄にしてしまった事を杉下に謝った際、彼女は自身のショックを隠して嘘を付く事で成瀬の罪意識を軽減しようとしました。彼女がこの時嘘を付いていたのは明白で、さざなみ炎上時に捜査機関に対して偽証していた時と同じく、指を弾くという癖を見せています。これも『成瀬が一番傷つかない方法』の選択です。

四つ目が先のコメントに書いた通り、スカイローズガーデンでの偽証です。

そして最後が、ラストで杉下が成瀬の元に帰るシーンです。
これはやはり最後は自分が好きな人の元に帰る、という意味合いで理解されていると思います。当初は私もそう考えていました。ですがこれも状況を考えると、彼女の『成瀬が一番傷つかない方法』の選択という評価が出来るのです。
成瀬は、さざなみ炎上について杉下に罪の意識をずっと持ち続けてきました。だからこそ彼は杉下に懺悔した訳です。もし杉下が成瀬の申し出を拒絶し、自身が死んでしまったら、成瀬は一生その罪意識を抱えたまま生きる事になる。杉下にはそれが耐えられず、彼の罪意識を軽減したくて島へ帰った、とも評価できるのです。これも『成瀬が一番傷つかない方法』の選択です。

ですので、彼女の行動は『成瀬が一番傷つかない方法』の選択で首尾一貫しています。いえ、もうそれは性というより歪みと言っていいレベルであり、私がこの物語を構造主義で捉えている根拠となっています。

それでも、10年してからの彼女は、自身のそういう歪みを自覚していたのでしょうか、それでも多少の抵抗はしているんですね。
その抵抗というのが、成瀬に対して成瀬の野望「結婚した相手より後に死ぬ」を口にし、”成瀬君と一緒になっとたら、私が成瀬君の野望、実現してやれたのにね”と言っています。これは、成瀬に対する嫌味ではあるんですが、彼女が自身の性を自覚していたとしたら、その後の「甘えられん」と合わせて、その性に対するせめてもの抵抗を試みたとも見る事が出来ます。いえ、自身がその性を自覚しているからこその「甘えられん」だったと見たほうがいいのでしょう。