安藤が野口家からの帰りに、まだ知らぬ成瀬と杉下との関係を聴きました。
「そいつと付き合ってるの?」
全体を俯瞰すると、スカイローズガーデンの事件は大きな流れとして野口夫妻も含めた6人の運命・必然と感じるのですが、その中に「IF」をいれさ せてもらえるなら、安藤のこの言葉を上げさせてもらいたいと思います。
杉下は間髪いれずに否定しました。
もし彼の問いが「そいつの事、好きなの?」であったなら…
事件は起きなかったと思うのです。
杉下は照れながらもその問いを肯定したはずです。
彼女は西崎も含め自分の過去と感情に嘘をついていません。問われないから話さないだけなのです。「付き合っているのか?」と問われたから、事実と しての「付き合ってない!」を返したに過ぎない。
「そいつの事、好きなの?」彼女がその問いを肯定していれば…
安藤はプロポーズをする気にはならなかったでしょうし、そうなれば野口にもその意向を告げる事もない。野口の杉下の土下座に対する茶化し(安藤に ついていく?)もなく、杉下が野口を挑発する事態にも到らなかった…
これは本当に言葉のあや。微妙な表現の差異です。その差異が杉下の返答を変え、安藤の行動を変えた。杉下はあくまで事実を言った。安藤は『付き 合っていない=恋愛感情はない』と取った。だからプロポーズを画策した。
私がこの表現の差異を取り上げたのは、自分も似た経験があるからです。
ある意味、この時の安藤と杉下以上に複雑なやり取りでした。
私はマリア様に安藤と同じ問いをしました。『付き合っている人はいるの?』
彼女はこう答えました。『想いを寄せてくれる人がいる』
私は彼女にこう言いました。『その人に想いがあるなら、真剣に受け止めるべきだ』
私は彼女の背中を押したのです。自分の本心を殺して。
もし、彼女の答えが『付き合っている人はいない』だったら。
私は彼女に『もう一度付き合いたい』と言ったと思います。
もし、彼女の答えが『付き合っている人がいる』だったら。
私は彼女に『今でも君の事が好きだ』と伝えたと思います。
でも彼女の答えは『想いを寄せてくれる人がいる』でした。
彼女は告白されたのでしょう。そしてそれにまだ答えていない。
自分の時と同じだと思いました。
自分は彼女に思いを告げましたが、結局彼女の気持ちは聴けずじまいだった。
彼女は同じ事を繰り返していると思いました。それはいけない事だと思いました。
そして、そこに自分が介入するのは憚られました。
私は彼女の当時の気持ちが、自分にあって欲しい、と願っていました。
ですが『想いを寄せてくれる人がいる』状態の彼女の感情に介入するのは中学の頃の自分から、彼女の感情を掠め取るように感じたのです。彼女の事を 思って、というより自分から自分が彼女を掠め取る行為に思えた。そしてそれは自分には出来なかった。
彼女の本意はどこにあったのか?彼女の言った事は事実だったのか?
それは判りません。ですがこんな些細な、微妙な言葉の選択でその後の人の行動が決定的に異なる、異なりうるという事を経験した自分にとって、この ときの安藤の問いの言葉に『IF』を投掛けてみたくなります。
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