2015年5月4日月曜日

成瀬が杉下に『杉下の人生や、杉下の好きにしたらええ』と言った理由

スカイローズガーデンの事件から10年後、成瀬が杉下にプロポーズしたシーン。
成瀬は最後、杉下へこう伝えています。

『杉下の人生や、杉下の思うようにしたらええ。でも、待っとるよ』

これ、最初見た時違和感があったんですよね。成瀬は西崎から杉下を助けてやってくれ、と連絡を受けて杉下の所へやってきた。そうであれば杉下を説得しないといけないと思うのですが、これは説得じゃ無いんです。

もう一つ、違和感のは理由が有ります。
成瀬は過去二度杉下を救っています。
一つ目は杉下が追い出された自宅に火をつけようとした時。成瀬は有無を言わさず燃料を杉下から取り上げています。
二つ目はスカイローズガーデンで成瀬が、『全部偶然だって言えばいい』と西崎案に乗ることで杉下を事件の嫌疑対象から除外しようとした時。この時も成瀬は杉下に有無を言わせていません。
その二回とも成瀬は杉下の意向を確認するような事はしていない。強引に杉下をその危機から引き剥がしています。

だけど、この3回目だけは違うんです。
過去と異なり事件から救う訳ではない。その差とも言えなくもないのですが、ですが成瀬にしてみればある意味過去2回より更に切迫している、と言っていい。杉下の命に関わる事ですから。
それなのに強引さは見せず、まして説得もしない。

それは何故かと考えた時、やはり事が命に関わる事だからなのでしょう。命、生き方に関わることであるからこそ選択は杉下に委ねたんだろうと思います。

で、ここで問題にしたいのは、成瀬が杉下は自分を選ばないかもしれない、という可能性を前提に話している、という事です。

杉下が成瀬の元に戻れないと成瀬が考えうる理由を考えてみます。
一つはさざなみ放火事件。杉下が成瀬から離れた理由ですが、これは成瀬が事件は解決した、と事前に明らかにされていますので、これはクリアされています。
二つ目は、杉下の上昇志向。島へ帰る事は杉下がその上昇志向を諦める事を意味します。ですがこれも杉下自身が『食べる物があって、帰れる家があって、それを誰にも取られなければそれでいい』と言っていますから、これもクリアされています。
三つ目は杉下が病気である事。杉下は成瀬に西崎から聴いたのかを成瀬に確認しています。成瀬はそれには答えていませんが、その後の会話で、それを知っている上で成瀬がプロポーズしている事は杉下も了解している。だから成瀬から『杉下の人生や』という発言をする理由にはならない。
そして最後に残るのが成瀬から見た時、杉下の中に自分以外の誰かがいる事を分かっている場合。この時のみ、成瀬は『杉下の人生や』と言い得るんです。

つまり成瀬は、杉下の心の中に自分以外の人間がいる事を理解した上で、杉下の選択を待つ、と杉下に伝えたわけです。


3 件のコメント:

motoさん さんのコメント...

ここの記述は修正が必要ですね。

成瀬がこの場面でお城放火未遂やスカイローズと異なる対応をとったのか、は成瀬側に理由がある、という判断です。
これは杉下が成瀬の申し出を固辞するする理由でもあるんですが、端的に言えば成瀬は杉下に対してひけ目があるから強引な方法が取れない。そのひけ目とは、彼がさざなみ炎上時の、杉下の勘違いを利用して父親を庇い、それをこれまで黙っていたという点なのです。

この当時、杉下の”究極の愛”のバックドアに気づいて、杉下のNは西崎だ、という判断で杉下の中に自分以外の誰かがいる、と考えていた事が杉下に対する強引さを出さない理由の一つだと考えていたのですが、これも現在では否定しています。確かに成瀬は前日まで杉下のスカイローズでのNは西崎だと判断していた、と考えていますが前日の晩に西崎からの電話で西崎からスカイローズガーデンでの杉下のNは成瀬だ、と聞かされているはずなのです。だからこそ成瀬は杉下の前に現れたと考えた方がいい。

このドラマでは、謎解きの入り口が3つ用意されていると判断しています。
一つは当然ながらスカイローズガーデンでのそれぞれのNはだれか?という問題で、放送時からいろいろな推察がされていました。ですが他にも2つ謎解きの入り口がある。
それはどこかというと、一つは西崎が成瀬に電話し、”杉下を助ける気はないか?”と問うたシーンと、成瀬が杉下を訪ねたシーンです。

それはなぜ?と考えると思いますが、この3つには共通した特徴のカットがあります。それは”斜め上方からの引いた鳥瞰”です。
スカイローズガーデンでは野口夫妻の亡骸を4人で囲んだ所を西崎の上方から長官したカット。
西崎が成瀬に電話したシーンでは、電話を終え立ちすくむ成瀬の背中を上から移すカット。
成瀬が杉下に電話したシーンでは、部屋の斜め上方から杉下を撮り下ろすカット。

スカイローズガーデンでの特徴的なカットと同じ手法を他の2つも使っているところから、これらも同様にドラマの謎解きの入り口と判断した方がよく、またそのように捉える事でこのドラマの新たな局面に入っていけるのです。

西崎が電話シーンした部分では何が謎として解かれなければならないのか、というと、直接的には何を西崎が成瀬に話したのか?というものです。
成瀬が杉下へ電話したシーンでは、それはなぜ杉下は成瀬の訪問に動揺しているのか?という点です。

西崎と成瀬の電話のシーンに関して言えば、”杉下の病気と余命が1年である事”と思われています。確かにそれは西崎が成瀬に伝えた事の一つであり、その後の成瀬と杉下の会話でもそれを示唆したやり取りが有りました。ですからそれは確かにそうなのですが、この事以外に西崎は成瀬に、成瀬が知りえない何かを伝えた、と考えるべきなのです。仮に病気の事だけであるならば、よほど西崎との会話の途中の成瀬の横顔を撮り、声を失ってゆく様子を捉えた方が劇的だと思いますが、このシーンは成瀬が話を始める際に車が横切ってあえてその内容を隠すような演出がされています。そうするとそれが何であろうか、と考えをめぐらす事となり、杉下と成瀬のスカイローズガーデン以降の関係を整理しなおす必要が出てくるのです。

ここについては、また別の機会に詳述したいと思いますが、成瀬と西崎の会話で隠ぺいされた会話の内容は、杉下のNは成瀬である、という点です。これが成瀬が杉下を訪れた決定的な理由と言えます。
これについても、また別の機会に詳述したいと考えています。この辺りはとても短くは説明できないので、どうしても長文になりがちなのですが、今は杉下に対して強引な方法をとらない成瀬側の事情として、少なくともこの段階では成瀬に”杉下の中に西崎がいる”という事が理由で強引な方法をとらない、という事は否定される、という事をコメントしておきます。

motoさん さんのコメント...

ここはもっと書かないと、理解してもらえないと思うんですね。

成瀬と西崎の会話のシーンで提示された謎の入り口と、翌日の成瀬の訪問に動揺する杉下に関する謎の入り口はセットで考えないといけないと思っています。

入り方としては、杉下が成瀬の訪問に動揺する方から考えましょう。
この時、杉下は単に驚くという雰囲気ではなく、成瀬が電話で名乗った時、怪訝そうな表情を見せるんですよね。”なんで電話してきたの?”といった感じです。

ここで、杉下と成瀬の関係を、特に事件後の10年間について整理する必要が出てきます。
杉下と成瀬のこの10年に関して整理すると、以上の通りです。

1.二人は事件後あっていない、連絡も取っていない(ドラマ冒頭、安藤との会話より)
2.二人はそれぞれ事件後電話番号を変えた。相互に変更後の電話番号を知らない(成瀬が電話番号を変えた事は、現代編で島で成瀬が高野と会った時に述べている。成瀬は杉下の電話番号をその際、高野から聞いている。つまり成瀬は杉下の電話番号を知らない。という事は杉下は事件後電話番号を変更した、という事)

これはスカイローズガーデンでの成瀬と西崎の共謀のシーン、および一般的な状況を考えるとおかしいと思いませんか?

おかしさを感じるのは、西崎は杉下を成瀬に託した事実です。『杉下を護ってやってくれ』という西崎に成瀬は大きくうなずいています。にも拘らず成瀬は杉下と会っていないし連絡先も知らないのです。これはどう考えてもおかしい。

この部分に関して、共謀の内容(3人が野口宅で鉢合わせたのは偶然だった、それぞれが何かを示し合わせて行動するような関係ではない)を担保する為に成瀬と杉下は会わなかった、接触を断った。それによって杉下を護った、という解釈が存在しますが、その結果が杉下の病であり、余命宣告で会ったとしたら、それは彼が彼女を護ったとは言えないでしょう。
互いに連絡先も住所も知らないとなれば、それは二人の関係が断絶したと考えた方がいい。つまり成瀬は西崎との約束を反故にした、と考えた方がいいのです。

motoさん さんのコメント...

話を本編の投稿の修正にもどします。
成瀬が杉下の前に現れ、それ以前とは異なり杉下の選択を優先するような言い方をしたのは、先に書いた通り、彼が彼女のさざなみ炎上に関する勘違いを利用し、それを黙っていた事に関する罪の意識が一つ。
そしてもう一つが、スカイローズガーデンで、彼女の行動を勘違いし、西崎との約束さえ反故にして関係を断った、その事の罪の意識。
この二つの杉下への罪意識が、彼が杉下に選択をゆだねる物言いとなった理由です。
彼はこの2つの罪を自覚し、当然それが彼女の心理に影響を与え、自分の提案を断る可能性がある、それはある意味当然だ、と考えたからこそ、強引な決定は出来なかった。それがあのシーンの成瀬の立場であったのです。