2015年11月18日水曜日

【二次作品】リングの涙 その二

…続き

『奈央子さんを大切に思う人が奈央子さんを迎えに来ていますよ』

 結局、この言葉が引き金となり奈央子さんによる夫妻の心中は起き、そしてそれは殺人事件となった。この言葉を発した責任はずっと感じていたものの、野口さんの行為を言い訳にしてきた。でもそんな言い訳も出来なくなった。

 野口さん宅からの帰り道、安藤は私に無人島に行けと言われたらどうする?と問うた。彼はこの時既に野口さんとの掛け、安藤が負けた時にはダリナ共和国ヘ赴任する人事を了承していた。それにも拘らず安藤は私にプロポーズする積りでいた。安藤がこの人事をネガティブに受け止めていたとしたら、彼は私へのプロポーズなど考えない。彼は自らのネガティブを色恋ごとで埋め合わせするような人ではない。彼はこの移動を自分のチャンスととっていた。そもそも安藤の部署は油田を含むエネルギー開発を担う部署だ。そんな部署なら優秀な人材の僻地への赴任など当たり前の事だ。
 そして安藤はプロポーズの意向を野口さんにも伝えていたのだ。野口さんは私に『安藤について行くか?』と問うた。確かに私と安藤は野口さんに対してカップルとして振舞ってはいたけれど、結婚なんてそぶりは見せた事はない。そもそも私たちがカップルを装ったのは野口さんに接近するための方便でしか無く、私には安藤に対して恋愛感情がない。ましてその当時の私は春に卒業と就職を控えた身だ。客観的に見て、彼氏の海外赴任について行く、などという状況ではない。それが野口さんからそのような問いが出る、という事は野口さんは安藤からプロポーズの意向を聴いていた、という事だ。
 つまり、安藤の僻地赴任は左遷では無く抜擢人事で、安藤はそれを自身のチャンスととっていた。それを機に彼は私へプロポーズをするつもりだった。その意向は野口さんも知っていた。食事会がサプライズのプロポーズの場で、野口さんは私達を祝福する立場だった…

 つまりは僻地赴任=左遷と思い込んでしまう、世間知らずな、根がお嬢様気質な自分が生んだ悲劇。

 奈央子さんの野口さんからのDVの受容は、一人で生きて行く力の無い奈央子さんには私が野口さんを奈央子さんから摂る存在に見えたから。そしてそれが奈央子さんと西崎さんの接点を作った。
 作戦が成立したのは、私の『究極の愛』などという奇妙な美意識が作り出した魂胆のせい。成瀬君との関係の再開を期待し、且つ本来私が協力など出来るはずもない西崎さんの人妻略奪行為に私自身が『愛による合理化』をしてしまった。
 安藤が鍵を掛けたのは、西崎さんと会って作戦の存在に気付き、プロポーズの場を奪われた彼が、私が安藤と成瀬くんのどちらを頼るかを試そうとしたから。
 そして安藤の僻地赴任についての勘違いによる不要な野口さんへの挑発。

 事件のすべての罪は私にある。

 西崎さん、成瀬くん、ごめんなさい。
 野口さん、奈央子さん。ごめんなさい、ごめんなさい。本当にごめんなさい。

fin

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