2024年1月31日水曜日

ドラマ:西崎の『すべてはNのために。俺たちがやったことはそういう事だ』の『俺たち』に安藤は含まれるか?

出典:https://www.tbs.co.jp/

西崎が弁護士への証言として語った言葉です。1話現代編で出所直後の西崎に、高野が提示しています。高野は西崎に『Nって何ですか』と問うています。

西崎にとってのNは奈央子です。高野に対してそれを隠していません。

西崎からみて、杉下のNは成瀬です。(参照:Nのために 論考: ドラマ:スカイローズガーデンを読み解く入り口 (ronkouforn.blogspot.com)

そして西崎からみて、成瀬のNは杉下です。彼は杉下を通してのみ、この事件、およびその関係者と接点を持つからです。

3人は作戦の共同計画者であり、また事件の処理方針について謀議をはかった関係です。ですから、西崎、杉下、成瀬は彼のいう『俺たち』に含まれると考えられます。

では、安藤はその中に含まれるのでしょうか?

西崎に安藤の偽証意図、安藤のN=杉下を推測可能か?

安藤のNは杉下です。(参照:Nのために 論考: ドラマ:なぜ安藤は自身のNを杉下と言えるのか? (ronkouforn.blogspot.com)

しかし西崎が安藤の偽証意図をどう見ていたのか?はそれとは別の問題です。

出典:https://www.tbs.co.jp/

西崎は9話で野口宅に入ってきた安藤に向かって、開口一番「逃げられなかった」と告げています。これは安藤がドアチェーンを掛けた事が原因で野口夫妻が死亡に至った事を彼に判らせる為の発言と言えます。そしてこの行為の真の目的は、3人の謀議内容を覆し得る存在である安藤に口を噤ませる事にあったと考えられます。

一般的に事件の遠因を造った人間は、自分がその事件とは無関係であろうとします。その場合自身の行動のうち、遠因となったものを隠蔽しがちです。この時は安藤がドアチェーンを掛けた事であり、ドアチェーンを掛けるにいたった経験や情報です。西崎から見たとき、安藤がドアチェーンを掛けた事のみを隠蔽し、その他の情報を警察に偽証するのであれば、西崎は安藤がドアチェーンを掛けた事を警察に証言する腹積もりだったでしょう。そうすれば安藤も無傷ではいられない。つまり西崎から見たとき、安藤はあくまで取引相手としか見えないのです。

西崎から見て安藤のN=杉下として理解するに至る条件は、安藤が事件は奈央子による心中であると理解している点について気づく事ですが、安藤がその認識に至っていた、と西崎が認識する事は到底困難でしょう。

西崎の『俺たち』には安藤は含まれない

西崎からみて、安藤の偽証意図は西崎との取引による自己保身以上のものには見えません。出所後西崎を訪ねてきた安藤への塩対応と併せて考えると、西崎の『俺たち』には安藤は含まれていない、と言えます。

2024年1月27日土曜日

ドラマ:安藤から見た、それぞれのN

2話現代編で安藤は高野にこのように答えています。

「あの時あの場所にいた全員に大切なNがいました」

安藤は自身のNを杉下と答えていますが、安藤からみて、他の3人についてもそれぞれにNがいた事を認識できている、という事になります。それでは安藤からみて、それぞれのNは誰だったのでしょうか?

安藤は情報源が限られる

安藤の場合、作戦についてもその情報は断片的で野口宅内での情報交換もほとんどありません。相互のやり取りもや事の推移についても情報がないため、状況証拠から類推するしかありません。恐らくその類推は現場での判断とはならず、後の証言段階や報道で得られる間接情報を含めた判断なのではないかと考えられます。

3人の事件の処理方針は判る

Nのために 論考: ドラマ:なぜ安藤は自身のNを杉下と言えるのか? (ronkouforn.blogspot.com)で指摘した通り、安藤には野口夫妻の死亡は奈央子による心中である事は判っています。しかし、他の3人が事件をどう処理しようとしているのかの情報は彼らから得られませんでした。

警察が野口宅に入ってきた際、西崎が自分が野口を殺した、との証言を警察に行っていますが、その場所は廊下状の箇所であり、その証言は安藤には聞こえていないでしょう。

一つの情報としては警察への証言時の反応です。安藤は慎重に計画性に繋がりかねない情報を証言から除外しています。自身が除外した部分について警察が安藤に聴かなかったとすると、3人の処理方針も計画性の否定、隠蔽である点は判るでしょう。

その他の情報源としては、報道と考えられます。ドラマ内でもテレビ報道の場面がありました。そこでは奈央子を刺した野口を西崎が殺害したと報じられています。

この二つの反応から安藤には3人の事件処理方針は「奈央子救出の西崎単独計画・実行」であり「西崎による野口殺害」であった事が理解できるはずです。

なお、杉下は情報源としては使えません。彼女は安藤の来訪を拒絶しています。(参照:Nのために 論考: ドラマ:スカイローズガーデンの深読み (ronkouforn.blogspot.com)

安藤は西崎・杉下・成瀬の供述内容を知らない

出典:https://www.tbs.co.jp/

安藤は自身の証言について警察からの追求は有りませんでした。その結果から3人の事件処理方針は理解しえましたが、それ以上に3人の供述内容を調べる、確認するといった行動はとっていません。

ドラマ内で4人の証言シーンが描かれます。4話で高野が事件の担当弁護士の元を訪れ供述調書を読むシーンから杉下の証言シーンへとつながっている。つまり4人の証言シーンは供述調書の記載の再構成と言えるわけです。

一方で西崎が担当弁護士へ話した証言を高野は西崎に問うています。『すべてはNのために。俺たちがやったことはそういう事だ』。同じ内容を高野は安藤に対しても問うていますが安藤は『何ですか、Nって』と反応しています。つまりこの西崎の弁護士への証言を彼は知らない、という事です。

これらの記録は、状況的に弁護士事務所に弁護記録として一つ綴りのファイルで管理されているものであるはずです。そして安藤は西崎の弁護士への証言を知らなかった。つまり安藤は一連で綴られているであろう証言記録も目を通しているとは考えられず、彼は他の3人の供述内容はしらない、という推測ができるのです。

安藤には西崎のNは奈央子に見える

安藤は野口夫妻の死は奈央子による心中であった事が解っています。野口を殺害したのは奈央子です。しかし事件は「野口による奈央子殺傷、西崎による野口殺害」として処理されてゆきます。そうすると安藤には西崎は野口殺害犯である奈央子を庇い、自身が犯人となったと見えます。

安藤に杉下、成瀬のNは判断可能なのか?

安藤が成瀬について知っている情報を列挙します。

  • 杉下の同級生が作戦に参加している(10話、東京編)
  • 杉下の同級生は杉下の『罪の共有』、『究極の愛』の相手(10話、東京編)
  • 杉下の同級生はシャルティ・広田で働いている(8話、東京編)
  • 食事会の日(12/24)に空きが出たのを教えてくれたのは杉下の同級生(8話、東京編)
  • 杉下はその同級生とは「付き合ってない」(8話、東京編)
  • 西崎、杉下、杉下の同級生は杉下の部屋で一緒に食事をしていた(8話、東京編)
  • 友人の結婚式で島に帰った際、西崎から”再会したい相手がいる”のでは?とけしかけられる(7話、東京編)
  • 杉下の『究極の愛』とは『罪の共有。誰にも知られずに相手の罪を半分引き受ける。相手にも知られずに黙って身を引く』である事を知っている(6話、東京編)
  • 杉下は“今いる処よりもっと高い処へ行く”事を同級生と約束している(4話、東京編)
  • 杉下は街中で見かけた同級生を追いかけ、同意した安藤との食事をドタキャンした(4話、東京編)
  • 杉下の子供じみた野望を『真面目に聞いてくれた』のは同級生(3話、東京編)

成瀬のNは杉下以外にない

安藤には成瀬のNは杉下以外に設定する事は出来ないでしょう。何故なら成瀬には杉下以外に事件の関係者との接点がないからです。また、杉下の中にかねてよりかなりな重みを持って存在している同級生=成瀬がいた事を認識しており、二人の間には相応の関係性が推測できます。そう考えるとやはり安藤には成瀬のNは杉下以外に設定のしようがない、といって良いでしょう。

安藤から見て杉下のNは自分ではない

安藤は高野から『杉下さんのNはだれだったのか』と聴かれた際、「答えなければなりませんか」と返しています。その声、表情には苛立ちが見えます。彼は杉下のNを答えたくないのです。

安藤は事件当日、杉下にプロポーズするつもりでした。その事を高野にも話しています。しかし一方で彼は作戦が存在する事に気付いた時、杉下がもはや自身との関係性を終わらせる覚悟でいる事も理解しています。(参照:Nのために 論考: ドラマ:スカイローズガーデンの深読み (ronkouforn.blogspot.com)

一発逆転を狙ったドアチェーンでも結局杉下は安藤に助けを求める事はありませんでした。(参照:Nのために 論考: ドラマ:安藤がドアチェーンを掛けた理由 (ronkouforn.blogspot.com)

彼は杉下が究極の選択を求められた際には、自分は選択されないという事を思い知らされているのです。

これらの事から、杉下のNは自分ではない、と彼は考えていたはずです。ですから自身がプロポーズしようとしていた杉下のNについて、自分以外の名前を出す事は彼なりに逡巡・葛藤があるのでしょう。それは高野に対する反応として表れたと考えられます。

物語内において杉下の西崎に対する恋愛感情と思しきエピソードはない

杉下と西崎の間に、杉下が西崎に対して恋愛感情を抱いていると思われるエピソードは描かれていません。まして安藤が野ばら莊を退去する為、部屋を片付けている際の西崎との会話「杉下には落ち着いたら迎えに来る、と言っといて」という発言があります。つまり安藤からみて杉下と西崎との間は、そのようなものが存在しうる関係とは見なされていないのです。そうすると事件時における杉下のNを西崎とすることは安藤には不可能でしょう。

安藤からすると杉下のNは成瀬に見える

結局安藤から見たとき、消去法で杉下のNは成瀬に見える事になります。成瀬が杉下の心の中に以前から存在している事は早くから安藤も判っていました。また、西崎から杉下の『罪の共有』の定義を聴いていた事、二人が長らく接触がなかったことから、恐らく成瀬がなにがしかの事件を起し、杉下が偽証する事でその事件が未解決であるであろうと予想出来ます。スカイローズガーデンの事件に関する3人の処理方針が、計画の隠蔽=計画の否定=3人が現場でそろったのは偶然、とすることは、成瀬と杉下が抱える未解決の事件との関連性を発生させない為にも有効であろう、との推測も可能です。そうすると杉下には成瀬を庇うための動機が見出せます。やはり安藤からは杉下のNは成瀬に見えるのです。

2024年1月23日火曜日

ドラマ:安藤がドアチェーンを掛けた理由

よく、安藤がドアチェーンを掛けた理由が判らない、といった意見を放映当時みました。ですが、安藤は安藤なりに切羽詰まった状況下での行動だったのです。

安藤は既にプロポーズの機会を奪われた

出典:https://www.tbs.co.jp/

6話現代編において、プロポーズする前に「あの日、西崎さんはあの部屋から奈央子さんを連れ出そうとしていたんじゃないの?」と問うています。安藤は事件の時点で3人による奈央子救出作戦が動き出している事、もうそれを止めることが出来ない状況である事を判っていたのです。

安藤は事件当日に「結婚してくれって言うつもりだった」のですが、作戦が成功するにせよ、失敗するにせよ、もはや食事会は開かれません。彼は杉下へのプロポーズの機会を既に失っている状況でした。

安藤と杉下はもはやこれまでの関係を続けることは出来ない

Nのために 論考: ドラマ:スカイローズガーデンの深読み (ronkouforn.blogspot.com) でも指摘した事項です。西崎、杉下はこの作戦に当たって安藤との関係が終了する事を覚悟しての行動です。その事は安藤にも分かります。安藤は奈央子を強引に連れ出す、という行動に関しては野口側の立場にならざるを得ない立場であり、また西崎、杉下にもそのように判断されたからこそ、彼には作戦が隠蔽されたのであり、安藤との関係より奈央子の強引な連れ出しが優先されたからこその作戦実行である事が解るのです。

そうすると、安藤には作戦の成否にかかわらず杉下は安藤とこの後以前と同様の関係を継続する意思がない事は明らかであり、もはやプロポーズする機会は訪れないのです。

安藤がドアチェーンを掛けたのは『起死回生を狙った勝負手』

出典:http://bmbb.jp/

安藤がこの時おかれた杉下との関係に関する状況は、将棋でいえば『詰めろ』が掛かった状態です。将棋における『詰めろ』とは『次に何もしなければ詰ませられる状態』を言います。安藤としては普通の対応ではもはや勝ち目がない状況です。そこで安藤は『起死回生を狙った勝負手』を出す必要が生じました。それがドアチェーンを掛ける事だったのです。

将棋の勝負手とは『形勢の悪い側が相手の混乱を誘う事で逆転を狙うギャンブル的な手』です。

つまり、奈央子を連れ出そうとしている西崎、及びその作戦への参加者である杉下を野口宅から出る事が出来ない状況を作る事で、野口との間に緊張状態を作り出す。その状態の解消のため、もし杉下が自分を頼ろうとするならば、関係を継続できる可能性が生じ、どこかでプロポーズが出来るかもしれない。安藤はその可能性に掛けたのです。

しかし勝負手とはギャンブルでもあります。そのギャンブルの結果が安藤も予想しなかった野口夫妻の死亡という結果になったのでした。

2024年1月22日月曜日

ドラマ:なぜ安藤は自身のNを杉下と言えるのか?

2話で安藤は高野に対して『自分のNは杉下希美』であったと答えています。しかしスカイローズガーデンのあらましを見る限り、彼のNは自分ではないのか?と見えます。警察に対する証言で自身が鍵を掛けた事に口を噤んているからです。

安藤の警察への証言

出典:https://www.tbs.co.jp/

6話での安藤の警察への証言全文を示します。

「安藤望。三羽商事営業部に勤務しています。」
「6時に伺いう約束でしたが、早めに到着したので野口さんに電話しました。」
「少し仕事の話がしたいと言われて、最上階のラウンジで待っていました。」
「6時になっても野口さんは現れませんでした。」
「自宅のインターフォンを押すと答えたのは杉下でした。」
「中に入らないでくれと強く言われましたが、様子がおかしかったので、中に入りました。」
「野口さんと奈央子さんが倒れていて、その場には西崎さんと杉下の同級生が居ました。」
「その後すぐに警察や救急の人が入ってきたので、何があったのか、僕は誰からも何も聴いていません。」

安藤が警察に隠したこと

安藤は警察に対して、自身が見聞きした事の内、いくつかの事を隠しています。

  • エレベーターで西崎と鉢合わせしたと
  • 自身がドアチェーンを掛けた事
  • 室内で西崎から「逃げられなかった」と事件の一端を告げられた事
  • 西崎・杉下・成瀬が事前に会っていた事

安藤には事件の真相はどう見えていたのか

確かに安藤は事件の内容についてほぼ何も聴かされてはいませんが、安藤にもいくつか解っている事があります。

ドアチェーンを開けたのは成瀬

安藤は杉下と西崎が室内にいる段階でドアチェーンを掛けました。再度彼が野口宅にやってきた時は既にドアチェーンは空いていました。ドアチェーンを掛ける前には部屋にいなかったはずの成瀬が室内にいたことから、成瀬がドアチェーンを開けて部屋に入った事が解ります。

成瀬は殺害に関与していない

西崎は入室した安藤に「逃げられなかった」と伝えています。殺害となったのはドアチェーンが閉まっていた事で逃げる事が出来なかったから、という意味です。つなり事はドアチェーンが掛かっている間に起きた事が解ります。そうするとドアチェーンを開けて後から入室した成瀬は殺害には関与していない事が解ります。

西崎・杉下は奈央子を殺害しない

安藤と西崎が事件前エレベータで鉢合わせしました(10話)。その際安藤は3人による何がしかの計画の存在に気付いています。一方で安藤は奈央子に不倫の噂がある事、奈央子が監禁状態であり精神的にも不安定である事を知っています。何がしかの計画があるとしたらそれは奈央子の状況を改善する為のものである事が推測されます。実際、6話現代編において杉下にプロポーズする前に、彼は杉下に『奈央子さんを連れ出そうとしていたんじゃないの?』と事件の真相を聴こうとしていました。そうすると、西崎と杉下は奈央子を殺害する事はないであろう事が解ります。

西崎は野口を殺せない

安藤が見たのは、腹部を刺された奈央子。頭部から血を流し、包丁を持つ野口。血の付いた燭台です。状況的には野口は燭台で頭部を殴打された事が解ります。
併せて彼は部屋に入る際にテーブル上にローソクが灯された燭台が存在する事も見ています。西崎は炎を極度に恐れていました。彼はここから西崎が燭台で野口を殴打出来ないと見ました。この見解を5話で彼は野口に話しています。また9話で西崎本人にも話をしています。

杉下は野口を殺していない

では安藤は杉下による野口殺害を疑っていたのでしょうか。実は彼は杉下は野口殺害には関与していない事が解っているのです。

野口夫妻が共に亡くなる順として、可能性は以下の通りとなります。

  • 野口が奈央子殺傷⇒杉下が野口殴打
  • 奈央子が野口殴打⇒奈央子自殺

出典:https://www.tbs.co.jp/

ここで判断材料となるのは、杉下のカーディガンに付着していた多量の血痕です。安藤が入下した際に成瀬が地に染まったブランケットを持ってはいましたが、成瀬の着衣には血痕は見られません。そうすると状況的にそのブランケットは杉下から預かったモノと見る事が出来ます。つまり杉下はブランケットで介抱しようとしたことが解ります。

野口は後頭部を殴打されています。もし杉下が野口を殴打するなら、野口が奈央子を殺傷した直後でなければ彼の背後を取る事は困難だと思われます。そうすると彼女は野口殴打の後に介抱を行った事になるのですが、人が亡くなる程の殴打の後、その実行者が介抱を行えるか?と考えるとこれも困難と思われます。

そうすると杉下も野口を殴打していない事にます。安藤にはこの事件が野口夫妻の心中である事が解っていたのです。

安藤が口を噤んているのは杉下が彼のNであるから

彼が杉下の犯行を疑っていないのであれば、なぜ彼は警察に全てを話さないのでしょうか。杉下が無実であるなら、彼女が咎に問われる事は無いように見えます。これには安藤の杉下に対する感情、及び彼の性格と、状況に対して警察がどう反応するのかの両方を考える必要があります。

安藤は杉下にプロポーズをするつもりでいた

出典:https://www.tbs.co.jp/

これは6話現代編で杉下を呼び出した安藤が、杉下にスカイローズガーデン当日にプロポーズするつもりであった事を明かしています。その意味で安藤にとって杉下は自身のNど言いうるものでした。

杉下が犯人だと考えていたら安藤は全てを証言していた

安藤は6話で西崎による杉下の究極の愛/罪の共有に関する説明を『自己満足』と断じ、以下のように答えます。

安藤:「俺だったら黙ってないで一緒に警察に行ってやるよ。」
西崎:「刑務所に入る事になったら?」
安藤:「待つ。それで出来る限りのことをしてやる」

この安藤の発言から、安藤が杉下を野口夫妻殺害の犯人と判断していたら、彼は警察に全てを証言していたでしょう。彼は杉下が犯人でない、と判断しているからこそ口を噤む選択肢が発生するのです。

警察は計画故の心中事件とは考えない

この事件の本質は野口夫妻の心中です。しかし安藤を含む4人が野口宅に集まった状況の発生は安藤・杉下・成瀬の3人による計画です。

仮に全てを正直に警察に証言したとして、それが奈央子救出のための作戦故の野口夫妻の心中と主張したとしても警察は心中ではなく、作戦参加者による殺害を疑うでしょう。そうすると事件時宅内にいた杉下が犯人とされる可能性が発生します。安藤には杉下が殺害に関与していない事が明白であっても、彼が宅内にいない状況下での事であり、安藤には杉下を護れないのです。

この点において、安藤のN=杉下において、彼が事件について口を噤む事の理由が生じるのです。

ドアチェーンの証言は計画の開示に繋がる

彼が警察に対して口を噤んだ事項は何れも計画の存在・その可能性に繋がる事項です。自身がドアチェーンを掛けた事も、それが明るみになった場合、その動機を語る必要が出てきます。その動機には成瀬の存在が関わっています。そうすると何れにせよ3人の計画の存在の開示に繋がる為、安藤は自身がドアチェーンを掛けた事を隠蔽したのです。

2024年1月21日日曜日

ドラマ:スカイローズガーデンの深読み

謎解きの入り口の3つ(スカイローズガーデン、成瀬と西崎の会話、成瀬が電話した時の杉下の反応)からスカイローズガーデンの真相の一端を前項で示しました。そこでは深くは解説しなかった以下の諸点について、もう少し解説したいと思います。

  • 杉下のN=安藤のミスリードをさそう演出
  • 安藤が杉下の心に入り込めていない証拠
  • 安藤は許されざる者
  • 成瀬のN=杉下ではない

杉下のN=安藤のミスリードをさそう演出

ここではスカイローズガーデンに関する描写に絞って製作者がミスリードを誘う為の演出を解説したいと思います。

  • エンディングでの杉下のモノローグ(6話)
  • 杉下の安藤の僻地赴任に関する野口への懇願行動~エンディングでの杉下のモノローグ(9話)
  • 杉下の安藤入室阻止行動~成瀬へのドアチェーン隠蔽依頼(10話)
最後のドアチェーン隠蔽依頼については既に前項で触れましたので、ここではそれ以外の事項について下記ます

    エンディングでの杉下のモノローグ(6話)

    「残された時間をあなたを護るために使いたい。あなたがこれから幸せであるように。それが人生最後の私の願いだった」

    「それが人生最後の私の願いだった」の部分で野口宅のドアチェーンを掛ける安藤が描かれます。この見せ方で、さも彼女の『人生最後の願い』の対象である「あなた」が安藤であるかのように視聴者に見えます。

    出典:https://www.tbs.co.jp/
    さらに言えば、その前には安藤からプロポーズされ、その後高野を自宅に招いて自身の余命とスカイローズガーデンの事を高野に話し始めます。7話の冒頭でもそのシーンが続きます。彼女は野口と安藤との賭け将棋に関する話をし、現場の状況については10話で明かされる西崎・成瀬との謀議に沿った内容を話します。そしてその後安藤のプロポーズを断ったシーンが挿入され、自室で預かった指輪に杉下は涙しました。如何にも彼女のモノローグが安藤を庇う=杉下のNは安藤、という演出をしています。

    杉下の安藤の僻地赴任に関する野口への懇願~エンディングでの杉下のモノローグ(9話)

    出典:https://www.tbs.co.jp/

    安藤の僻地行きを杉下は土下座して翻意を促しますが、それが効果がないとわかると、「どうすればいい、どうすれば護れる」と思案します。その時作戦会議の際西崎が発案した『西崎が殴られることで警察沙汰にする』というアイデアを思い出します。

    この時の「どうすればいい、どうすれば護れる」の対象はどう考えても安藤です。

    その後にエンディングのモノローグとなります。

    「その時考えていたのは、大切な人の事だけだった。その人の未来が明るく幸せであるように。みんな一番大切な人の事だけを考えた」

    直前に安藤の僻地行きを翻意してもらうよう、野口に土下座して頼み込んでいた杉下が床から立ち上がりかけた部分から「その時考えていたのは…」が入ります。

    「大切な人の事だけだった」の部分で玄関での西崎と奈央子のシーンが入ります。

    「その人の未来が明るく」の部分でラウンジでの安藤の背中と顔が入ります。

    「幸せであるように」は車中の成瀬を捉えます。

    「みんな一番大切な人の事だけを考えた」は再び杉下に戻り、野口に奈央子救出作戦を暴露する杉下の口の動きとそれに驚き部屋を掛けだす野口、という流れです。

    安藤の僻地赴任を阻止しようとする行動の対象は安藤です。その為の作戦暴露の様子に被せたモノローグにおける『大切な人=その人』は安藤のようにみえます。

    杉下の安藤入室阻止行動~成瀬へのドアチェーン隠蔽依頼(10話)

    成瀬入室後、3人による謀議が成立した後に安藤が野口宅を訪ねます。この時入室しようとする安藤を杉下が「待って」と身を挺して止めようとします。その後に先に解説したように、成瀬にドアチェーンを隠蔽するよう依頼しています。

    この流れを一連で見ると、彼女の行動はやはり安藤を護るための行動であるように見えるのです。

    杉下には「内」の不都合を「外」に対して咄嗟に隠す癖がある

    高野に対して母親の様子を隠した(1話):

    東屋で成瀬と会話していた際に高野が訪ねた事に嘘を付いています。早苗は杉下にとっては母親であり、家庭「内」の不都合な状態(母親の精神状態)を「外」である警官の高野に対して隠すために嘘を付いています。前項で示しましたが、この時成瀬に高野に対する口留めをしています。この時の経験がスカイローズガーデンで成瀬が彼女の意図を読み違える原因になっています。 

    さざなみ炎上の偽証(2話):

    出典:https://www.tbs.co.jp/

    さざなみの炎上を成瀬による放火と誤解した杉下は、高野及び警察に対して咄嗟に『東屋に一緒にいた』という偽証をしました。彼女にとって、成瀬は『内』の存在であり、その彼の放火行動は彼女にとって『内の不都合』に相当するものです。

    このように彼女の癖は複数の箇所で確認できます。安藤の入室阻止行動は彼女の特徴から考えると、野口宅『内』の3人の不都合(=野口夫妻が亡くなった)を宅『外』から入ってきた安藤に対して隠そうとする行為と言えます。

    もう一つ、3つには成瀬との間に嘘(偽証内容)を共有しているという共通する特徴があります。この杉下の特徴から考えると、安藤の入室阻止行動を杉下のN=安藤の根拠とは出来ないのです。

    「その時考えていたのは、大切な人の事だけだった」の「その時」は安藤の僻地行き阻止行動の時ではない

    出典:https://blog.goo.ne.jp/

    このモノローグは過去形で話されています。後からの振り返りです。「その時」とは大きくはスカイローズガーデンの事件の時です。ではスカイローズガーデンの進展中で、「その時」とはどの場面であったのか?が問題になります。

    スカイローズガーデンで一番の問題は警察に対してどう証言するか?です。つまり西崎が偽装行動を取り始めた処から警察への証言まで、となります。モノローグは「みんな一番大切な人の事だけを考えた」と続きます。「その時」とは並行して四人(若しくは3人か)それぞれが同じ内容について同時並行的に進む時間です。そうすると野口に対する安藤の僻地行き阻止行動はあくまで杉下の個人的な行動であり、「みんな」が共有する同時的時間ではありません。

    そうすると、映像として表現される時間とモノローグが示す時間はずれている事となり、このシーンを根拠に杉下のN=安藤とする事は出来ません。

    「残された時間をあなたを護るために使いたい」の「あなた」は安藤ではない

    杉下は余命宣告を受けています。このモノローグは表現を変えれば彼女が『真実を墓場まで持って行く』という意思表明です。仮に「あなた」が安藤だとしても、安藤を攻撃する事が可能な人物である成瀬と西崎が杉下の死後も残ります。その意味では彼女が『真実を墓場まで持って行』っても、その後の安藤を護れる保証は、彼女の死では得られないのです。そして、既に指摘している事項ですが、少なくとも事件について刑事・司法においてスカイローズガーデンで安藤が対象となる事はないのです。

    一方さざなみ炎上に関しては未解決事件です。時効まで1年を切り、ほぼ杉下が受けた余命宣告期間と重なります。彼女がその存命中、頑張れば時効となります。モノローグの内容と状況を鑑みるとこの「あなた」は安藤ではなく成瀬が相応しい事となります。ですのでこのシーンも視聴者のミスリードを誘う演出であり、杉下のN=安藤の根拠たりえないのです。

    安藤が杉下の心に入り込めていない証拠

    東京編で安藤が杉下の心には入り込めていない証拠を列挙します。

    • 将棋盤を並んで覗こうとする安藤に仰け反る杉下(6話)
    • 杉下:「安藤にはこの事話ししてないし、関係ないから」(8話)
    • 杉下:「安藤が何を求めているのか、私は知りません」(9話)

    将棋盤を並んで覗こうとする安藤に仰け反る杉下(6話)

    出典:https://www.tbs.co.jp/

    安藤が杉下に将棋を習うシーンです。杉下の「クルクルしないでー!」のシーンですね。安藤が相手側から見た時にどう見えるのか?と杉下側に回り込み、杉下と並んで盤を覗こうとしたした際、微妙に杉下が安藤と距離を取るように体を安藤の側とは逆方向に逃がしているのです。これは自身のパーソナルスペースに侵入してきた者に対する一般的反応であり、この時杉下にとってはそのパーソナルスペースに入る事を許容できる関係ではない、という事です。

    「安藤にはこの事話ししてないし、関係ないから」(8話)

    成瀬、西崎と3人での作戦会議で西崎に向かって話した内容です。一般的には安藤を作戦に関わらせない事により、何かあっても安藤の立場を護る為の措置と取られています。

    しかし冷静に考えると、杉下、西崎は友人である安藤が目を掛けてもらっている直属上司の家庭内の問題に対して直接的介入行動を取ろうとしている訳であり、作戦が成功しても失敗しても、野口から『安藤の彼女』と認識されている杉下が野口と対峙する事になる為、野口から見て『部下の安藤の彼女である杉下』が自分の家庭内の問題に対して穏やかならざる方法で介入した事が認識される事になります。このことは野口と安藤の関係、そして当然ながら安藤と杉下・西崎の関係に影響を与えます。

    また、杉下・西崎からすれば安藤はこの時、野口側の立場をとる人物です。ですから彼から情報が洩れ作戦が阻止される事を防ぐ為の安藤に対する作戦の隠蔽です。

    つまり、杉下・西崎にしてみれば作戦面において安藤は『敵』であり、その後に彼との関係が変化する、つまりそれは彼との関係が終了する覚悟が無ければこのような作戦は実施できないのです。そこから逆説的に言えば、杉下・西崎には奈央子救出作戦の実施が第一義であり、安藤との関係はその時点で放棄される対象であった。つまり杉下にとっては安藤との関係の維持の重要性は奈央子救出作戦の実行の重要性より劣る、という事です。

    「安藤が何を求めているのか、私は知りません」(9話)

    賭け将棋の内容が安藤の『僻地行き』としった杉下の野口への抗議です。全文を示します。

    「安藤が何を求めているのか、私は知りません。だけど目標を持っているのは確かです。そこに向かって真っすぐな人の足を抄うようなことは、しないでください」

    この後、10話で土下座中に野口から『安藤についてゆくか?』と聴かれた杉下は「付いてきてくれって言われたら、私は安藤について行きます」と言っています。土下座してまでの安藤の僻地行きの翻意を野口に懇願する姿勢とも併せ、杉下のN=安藤の根拠となっていますが、これもミスリードを誘う演出なのです。

    そもそも、この「安藤が何を求めているのか、私は知りません」がおかしい。杉下にとって安藤が『僻地に付いてきてくれ』、と頼まれた時、本当に安藤に付いて行く程の相手であるなら、ストレートに『安藤は目標を持っています。そこに向かって…』と入ればよいはずです。「安藤が何を求めているのか、私は知りません」という表現が出てくるというのは、後の「そこに向かって…」という、野口に翻意してもらう為の行動を『自分は安藤の為にそんな事をする関係ではないけれど』、といったことわりを入れる心理から出ている言葉です。

    つまり、杉下は『本来なら安藤の為にこんなことする関係ではない』と自身と安藤との関係を規定している事になります。

    「安藤が何を求めているのか、私は知りません」の直後に野口の表情のカットが入ります。彼の眼は大きく見開かれています。野口も杉下のこのことわりに違和感を感じたのです。

    安藤は許されざる者

    安藤が成瀬にとって許されざる存在である事は前項で示しました。成瀬の安藤に対する態度が判る場面、実は成瀬以外のものにも安藤が許されざる者である点を挙げてみます。

    • 西崎の「君とは関わる気は無い」(5話)
    • 訪ねてきた安藤を拒絶する杉下の写真スタック(10話)
    • 成瀬の「あなたが居てくれてよかった」(10話)

    西崎の「君とは関わる気はない」(5話)

    西崎の出所後、野ばら荘へ訪ねてきた安藤に対して西崎が放った言葉です。その顔に笑みは無く、彼への対応は冷徹なものでした。安藤は裁判に関して西崎を支援しています。そのような彼に対して西崎は心を開いていないのです。

    訪ねてきた安藤を拒絶する杉下の写真スタック(10話)

    スカイローズガーデンの描写が全て終わり、現代編に移る直前に写真のスタックシーンがあります。この中で野ばら莊に訪ねてきた安藤に対してドアを開けず、彼を拒絶する杉下が描かれています。この後二人は一切の接触を断っている事は安藤が高野に証言しています。また現代編において成瀬が杉下の電話番号を知らない事から、彼女も成瀬同様電話番号を変更しています。

    この杉下の行動は一般的にはさざなみと同様に安藤との関係を断つ事で安藤を護るため、と見られています。

    しかしこの理解は間違いです。さざなみとスカイローズガーデンでは状況が異なるからです。

    さざなみにおいては、警察は成瀬の放火を疑っていました。杉下も成瀬が放火したと考えていました。杉下の、彼を警察から庇う証言のポイントは2点です。一つは、さざなみ出荷時に彼と東屋にいた。二つ目は、彼を庇うほど親しい関係ではない。この2点です。そして彼女が成瀬と距離を取ったのは、2つ目の偽証を担保する目的と言えます。その結果さざなみは未解決事件となりました。未解決事件ですので、事件後も彼と距離を撮り続けている事には意味があると言えます。

    ※ただし彼女が大学以降も彼と距離を取り続けた理由にはもっと突っ込んだ事項を考える必要があります。

    しかし、スカイローズガーデンにおける安藤と杉下の関係はさざなみのアナロジーでは考える事が出来ません。まず、スカイローズガーデンにおける偽証構造において、安藤がドアチェーンを掛けた事は隠蔽され、それが嫌疑とはされていません。また刑事・司法的には西崎の単独犯として終了しています。また杉下と安藤は野口に対しては「恋人」として振舞っていました。偽証構造や事件の処理結果、状況を考えると杉下と安藤が事件後も接触があったとしても、なんら事件に影響を及ぼすような事態にはならないのです。

    にも拘わらず杉下は安藤を拒絶し、その後10年間接触が絶えました。これは成瀬同様に杉下も安藤が許しがたい存在であったからです。

    成瀬の「あなたが居てくれてよかった」(10話)

    出典:https://www.tbs.co.jp/

    これは結論ありき、ではなく安藤との会話を論理的に分析すると、成瀬の安藤に対する嫌味である事が解ります。

    安藤:「10年たって今更だけど、一度会っておきたかった」
    成瀬:「話せるようなことは、何も有りません」

    (視線を落とし、寂しそうな安藤)

    安藤:「君から何も聴けなかったら、もう事件の事は吹っ切ろうと思っていた」

    (思案気な成瀬)

    安藤:「ありがとう、時間取らせて悪かった」

    (立ち去ろうとする安藤)

    成瀬:「あの日、杉下が考えていたのは、安藤さんの事だと思います。あなたを護ろうとしていました」

    (口を少し歪める安藤)

    安藤:「杉下はいつも心の中で誰かを支えにしていたよ。それは君だろ」
    成瀬:「島を出る為に、お互いの支えが必要だったんです。あれから10年も経つんですね。あっという間だった」

    (安藤を見据える成瀬)

    成瀬:「杉下のそばに、あなたが居てくれてよかった」
    安藤:「会いに来てよかった」

    この時の安藤は状況として西崎にも杉下にもスカイローズガーデンの事を話してもらえず、最後に成瀬から聞き出そう、として彼を訪ねました。彼の心持は、成瀬から何も話してもらえないなら、もうスカイローズガーデンに関しては気持ちの整理を付けよう、と考えての成瀬訪問です。その心情を吐露しているのが、「君から何も聴けなかったら、もう事件の事は吹っ切ろうと思っていた」です。

    成瀬は当初、彼の要求(スカイローズガーデンの事を話す)に対して「話せるようなことは、何も有りません」と、やんわりと拒絶します。これに対して安藤は寂しげな表情を見せます。結局彼は事件について関係する3人から全く話を聴けない、という疎外感を感じているのです。

    安藤は成瀬の拒絶を見て『事件の事は吹っ切る』と言って別れようとします。この場面に至って成瀬は「あの日、杉下が考えていたのは…」と事件の一端を口にしました。

    もし安藤が誰からも事件の事を話してもらえない事が、安藤を傷つけない為、であるなら、成瀬は当初の通り彼に口を噤むのが正しい行動です。しかし成瀬は安藤の『事件の事は吹っ切る』という発言に対して当初の方針を変更し、事件の一端を口にしました。彼のこの行動は、安藤に対して口を噤む行動が安藤を傷つけない為の行動ではない、そしてを表しています。また、成瀬の発言は安藤の『吹っ切る』事に対する阻止行動でもあるのです。

    そうすると、この成瀬の発言の意図は安藤に対して『事件の原因を作っておいて、吹っ切るなんて、都合の良い事はさせない』というものであり、その後の「杉下のそばに、あなたが居てくれてよかった」は、杉下の余命を知る彼からすれば、安藤に対する強烈な皮肉以外の何物でもないのです。

    成瀬のN=杉下ではない

    成瀬は安藤を庇っているように見えた杉下を嫌悪しました。しかし警察への偽証は結局杉下がドアチェーンの隠蔽を成瀬に頼む前に3人で謀議した内容どおりです。そうするとやはり成瀬のNは杉下だと考えたくなりますが、実はそうではないのです。

    Nは警察への証言時に護ろうと意図した人の事

    Nを上記のように定義します。このように定義する必要があるのは、安藤が存在する為です。安藤は野口宅内での西崎・杉下・成瀬の謀議に加わっていません。その為他の3人と同じ土俵でそれぞれのNを評価するには状況が一致する警察への証言時における各人の意図とする必要があります。

    成瀬は自身のNを語っていない

    杉下のNは、それが謎解きの中心的なものである為、ドラマ内で語られることは有りませんでした。しかし杉下の他にもう一人自身のNを口にしていないのが実は成瀬です。

    1~2話において、高野は弁護士に対する西崎の証言『すべてはNのために』を引き合いに出し、彼に「Nって何ですかね」「誰のために罪を被ったのか」と問います。それに対して西崎は「奈央子の事だけを思って刑を受けようと思った」と証言しています。事件の真相や彼が服役を望んだ理由に関しては実際には複雑ではありますが、彼は10話でも「奈央子を犯人にしたくない」と言っています。Nに関して定義が示された後に話が展開されている為、西崎は自身のNは奈央子、と言っている事になります。

    2話で安藤に付いてはで「なんですか?Nって」と高野に聴き、高野が「西崎さんは被害者の奈央子さんのNだと仰っていました」と返します。安藤はそれを受けて「大切な誰かのためにってことでしょうか」と解釈した上で、「僕にとってのNは杉下希美でした」と答えています。彼は明確に自身のNを回答しています。

    9話では成瀬と高野で以下のやり取りがされます

    成瀬:「スカイローズガーデンの後、またお互い逢わんようになって、杉下がどんな気持ちでおったんか、ようやく解った」
    高野:「10年前、それぞれに大事な相手がおったそうやな」
    成瀬:「俺は杉下やった」
    高野:「お前のNは希美ちゃんやったか」
    (高野に視線を送る成瀬)
    高野:「なのに逢わなくなった」

    成瀬おいては、高野は先にNの語を持ち出していません。成瀬の大事な相手は杉下、との言葉を受けて、高野が成瀬のNは杉下、としているのです。つまり成瀬は自身のNを語っていないのです。この表現の違いは西崎・安藤と成瀬の行動が異なる可能性を示しています。成瀬のNは杉下ではない、という可能性です。

    成瀬の高野への説明と実際の彼の行動の矛盾

    一方で成瀬は自身のスカイローズガーデンにおける大事な人は杉下だった、と認めています。しかし杉下のドアチェーンの隠蔽依頼以降の彼の態度、その後杉下と距離を取った事実は、成瀬が3人の謀議までの行動原理とそれ以後の行動原理が異なるという事です。

    つまり、成瀬は3人の謀議までは杉下を事件から安全な場所に置くための行動をした。具体的には西崎単独計画/単独行動の偽証内容にのり、3人が居合わせたのは偶然だという謀議を杉下に飲ませました。これにより杉下は計画の存在をしらない事となります。そのうえで西崎の「杉下を護ってやってくれ」に対して頷き、それを西崎に約束しました。成瀬はこの段階まで、事件後に杉下と距離を取ることなど考えていなかったのです。また、事件を契機に成瀬と杉下が接触したとしても、それが警察から問題とされる事もありません。事件前の接触が隠蔽されるのであれば、その後の接触は偽証内容から言って問題ないのです。

    成瀬には杉下の為でも、自己保身の為でも偽証内容は変わらないトリック

    しかし彼は勘違いにより行動原理を変えました。西崎との約束を反故にし、杉下と接触を断ちました。彼の警察への証言段階における意図は杉下を護る事ではありません。彼自身の保身であるのです。3人での謀議の内容は、3人が居合わせたのは偶然、というものです。それは成瀬の警察への証言時の意図が自己保身であったとしても、自身は事件の枠外に身を置くことが出来るため、それが彼にとって都合がよい内容なのです。

    この杉下の為であっても自分の為であっても、元の偽証内容が変わらないように出来ている構造(それはトリックでもありますが)であるため、視聴者には解りずらい、気づかないものとなっているのです。

    2024年1月16日火曜日

    ドラマ:スカイローズガーデンを読み解く入り口

    謎解きの入り口としての鳥瞰カットの内、2つ(西崎との会話後の成瀬の後ろ姿、杉下の成瀬からの電話を出た際の立ち姿)からスカイローズガーデンを紐解く入り口を与えてくれています。

    • 成瀬と杉下が距離を取る事になった理由
    • 杉下のN=成瀬である事の理由

    成瀬と杉下が距離を取る事になった理由

    これは成瀬が西崎に話したはずの内容です。成瀬と杉下の間にこの事件の後に接触がない事から、理由はスカイローズガーデンの中にあります。これは成瀬が西崎に語った内容ですので、端的に言えば、成瀬から見てスカイローズガーデンでの杉下の行動がどう見えたのか?がポイントになります。

    成瀬には杉下が安藤を庇っているように見えた

    西崎が警察に犯人が自分である事を自供し、杉下は成瀬に「外からドアチェーンが掛かっとった事、警察には言わんで」と依頼しています。これが成瀬には杉下が安藤を庇っていると見えたのです。

    成瀬には過去に似た経験があります。島時代、初めて杉下の買い出しに付き合い、幽霊屋敷を訪れた際に早苗の壊れっぷりを見た後に二人で東屋へ立ち寄ります。そこへ高野が訪れ杉下に大丈夫か、と問いかけがありました。この時杉下は成瀬に『母親の事は黙っていてほしい』旨を頼んでいます。

    成瀬は、ドアチェーンを安藤が掛けた事を認識しています。この島での経験から成瀬にはドアチェーンの隠蔽の依頼する杉下は安藤を庇おうとしている、と見えたのです。

    また、この見え方を補強してしまった事前情報がありました。安藤がこの食事会で杉下にプロポーズしようとしている、というシャルティ・広田でシェフから聴いた情報です。少なくとも成瀬には安藤は杉下と恋仲なのか?と考えさせられる情報を持っていた事が、杉下が安藤を庇っていると見えた要因ともなっています。

    成瀬には安藤は許しがたい存在

    成瀬はこのドラマでは性格的には『普通』な存在として描かれています。自身の父親がさざなみ炎上の放火犯であると疑っていた彼は、杉下の勘違いを訂正できずにいました。

    また、その父親が亡くなった事から自暴自棄に陥り、詐欺まがいの事までしてしまった。決して強靭でも聖人君子でもない普通の青年なのです。

    そのような成瀬から見たとき、結果野口夫妻が亡くなり、西崎が奈央子を庇う為に無実の罪を被る決意をし、自分も杉下も偽証するという危険な橋を渡る事になる状況を、鍵を掛ける事で作り出した安藤は許しがたい存在です。

    成瀬にとっては安藤を庇うようにみえる杉下も許しがたい存在

    そんな成瀬には、安藤を庇うように見える杉下の行動は驚きであり、またそのような行動をする杉下は安藤同様に許しがたい存在であるのです。

    事実成瀬は、杉下の依頼に対して目を見開いて彼女を凝視し、警察と部屋を出ていく安藤に視線を送り、再び杉下を凝視しました。その後杉下の手を取り、杉下が部屋を出るのを見送りますが、彼の視線は一貫して冷めたものであり、杉下の背中に向けられたそれは、敵意さへ感じられるほどのものです。

    そこには、それまでの杉下を護ろうとする意思、彼女をいたわる感情が全く見られません。

    血濡れの手繋ぎは成瀬からの杉下への決別宣言

    そのような状況下、成瀬は杉下の手を取ります。杉下は成瀬に視線を送りますが、成瀬は杉下へ視線を送りません。

    この手繋ぎは、先の成瀬の杉下への視線、安藤についての成瀬の反応、事件の後10年間成瀬と杉下に接点がない点を考えると、この行為は成瀬から杉下への、決別の意思表示と考えるべきです。

    成瀬が西崎に話した事

    成瀬と西崎の電話において、西崎は成瀬に何故二人に距離が出来てしまったのか?を問うたでしょう。成瀬は以下の点を西崎に話したはずです。

    • 『杉下からドアチェーンが掛かっていた事を警察に話さないよう頼まれた』
    • 『それは杉下が安藤を庇う意図と理解した』
    • 『安藤は許されざる存在。その安藤を庇う杉下を嫌悪した』

    杉下のN=成瀬である事の理由

    これは西崎と成瀬との会話において、西崎が成瀬を説得する事を意図し、成瀬に話したはずの内容です。これが説得の決め手となり、成瀬は翌朝、杉下を訪ねます。二人の会話の内容・流れを推測するならば、順番的には先に成瀬が、杉下と自分が距離を取る事になった事情を西崎に話した内容のカウンターとして西崎が話した事項になります。

    まず西崎は、成瀬がと杉下の距離を取った理由に対する、彼の誤解を解く

    ここでの成瀬の誤解とは杉下が成瀬にドアチェーンの隠蔽を依頼した真意です。西崎は『安藤を庇う』事とは別に存在する、杉下がそうする必要性を成瀬に説明する事になります。

    西崎にはドアチェーンの隠蔽の意図が判る

    杉下が成瀬にドアチェーンの隠蔽を依頼した事実は西崎は知りません。その時既に彼は警察に導かれ、部屋を退いているからです。しかし西崎は杉下が成瀬にドアチェーンの隠蔽を依頼した真意が判ります。何故なら、西崎自身がドアチェーンについて、警察には話をしていないからです。

    当然西崎は安藤がドアチェーンを掛けた事を判っています。西崎は後に入室した安藤に向かって「逃げられなかった」と彼の行為を責め、また出所後西崎を訪ねてきた安藤に対して冷たい対応をしています。西崎の対応には、安藤を庇う意図は見られません。しかしドアチェーンについては杉下と同じ行動を取っているのです。

    三人の謀議内容

    成瀬が入室した後に3人による謀議の内容は以下のものです。

    西崎:「作戦は失敗だ。警察に通報してくれ。警察には作戦の事は黙っておこう。俺が一人で奈央子を連れ出すつもりだった」

    杉下:「でも」

    成瀬モノローグ:(どうして、今自分がここにいるのか解った。4年前杉下は何も聴かず俺を庇ってくれた。今度は俺の番だ)

    成瀬:「大丈夫。全部偶然だ、って言えばいい」

    西崎:「ああ」

    成瀬:「杉下と俺はなんも知らんかった、今日会ったのも偶然。(杉下に)それでいいね」

    (頷く西崎、西崎が自分に向ける笑顔に膝まづく杉下)

    つまり、3人の謀議のポイントは以下の通りです

    • 西崎単独計画・単独実行
    • 3人が現場に居合わせたのは偶然

    3人の謀議を覆しうる存在

    しかし、この3人の謀議を覆しうる人物が存在しています。それが安藤です。

    • 杉下へ電話した際、部屋に『男性のお客さん』が訪ねてきている事を知っている(7話)
    • 蟹を杉下の部屋へ届けた際、西崎の話から西崎と杉下及び『杉下の友人』が食事をしていた事を知っている(8話)
    • 冷蔵庫内にシャルティエ・広田のケーキが在るのを確認している(8話)(そして安藤がその光景=『シャルティエ・広田のケーキが冷蔵庫内にある事』を見ている事を杉下は認識している)
    • 安藤と杉下の会話で、野口宅でのパーティがシャルティエ・広田の出張サービスによるものである事を安藤は知っており、杉下が同級生が働いており、その同級生が特別にクリスマスイブにキャンセルが出た事を教えてもらった事を安藤に話している。また安藤はその同級生が杉下の部屋を訪ねてきた『お客さん』である事に気付いており、杉下も同意している(8話)
    • 安藤と西崎がスカイローズガーデンのエレベーターで鉢合わせした際、西崎に『杉下の同級生の関わり』を問い、「3人そろって偶然な訳ないだろ。何考えてる?」と3人による何がしかの計画に気付いている(10話)

    つまり、これらの事実を安藤が警察に証言した場合、上記の3人の謀議は簡単にひっくり返るのです。

    杉下の成瀬へのドアチェーンの隠蔽依頼は安藤の口封じ

    西崎及び杉下は安藤が謀議内容をひっくり返しうる存在である事は判っていました。そして、3人(西崎、杉下、成瀬)がドアチェーンに言及しなければ、西崎と杉下には安藤は自らドアチェーンを掛けた事は証言しないだろう、と推測したと思われます。

    ドアチェーンは野口夫妻の死亡の間接的な原因であり、故に自ら進んでドアチェーンを掛けた事は安藤は証言しないだろう、との判断です。人間は自らに都合が悪い事象については口を紡ぎがちとなりますから、この推測は妥当と思われます。

    しかし、成瀬は安藤が謀議をひっくり返し得る存在であるという事を知りません。上記の諸点はいずれも成瀬が認識しえない場所で展開されています。ですから杉下は成瀬にドアチェーンには触れる事がないよう、成瀬に依頼したのです。

    ですので、西崎も成瀬に対して杉下のドアチェーンの隠蔽依頼の意図を『安藤の口封じ』が目的であった事を説明したと考えられます

    西崎からみて杉下の行動が誰を護るためのものであったのか?

    西崎が成瀬に対して、杉下のN=成瀬である、と成瀬に説明するには、西崎自身が見聞きしている杉下に関する情報から説明する必要があります。

    • 西崎との会話で杉下は『究極の愛』の概念を持っており、それが『罪の共有』である事も西崎は聞いている(4話)
    • 早苗が杉下を訪ねてきた際、西崎に匿われた杉下は彼女の『罪の共有』相手に対して感情を駄々洩れさせた(5話)
    • 奈央子救出作戦に成瀬が加わる事を報告した杉下に西崎は成瀬が杉下の『罪の共有』相手であるかを問い、杉下もそれを否定しなかった(8話)
    • 成瀬が杉下の部屋を訪ねてきた際、杉下が非常に成瀬に気を配っている事を見ている(7、8話)
    • 杉下が複数回に渡り、自分と成瀬が共同で事に対処するという趣旨の発言をしており、西崎はそれを聞いている(8話)
      • 「そしたら私が体当たりして成瀬君を助けるよ」
      • 「後の事は私と成瀬君がなんとかするから…」
      • 「なにかあっても、私と成瀬君がついているから」

    つまり西崎は成瀬に以下の点を話したはずです。

    1. 成瀬は杉下の『究極の愛』の概念を生んだ相手
    2. 彼女にとって成瀬は『罪の共有』をさせるに至った事件を抱えるにいたった特別な存在
    3. 疎遠であった間も彼女が成瀬に強烈な感情を有していた事
    4. 奈央子救出作戦を契機に杉下が成瀬との関係を再開させようとしていた

    決定的な証拠は杉下が謀議を受け入れたタイミング

    野口を殴打した奈央子から、西崎と杉下は退去を求められます。西崎は既にドアチェーンが掛かっている事を知っていたため動きませんでしたが、杉下は玄関へ向かいました。そこでドアチェーンが掛かっており、脱出不可能である事を知ります。

    奈央子が自殺をし、西崎が偽装工作をしつつ、杉下に偽証を求めます

    • 「野口を殴ったのはおれだ、奈央子を刺した野口を俺が殺した」
    • 「何も見なかった事にしてくれ」
    • 「愛はないかもしれないが、罪を共有してくれ」

    しかし杉下はこの西崎の要求に対して杉下はこれを拒否します

    • 「なんでそんな嘘つかなきゃならないの。西崎さんが罪を被る事はないでしょう」
    • 「そんな嘘、つきとおせる自信ない」
    • 「そんなの、出来ないよ」

    しかし、その後成瀬が入室し、成瀬が3人が居合わせたのは偶然、という謀議内容を西崎・杉下に提示した段階で、杉下はそれを受け入れました。成瀬の示した内容は、西崎が先に提示した『西崎単独計画・単独実行』を補強するもので、西崎が杉下に要求した偽証と方向性は変わらず、西崎が杉下に要求した偽証の方向から必然として生じる内容なのです。

    しかし西崎の要求には拒絶し、成瀬の指示にはそれを受け入れたという事は、成瀬が状況に加わる事で杉下に偽証を行わなければならない理由が生じたという事です。『罪の共有』という彼女の概念を知る西崎には杉下が成瀬と『罪の共有』をするに至った事件は当然未解決である事が予想されます。

    つまり西崎には杉下が偽証を受け入れたのは、成瀬が状況に加わる事で、未解決である過去の事件が蒸し返され、再び成瀬が危険な状況に陥る事を杉下が恐れたから、と見えます。

    安藤は杉下が偽証を受け入れた理由には入らない

    西崎は杉下が野口宅を出ようと玄関に向かった事を知っています。ドアチェーンが掛かっており外に脱出出来ないという事を彼女も認識したと判断したはずです。一方西崎は鍵を掛けたのは安藤と判断していました。彼が入室した際に安藤に向かって「逃げられなかった」と言ったのは、西崎の安藤に対する非難です。

    西崎から見たとき、杉下の偽証受け入れに安藤の存在が感じられるでしょうか?

    もし西崎からみて杉下が安藤の存在を意識する場面があるとするなら、それは彼女がドアチェーンが掛かっているを確認した時でしょう。しかし、その後の西崎との会話においては彼女は西崎の偽証要求を拒絶しています。つまり嘘を付く事に拒絶をしているのです。もし安藤を庇う意思があるのであれば、西崎の要求には拒絶しないでしょう。そうすると、彼女が偽証の受け入れた理由に安藤を庇う意図はなかった、と見る事ができます。

    西崎が成瀬に語った事

    以上をまとめると、西崎が成瀬を説得する為に語った事は以下の通りとなります
    • 杉下にとっての成瀬とは『究極の愛』『罪の共有』の相手であり、強烈な感情を抱いている
    • 杉下は奈央子救出作戦を機に『罪の共有』概念に含まれる『だまって身を引く』ことで距離を取っていた成瀬との関係を再度取り戻そうとしていた
    • 杉下が成瀬にドアチェーンの隠蔽を依頼した理由は安藤が3人の謀議を覆し得る存在であった為の口封じ
    • 西崎の偽証要求に対して杉下は拒絶しており、杉下の偽証受け入れは、状況に加わった成瀬の過去の事件の蒸し返しを恐れたからであり、杉下が護ろうとしたのは成瀬である、という事

    2024年1月13日土曜日

    ドラマ:成瀬が訪ねた際の杉下の驚きの事情

     

    9話で成瀬が杉下を訪ねた際の二人の会話です。

    杉下:「もしもし」

    成瀬:「杉下」

    杉下:「…はい」

    成瀬:「家におる?今下におるんやけど」

    (部屋からベランダへ出る杉下)

    杉下:「なんで成瀬君がおるん?」

    成瀬:「島に帰っとった。これ、うどん」

    杉下:「ありがとう。だけど、なんで成瀬君がここにおるん?」

    成瀬:「西崎さんが教えてくれた。何度か府中に差し入れしたけん、出てから連絡くれて」

    杉下:「急に来んでよ、私こんな格好やのに」

    成瀬:「少し…話さん?」

    杉下は電話を掛けてきたのが成瀬である事を、電話に出る前に判っていた

    まず、電話が鳴った時の杉下の反応です。手に取った携帯の画面を見つめた後、小さな吐息をついてから電話に出ます。携帯画面には相手に関する情報が表示されているはずです。それが登録されている名前であるのか、単に電話番号だけであるのか、は不明です。最初の携帯が鳴るカットにおいては、画面に何が表示されているかは、ピンボケで判りません。

    次に注目したいのは、杉下が驚きの表情を見せたタイミングです。彼女が表情を変えるのは、成瀬の「今下におるんやけど」の発言の後です。その前の「杉下」に対しては表情を変えていません。また、成瀬は自分から名乗っていないという事実があります。そうすると、彼女は電話に出る際に既にこの電話が成瀬からのものである事を判って出ていると考えられます。

    成瀬は既に一度杉下に電話を掛けています。その際には杉下は痛みの発作でその電話に出ることは出来ませんでしたが、後に履歴から電話があった事は把握していると考えてよいでしょう。また、杉下はその前に西崎を訪ねています。杉下が西崎を訪ねたシーンにおいては成瀬の話題は描写されてはいませんでしたが、西崎は成瀬の電話番号を知る存在です。西崎は成瀬と杉下が長い間接触を断っている事を知ってはいますが、杉下にとって成瀬は彼女の『究極の愛』の相手である事を知っている存在でもあります。杉下が誰も頼ろうとしていない事は会話から判っている事ではありますが、成瀬を頼るよう西崎が杉下に成瀬の電話番号を教えてた、と考えていいと思います。

    そうであれば、既にあった着信履歴と西崎から教えられた番号から、杉下は既に一度成瀬から電話があった事を認識してから電話に出たと考えるべきです。ですから、彼の「杉下」という呼びかけそのものには、さして反応しなかったのだ、と考えられます。

    杉下は成瀬の来訪の意図を図りかね、動揺している

    彼の来訪に杉下は明らかに動揺しています。成瀬の「家におる?今下におるんやけど」に眼を見開き、「なんで」の声が震えています。

    杉下はまた『なんで成瀬君がおるん』と2度問うています。成瀬は最初の問いに訪問の目的が杉下に島の土産(うどん)を渡すため、と返していますが、杉下はなおも同じ問いを彼に投げかけます。彼女の疑問は、もっと深い意図に対するものであったからです。

    杉下は成瀬との間に心理的ハードルを抱えている

    成瀬の電話に出る前、彼女は小さく吐息を付いています。これは電話に出る前に心を落ち着けている為の動作です。また、先の推論のように、この時成瀬からので電話である事が判っているはずであるのに、彼女の冒頭のやり取りには高揚が見られません。冷静さを保とうとしている、というよりは彼の電話に出る事に心理的な抵抗があるように見えます。

    西崎から彼の電話番号を教えられたであろにも関わらず、その後杉下から折り返しの電話もしていない事実からも裏付けられると思います。

    また「急に来んでよ、私こんな格好やのに」という言葉に彼に対する心理的なハードルが存在している事が表れています。これは1話で早朝に寝間着のまま成瀬の自転車に乗った時と対照的な反応です。

    杉下には成瀬が自分を訪ねてくる事そのものがあり得ない事

    杉下は再度の問いの時「なんで成瀬君がここにおるん」と聞いています。「ここに」の部分が初回から増えている部分です。

    「ここに」の意味は2通り考えられるでしょう。一つは杉下の住所にどうしてたどり着いたのか?という意味。それともう一つは『ここ』=『自分の前』にという意味。

    成瀬は杉下の「ここに」の意味を、情報の伝達経路と捉えました。ですので「西崎さんが教えてくれた」と返したのです。

    しかし、杉下の本意は情報経路であったのでしょうか?先に検討した通り、杉下は成瀬の電話番号を西崎から聴かされています。つまり成瀬と西崎には接触が在る事は判る事です。そして西崎は自分の住所を知っている存在です。つまり杉下には成瀬に自分の住所が成瀬に伝わる事も十分予測出来たはずなのです。

    そうすると、杉下の「ここに」の意味は、成瀬に自分の住所が伝わるであろう事を十分踏まえた上で、それでも成瀬が『自分の前』に現れると彼女が考えていなかったが故の「なんで成瀬君がここにおるん?」であるのです。つまり成瀬は例え自分の住所を知っていたとしても自分の前には表れない、と杉下が考えていたのです。

    これは杉下が西崎を訪ねた際の、西崎の笑みとは対照的です。西崎の笑みには懐かしみが感じられます。西崎は杉下が自分を訪ねてくる事を十分予測しており、笑みで彼女を迎えたのです。

    二人の10年の関係はスカイローズガーデンで決定した

    10話、成瀬のプロポーズに対して杉下は「甘えられん」と返しています。彼のプロポーズは拒絶はしたものの、彼女の中には成瀬に対して『甘えたい』という感情があるのです。それにも拘らず、彼女は成瀬に対して心理的障壁を持ち、成瀬が自分を訪れる事はないと考えていて、故に来訪に動揺し、来訪意図への勘繰りをする反応を取ってしまう。

    4話、安藤とのレストランでのシーンで、杉下は安藤に『あれから誰とも会っていない』と返しています。つまりスカイローズガーデンの事件現場で成瀬と別れた以降、成瀬と接触がない事が語られています。そうすると、杉下の成瀬に対する反応はスカイローズガーデンの出来事により形成された、という事になります。

    2024年1月12日金曜日

    ドラマ:成瀬と西崎の会話の再構成

    再構成が必要な二人の会話は、9話における成瀬と西崎の電話での会話です。

    成瀬:「はい」

    西崎:「西崎です。成瀬君、もう一度杉下を助けてやる気はないか?杉下本人は誰の助けも必要としていない。だがあるいは成瀬君なら、と思ってね」

    成瀬:「相変わらず回りくどいですね」

    西崎:「単刀直入に言おう、杉下は…」

    (西崎の前を車が割り込む形で会話を遮る)

    (携帯電話を持つ右手をゆっくり下ろす成瀬を背後から鳥瞰で撮った後、翌朝の成瀬が杉下を訪ねるシーンへ)

    再構成しなければならない、つまり隠されている会話の内容は西崎の「単刀直入に言おう、杉下は…」の後の部分です。

    【ドラマ:西崎が成瀬に伝えた事】で指摘した事ですが、ここで話されているはずの内容は、一つは杉下が病気で余命宣告を受けている事が一つ。そしてもう一つは、成瀬がさざなみの真相を杉下へ話す必然性が生ずる、成瀬が知らないスカイローズガーデン及び東京編における杉下についての西崎の観察内容、となります。ただし、その前に幾つかの副次的な問題についても、考える必要があります。

    西崎は成瀬と杉下が10年間接触がなかった事を知っている

    西崎の「単刀直入に言おう、杉下は…」の後に続く言葉は『杉下は病気で、余命宣告を受けている』であろう事は容易に想像がつきます。しかしここに至るまでの過程を見ると、西崎は成瀬が杉下の事をどれほど知っているのか?という点について探りを入れるような会話がありません。つまり成瀬は杉下が病気で余命宣告を受けている事を知らない、という前提でいます。

    1話で西崎は出所後他の二人より先に成瀬と接触しています。そして10話ではスカイローズガーデンでの謀議を図った際に、成瀬に対して「杉下を護ってやってくれ」と頼んでいます。

    しかしながら彼が杉下の病気の情報を得たのは8話で杉下が西崎を訪れた際の会話から、興信所の調査結果からです。またこの時杉下は『病気の事で誰かを頼る意思がない』事を西崎に話しています。

    つまり、西崎から見ると成瀬に杉下を護るよう頼み、その頼みに対して成瀬は同意していたにも関わらず、二人は事件後接触を断っており、杉下が病気である事も成瀬は知らない、という事が判っていたのです。

    西崎は成瀬が必ずしも杉下を助ける行動を取るだろうとは考えていない

    西崎は成瀬に杉下の病気の情報を伝えれば、彼が必ず杉下を助ける、とは考えていませんでした。それは西崎の言葉に現れています。

    「成瀬君、もう一度杉下を助けてやる気はないか?」

    この言葉は、西崎が成瀬が行動を起こさない可能性もある、と考えているからこその言葉です。西崎が成瀬が行動を起こさない可能性を考えていなければ、このような言葉は不要であり、いきなり杉下の病気について話せばいいはずです。

    西崎の電話は単に情報の伝達ではなく、成瀬の説得も目的だった

    西崎のこの時の関心は、いかに杉下を助けるか、でありその目的の為に安藤を呼び出したにもかかわらず、安藤では杉下が現在の態度(誰からの助けも拒絶する)を変えられないとみて、安藤を断念し最後の砦として成瀬に連絡をとったのです。

    (西崎が安藤を断念した理由も、なかなか面白いテーマです)

    しかし、成瀬は西崎とのスカイローズガーデンでの「杉下を護ってやってくれ」という約束を反故にして、10年間二人は接触を断っている。そこには当然感情面を含む障害がある事が予想されます。西崎には杉下の病気を伝えるにせよ、成瀬を動かすには説得が必要だ、と判っていたはずです。

    説得するからには、西崎は当然二人が距離を取った理由を成瀬に問う

    西崎は杉下の『究極の愛』の定義を知っていて、その定義が形成された何がしかの事件が存在し、そしてその相手が成瀬である事を知っています。

    5話で早苗が訪ねてきた時、自室に匿った杉下が『究極の愛』の相手(=成瀬)に対する感情を駄々洩れさせている事も知っています。

    そしてスカイローズガーデンにおいて『杉下を護る』事を成瀬は西崎に対して約束していたにも関わらず、成瀬と杉下の間には距離が出来、挙句杉下が病により余命幾ばくもない状況にある。

    西崎にはなぜこのような状況に二人が陥ったのか?現状を知っている西崎が成瀬の行動を促すからには、当然西崎の中にある疑問を成瀬に問うはずなのです。

    成瀬は杉下と距離を置く事となった理由を語り、西崎はスカイローズガーデンでの『杉下のN』が成瀬であった事を語った

    これはスカイローズガーデンの謎を解く事に他なりません。成瀬が杉下との距離を置くこととなった理由は、杉下が成瀬の訪問に驚くシーンに繋がります。そして西崎から杉下のNが自分である事、そしてその根拠を聴いた事が、成瀬が杉下にさざなみの真相を話す理由でもあるのです。

    この部分に関しては、とてもこの項で語る事が出来ません。別途項建てして順々に紐解いてゆきます。

    2024年1月8日月曜日

    ドラマ:西崎が成瀬に伝えた事

    9話で西崎が安藤と串若丸で飲んだ後、野ばら莊のかつての杉下の部屋の前から成瀬に電話を掛け、『杉下を助けてやってほしい』、と伝えます。

    この時の会話の内容は、西崎が杉下の事を話かけたところで、車が通りすぎる事で遮られ、視聴者には明かされませんでした。

    この時、西崎は成瀬に何を伝えたのでしょうか?

    杉下が病気で、余命宣告を受けているという事。これは10話で杉田が成瀬に『病気の事、西崎さんに聴いた?』と問い、成瀬もそれを否定していません。否定をしないとはそれは実質的には肯定です。

    ただ、西崎が成瀬に伝えた事はこの点だけなのでしょうか?

    この疑問は西崎が成瀬に電話したシーンの演出方法2点に端を発しています。

    • 車が通りすぎる事で会話の内容をあえて隠すようにしている事。
    • このカット直後の、成瀬の後ろ姿を鳥瞰で捉えたカット

    鳥瞰カット

    先に書いた通り、鳥瞰カットはこのドラマにおいて、謎解きの入り口として設定されています。二人の会話の内容を推理する事は、このドラマの謎解きの入り口なのです。

    なぜ会話を隠すのか?

    杉下が病気であり、余命宣告を受けいている事は7話での杉下と高野との会話で明らかにされています。既に視聴者には既知の情報です。もし西崎が成瀬に伝えた情報が彼女の病気だけであるなら、杉下の病気を西崎から伝えられる事による成瀬の表情の変化を追ったほうが演出的には面白いのではないでしょうか?わざわざ車が遮る、という形で視聴者に対して『会話を隠してます』と判る演出をしています。つまり杉下が病気である事以外の情報が西崎から成瀬に伝えられたと考えるべきではないか?と思えるのです。

    ヒントは杉下との会話にある

    この時、成瀬が杉下に話した内容は以下の3点です。
    • さざなみの真相
    • 島へ還る事
    • プロポーズ
    プロポーズは、西崎が成瀬に期待した行動(『もう一度杉下を助けてやってくれないか?』)に対応しており、隠された会話の内容に関連するとは言えないでしょう。
    島へ還る事についても、自身の今後の予定を告げたものであり、隠された会話との関連は有りません。
    西崎が成瀬に対して話す内容とは、西崎が知っていて、成瀬が知らない事項であるハズです。そうすると成瀬が知らない事項は、
    • 杉下の病気
    • それにも拘わらず彼女が誰からの援助も拒絶している事
    • 安藤が杉下にプロポーズした事
    • スカイローズガーデンを含む東京編での事項
    という事になります。
    杉下の病気と彼女が誰からの援助も拒絶している事は、ドラマ中でも描かれていることから、ここで問題とすべき『隠された会話の内容』ではありません。
    成瀬が杉下に話した内容はさざなみの真相についてでした。安藤が杉下にプロポーズした事に関しては、もし実際に成瀬に対して話されていると仮定した場合、後のプロポーズへの影響はある可能性はあります。しかしその結果は彼女が誰からの援助も拒絶している、という情報と併せると、少なくとも成瀬がさざなみの真相を杉下に語る行動には実質的には意味のない情報と言えます。
    そう考えると、西崎から聞かされた『スカイローズガーデンを含む東京編での事項』とさざなみの事件とがリンクしているからこそ、成瀬は杉下にさざなみの真相について話をする必要が生じた、と考える事が出来ます。

    成瀬と西崎の会話の再構成の為には、スカイローズガーデンでの二人の杉下の行動原理の理解の差について紐解く必要がある

    成瀬がさざなみの真相を話すに至った事項を理解するには、成瀬と西崎の電話での会話内容を再構成し、何が語られたのか、その内容が話されるにいたった経緯について再構成をする必要があります。その再構成の為には、先に検討した謎の入り口である、スカイローズガーデンにおいて、二人からは杉下はどう見えたのか?について検討が必要ですし、そこから生ずる成瀬と杉下の10年の関係の原因を考えねばならないでしょう。またその過程において、杉下が成瀬の電話に驚いている理由も見えてくると思われます。

    2024年1月7日日曜日

    ドラマ:謎解きの入り口としての鳥瞰カット

    ドラマで印象的なカットといえば、スカイローズガーデンでの死んだ野口夫妻を囲む4人のカットです。

     


    ミステリーであるこのドラマの象徴的なカットです。登場人物を鳥瞰で捉えた特徴的なカットです。

    実はこの鳥瞰カットはここだけではなく、あと2か所存在しており、全部で4か所使用されています。

    • スカイローズガーデンで亡くなった野口夫妻を4人が囲むカット
    • 成瀬が西崎からの電話を終えた後、成瀬の背中を捉えたカット
    • 自室で成瀬からの電話を取った直後の杉下を捉えたカット
    • 島へ帰った杉下と成瀬が抱き合うラストカット


    他の3カットについては、ごく自然な流れの中で使用されているのですが、3つめの杉下のカットは、明らかに不自然な形で挿入されています。つまり鳥瞰カットには何がしかの意味がある、と視聴者に気付かせるためのカットと言えます。

    そういう形で鳥瞰カットを探し出すと上記4シーンのカットになるのですが、ではそれがどのような意味があるか?が次の問題となります。

    スカイローズでのカットは正に事件現場で4人がそろった場面で、普通に考えればミステリー・謎解きの確信がある場面である事は明瞭です。そうすると、この鳥瞰カットとは、この場所にミステリー・謎解きすべきものがある事を視聴者に占める標である、と推論する事が出来ます。つまりこのドラマの謎解きの入り口がこの4か所だ、という事です。

    では、この4か所に設定されているミステリー・謎解きの入り口、それは解くべき事として制作者から提示されているものとは何であるのか?を考えなければなりません。

    スカイローズでのカットは4人でのカットですが、現代編での3カットは成瀬及び杉下のそれぞれ単独でのカット、及び二人でのカットです。

    このドラマのラストは青景島で二人が手を取り、抱き合うシーンです。そうするとこのラストシーンに向けた、スカイローズガーデンに端を発し、ラストシーンへ向けたプロセスが設定されている謎?という仮説が設定できます。

    なぜ杉下は成瀬の訪問をあれほど驚いているのか?

    これは成瀬の電話を取った杉下のカットにおいて設定されている謎です。ベランダに出た杉下は、成瀬を目視すると「なんで成瀬君がおるん?」と2回繰り返しています。これは単に久しぶり、という意味合いを超えた驚きと考えてよいと思います。

    西崎から何を伝えられ、成瀬は愕然としたのか?

    西崎との会話を終えた成瀬の背中を捉えたカットで設定されている謎です。この後杉下を訪ねた成瀬に対し、杉下が「病気の事、西崎さんから聴いた?」と問い、成瀬はそれにこたえていません。これは暗黙の了承と考えてよいでしょう。確かに西崎が成瀬に伝えたことの一部に、彼女の病気と余命宣告が含まれているのは間違いありません。ですが、それだけでなのか?それだけではない何かが存在していると考えるべきだと思います。
    理由の一つは西崎が杉下の事を話始めた段階で車がカットインし、二人の会話の内容を隠している事が示唆されている点です。既に杉下の病気及び余命宣告は視聴者に対して明かされています。わざわざ、隠している事を伺わせる方法をとる必要はありません。
    理由の二つ目は、成瀬の背中を撮っている点です。上述の通り既に視聴者に明かされている事実を成瀬に聴かせるのであれば、彼の表情の変化を捉えるカット割りのほうが見栄えの良いカットになるのではないでしょうか?あえてそうしない、という事は杉下の病気と余命宣告以外の、何かについて西崎から成瀬に伝えられ、その内容に彼を愕然とさせたと考えるべきでしょう。

    杉下のNは誰で、成瀬には杉下のNはどう見えたのか?

    スカイローズガーデンのカットで設定されている謎です。このカットは、多様な謎を包含しており。それらに丁寧に答えないとドラマ全体の謎解きに矛盾を抱えるのですが、ここでは他の2カットとの関連に集中した形で謎を設定します。これに正しい答えを与えられないと、その他二つの謎との接合が上手くゆきません。

    杉下が成瀬の元に還る事にした理由は?

    杉下は成瀬のプロポーズに対して一旦「甘えられん」と断っています。それにもかかわらず彼女は最後、成瀬の元に還りました。そこにな何がしか彼女の心境の変化、彼女なりの理由があるはずです。それはなんであるのか?という点が謎です。単に『好き・愛している』とだけ表現される事ではなく、ドラマ全体を通しての、必然としての理由があると考えたい。よってこのシーンにも鳥瞰カットが用いられていると考えるのです。

    本当の謎は「十年間の二人の関係性」と「杉下にとっての成瀬の意味」

    謎解きの入り口としての鳥瞰カットはスカイローズガーデンと現代編に設定されています。しかしこれらの謎を全て繋げるには、ドラマ全編に渡って遡り、一つ一つについてその因果を繋いでいかなければなりません。意味のないシーン、カットは一切ありません。二人の十年間の関係性・その原因は、「あの」シーンに対する一般的な解釈を逆転させねば成立しませんし、そうなった原因も島編にまでさかのぼらなければ説明出来ません。
    また、成瀬の元に最後帰った杉下の心理、その理由もやはり島編までさかのぼりかつ、二人の14年間全体を見渡して考えなければ到底理解出来ないものであったのです。
    このドラマの、最初に提示されているこれらの問題に解を与えようとすると、次々と新たな問題が見えてきて、それらにも解を与えなければならない。しかしそのように与えた解がこれまで、何気なく理解してきた部分に対してさえ疑義を発生させ、理解の修正を迫る。このドラマはそのようにずっと謎解きを楽しめるドラマであるのです。
    そのようなドラマの、私のこれまでの推理の成果を少しずつ再構成して綴ってゆこうと思います。