2015年5月31日日曜日

杉下が西崎に言おうとしていた事

出所した西崎と再会したシーンで、「この十年には意味があった、有難う杉下」という西崎。
杉下はそれを受けて「私も似たようなこと言いにきたのに、先越されちゃった」と言います。
しかしそれは描写されず、結局なんであったのかは不明です。

杉下が言おうとしていた、似たような事とは?

これがずっと分からなかったんです。

当初これは杉下にとって十年がどのような意味を持ち、それについて西崎へ感謝する内容だと思っていたのですが、初期の杉下のN=成瀬、の頃その設問に意味を見出すことが出来ませんでした。

オフィシャルサイトの投稿の中にも、これについて私が納得出来る内容は有りませんでした。
俗に成瀬派といわれる立場の方達は、この問題についてほとんど触れていません。
逆に安藤派と呼ばれる方達の解釈では、安藤を守りきった10年でお互い良かったね、という物。
相互に納得出来ないんですよ。このシーン、やはり重要なんだと思っているので。

よって前提が間違っているのではと疑い杉下のN=西崎としたら意味を設定できるのでは?と考えを進めてきたんですが、結局西崎は究極の愛の相手として登場するものの、事件の時の杉下のN=成瀬で、事件発生後の杉下の十年に今持って満足な意味を見出せません。

これは、問題の設定が間違っているのではないか?と思い至りました。

よくよく考えると、西崎は杉下に対して十年を感謝しているのではないのです。その十年を与えてくれた杉下の罪の共有という名の偽証に対して感謝しているのです。

杉下側から西崎の行為を見た時、西崎が関係者の法的な罪を一人で負う事になったおかげで杉下のN=成瀬を守ることが出来た。その西崎の行為に感謝する、というのが正解なような気がします。
但し、これを描写してしまうのは後の事件の真相をバラすことにってしまいますので、〝先を越された〟として描写されなかったのだと。

しかし杉下の真意はもう一つ有ったと思うのです。それは最後に見せる涙に表現されています。

西崎に対する感謝の気持ちの裏側にある、西崎に対する謝罪の気持ちです。
杉下は西崎の罪を共有した訳では有りません。杉下自身のエゴイスティックな選択=成瀬の擁護の結果として偽証を行なった。ましてや事件を引き起こした原因がこれまた杉下の中の『究極の愛』という名のモンスター。それが西崎のN=奈央子が死んだ原因であり、西崎が服役する原因だという事に対する謝罪の気持ちです。

もう一つは西崎は杉下の〝究極の愛〟の相手です。当初杉下が目論んでいた形とは異なりましたが、ある意味その究極の愛は、完遂された訳です。それはつまり西崎との決別を意味します。杉下は自身が愛した男との決別に涙した。

このシーンの以上のような意味だと考えます。




 

2015年5月29日金曜日

『愛はないかもしれないが、罪を共有してくれ』はトリックか?


5月28日の投稿『偽証を匿うための偽証は罪の共有か?』で指摘した事項です。

西崎が杉下に偽証を要求した言葉
『お前の究極の愛は罪の共有なんだろう。愛は無いかもしれないが罪を共有してくれ。』

この言葉はトリックなのではないか、と今疑っています。

この言葉をトリック、ミスリードを誘うための道具とした場合、隠蔽されたものはなんなのか?
一つは、西崎がこの事件における杉下の究極の愛の相手である、という事。
もう一つが西崎、杉下、成瀬三人の偽証が罪の共有などでは無く、それぞれのエゴによる共謀であったという事です。
これを視聴者に対して隠蔽した。

 エゴの隠蔽はそれの少し前に西崎自身が発した「殺人の動機が愛などという美名であってはならない。自分が犯人であれば復讐になる。」と対応していると思うんです。
西崎の美意識を偽装・偽証に当てはめると『殺人犯偽装の理由が罪の共有などという美名であってはならない』 
この表現、西崎の美意識にピッタリ来るんですね。そして実際に三者三様のエゴを通すための共通方法としての偽証という共謀が成立した。
このエゴによる共謀を罪の共有にすり替えた結果、視聴者に誤った罪の共有関係を刷り込み、その結果として杉下の成瀬を護る意図を隠蔽、杉下の意図は安藤を守る、というミスリードを誘ったんだと思われます。

もうひとつの杉下の究極の愛の相手=西崎、の隠蔽は一つには予防線だったと思います。
杉下のモノローグ「大切な人が一番傷付かない方法を考えた」には、西崎が自分が殺人犯となる事を希望している=それが西崎が一番傷付かない方法、という論理が成立し、かつステレオタイプとして大切な人=愛する人=西崎という論の展開は十分あり得た。それをこの発言で隠蔽した。その意図は、何故スカイローズガーデンの事件が起きてしまったのか?という物語の根源的な理由そのものを視聴者に隠蔽する事だったのではないでしょうか?

ではそれが何であるかというと、『究極の愛』という、杉下の心に巣食うモンスターとそれが生み出したN作戦2に挑む際の杉下の魂胆だったのだと思います。

※5月13日 杉下の『究極の愛』の本当の意味 参照
※5月16日 N作戦2における杉下の魂胆 参照

困った

このブログ、本当は杉下のN=西崎、を立証する為に立ち上げたのに、考察を推し進めた結果が再び杉下のN=成瀬、という当初の持論に舞い戻ってしまいました。

何処かで、論理の取り違いやジャンプをやってしまったかな?
やってないと思うんだけど。

確かに杉下のN=西崎として捉えると、今まで見えてなかったものも見えてきて、決して間違っていないと思うんですが。
例えば、なんで成瀬が作戦に参加したのか、とか。何故杉下が西崎に協力するのかとか。杉下のN=成瀬、としてしか物語を見ていなかった頃には必ずしも意味が明確で無かった部分もクリアになり、より物語の見通しが上がったのは確かなんです。

で、ずっと疑問に思っていた罪の共有が実は共謀であり、一般に流布している論を脱却出来た。
杉下のN=成瀬を脱却出来る、よし!これで杉下のN=西崎に届く!と思っていたんですが…

その直後に、やっぱりN=西崎では杉下には偽証が出来ない、という結論が待っていた。

もともと杉下のN=西崎のアイデアは、杉下にとっての10年に、N=成瀬では意味を持たせる事が出来なかったからなんです。当初の理解ではこれがクリア出来なかった。そこでN=西崎とすると〝究極の愛〝の定義にも合致するし西崎に対する微妙な描写にも気が付けて、これなら行けそう、と踏んで、論を展開したんですが…

今なら杉下の10年に、意味を持たせる事が出来るのかな?

成瀬、杉下が偽証を選んだ理由

成瀬と杉下には、スカイローズガーデンでの事件処理に二つの方法があり得ました。

一つは事件の真相を正直に開示する事。
もう一つが西崎単独犯として偽証する事。

事件の真相は夫婦による心中です。これについては、西崎、杉下はおろか事件後入室し、事情を殆ど説明されていない成瀬も理解していた事です。

※5月23日投稿 事件に対する成瀬の認識の到達度の検証 を参照

そうであるなら、捜査機関に対して真相開示するという選択もあったはずなのに、二人はそれを選択しなかった。西崎が自分が犯人になる事を望んだから、では有りません。成瀬は杉下のために、杉下は成瀬のために。

※5月29日投稿 結局杉下は誰のために偽証したのか? 参照

実際杉下は西崎に対して〝罪を被ることはない〝と言っています。
捜査機関に対して、全てを真っ正直に開示し、それが認められれば、西崎も杉下も成瀬も安藤も、全ての関係者が罪に問われる事はない。
西崎には不服かもしれないが、側からみればそちらの方が西崎にとってもいいはず。

しかしそれでも二人は偽証を選択した。それはなぜか?

主に成瀬の判断として描かせてもらいますが、仮に捜査機関に対して全てを開示したとしても、捜査機関機関はそれを信じないだろう、というのが成瀬の判断です。
そもそも3人が計画を立て実行した結果が夫婦の心中、と説明したとしても捜査機関が信じる訳がない。信じない前提で4人を捜査する。信じて貰う為に、より多くの情報を提示しようとも、全員が全員同じ物を正確に表現できる筈はないので何処かで証言が食い違う。そうすれば4人にとっての真相も、捜査機関にとっては真相で無くなる。結局は心中事件は殺人事件ににならざるを得ない。
これは一般的にも十分感じ得る事であるし、成瀬にとっては身をもっての経験がある。成瀬はさざなみ放火事件で捜査機関が真相に到達することが無かった事を知っています。

そんな成瀬とすれば、成瀬には杉下は殺害へは関与していない事は明白ですが、捜査機関から殺害の嫌疑を掛けられ、展開によっては杉下が殺害犯とされてしまう可能性のある方法は選択できない。成瀬が庇おうにも成瀬は事実を見ていないから、庇えない。

そうであるなら、西崎が自分が単独犯として奈央子の罪を被るつもりであるなら、西崎を切り捨てる事で杉下に嫌疑が掛かる事を避けるために偽証する事にした。

杉下には真実を話す事=自分と成瀬が一緒に計画を立てる関係である=さざなみでの自らの証言が嘘である=成瀬を捜査機関にさざなみの放火犯として差し出すことになりますから、これは絶対に避けなければならない。そのためには成瀬の判断通り偽証して西崎を切り捨てる事を選んだ。

これが2人が偽証する事にした理由です。

2015年5月28日木曜日

結局杉下は誰のために偽証したのか?

結局、杉下はスカイローズガーデンにおいて誰のために偽証したのでしょうか?

偽証の効果考えれば、西崎は自分が犯人になる、という自らの希望が達成され、安藤の将来を傷つけづに、成瀬と自分は事件への関与からエスケープする事が出来た。こう考えると、杉下は三人全員のために偽証した、という結論になる。

しかしこれはとってはいけない結論です。
何故なら、

3月26日の投稿『ミステリーとしての仕掛け その一 タイトル』で指摘したとおり、〝〜のために〝という言葉自体が持つ多義性による原因、意図、効果のすり替えの罠にはまってしまうからです。

タイトルはこのミステリーの仕掛けとしての効果を意識してつけられています。
実際オフィシャルサイトでのコメントでも、このすり替え誘導にハマり、謎解きの方向性を見失ってしまった議論が展開されていました。

その際たる例が西崎に対する評価です。
あれだけ西崎が自分が犯人になる理由を明確に語っており、そのための偽証を杉下へ強要し、西崎自身のエゴを押し通そうとした行為が、その副次的効果=三人は殺害へ関与していない、となった事を、西崎が全員を守る意図で犯人になった、する解釈が一般的なものになっていました。
かなり鋭い部分まで分析をされている方でも、このすり替え誘導に引っ掛かっているケースが随所に見えます。

ここで私が明確に意識しているのは、〝〜のために〝という言葉の意味のうち、意図に関することです。杉下は誰を守る意図で偽証したのか、です。

これ、問いの形を変形してみれば意外とすんなり理解出来ます。

杉下は誰を守る意図であるなら、偽証を受け入れることができたのか

杉下が偽証を受け入れたタイミングは成瀬が『今日遇ったのも偶然、それでいいね』と言った瞬間。この時点では安藤は入っていない。だから安藤ではない。
西崎に『罪の共有』を要求された時も、『そんな嘘突き通す自信ない』と不可を吐露している。
そして最後に成瀬が西崎案に乗り、その補強をして杉下に指示した事で、杉下は偽証を受け入れることが出来た。

西崎でも成瀬でも、杉下がする偽証には差はない。しかし西崎では受け入れできない事が、成瀬であるなら出来る。

つまり杉下は成瀬を守る意図であるなら偽証を受け入れる事が出来たんです。よって杉下は成瀬のために偽証した、とするのが正しい到達点です。


偽証を匿うための偽証は罪の共有?

先の二つの投稿で、スカイローズガーデンでの杉下には、成瀬、西崎にそれぞれ罪の共有関係が成立しうる事を説明しました。

すなわち
杉下は罪(成瀬が行おうととしている隠蔽工作)を犯した人間(=成瀬)を捜査機関から匿う意図で偽証(=犯行現場は見ていない、外鍵については知らない、三人が居合わせたのは偶然)した

杉下は罪(=自分が野口を殺害した、という偽証)を犯した人間(=西崎)が一番傷つかないよう、捜査機関に偽証(=犯行現場は見ていない、外鍵については知らない、三人が居合わせたのは偶然)する

共に、偽証を犯した人間のために自らも偽証をする。

しかし、これは罪の共有と言えるのか?

さざなみにおける杉下の偽証は、成瀬との事前の会話は有りません。それに杉下が成瀬がやったと思っていたのは放火であり、罪の性質が異なる。それ故に共有と呼びうる。

スカイローズガーデンでは三人の間で意志のやり取りが行われていた。
処理の方向性についての会話が成立していた。

それにそもそも偽証の罪を匿うための偽証、であるなら、それは自ら同じ罪を犯している事になる。

ですので、これは罪の共有ではなく共謀です。三人の行為は正確には共謀なのです。

そうすると、西崎が杉下に向かって発した『愛はないかもしれないが、罪を共有してくれ』
これもトリックである可能性が大です。

2015年5月26日火曜日

スカイローズガーデンにおける罪の共有関係の再考 定義の拡張


罪の共有の分析で、基本的には成瀬・杉下は他の人との罪の共有関係は存在しない、特殊解として、杉下に成瀬の罪の共有が発生する、としました。
しかし、その特殊解をそのまま採用してよいのか?については一旦保留しました。

(『スカイローズガーデンにおける罪の共有関係についての再考 及び 同特殊解・例外』を参照下さい)

追加の分析が必要と考えたのは下記の言葉を罪の共有の定義に導入した場合に、これまでと異なる結果が出うるか?と考えたからです。

”大切な人が一番傷つかない方法を考えた”

これを”罪の共有”の定義に織り込むと、こうなります。

『罪を犯した人間が一番傷つかないよう、捜査機関に偽証する』

これを杉下に関して適用するとどうなるか?

杉下は罪(=自分が野口を殺害した、という偽証)を犯した人間(=西崎)が一番傷つかないよう、捜査機関に偽証(=犯行現場は見ていない、外鍵については知らない、三人が居合わせたのは偶然)する

これだと、杉下の罪の共有が西崎に対しても成立するんです。

ここで大事なのは、西崎が一番傷つかない方法=西崎が野口を殺害した犯人とする事、です。これが西崎自身の望みですから、これは論理的に成立するんですね。

杉下に成立しうる二つの罪の共有。
それはどちらが真なのか?もしかして両方が真なのか。

今はまだ結論が出ません。

2015年5月24日日曜日

スカイローズガーデンにおける罪の共有関係についての再考 特殊解・例外

昨日はスカイローズガーデンでの西崎、成瀬、杉下の罪の共有について考察しました。

西崎については杉下の規定する『究極の愛』における罪の共有が奈央子に対して成立するのに対して、成瀬、杉下については罪の共有を、規定出来ないと分析しました。

しかし、杉下については、ある特殊解として罪の共有が成立します。
今日はその特殊解を解説します。

それは成瀬が行おうとしている偽証を罪とした場合です。

つまり
杉下は罪(成瀬が行おうととしている隠蔽工作)を犯した人間(=成瀬)を捜査機関から匿う意図で偽証(=犯行現場は見ていない、外鍵については知らない、三人が居合わせたのは偶然)した

成瀬の意図が捜査機関から杉下を殺害への関与の嫌疑から除外する事であり、その意図は杉下にも判っていますから、その成瀬を捜査機関から匿うには成瀬の考える偽証にそのまま乗る、そうすると杉下には成瀬に対する罪の共有関係が成立する、というロジックになります。

この特殊解を採るとするならば、一般的に言われている〝成瀬が杉下が行った西崎の罪の共有をさらに半分共有した〝という解釈とは全く逆の罪の共有関係が成立する事になります。

ただし、個人的にはこの特殊解、例外をそのまま採用していいのかは検討が必要と思っています。もう一段突っ込んだ分析が必要と感じていますので、現段階では一つの可能性として記しておくに止めます。


スカイローズガーデンにおける罪の共有関係についての再考

い一般的な解釈として、スカイローズガーデンにおける罪の共有は、以下のように解されています。

西崎の罪を、成瀬に半分共有してもらう事で、杉下が共有した。
つまり、西崎の罪を杉下が共有し、杉下が負いきれない分を成瀬が共有した、という解釈です。

必ずしも、これだけでは有りませんでしたが、オフィシャルサイトのコメント欄の開設時における有力な解釈でした。
しかし、私はこの罪の共有の解釈は当時から疑問を持っていました。今日はこれについて考えます。

まず『罪の共有』を再定義したいと思います。
杉下の定義によれば〝相手の罪を半分引き受けること〝。ですが、これでは具体的な行動として何が杉下にとっての罪の共有なのか分かりません。
ですので、この『罪の共有』の概念の出処となったさざなみ放火事件での杉下の行動から、具体的に定義してみたいと思います。

さざなみ放火事件での杉下の具体的な行動は以下の通りです。
自宅に放火した(と杉下が勘違いした)成瀬が、捜査機関から逮捕されないように杉下が嘘のアリバイ証言をした

一般的な表現としては、『罪を犯した人間を捜査機関から匿う意図で行う偽証』が罪の共有の定義です。

この定義にスカイローズガーデンでの三人の行動を照らし合わせてみます。

西崎は罪(=殺人)を犯した人間(=奈央子)を捜査機関から匿う意図で偽証(=野口を殺したのは自分、外鍵については知らない、三人が居合わせたのは偶然)した

成瀬は罪(=?)を犯した人間(=?)を捜査機関から匿う意図で偽証(=外鍵はかかっていなかった、三人合致居合わせたのは偶然)した

杉下は罪(=?)を犯した人間(=?)を捜査機関から匿う意図で偽証(=犯行現場は見ていない、外鍵については知らない、三人が居合わせたのは偶然)した


西崎の行動は罪の共有の定義に合致します。ですので西崎は奈央子の罪を共有しています。
しかし成瀬及び杉下に関しては、罪とそれを犯した人間を規定出来ません。ですから二人は杉下の言う、罪の共有は行っていない事になります。

成瀬に関しては、成瀬のN=杉下ですから、強引に杉下、とする事も可能ですが、成瀬が偽証を決意した時点で成瀬は杉下は殺害に関与していない事は先にの記事(事件に対する成瀬の認識の到達度の検証)で明らかですから、杉下の罪を規定出来ません。また、強引に杉下の罪=西崎を慮った偽証、としてみても、成瀬が隠蔽工作をした時点では、杉下はどの様な行動を取るつもりであるかなど考慮していません。西崎に関しては成瀬は切り捨てています。ですので何れにせよ成瀬の行動を罪の共有で規定する事は出来ないのです。

杉下についても同様にです。西崎はについては、成瀬と同じ。成瀬としても、成瀬は何もしていないので、成瀬の罪など存在しない。

以上寄り、この三人の行動を罪の共有関係で規定する事は出来ません。

ここに安藤は?という意見もあられると思います。
安藤については、考慮する必要性はありません。何故なら三人にとっては安藤の外鍵の隠蔽は〝偶然〝を装うために必要な中間目標、条件であり、偽証の真の目的ではないからです。

この安藤に関する部分については先の投稿『安藤の外鍵を掛けた行為の隠蔽工作 4人の行動原理・利益』をご覧下さい。


5月25日 追記
すみません、間違いを訂正します。
三人の行動を罪の共有で規定出来ない、と書きましたが、ここは成瀬と杉下の二人は罪の共有を規定出来ない、に訂正致します。西崎は奈央子に対して罪の共有関係が成立していますので。


2015年5月19日火曜日

事件に対する成瀬の認識の到達度の検証


西崎:「作戦は失敗だ。警察に通報してくれ。警察には作戦の事は黙っておこう。俺が一人で奈央子を連れ出す積りだった。」
杉下:「でも…」
************************
(成瀬のモノローグ)
西崎は自分でやった、ということか?そういう意味だな?でも杉下はそれを否定しようとした。

なぜ西崎は奈央子を連れ出せなかった?
玄関が荒れていた。野口と西崎の取っ組み合いは玄関から始まり、ダイニング、そしてリビングに場所が移ったという事だ。
もし入室後直ぐ野口との取っ組み合いが始まったなら脱出できる。
西崎の入室段階で奈央子が野口に捕まっていたとしたら、西崎は奥まで立ち入るだろう。野口との取っ組み合いは玄関からは始まらない。
そうすれば奈央子は西崎が入室した段階で玄関にいたはずだ。取っ組み合いまで若干の時間があったはずだ。その間に鍵はかけられた。

なぜ脱出に時間を要した?
奈央子が渋ったからか!奈央子が脱出を渋り、西崎はそれを説得していた。その間に鍵がかけられた!なぜ奈央子が脱出を渋った?詳細はわからん。

そしてその場に野口がやってきて取っ組み合いが始まった。たまたま野口が玄関に現れたのなら西崎は単に花屋だ、と言い逃れる事が出来る。野口は奈央子の不倫相手としての西崎を認識して玄関に現れた。なぜ玄関にいるのが奈央子の不倫相手と野口にわかった?
奈央子が事前に野口に漏らしていたなら、野口は最初から玄関にいたはずだ。
杉下か?杉下が何らかの事情で西崎が奈央子を連れ出す計画を野口に漏らしてしまったという事か。
それはなぜ?詳細はわからんがとにかく杉下は野口に追い詰められて、切羽詰まって計画を野口に漏らしてしまったんだ!
杉下は計画をバラすことで、野口と西崎を揉めさせて、警察沙汰にしようとしたんだ。西崎が口にしたアイデアだ。だけど通報出出来なかった。杉下が計画を変更するほどに追い込まれた理由は?何を野口から守ろうとした。西崎でもないし、当選俺でもない。奈央子なら、当初の計画でいい。とすると残るは安藤だ。杉下は安藤を計画にまきこみたくなかったようだ。そうすると安藤に関して、何か杉下は野口から追いこまれ、警察沙汰にすることで安藤を守ろうとしたのか!

計画は奈央子を救出するためのものだ。西崎や杉下が奈央子をを殺害するはずが無い。仮に西崎がやったとするなら夫の野口だ。そうすると野口が奈央子を殺害した事になる。
本当にそうか?
先に野口と西崎が揉めていたはずだ。その状況で先に野口が奈央子を刺すには一度西崎から離れて奈央子に向かわなければならない。そんな暇、西崎が延びてでもいない限り出来ないだろう。仮にそうだとしても、野口が奈央子を刺した直後に西崎は燭台で野口の後頭部を殴打しないといけない。そんな事は延びた人間には無理だ。そうすると杉下か?杉下が野口を殴打した?
しかし杉下は、血に汚れたブランケットを持っていた。服も汚していた。介抱した、という事だ。野口を殴打した直後に、倒れた人間を介抱しうるか?無理だ。だとすると、このシナリオは成立しない。奈央子を刺した野口を西崎も杉下も殴打していない。

そうすると、野口が先に殴打されたのちに奈央子はが刺されたことになる。
誰が野口を殴打した?
先に野口と西崎がもみ合っていた。もみ合っている相手の後頭部を西崎が殴打するのは不可能だ。そうすると誰が野口を殴打した?杉下?もみ合いの間で、西崎が危険になり、それを助けるため杉下が野口を殴打した?でもこれもさっきと同じだ。殴打直後に杉下が介抱など出来るはずがない。

そうすると、やはり野口を殺害したのは杉下ではない。西崎でもない。とすると奈央子が野口を殴打した、その後に奈央子は自殺を図った。杉下は介抱した。つまりは心中だ。西崎は奈央子の罪を被ろうとしている!俺も杉下に代わって放火しようとした事がある。奈央子に対する愛故か。

心中とすると奈央子は野口から離れる気など無かった。
でも奈央子は自ら西崎に来ることを求めたんじゃないか。なんの為に?あの時部屋にいたのは杉下だ。野口が西崎と奈央子を疑っていたと同様に、奈央子は杉下と野口の関係を疑っていた?奈央子は西崎に杉下を野口から引き離して貰いたいが故に、西崎を呼んだんだ!

西崎を救う方法はないか?そもそも心中じゃないか。西崎が罪をかぶる必要はない。
正直に証言したら?奈央子がDVを受けていた。奈央子の体を調べればすぐわかるはずだ。だから3人で協力して奈央子を助けようとしたが外鍵が掛けられていて脱出できず、心中となった。
ダメだ。計画の結果が心中なんて警察が信用するはずが無い。さざなみの時の警察を思い出せ。警察の捜査能力なんて信用できない。そうなれば杉下が殺害の関与の嫌疑にさらされる。展開によっては、杉下が犯人にされかねない。計画は無しだ。
杉下を守る為には西崎を切るしかない。計画は隠蔽する。
警察は三人の関係性も調べるだろう。特に俺は杉下とさざなみで繋がっている。それは調べられればすぐわかる。当然計画を一緒に練る関係性を疑う。偶然、それを装う。それで突っ切る。
鍵はどうする?
鍵がかかっていた事で、西崎の情状酌量を得られる可能性はある。誰がかけたかは分からないが、それで西崎を多少とも救うことが出来る。
************************
(成瀬:『どうして、今自分がここに居るのか解った…』)
成瀬:「大丈夫、全部偶然だって言えば良い。俺と杉下は何も知らんかった。それでいいね」
西崎:「杉下を護ってやってくれ」

安藤:「何があった」
西崎:「逃げられなかった」
安藤:「俺のせいだ」
************************
(成瀬のモノローグ)
西崎はなんで状況の説明をしない?西崎は安藤が鍵を掛けたのを知っているのか?
安藤と西崎は会ったんだ!それで安藤は何がしかの計画に気付いたんだ。
安藤は杉下にサプライズのプロポーズを予定していた。それが出来なくなる事を予想した。
それで鍵を掛けた。でも何故?安藤が知りたかった事はなんだ?杉下がプロポーズを受けてくれるかだ。プロポーズが出来なくなる代わりに、室内の混乱を作り出して、杉下が自分を頼るかをためした?でも、プロポーズなら後からでも出来る。後からでは出来ない事が前提で、今試した?
安藤は作戦の外の人間。作戦が終わった後では杉下の気持ちには入り込めないと判断したんだ。そうすると、入り込めない理由は作戦の参加者にある。
西崎?でも西崎は杉下の気持ちには気づいてない。仮に安藤が杉下の西崎への気持ちを知っていたとしても、問題じゃない。すると俺か!安藤は俺と自分のどちらを取るか、試したんだ。安藤は俺が計画に参加していることと、俺と杉下の関係性を何らかの形で知ったんだ。
偶然、という言い訳が通らなくなる。安藤に鍵を掛けた理由を喋らせてはならない。
安藤は自分からは言わないだろう。それは自分が良く分かる。いえない。こちらから鍵がかかっていたことは隠蔽する。それで安藤の証言を封じよう。
************************
杉下:「外からドアチェーンかかっとった事、警察には言わんで」

2015年5月17日日曜日

真相の理解者としての成瀬

事件の時、成瀬はどれだけ真相を理解していたのでしょう。

オフィシャルサイトでのファンメッセージでも、これについてはほとんど議論らしい議論は見られませんでした。大方がほとんど何も知らない、杉下が殺害に関与したのではないか?と考えた、などのコメントが有りました。

上記の反応は致し方ない面が有り、そもそもドラマの描写では密室内での出来事について西崎からも杉下からも殆ど成瀬は説明を受けていない。だから視聴者側も成瀬は何も真実を知らない、という前提が成立していたのでしょう。

私の当時の主テーマは杉下が如何にその魂を解放し得るか、であった事、そして投稿終了までの時間も無かったため、この問題について自らの考えを詳細に述べることはしませんでした。

しかし、私はこの段階で成瀬は事件の真相を正確に把握しており、その上で杉下を護るための行動をとったと判断していました。
具体的には杉下を殺害の嫌疑から除外するために、西崎のいう〝作戦の事は黙っていよう〝に乗り、三人が部屋にいた理由も〝偶然〟だとする補強を行った。この線で事件を処理するため、安藤が外鍵を掛けた行為の隠蔽も行われた、と判断しました。

その判断を簡潔に表現したのが以下のしのぶさんのコメントに対するレスです。

>>しのぶ様
>>シャーペンのノック音3つ、ありがとうございます。
>>スカイローズガーデンでの成瀬の行動は杉下のため行動ですよ。
>>西崎の意向を汲み取ったわけでは有りません。
>>西崎案で無いと杉下を嫌疑から除外することができない。
>>だから西崎案にのりその補強をした。
>>成瀬は事実は知らないけれど、真実は理解していたと思います。
>>この時点で成瀬は西崎の望み通りに西崎を切った、というのが私の見解です。

成瀬は真実を理解していた、という下りは、オフィシャルサイトでその根拠を明かすことはしませんでしたが、実際にどこまで認識可能かは思考実験で確認済みでした。

私がそもそも成瀬が事件の真相を完全に理解し得たはず、と気づいたきっかけはさざなみ放火事件のとスカイローズガーデン殺人事件事件の構造分析の結果でした。

分析内容の詳細は先の投稿『対称性・対称性 さざなみ放火事件とスカイローズガーデン殺人事件 その二』に譲りますが、ここで重要なのは杉下が勘違いから会っていない成瀬と会っていた、と偽証したのに対して、成瀬は掛かっていた鍵を掛かっていなかった、と偽証した事。

これは先の投稿で主張したことですが、二つの事件では同一ポジションのキャラクターの、行動、意図、結果などが必ず逆転している、という事に気付いたんです。そうであるなら、杉下が〝勘違いの結果として無かった事をあったと証言〟しているからには、成瀬は〝真実の理解の結果としてあった事を無かったと証言〟しているはず、という事に気付いたんです。

2015年5月16日土曜日

成瀬はなぜデザートの構成に気を回したのか?に答えを与える事が出来ません

成瀬は出張サービス時のメニューの構成で、デザートはこれで良いのか?とオーナーシェフに確認しました。
その結果、女性だと思っていた安藤望が男性で、更にはサプライズで杉下へプロポーズするつもりである、という事を知り愕然としてしまう。

視聴者側からすると、ついに成瀬の前にライバルが実態を持って現れたことになった訳ですが、これ、よく考えると描写として変なんですよね。

何が変かというと、成瀬は食事会が成立しない、結果としてキャンセルになるであろう事を知っているのに、提供されないデザートの構成に自らの疑問を呈したんです。女性三人男一人でデザートの構成として、これでいいのか?と。

単に成瀬が仕事熱心、と取ればスルーしてもいいのですが、ここまで構造を作り込んだドラマでその理由は通らない。

杉下、西崎との打ち合わせでは、成瀬は西崎と一緒に野口宅へ入り、書斎で杉下が野口を引き止めている間に一人で待つ奈央子を西崎が連れ出す。後は杉下と成瀬が野口をなんとかする、といった計画でした。会についてはどうするのか、という杉下の疑問に成瀬自身が、トラブル発生で処理する、と説明しています。

提供されないはずのデザートの構成とを自らの気にとめる、という事は成瀬は当初のシナリオとは別の、料理が提供される事を前提としたしなりを検討していたのではないか?
そんな気がしています。
ただ、もしそのようなアイデアがあったとしても、安藤が男で且つ杉下にプロポーズするつもりとの新しい状況が生じた中でそのアイデアは実現するはずも無く、日の目を見ることはない。であるなら、そもそもなぜこんな描写を制作側が入れたのか?それが解せないんです。

15年5月19日 追記
改めてここのシーンを確認しました。
まずオーナーシェフがデザートの変更を成瀬に伝え、メモを成瀬に渡します。
そのメモを見て、そのデザートの構成に成瀬が違和感を抱いた、というながれになっていたので、真面目に仕事をする人間であれば、不思議のない反応でした。私がこの投稿で提示した疑問は勘違いでしたね。

成瀬は作戦終了後、杉下との関係をどうしようとしていたのか

成瀬はN作戦2の実行前、〝大事な人が〜〟メールの時点で杉下の中に西崎がいることを知っていました。それでも敢えて西崎に協力する事にした。それは杉下がこの作戦に関わっているから。
彼女のおかげで今の自分がある、という思いからです。

では成瀬は作戦が終わった後、杉下をどうしようとしていたのでしょうか?

西崎は杉下の気持ちを知りません。ですから西崎と杉下が恋人関係になることはない。
杉下が西崎に気持ちを伝えるかというと、それも成瀬としては想像しがたいと思います。
おそらく杉下は西崎には自身の気持ちは打ち明けない。
成瀬にしてみれば、杉下の究極の愛の定義を知らないから、杉下がこの作戦で西崎への気持ちにケリをつけるつもりである、という事も予想だに出来ない。

そうすると、成瀬側から見ると、作戦終了後は、杉下ー西崎の関係は基本的に変化無し。また杉下ー成瀬間も杉下側からの働きかけはない、と予想する事になります。

つまり、後の不確定要素は自分の行動というと事になる。

成瀬の性格も勘案して考えると、
1.杉下に自分の気持ちを伝えて、杉下の選択に委ねる
2.何も言わず、島時代の友人という距離を保つ

このどちらかでしょう。
グイグイと押しの一手、というのは成瀬の性格的には無いと思う。

で、どちらが答えなのかは現段階では分からない。もう一つ状況が進んだ時の成瀬を見る必要がある。

それは、安藤望が男で、杉下にプロポーズする予定である、ということを知った時の成瀬の反応です。この時、成瀬は相当動揺していました。成瀬は何に動揺したのか?

杉下の気持ちが西崎にある、と成瀬は分かっています。しかしプロポーズするにたる相応の関係が杉下と安藤の間に存在した、という事を成瀬は理解した。
杉下は〝安藤は作戦の事は知らない〟といっています。安藤を作戦に係わらせたくない、という意思表示です。この状況下で成瀬としては、杉下が安藤のプロポーズを断ると断言出来る材料は有りません。
成瀬は杉下の事が好きです。杉下の成就しない気持ちを慮って、作戦に協力した。しかし安藤という新たな状況に対しては別です。少なくとも、成瀬にも安藤と同じ土俵に乗るだけの資格はある。
そうすると、成瀬としては安藤と同じ立ち位置を得る行動を取る必要が生じた、その必要性が生じた事がこの時の動揺なのだと思います。
最初から杉下へ気持ちを打ち明けるぜんていであるなら、それはすでに西崎と自分との選択を杉下に任せる事を覚悟している事になりますから、自分が選ばれないという可能性も十分入っている事になります。そこに安藤が入ってきても、ここまでの動揺にはならないと思います。

そうすると、逆説的に、この安藤が男であるとわかるまえ、杉下に計画への協力を申し出た段階での成瀬の考えは、〝何も言わず、島時代の友人という距離を保つ〟だったと推定出来ます。



N作戦2における杉下の魂胆

杉下が成瀬に抱えたトラウマの心理機構としての『究極の愛』は、ゴンドラの一件以降どうなったのでしょうか?

成瀬に対するトラウマ自体は解消されたのですが、この心理機構はしぶとく生き続け、それが向かう先を求め続けていたんです。
そして行き着いた先が、西崎だった。

投稿『杉下は西崎に何を観ていたのか』で検討した通り、杉下は西崎に心理的に寄り添っていました。それが成瀬が計画に協力する表明をした事と自身が成瀬へのトラウマが解消した事で一気にその心理機構が西崎に対する感情と結びついてしまったのです。
しかし一方で成瀬のトラウマを解消できた杉下には、この西崎に対する感情が何処か歪んでいる、という事も理解出来ていた筈です。西崎が成瀬を説得する際に話した〝歪んだ場所にいると歪んでいることにさえ気付かない〟の発言に反応していました。成瀬のトラウマが解消されたからこそ、その歪みに気づいたのです。

では成瀬に対してはどうだったのか。
成瀬に対しては、トラウマ形成前の、苦しいながらも共に野望を語り合った頃の感情の復活です。
成瀬との再開し、成瀬と過ごした楽しかった日々を思い出し、その頃と変わらぬ成瀬が愛おしくてたまらない。吊り橋を渡ると言ってくれた成瀬の当時と変わらぬ自分への気持ちも解った。
何としても再び成瀬とに関係を再開させる為、成瀬に自分の気持ちを猛アピールし、計画成功後に再び成瀬を自室に招く為に部屋を見回した。

 つまり、N作戦2に挑む際の杉下の魂胆はこうです。

西崎の奈央子救出(=人妻略奪という罪)に協力(=罪の共有)し、且つ自身の西崎に対する感情は、西崎が〝杉下の究極の愛の相手〟と思っている成瀬と自分の共同作業でカモフラージュ(相手にも知られず)した上で、作戦終了後には本気で成瀬と関係を再開させる(=西崎から黙って身を引く)

2015年5月15日金曜日

ゴンドラで杉下が解放されたもの

安藤にサプライズで乗せてもらったゴンドラで杉下は価値観の変化が発生し、トラウマから解放されました。

「世界は広いんだな、とわかったら冷蔵庫の隙間ぐらいどうって事ない」と冷蔵庫へのトラウマが解消されました。そして野ばら荘の大家から「辛いことは忘れる事」と諭され、涙します。
この、「辛いことは忘れる事」に実は成瀬に会いたくても会えない、会ってはいけないという感情に伴う辛さも含まれる。これ以降、事件までの期間杉下はチケットを手にしていません。この感情(成瀬に対するトラウマ)が払拭された事により、後にN作戦2の際に成瀬に感じた感情の戸惑いが発生する事になったんです。

この時の価値観の変化は、他にも影響を与えています。
杉下は世界を「広い」と感じ且つそれが自分の足元とつながっている、と認識しました。
それまで杉下の世界観は、『上に行く』と言っていた通り、階層構造である意味一次元的なものだったのですが、広さとして認識された時自らのいる世界が二次元として認識出来たのだと思われます。
で、この認識に至った際、杉下はたじろいたんです。「怖くない?」と安藤に聴いている。そして更には、自分の限界に気づいた。自分が怖いと感じた世界に挑もうとする安藤に後に「日本じゃ勝ち目はない」と言っています。

人は世界が広いと認識できた時、そしてその広い世界の中で自分という存在がちっぽけなものであると気づいた時に、自分の根っこ、アイデンティティー、本質を再認識します。

ですから、これ以降スカイローズガーデン殺人事件までの期間は、杉下のかなり素が出ている期間です。



2015年5月14日木曜日

西崎の「罪って、どんな罪だ」に対する杉下の戸惑いの表情

杉下が成瀬の協力申し出に西崎の予定を確認したシーンで、成瀬が究極の愛の相手なんだろう、と西崎に勘付かれ、「罪ってどんな罪だ」と聞かれ、杉下は「それは言えない」と返しています。
この時、杉下の表情は固く、梯子を下りた後に成瀬のメールを見つめる表情も、どこか戸惑っている様でした。
明らかに結婚式や、その前の最初に成瀬が野ばら荘を訪れた際に見せた表情と異なります。
杉下はこの時、何をかんがえていたのでしょうか?

一つの可能性は、成瀬の気持ちがもしかして自分には無いのかも、という事を心配した事。
成瀬が『大事な人が…』の下を、自分以外の人だ、と取ったという説。オフィシャルサイトでも、この説を取っている論も有りましたが、これは先の投稿『杉下が成瀬の『気持ちはわかる』にどのような理由を観ていたのか』で否定されました。

二つ目の可能性はオフィシャルサイトでA様がその可能性に触れているのですが、杉下が実は放火の犯人では無いかもしれない、という事に気付いた為に、西崎が問うた罪の共有関係に自信が持てなかった、という説。
 確かにこのシーンだけ取れば論として成立しうるのですが、十年後成瀬がさざなみ放火事件で自分は犯人でない、杉下に伝えた時、杉下に落胆が起きるはずですが、杉下が見せたのは落胆では無く安堵でした。ですのでこれも違う。

そして最後に残る可能性は、一つ前の投稿『杉下の『究極の愛』の本当の意味』で検討した、成瀬に会ってはいけない、という心理的抑圧機構としての『究極の愛』に関する事。
杉下は成瀬が自身が定義する究極の愛の相手である事を自覚もしているし、西崎に否定もしていません。しかし島での再会以降、成瀬に〝会ってはいけない〟という心理作用が働いている様子は見られない。しきりに成瀬への接近を試みている。
私は究極の愛の定義で、罪の共有以上に、黙って身を引く、という部分に注目して物語を追っています。杉下のN=西崎説も、この〝黙って身引く〟部分に着目したが故のものです。罪の共有はしきりに出てきますが共有と共に究極の愛の定義上並び立つ〝黙って身を引く〟部分が意図的に触れられていないように見える。
ですので、私はこのシーンにおける杉下の戸惑いとは、以下だと判断しました。つまり、成瀬の気持ちが自分にあると判り、且つ自身の成瀬に対する恋愛感情をを自覚しているにも関わらず、究極の愛の相手である成瀬に対して、〝会ってはならない〟という心理作用が自分に湧かない事に対する杉下の戸惑い、です。成瀬のメールを見た事によって、自身の心理変化に気がつき、それに戸惑ったという事です。




2015年5月11日月曜日

杉下の『究極の愛』の本当の意味

杉下が自ら定義する究極の愛

〝罪の共有…共犯じゃなくて共有。誰にも知られずに相手の罪を自分が半分引き受けること…誰にもってのはもちろん相手にも…罪を引き受け、黙って身を引く〟

この定義は成瀬との関係性において形成されたものです。
さざなみ放火事件で成瀬が放火したと勘違いした杉下が、成瀬を守りたい一心で捜査機関に対して成瀬と一緒にいた、という嘘のアリバイ工作をし、且つ自分が成瀬との関係性において嘘を付くような間柄ではない、という演出をする為に成瀬との接触さえ断つ、という行為の経験から来ています。

杉下にとっての究極の愛とはなんだったのでしょうか。
オフィシャルサイトで注目すべきコメントが幾つか有りました。

桜さんのコメント
>>自分中に在る成瀬くんへの想いに、希美ちゃん自身が名付けた言葉が「究極の愛」

tomatotoさんのコメント
>>成瀬くんへの想いを昇華するため、黙って身を引くこと、罪の共有が究極の愛だと希美は自分に思い込ませた。

桜さんの成瀬への思いに対する命名という説に全く同感。tomatotoさんの杉下の心理作用を含めた説明にも、唸るものがあります。

このお二人のコメントを参考に、私なりの解釈を加えさせていただくと、こうなります。

『成瀬に会いたい、一緒にいたいという自身の気持を抑圧する方便、心理機構に杉下自身が命名したもの』が「究極の愛」

だととっています。

つまり成瀬が好きで会いたい、一緒にいたいにも関わらず、接触する事が成瀬の利益にならない。会えない、会ってはならない、というネガティヴな表現では杉下自身の気持ちが持たなくなる。よって積極的な表現が必要とされ、さも自らの意志としてそうしているんだ、という変換が必要だった為に杉下が無意識に生み出した心理上の防御機構だった、という解釈です。

少し前の投稿『杉下は西崎に何を観ていたのか』の中で、〝火で杉下を解放してくれた成瀬に心が縛り付けられる事となった〟と書いた理由は、ここにあります。

安藤がいみじくも『灼熱バード』の感想を求められた際、〝究極の愛、って言っている時点でヤバいでしょ〟と言っている通り、その西崎の問に答える杉下は、やはり無意識に成瀬に対するトラウマを抱えていたと取るのが正しいと思います。





2015年5月6日水曜日

杉下が成瀬の『気持ちはわかる』にどのような理由を観ていたのか

杉下は成瀬のメールにしきりに考え込んでいました。

『大事な人がひどい目にあってて、いてもたってもいられない気持ちはわかる。だから協力する』

これを杉下はどう取っていたのでしょう。

公式サイトのメッセージでも、ここの解釈については定まった見方は出来ていませんでした。

このメールは直接的には以下の意味に成ります。原文に補足します。

『(西崎にとって)大事な人(=奈央子)がひどい目にあってて、(西崎が)いてもたってもいられない気持ちは(成瀬が)わかる。だから(西崎に)協力する』

ここで問題にしたいのは〝なぜ(成瀬が)わかる〟と杉下が取ったか、です。
ここの視聴者側の取り方で、その後の杉下の行動理由の取り方が変わってきてしまうからです。

一つの見方は成瀬が自らの島での経験から、〝わかる〟と言っている、と取るケース。
それはつまり杉下を慮って、杉下が火を付けようとしたのを止めた上に、杉下が火を付けようとした心理さえ理解した上で、代理放火までしようとした成瀬の行動。さらには、勘違いですがさざなみに成瀬が火を付けたのも、この時の延長上にあると杉下は思っている。
この経験を指している、と杉下が取るケース。

二つ目は、成瀬にとって今現在杉下の他に大事な人がいて、もしその人がひどい目にあっているとすれば、成瀬も西崎と同じ気持ちに苛まれるだろう、という予測を成瀬が言っている、と取るケース。つまり成瀬の気持ちの誤解ですね。これは公式サイトのファンメッセージでも一部出ていた見解です。これは野口宅を出た後の橋の上での安藤との会話で、成瀬と『付き合ってない』と否定したり、安藤の気持ちを配慮した上での無人島で『一人は寂しい』という会話、及び杉下が心を開いている男の右側に立つ癖から安藤への気持ちを自ら意識し直した、という見解から出てくる解釈です。実はこの橋のシーンは、最初に成瀬が野ばら荘を訪れた際駅まで送ったシーンと対になってるんですね。この時も橋の上での会話で杉下は成瀬の左に立ってるんです。この立ち位置の対称がこの見解に一定の説得力を与えている。

あと一つ、ごく一般的な例として、という取り方は不可能ではありませんが、成瀬自身が一度断っているのを考え直しての申し入れであるので、これは考えなくともいいと思います。

私の見解は成瀬が自らの島での経験から、〝わかる〟と言っている、と取っている、というものです。
成瀬は杉下にしきりにメッセージを伝えています。
西崎の『崩れ落ちそうな橋』の質問に対する答え、『呼ばれれば渡る』。成瀬はかつて、杉下が追われた家を放火しようとした際、それを止め、代理放火までしようとしました。そして杉下はさざなみの火事も成瀬がその延長で行った放火だと思っている。そこへ改めて『呼ばれれば渡る』という成瀬の自分に対する気持ちを理解した筈です。
その前段が有っての『気持ちはわかる。だから協力する』メールですから、杉下には成瀬が『分かる』理由も上記の放火事件を踏まえている事も理解できますし、その上で成瀬が協力を申し出るのも、表面上は西崎への協力表明ですが、実際は自分が関与しているからであり、杉下への協力である、という事も理解出来るのです。







2015年5月4日月曜日

成瀬が『N作戦2』に協力することにした理由

成瀬は、西崎から聴いたのか『N作戦2』を一度断っておきながら、その後の協力を申し出ました。それは何故でしょう。

成瀬は西崎の協力要請を、「料理を楽しんでもらう為であって、人助けには協力出来ない」と断りを入れています。この時、成瀬は「人妻略奪ですよね」と西崎に言っている。此処がポイントです。
その後帰り道で成瀬は杉下へ「もう少し考えてみる」と告げています。

で、成瀬は何を考えたのか?

以下は成瀬のモノローグとして

杉下は西崎の意向を知っている。出来れば協力したいと考えているようだ。そうでなければ自分が野口の贔屓先であるレストランでケータリングを行っていることを杉下が西崎に話す事はない。
杉下自身は自分を巻き込みたくないようだが。
何故杉下は西崎に協力する?西崎がやろうとしているのは、人妻略奪だぞ。杉下は父親が愛人を連れ込んだ事で島で随分と苦労したんだ。こんな事、杉下の貞操感に触れる行為だ。ただの友人関係では杉下はこんなことに協力出来ないはずだ。
西崎は奈央子を愛している。杉下もそれを了解している。二人は恋人関係ではない。なら何故?
杉下の片思いか!杉下は西崎を愛してるんだ!でもそれを西崎は知らない。

俺はどうする?

西崎の気持ちはよく分かる。
俺は杉下がギリギリで、かつての自宅に火をつけようとした時、杉下を助けたいと思った。

俺は西崎に義理はない。だがその西崎のために杉下は行動しようとしている。なんの見返りもないのに。俺は杉下のお陰で今こうやっている。ならその杉下を助けるのが、俺の役割なんじゃないか?

成瀬が杉下に『杉下の人生や、杉下の好きにしたらええ』と言った理由

スカイローズガーデンの事件から10年後、成瀬が杉下にプロポーズしたシーン。
成瀬は最後、杉下へこう伝えています。

『杉下の人生や、杉下の思うようにしたらええ。でも、待っとるよ』

これ、最初見た時違和感があったんですよね。成瀬は西崎から杉下を助けてやってくれ、と連絡を受けて杉下の所へやってきた。そうであれば杉下を説得しないといけないと思うのですが、これは説得じゃ無いんです。

もう一つ、違和感のは理由が有ります。
成瀬は過去二度杉下を救っています。
一つ目は杉下が追い出された自宅に火をつけようとした時。成瀬は有無を言わさず燃料を杉下から取り上げています。
二つ目はスカイローズガーデンで成瀬が、『全部偶然だって言えばいい』と西崎案に乗ることで杉下を事件の嫌疑対象から除外しようとした時。この時も成瀬は杉下に有無を言わせていません。
その二回とも成瀬は杉下の意向を確認するような事はしていない。強引に杉下をその危機から引き剥がしています。

だけど、この3回目だけは違うんです。
過去と異なり事件から救う訳ではない。その差とも言えなくもないのですが、ですが成瀬にしてみればある意味過去2回より更に切迫している、と言っていい。杉下の命に関わる事ですから。
それなのに強引さは見せず、まして説得もしない。

それは何故かと考えた時、やはり事が命に関わる事だからなのでしょう。命、生き方に関わることであるからこそ選択は杉下に委ねたんだろうと思います。

で、ここで問題にしたいのは、成瀬が杉下は自分を選ばないかもしれない、という可能性を前提に話している、という事です。

杉下が成瀬の元に戻れないと成瀬が考えうる理由を考えてみます。
一つはさざなみ放火事件。杉下が成瀬から離れた理由ですが、これは成瀬が事件は解決した、と事前に明らかにされていますので、これはクリアされています。
二つ目は、杉下の上昇志向。島へ帰る事は杉下がその上昇志向を諦める事を意味します。ですがこれも杉下自身が『食べる物があって、帰れる家があって、それを誰にも取られなければそれでいい』と言っていますから、これもクリアされています。
三つ目は杉下が病気である事。杉下は成瀬に西崎から聴いたのかを成瀬に確認しています。成瀬はそれには答えていませんが、その後の会話で、それを知っている上で成瀬がプロポーズしている事は杉下も了解している。だから成瀬から『杉下の人生や』という発言をする理由にはならない。
そして最後に残るのが成瀬から見た時、杉下の中に自分以外の誰かがいる事を分かっている場合。この時のみ、成瀬は『杉下の人生や』と言い得るんです。

つまり成瀬は、杉下の心の中に自分以外の人間がいる事を理解した上で、杉下の選択を待つ、と杉下に伝えたわけです。