早苗が杉下を訪ねた際の杉下の心理を分析する過程で、面白い事に気付きました。
杉下が、一番辛かった時期がいつなのか?という問題です。
今日はそれについて書きます。
早苗が杉下を訪ねた際に『島にいる頃に引き戻されそうで怖い』と言っています。さも早苗の存在が島時代全体を呼び起こしているように見えますね。 ですが成瀬のプロポーズの際に杉下はさざなみの火で『父親も母親もあの女も…縛るものは誰もおらん』と上を向けた。そうすると彼女の中で、島時代 はさざなみ炎上の前と後では別物である事になる。
そうすると早苗が杉下を尋ねた際の『島にいる頃』といっているのは実は島時代全体ではなくてさざなみ炎上以降の時期を言っている事になるんです ね。
つまりさざなみ以前は火によりその辛い思いでも成瀬という存在に還元され、オブラートされたものの、さざなみ以降の事象についてはその端は成瀬で ありつつ成瀬ではオブラートできない時期であり、その頃が『島にいる頃』という事になるんです。
確かにこの時期が杉下にとって一番辛い時期だったかもしれません。
成瀬との約束が唯一のよすがだった。それ以外は八方塞がり状態。成瀬の為に希望だった奨学金を差し出し、進学さえも諦めざるを得ない状況に追い込 まれる。心の拠所、救世主たる成瀬を『頼れなく』なり遠ざけた。母親は依然自分を縛りつけようとする為、その母親を成瀬との約束を理由に切り捨て ざるを得なくなり、罪意識を抱えた。成瀬との約束の実現の為に不本意ながら狡賢さも身に着けた(父親への土下座)。
杉下という人物は基本的にはポジティブ思考の持ち主で、お城を追い出された以降も一部妄想(野望)に逃れつつも懸命に現実的対応を取ろうとしてい ましたよね。
それがさざなみ炎上以降はその現実的対応では如何ともしがたい状況に陥った。唯一成瀬との約束を拠所にし、それを根拠に非現実的対応を取らざるを 得なかったのがこの時期なんです。
ですから、ゴンドラの後野原のお爺ちゃんから『苦しかった事は忘れる事』で涙するのは、この時期の辛さ・苦しさが想起されたからだと思います。
2015年11月27日金曜日
冷蔵庫のトラウマは存在しない
よく、杉下について『冷蔵庫のトラウマ』と表現されるけど、それって間違い、誤解なんではないかな?
トラウマとは
外的内的要因による衝撃的な肉体的、精神的な衝撃を受けた事で、長い間それにとらわれてしまう状態。心的外傷が突如として記憶によみがえり、フラッシュバックするなど特定の症状を呈し持続的に著しい苦痛を伴えば、急性ストレス障害。
冷蔵庫自体が彼女の心的外傷ではないよね。冷蔵庫はあくまで結果。
冷蔵庫が一杯になるのは彼女が料理を大量に作るから。だから真の原因は彼女に大量の料理を作らせてしまう何か。
彼女が料理を作って冷蔵庫を満たすのは言わば『ヤケ食い』と同じ種類の行為だと思うんです。つまりストレスの発散行為。タッパーから、ゆきから食事をめぐんでもらう(土下座)と関連付けされているように思えますが、これもフェイクですね。
そうやってドラマを見返すと彼女がストレスから料理を作るシーンは
母親の贅沢病で支払に困り、自分のアルバイトの貯金に手を付けた後
それと西崎の不倫告白に対していきなり料理を始めた時(冷蔵庫描写は無し)
この二箇所です。
この時のストレス源は早苗さんと西崎。
でも彼女はゴンドラまでそのストレス発散行為が止まなかった。
ではそのストレス源とはなにか?というと、成瀬なんです。成瀬との誓約『野望の実現』
が彼女のストレス源だったんですね。
だからゴンドラで成瀬との誓約が実現したから、そのストレス源が解消し、ストレス発散行為が必要無くなった、というのがシンプルな解釈だと思います。
参照
ゴンドラで杉下が解放されたもの
2015年11月20日金曜日
スカイローズガーデンに至る経過における杉下の罪意識 その二
…続き
安藤の僻地赴任を勘違いし、野口を挑発した
杉下が僻地赴任阻止に動いた源泉は『大人の身勝手さ、自分の手の届かない処で本人の努力に関係なく人の将来が閉ざされる事への抵抗(レジスタンス)と脱出(エクソダス)』。そしてそれが何に還元されるか?というと成瀬に還元される。『抵抗と脱出』という、ある種反社会的闘争のニュアンスを帯びるのは、自身のお城への放火未遂
さざなみ炎上における成瀬のアリバイ偽証、母親への大学進学宣言(母親の切り捨て)、父親への衆人監視下での土下座してでの進学資金借り入れ申入れなど。上記のプロセスは成瀬との関係性の中での出来事であるから杉下の安藤の僻地赴任阻止行動も成瀬の存在を抜きには語れない。
安藤に鍵を掛けさせた
安藤が鍵を掛けたのは、直接的にはプロポーズの機会を失った安藤が成瀬に怯えて自分と成瀬とどちらを選択するか杉下を試すため。でもそもそも安藤が惚れた杉下の特性である野望と独立性はそもそもの起源が成瀬。
成瀬を頼った
成瀬を頼れない、が杉下の最大のトラウマ。それでも彼が杉下にとっての救世主であり、唯一頼れる存在。本来現場に入れるべきでなかった成瀬を頼らざるをえなくなり彼に偽証を強いることになった。
偽証した
成瀬の指示ではありつつ、彼女が偽証を受け入れたのは、西崎単独犯としなければ自分と成瀬の関係が辿られ、さざなみにおける成瀬の関与を蒸し返されるため西崎を切った。
参照
杉下が希求していたもの
杉下の狡賢さについて
杉下の特徴と成瀬の関係性 その一〜ニ
杉下の『究極の愛』は『成瀬に対する罪』を杉下自身に対して隠蔽する心理システム
杉下の『究極の愛』の構造 その一〜ニ
杉下の『究極の愛』が西崎に働いた経過 その一〜三
スカイローズガーデンの事件を招き寄せてしまったもの
N作戦2における杉下の魂胆
安藤はなぜ外鍵を掛けたのか?
安藤の僻地赴任阻止行動の杉下の源泉 その二
杉下の『成瀬くん、ごめん』と『甘えられん』
成瀬、杉下が偽証を選んだ理由
安藤の僻地赴任を勘違いし、野口を挑発した
杉下が僻地赴任阻止に動いた源泉は『大人の身勝手さ、自分の手の届かない処で本人の努力に関係なく人の将来が閉ざされる事への抵抗(レジスタンス)と脱出(エクソダス)』。そしてそれが何に還元されるか?というと成瀬に還元される。『抵抗と脱出』という、ある種反社会的闘争のニュアンスを帯びるのは、自身のお城への放火未遂
さざなみ炎上における成瀬のアリバイ偽証、母親への大学進学宣言(母親の切り捨て)、父親への衆人監視下での土下座してでの進学資金借り入れ申入れなど。上記のプロセスは成瀬との関係性の中での出来事であるから杉下の安藤の僻地赴任阻止行動も成瀬の存在を抜きには語れない。
安藤に鍵を掛けさせた
安藤が鍵を掛けたのは、直接的にはプロポーズの機会を失った安藤が成瀬に怯えて自分と成瀬とどちらを選択するか杉下を試すため。でもそもそも安藤が惚れた杉下の特性である野望と独立性はそもそもの起源が成瀬。
成瀬を頼った
成瀬を頼れない、が杉下の最大のトラウマ。それでも彼が杉下にとっての救世主であり、唯一頼れる存在。本来現場に入れるべきでなかった成瀬を頼らざるをえなくなり彼に偽証を強いることになった。
偽証した
成瀬の指示ではありつつ、彼女が偽証を受け入れたのは、西崎単独犯としなければ自分と成瀬の関係が辿られ、さざなみにおける成瀬の関与を蒸し返されるため西崎を切った。
参照
杉下が希求していたもの
杉下の狡賢さについて
杉下の特徴と成瀬の関係性 その一〜ニ
杉下の『究極の愛』は『成瀬に対する罪』を杉下自身に対して隠蔽する心理システム
杉下の『究極の愛』の構造 その一〜ニ
杉下の『究極の愛』が西崎に働いた経過 その一〜三
スカイローズガーデンの事件を招き寄せてしまったもの
N作戦2における杉下の魂胆
安藤はなぜ外鍵を掛けたのか?
安藤の僻地赴任阻止行動の杉下の源泉 その二
杉下の『成瀬くん、ごめん』と『甘えられん』
成瀬、杉下が偽証を選んだ理由
2015年11月19日木曜日
スカイローズガーデンに至る経過における杉下の罪意識 その一
N作戦に参加した
杉下が希求していたのは成瀬という心の『Home』。
お城放火未遂とさざなみ炎上にその『心のHome』から距離を取らざるを得なかった杉下にとって、野原の爺さんの『Home』たる野ばら荘を守る事は、自分の『心のHome』を守る、そしてそれとの繋がりを確認したいという心理の代理行為。
野口家へ接近し知故を得た
きっかけはN作戦ではあったが、裏側は成瀬との約束たる野望『アラブの富豪と出会う』の実現。そしてそれを後押ししたのも成瀬から教わった将棋。きっかけを作ったのは杉下が奈央子のボンベを操作したからで、これは成瀬との誓約=野望の実現のために杉下が身につけた狡賢さの発露。
奈央子に脅威を与え、西崎との接点を作った
野口の将棋のブレインを頼まれた事から野口との二人でのやり取りが増え、それが奈央子の不信を作った。杉下の将棋は成瀬の将棋。また奈央子が杉下に感じた脅威は『一人で生きてゆく力』。一人で生きてゆく事ができる野口に対し一人で生きられない自分が疎ましく思われるかもしれない可能性に対する恐怖を掻き立てる、『一人で生きてゆく力』をもつ杉下が羨ましくもあり、妬ましい。そのような心理が奈央子の野口に対する独占欲と依存心を掻き立て、DVを許容させた。そのDVが同じくDVの経験をもつ西崎との接点を作った。しかし奈央子が感じた杉下の『一人で生きてゆく力』は杉下の『成瀬を頼ってはいけない』という彼女最大のトラウマに還元されるもの。
N作戦2を成立させた
これは杉下の『究極の愛』という精神保護システムのせい。環境が整ったが故にシステムが逆作用し西崎の罪への協力を愛の名の下に合理化させてしまった。またそのシステムの立ち上がり段階において成瀬は機敏にも杉下の感情の変化の糸口を捕まえて先読みし、杉下の感情が西崎にあると考えたが故に彼もまた作戦への参加を杉下への愛で合理化してしまった。そしてそのキーとなった杉下の『究極の愛』という精神保護システムが形成されたのはさざなみ炎上で、これも成瀬が起源。
続く…
杉下が希求していたのは成瀬という心の『Home』。
お城放火未遂とさざなみ炎上にその『心のHome』から距離を取らざるを得なかった杉下にとって、野原の爺さんの『Home』たる野ばら荘を守る事は、自分の『心のHome』を守る、そしてそれとの繋がりを確認したいという心理の代理行為。
野口家へ接近し知故を得た
きっかけはN作戦ではあったが、裏側は成瀬との約束たる野望『アラブの富豪と出会う』の実現。そしてそれを後押ししたのも成瀬から教わった将棋。きっかけを作ったのは杉下が奈央子のボンベを操作したからで、これは成瀬との誓約=野望の実現のために杉下が身につけた狡賢さの発露。
奈央子に脅威を与え、西崎との接点を作った
野口の将棋のブレインを頼まれた事から野口との二人でのやり取りが増え、それが奈央子の不信を作った。杉下の将棋は成瀬の将棋。また奈央子が杉下に感じた脅威は『一人で生きてゆく力』。一人で生きてゆく事ができる野口に対し一人で生きられない自分が疎ましく思われるかもしれない可能性に対する恐怖を掻き立てる、『一人で生きてゆく力』をもつ杉下が羨ましくもあり、妬ましい。そのような心理が奈央子の野口に対する独占欲と依存心を掻き立て、DVを許容させた。そのDVが同じくDVの経験をもつ西崎との接点を作った。しかし奈央子が感じた杉下の『一人で生きてゆく力』は杉下の『成瀬を頼ってはいけない』という彼女最大のトラウマに還元されるもの。
N作戦2を成立させた
これは杉下の『究極の愛』という精神保護システムのせい。環境が整ったが故にシステムが逆作用し西崎の罪への協力を愛の名の下に合理化させてしまった。またそのシステムの立ち上がり段階において成瀬は機敏にも杉下の感情の変化の糸口を捕まえて先読みし、杉下の感情が西崎にあると考えたが故に彼もまた作戦への参加を杉下への愛で合理化してしまった。そしてそのキーとなった杉下の『究極の愛』という精神保護システムが形成されたのはさざなみ炎上で、これも成瀬が起源。
続く…
2015年11月18日水曜日
【二次作品】リングの涙 その二
…続き
『奈央子さんを大切に思う人が奈央子さんを迎えに来ていますよ』
結局、この言葉が引き金となり奈央子さんによる夫妻の心中は起き、そしてそれは殺人事件となった。この言葉を発した責任はずっと感じていたものの、野口さんの行為を言い訳にしてきた。でもそんな言い訳も出来なくなった。
野口さん宅からの帰り道、安藤は私に無人島に行けと言われたらどうする?と問うた。彼はこの時既に野口さんとの掛け、安藤が負けた時にはダリナ共和国ヘ赴任する人事を了承していた。それにも拘らず安藤は私にプロポーズする積りでいた。安藤がこの人事をネガティブに受け止めていたとしたら、彼は私へのプロポーズなど考えない。彼は自らのネガティブを色恋ごとで埋め合わせするような人ではない。彼はこの移動を自分のチャンスととっていた。そもそも安藤の部署は油田を含むエネルギー開発を担う部署だ。そんな部署なら優秀な人材の僻地への赴任など当たり前の事だ。
そして安藤はプロポーズの意向を野口さんにも伝えていたのだ。野口さんは私に『安藤について行くか?』と問うた。確かに私と安藤は野口さんに対してカップルとして振舞ってはいたけれど、結婚なんてそぶりは見せた事はない。そもそも私たちがカップルを装ったのは野口さんに接近するための方便でしか無く、私には安藤に対して恋愛感情がない。ましてその当時の私は春に卒業と就職を控えた身だ。客観的に見て、彼氏の海外赴任について行く、などという状況ではない。それが野口さんからそのような問いが出る、という事は野口さんは安藤からプロポーズの意向を聴いていた、という事だ。
つまり、安藤の僻地赴任は左遷では無く抜擢人事で、安藤はそれを自身のチャンスととっていた。それを機に彼は私へプロポーズをするつもりだった。その意向は野口さんも知っていた。食事会がサプライズのプロポーズの場で、野口さんは私達を祝福する立場だった…
つまりは僻地赴任=左遷と思い込んでしまう、世間知らずな、根がお嬢様気質な自分が生んだ悲劇。
奈央子さんの野口さんからのDVの受容は、一人で生きて行く力の無い奈央子さんには私が野口さんを奈央子さんから摂る存在に見えたから。そしてそれが奈央子さんと西崎さんの接点を作った。
作戦が成立したのは、私の『究極の愛』などという奇妙な美意識が作り出した魂胆のせい。成瀬君との関係の再開を期待し、且つ本来私が協力など出来るはずもない西崎さんの人妻略奪行為に私自身が『愛による合理化』をしてしまった。
安藤が鍵を掛けたのは、西崎さんと会って作戦の存在に気付き、プロポーズの場を奪われた彼が、私が安藤と成瀬くんのどちらを頼るかを試そうとしたから。
そして安藤の僻地赴任についての勘違いによる不要な野口さんへの挑発。
事件のすべての罪は私にある。
西崎さん、成瀬くん、ごめんなさい。
野口さん、奈央子さん。ごめんなさい、ごめんなさい。本当にごめんなさい。
fin
『奈央子さんを大切に思う人が奈央子さんを迎えに来ていますよ』
結局、この言葉が引き金となり奈央子さんによる夫妻の心中は起き、そしてそれは殺人事件となった。この言葉を発した責任はずっと感じていたものの、野口さんの行為を言い訳にしてきた。でもそんな言い訳も出来なくなった。
野口さん宅からの帰り道、安藤は私に無人島に行けと言われたらどうする?と問うた。彼はこの時既に野口さんとの掛け、安藤が負けた時にはダリナ共和国ヘ赴任する人事を了承していた。それにも拘らず安藤は私にプロポーズする積りでいた。安藤がこの人事をネガティブに受け止めていたとしたら、彼は私へのプロポーズなど考えない。彼は自らのネガティブを色恋ごとで埋め合わせするような人ではない。彼はこの移動を自分のチャンスととっていた。そもそも安藤の部署は油田を含むエネルギー開発を担う部署だ。そんな部署なら優秀な人材の僻地への赴任など当たり前の事だ。
そして安藤はプロポーズの意向を野口さんにも伝えていたのだ。野口さんは私に『安藤について行くか?』と問うた。確かに私と安藤は野口さんに対してカップルとして振舞ってはいたけれど、結婚なんてそぶりは見せた事はない。そもそも私たちがカップルを装ったのは野口さんに接近するための方便でしか無く、私には安藤に対して恋愛感情がない。ましてその当時の私は春に卒業と就職を控えた身だ。客観的に見て、彼氏の海外赴任について行く、などという状況ではない。それが野口さんからそのような問いが出る、という事は野口さんは安藤からプロポーズの意向を聴いていた、という事だ。
つまり、安藤の僻地赴任は左遷では無く抜擢人事で、安藤はそれを自身のチャンスととっていた。それを機に彼は私へプロポーズをするつもりだった。その意向は野口さんも知っていた。食事会がサプライズのプロポーズの場で、野口さんは私達を祝福する立場だった…
つまりは僻地赴任=左遷と思い込んでしまう、世間知らずな、根がお嬢様気質な自分が生んだ悲劇。
奈央子さんの野口さんからのDVの受容は、一人で生きて行く力の無い奈央子さんには私が野口さんを奈央子さんから摂る存在に見えたから。そしてそれが奈央子さんと西崎さんの接点を作った。
作戦が成立したのは、私の『究極の愛』などという奇妙な美意識が作り出した魂胆のせい。成瀬君との関係の再開を期待し、且つ本来私が協力など出来るはずもない西崎さんの人妻略奪行為に私自身が『愛による合理化』をしてしまった。
安藤が鍵を掛けたのは、西崎さんと会って作戦の存在に気付き、プロポーズの場を奪われた彼が、私が安藤と成瀬くんのどちらを頼るかを試そうとしたから。
そして安藤の僻地赴任についての勘違いによる不要な野口さんへの挑発。
事件のすべての罪は私にある。
西崎さん、成瀬くん、ごめんなさい。
野口さん、奈央子さん。ごめんなさい、ごめんなさい。本当にごめんなさい。
fin
2015年11月17日火曜日
【二次作品】リングの涙 その一
もう、とっくの昔に涙は枯れきったと思っていたけれど、まだ自分の中に残っていた事に自分でも驚いている。新たな自分の罪に直面すると未だに涙が溢れてくる。
掌の中の指輪は断ったにもかかわらず、強引に安藤から渡されたもの。普通の女性であれば、その意志は無くとも自分の指にはめてみて、ちょっとした感傷に浸ったりするのかもしれない。でも私は普通ではない。いずれ安藤のもとに返さなければならない指輪を、試しにでもはめてみる事は出来ない。
『事件の日に渡そうと思っていた。結婚してくれ、と言うつもりだった』
聴いた瞬間に衝撃が走り、膝が崩れそうになるのを必死に堪えた。自分の罪深さは嫌という程解っていたつもりだったけれど、新たな罪に直面させられ頭の中は真っ白になった。それ以後彼とどんな会話をしたのかは覚えていない。なんとか平静を取り繕うとしていたような気がする。気がついたら高野さんを呼んでいた。自分の命とともに真実を墓場まで持っていくために。これまでたくさんの嘘をついてきた。先の短いこの体に、今更嘘を一つ余計に塗り込んでもどうという事はない。
私に加わった新たな罪。
野口さんを挑発し、警察沙汰とする事で安藤を野口さんから引き離すつもりだった。だけれども…そんな事、必要がなかったのだ。
私は野口さんの明かした安藤の僻地行き、電気もガスも通っていないダリナ共和国への赴任話を安藤の左遷ととった。安藤は自らの能力を世界で試すという夢を持ち、その実現の為に努力している事を知っていた。彼には実現出来ない事など無いのではないか、とさえ思っていた。だけど安藤の赴任先を賭け将棋などという方法で、しかも自分が安藤を負かす役割を演じさせられ、彼の将来が彼の資質や努力に関係なく閉ざされる事など、有ってはならないと強い怒りを覚えた。瞬く間にあの時の感情が蘇った。
『自分に手の届かない、大人の勝手な都合で若者の未来が潰される』
私と成瀬くん、二人して手を取り合い闘ったのはそんな現実への抵抗とそこからの脱出のため。その闘いのために家の一軒や二軒を焼き払うことなど何の罪が有ろう。戦争ならば家を焼くなど当たり前の行為ではないか。それなのに何故成瀬くんは咎められなければならない?何故周囲は成瀬くんを咎める視線を向ける?私達二人を追い詰めた大人たちには何ら罪は無いのか?
成瀬くんは私を身を挺して救ってくれた。火で私を縛り付けるものを焼き払ってくれた。崩れ落ちそうな吊橋を躊躇無く渡ってくれた。そう、成瀬くんは私の救世主。
成瀬くん、成瀬くん、成瀬くん…
今度は私がその橋を渡る。成瀬くんのためであるなら、何だって出来る。嘘をつくことも厭わない。成瀬くんと共に在る事が出来るなら、子を子とも思わぬ、私達を追い詰めた人を貶める事などどうと言うことはない。
大人の身勝手は絶対に許さない。成瀬くんが到着するまであと少しだ。成瀬くんであれば何とかしてくれる。成瀬くんとであれば何だって出来る。そして…
続く…
掌の中の指輪は断ったにもかかわらず、強引に安藤から渡されたもの。普通の女性であれば、その意志は無くとも自分の指にはめてみて、ちょっとした感傷に浸ったりするのかもしれない。でも私は普通ではない。いずれ安藤のもとに返さなければならない指輪を、試しにでもはめてみる事は出来ない。
『事件の日に渡そうと思っていた。結婚してくれ、と言うつもりだった』
聴いた瞬間に衝撃が走り、膝が崩れそうになるのを必死に堪えた。自分の罪深さは嫌という程解っていたつもりだったけれど、新たな罪に直面させられ頭の中は真っ白になった。それ以後彼とどんな会話をしたのかは覚えていない。なんとか平静を取り繕うとしていたような気がする。気がついたら高野さんを呼んでいた。自分の命とともに真実を墓場まで持っていくために。これまでたくさんの嘘をついてきた。先の短いこの体に、今更嘘を一つ余計に塗り込んでもどうという事はない。
私に加わった新たな罪。
野口さんを挑発し、警察沙汰とする事で安藤を野口さんから引き離すつもりだった。だけれども…そんな事、必要がなかったのだ。
私は野口さんの明かした安藤の僻地行き、電気もガスも通っていないダリナ共和国への赴任話を安藤の左遷ととった。安藤は自らの能力を世界で試すという夢を持ち、その実現の為に努力している事を知っていた。彼には実現出来ない事など無いのではないか、とさえ思っていた。だけど安藤の赴任先を賭け将棋などという方法で、しかも自分が安藤を負かす役割を演じさせられ、彼の将来が彼の資質や努力に関係なく閉ざされる事など、有ってはならないと強い怒りを覚えた。瞬く間にあの時の感情が蘇った。
『自分に手の届かない、大人の勝手な都合で若者の未来が潰される』
私と成瀬くん、二人して手を取り合い闘ったのはそんな現実への抵抗とそこからの脱出のため。その闘いのために家の一軒や二軒を焼き払うことなど何の罪が有ろう。戦争ならば家を焼くなど当たり前の行為ではないか。それなのに何故成瀬くんは咎められなければならない?何故周囲は成瀬くんを咎める視線を向ける?私達二人を追い詰めた大人たちには何ら罪は無いのか?
成瀬くんは私を身を挺して救ってくれた。火で私を縛り付けるものを焼き払ってくれた。崩れ落ちそうな吊橋を躊躇無く渡ってくれた。そう、成瀬くんは私の救世主。
成瀬くん、成瀬くん、成瀬くん…
今度は私がその橋を渡る。成瀬くんのためであるなら、何だって出来る。嘘をつくことも厭わない。成瀬くんと共に在る事が出来るなら、子を子とも思わぬ、私達を追い詰めた人を貶める事などどうと言うことはない。
大人の身勝手は絶対に許さない。成瀬くんが到着するまであと少しだ。成瀬くんであれば何とかしてくれる。成瀬くんとであれば何だって出来る。そして…
続く…
2015年11月16日月曜日
2015年11月15日日曜日
安藤の僻地赴任阻止行動の杉下の源泉 その二
杉下の安藤の僻地赴任阻止行動について考えています。
何故彼女にそんな事が出来たのか?
彼女の行動の源泉は以前考えた通りです。安藤に対する愛、などではない。
それは彼女が島で経験した『大人の身勝手さ、自分の手の届かない処で本人の努力に関係なく人の将来が閉ざされる事への抵抗(レジスタンス)と脱出(エクソダス)』です。この経験が彼女を突き動かした。つまり安藤の左遷が彼女の逆鱗に触れたという事ですよね。
で、今考えているのはこの『大人の身勝手さ、自分の手の届かない処で本人の努力に関係なく人の将来が閉ざされる事への抵抗(レジスタンス)と脱出(エクソダス)』の経験は何に還元されているのか?というものです。
杉下は確かに成瀬との親しくなる以前から彼女なりの現実対応(アルバイト)と逃避(野望)を行っていましたし親を含む周囲への反発もしていました。
ですがそれは『適応』だったのではないか?と感じています。
彼女の狡賢さでも考えた事ですが、彼女の対応はお城放火未遂前までは、社会的規範を飛び越えたものでは無いんです。
ではそれが『抵抗と脱出』という、ある種反社会的闘争のニュアンスを帯びるのは、お城放火未遂からなんですよね。
自身のお城への放火未遂
さざなみ炎上における成瀬のアリバイ偽証
母親への大学進学宣言(母親の切り捨て)
父親への衆人監視下での土下座してでの進学資金借り入れ申入れ
この部分が『抵抗と脱出』のニュアンスに通じている。
この時の杉下の対応が『適応』の範囲内であるなら、左遷阻止行動とはならない、まして野口を挑発する行動にはならないと思うんです。『抵抗と脱出』であるからこそ、杉下は行動できたのだと思うんです。
で、上記のプロセスは成瀬との関係性の中での出来事なんですね。
成瀬との感情の共有、『頼ってはならない』トラウマと『究極の愛』の形成、成瀬との誓約の成立とその実現化。
ですから杉下の安藤の僻地赴任阻止行動も成瀬の存在を抜きには語れないと思えるんです。
参照
杉下の狡賢さについて
安藤の僻地赴任阻止行動の杉下の源泉
何故彼女にそんな事が出来たのか?
彼女の行動の源泉は以前考えた通りです。安藤に対する愛、などではない。
それは彼女が島で経験した『大人の身勝手さ、自分の手の届かない処で本人の努力に関係なく人の将来が閉ざされる事への抵抗(レジスタンス)と脱出(エクソダス)』です。この経験が彼女を突き動かした。つまり安藤の左遷が彼女の逆鱗に触れたという事ですよね。
で、今考えているのはこの『大人の身勝手さ、自分の手の届かない処で本人の努力に関係なく人の将来が閉ざされる事への抵抗(レジスタンス)と脱出(エクソダス)』の経験は何に還元されているのか?というものです。
杉下は確かに成瀬との親しくなる以前から彼女なりの現実対応(アルバイト)と逃避(野望)を行っていましたし親を含む周囲への反発もしていました。
ですがそれは『適応』だったのではないか?と感じています。
彼女の狡賢さでも考えた事ですが、彼女の対応はお城放火未遂前までは、社会的規範を飛び越えたものでは無いんです。
ではそれが『抵抗と脱出』という、ある種反社会的闘争のニュアンスを帯びるのは、お城放火未遂からなんですよね。
自身のお城への放火未遂
さざなみ炎上における成瀬のアリバイ偽証
母親への大学進学宣言(母親の切り捨て)
父親への衆人監視下での土下座してでの進学資金借り入れ申入れ
この部分が『抵抗と脱出』のニュアンスに通じている。
この時の杉下の対応が『適応』の範囲内であるなら、左遷阻止行動とはならない、まして野口を挑発する行動にはならないと思うんです。『抵抗と脱出』であるからこそ、杉下は行動できたのだと思うんです。
で、上記のプロセスは成瀬との関係性の中での出来事なんですね。
成瀬との感情の共有、『頼ってはならない』トラウマと『究極の愛』の形成、成瀬との誓約の成立とその実現化。
ですから杉下の安藤の僻地赴任阻止行動も成瀬の存在を抜きには語れないと思えるんです。
参照
杉下の狡賢さについて
安藤の僻地赴任阻止行動の杉下の源泉
2015年11月14日土曜日
何で安藤はクリスマスイブに西崎と会ってるの?
時折りやる、アンタッチャブルネタの投下です。
以下、その時の西崎目線で。
『安藤くん、君は何でクリスマスイブのこの瞬間に俺となんか会ってんだ?
確かに君を呼び出したのは俺だが、君にはもっと大事な存在があったろう。何故杉下と過ごす事をしない?
さしずめ杉下から拒絶されたってところだろうが、それにしたって一度返された指輪を強引に杉下に押し付ける事の出来る君が、何故こんな大事な日に何にも予定なく、俺の急な呼び出しにのこのこ串若丸まで出張って来れるのかが俺にはさっぱり分からん。親父に“世話になった人に恩を返せ”と言われて、君を呼び出してみたが、やっぱり君は俺から見るとそういうところがヘタレだ。まあ、俺には退屈しのぎにはなったがな。そんなだから杉下に相手にされず、成瀬くんに勝てないんだ。崩れそうな吊橋の問いに、“何だってする”と答えてしまう君には、それが限界なのかもしれんな』
アンタッチャブル、アンタッチャブル?
以下、その時の西崎目線で。
『安藤くん、君は何でクリスマスイブのこの瞬間に俺となんか会ってんだ?
確かに君を呼び出したのは俺だが、君にはもっと大事な存在があったろう。何故杉下と過ごす事をしない?
さしずめ杉下から拒絶されたってところだろうが、それにしたって一度返された指輪を強引に杉下に押し付ける事の出来る君が、何故こんな大事な日に何にも予定なく、俺の急な呼び出しにのこのこ串若丸まで出張って来れるのかが俺にはさっぱり分からん。親父に“世話になった人に恩を返せ”と言われて、君を呼び出してみたが、やっぱり君は俺から見るとそういうところがヘタレだ。まあ、俺には退屈しのぎにはなったがな。そんなだから杉下に相手にされず、成瀬くんに勝てないんだ。崩れそうな吊橋の問いに、“何だってする”と答えてしまう君には、それが限界なのかもしれんな』
アンタッチャブル、アンタッチャブル?
2015年11月13日金曜日
【二次作品】拒絶
“お掛けになった電話番号は、現在使われておりません〟
“お掛けになった電話番号は、現在使われておりません〟
“お掛けになった電話番号は、現在使われておりません〟
判っている。何度やっても同じ。結果は判っている。それでも繰り返さずにはいられない。携帯電話の発信履歴の一番上にあるあなたの名前を選んでリダイヤルする事を止められない。
成瀬くん。やっぱり私には成瀬くんしかいないんだ。成瀬くんじゃないとダメなんだ。成瀬くん、成瀬くん…
成瀬くん、手を繋いだ時、あなたの声が聴こえた。
『もう会わない。これでお別れだ。さようなら』
覚悟した。私の我儘の末に、成瀬くんと一緒にいたいが故に引き寄せてしまった事件。そもそも成瀬くんを巻き込んではいけないのに。
私の中にあった変な美意識が、下心が、勇気のなさが事件を招き寄せ、結局あなたを失う事になった。
これも自分の罪の一つなんだろう。そのための罰なんだ。それは解る。それでもあなたに会いたい、声を聞きたい。そうでなければ自分がどうにかなりそう。
成瀬くんゴメンね。
私、あの時成瀬くんにこんな思いさせていたんだ。私はあの時どうしても成瀬くんを守りたくて、そのためにはあの方法しか思い浮かばなくて成瀬くんを遠ざけた。でもそれが成瀬くんをどれだけ悲しませる事だったのか、今ようやくわかった。こんなに悲しい思いをさせたんだね。成瀬くんがなぜそうするのかが解るだけに、本当に悲しい。
成瀬くん、本当にゴメンなさい。だから、だからちょっとでもいい、一瞬でいい、その声をきかせて?
わかっている。
成瀬くんは意思の人だ。成瀬くんは一度決めた事は絶対に曲げない。だからもう二度と、二度と成瀬くんとは会えない。わかってる。わかっているからこそ悲しんだよ。会いたいんだよ。声を聞きたいんだよ…
成瀬くん、せめていつまでも私達が繋がっていると思ってもいいかな?奇蹟を信じる事位は許してくれるかな?ねえ、いいよね、成瀬くん…
着信とボイスメッセージの履歴には“安藤望〟が並ぶ。
安藤の電話には出られない。声も聞きたくない。
安藤!なぜあなたはチェーンを掛ける、なんて事をしたの⁉︎
あなたがそんな事をしなければ、二人が死ぬ事も、西崎が罪をかぶる事も、成瀬くんを失う事も無かったというのに!
『杉下!』
チャイムとともに声がする。
『杉下‼︎』
安藤だ。
『杉下、俺だ。杉下と話がしたい』
お願い!却って、お願い…
もうあなたとは会いたくない、話もしたくない。お願いだから、お願いだから却って…
お願いだから私の成瀬くんを還して!
“お掛けになった電話番号は、現在使われておりません〟
“お掛けになった電話番号は、現在使われておりません〟
判っている。何度やっても同じ。結果は判っている。それでも繰り返さずにはいられない。携帯電話の発信履歴の一番上にあるあなたの名前を選んでリダイヤルする事を止められない。
成瀬くん。やっぱり私には成瀬くんしかいないんだ。成瀬くんじゃないとダメなんだ。成瀬くん、成瀬くん…
成瀬くん、手を繋いだ時、あなたの声が聴こえた。
『もう会わない。これでお別れだ。さようなら』
覚悟した。私の我儘の末に、成瀬くんと一緒にいたいが故に引き寄せてしまった事件。そもそも成瀬くんを巻き込んではいけないのに。
私の中にあった変な美意識が、下心が、勇気のなさが事件を招き寄せ、結局あなたを失う事になった。
これも自分の罪の一つなんだろう。そのための罰なんだ。それは解る。それでもあなたに会いたい、声を聞きたい。そうでなければ自分がどうにかなりそう。
成瀬くんゴメンね。
私、あの時成瀬くんにこんな思いさせていたんだ。私はあの時どうしても成瀬くんを守りたくて、そのためにはあの方法しか思い浮かばなくて成瀬くんを遠ざけた。でもそれが成瀬くんをどれだけ悲しませる事だったのか、今ようやくわかった。こんなに悲しい思いをさせたんだね。成瀬くんがなぜそうするのかが解るだけに、本当に悲しい。
成瀬くん、本当にゴメンなさい。だから、だからちょっとでもいい、一瞬でいい、その声をきかせて?
わかっている。
成瀬くんは意思の人だ。成瀬くんは一度決めた事は絶対に曲げない。だからもう二度と、二度と成瀬くんとは会えない。わかってる。わかっているからこそ悲しんだよ。会いたいんだよ。声を聞きたいんだよ…
成瀬くん、せめていつまでも私達が繋がっていると思ってもいいかな?奇蹟を信じる事位は許してくれるかな?ねえ、いいよね、成瀬くん…
着信とボイスメッセージの履歴には“安藤望〟が並ぶ。
安藤の電話には出られない。声も聞きたくない。
安藤!なぜあなたはチェーンを掛ける、なんて事をしたの⁉︎
あなたがそんな事をしなければ、二人が死ぬ事も、西崎が罪をかぶる事も、成瀬くんを失う事も無かったというのに!
『杉下!』
チャイムとともに声がする。
『杉下‼︎』
安藤だ。
『杉下、俺だ。杉下と話がしたい』
お願い!却って、お願い…
もうあなたとは会いたくない、話もしたくない。お願いだから、お願いだから却って…
お願いだから私の成瀬くんを還して!
2015年11月12日木曜日
杉下の狡賢さについて
ドラマ内で杉下は何度か狡賢さを発揮していますね。
一つは父親への土下座。二つ目は奈央子のボンベに手を掛けた事。
皆さんは杉下のこの行動の源泉をどこに求められているでしょうか?
恐らくは彼女の『生きるためにはなんだってやってやる!』というゆきに対する土下座の後、洋介と食事する際のモノローグに求めていらっしゃると思うんです。
私も当初はそこに求めていました。
ですが、最近は違うな、と思っています。
もし彼女の狡賢さが『生きるためにはなんだってやってやる!』であるなら、もっと違う場面、例えば母親の贅沢発作で支払いに行き詰まり、自分のバイトで貯めた貯金を使わざるを得ない状況に追い込まれた際などに出ていても可笑しくない。でも、杉下は泣く泣くですが、社会的規範にそう形で事を処理している。これが杉下の狡賢さの起源に対する従来の見方に疑義が生じた部分です。
そう考えたとき、杉下がその狡賢さを発揮した状況を見直しました。
最初の父親への土下座は成瀬のNチケットを発見したあとです。このNチケットで杉下の野望の実現は成瀬との誓約になった。つまり、父親への土下座は成瀬との約束を護る為の手段だったわけです。
また、奈央子のボンベに手を掛けたのも、野望『アラブの富豪と出会う』の実現の為に野口家との接点を造る手段です。これも野望の実現が成瀬との誓約であるから彼女の狡賢さが発揮されたと見える。
この行為については後に西崎に自分の親との類似性を口にし、自己嫌悪を見せていますので、自分でも意識していなかったと思うのですが、状況から考えると、成瀬にその行動の源泉が還元されるのです。
ですので、彼女の狡賢さは一見親に対するトラウマから生じたように見えますが、その実それが発揮されているのは常に成瀬との誓約を実現する際に見せており、その源泉も成瀬との誓約に還元される、というのが現在の私の見方です。
参照
杉下の野望の本質
一つは父親への土下座。二つ目は奈央子のボンベに手を掛けた事。
皆さんは杉下のこの行動の源泉をどこに求められているでしょうか?
恐らくは彼女の『生きるためにはなんだってやってやる!』というゆきに対する土下座の後、洋介と食事する際のモノローグに求めていらっしゃると思うんです。
私も当初はそこに求めていました。
ですが、最近は違うな、と思っています。
もし彼女の狡賢さが『生きるためにはなんだってやってやる!』であるなら、もっと違う場面、例えば母親の贅沢発作で支払いに行き詰まり、自分のバイトで貯めた貯金を使わざるを得ない状況に追い込まれた際などに出ていても可笑しくない。でも、杉下は泣く泣くですが、社会的規範にそう形で事を処理している。これが杉下の狡賢さの起源に対する従来の見方に疑義が生じた部分です。
そう考えたとき、杉下がその狡賢さを発揮した状況を見直しました。
最初の父親への土下座は成瀬のNチケットを発見したあとです。このNチケットで杉下の野望の実現は成瀬との誓約になった。つまり、父親への土下座は成瀬との約束を護る為の手段だったわけです。
また、奈央子のボンベに手を掛けたのも、野望『アラブの富豪と出会う』の実現の為に野口家との接点を造る手段です。これも野望の実現が成瀬との誓約であるから彼女の狡賢さが発揮されたと見える。
この行為については後に西崎に自分の親との類似性を口にし、自己嫌悪を見せていますので、自分でも意識していなかったと思うのですが、状況から考えると、成瀬にその行動の源泉が還元されるのです。
ですので、彼女の狡賢さは一見親に対するトラウマから生じたように見えますが、その実それが発揮されているのは常に成瀬との誓約を実現する際に見せており、その源泉も成瀬との誓約に還元される、というのが現在の私の見方です。
参照
杉下の野望の本質
2015年11月11日水曜日
安藤の「そいつと付き合ってるの?」について
安藤が野口家からの帰りに、まだ知らぬ成瀬と杉下との関係を聴きました。
「そいつと付き合ってるの?」
全体を俯瞰すると、スカイローズガーデンの事件は大きな流れとして野口夫妻も含めた6人の運命・必然と感じるのですが、その中に「IF」をいれさ せてもらえるなら、安藤のこの言葉を上げさせてもらいたいと思います。
杉下は間髪いれずに否定しました。
もし彼の問いが「そいつの事、好きなの?」であったなら…
事件は起きなかったと思うのです。
杉下は照れながらもその問いを肯定したはずです。
彼女は西崎も含め自分の過去と感情に嘘をついていません。問われないから話さないだけなのです。「付き合っているのか?」と問われたから、事実と しての「付き合ってない!」を返したに過ぎない。
「そいつの事、好きなの?」彼女がその問いを肯定していれば…
安藤はプロポーズをする気にはならなかったでしょうし、そうなれば野口にもその意向を告げる事もない。野口の杉下の土下座に対する茶化し(安藤に ついていく?)もなく、杉下が野口を挑発する事態にも到らなかった…
これは本当に言葉のあや。微妙な表現の差異です。その差異が杉下の返答を変え、安藤の行動を変えた。杉下はあくまで事実を言った。安藤は『付き 合っていない=恋愛感情はない』と取った。だからプロポーズを画策した。
私がこの表現の差異を取り上げたのは、自分も似た経験があるからです。
ある意味、この時の安藤と杉下以上に複雑なやり取りでした。
私はマリア様に安藤と同じ問いをしました。『付き合っている人はいるの?』
彼女はこう答えました。『想いを寄せてくれる人がいる』
私は彼女にこう言いました。『その人に想いがあるなら、真剣に受け止めるべきだ』
私は彼女の背中を押したのです。自分の本心を殺して。
もし、彼女の答えが『付き合っている人はいない』だったら。
私は彼女に『もう一度付き合いたい』と言ったと思います。
もし、彼女の答えが『付き合っている人がいる』だったら。
私は彼女に『今でも君の事が好きだ』と伝えたと思います。
でも彼女の答えは『想いを寄せてくれる人がいる』でした。
彼女は告白されたのでしょう。そしてそれにまだ答えていない。
自分の時と同じだと思いました。
自分は彼女に思いを告げましたが、結局彼女の気持ちは聴けずじまいだった。
彼女は同じ事を繰り返していると思いました。それはいけない事だと思いました。
そして、そこに自分が介入するのは憚られました。
私は彼女の当時の気持ちが、自分にあって欲しい、と願っていました。
ですが『想いを寄せてくれる人がいる』状態の彼女の感情に介入するのは中学の頃の自分から、彼女の感情を掠め取るように感じたのです。彼女の事を 思って、というより自分から自分が彼女を掠め取る行為に思えた。そしてそれは自分には出来なかった。
彼女の本意はどこにあったのか?彼女の言った事は事実だったのか?
それは判りません。ですがこんな些細な、微妙な言葉の選択でその後の人の行動が決定的に異なる、異なりうるという事を経験した自分にとって、この ときの安藤の問いの言葉に『IF』を投掛けてみたくなります。
「そいつと付き合ってるの?」
全体を俯瞰すると、スカイローズガーデンの事件は大きな流れとして野口夫妻も含めた6人の運命・必然と感じるのですが、その中に「IF」をいれさ せてもらえるなら、安藤のこの言葉を上げさせてもらいたいと思います。
杉下は間髪いれずに否定しました。
もし彼の問いが「そいつの事、好きなの?」であったなら…
事件は起きなかったと思うのです。
杉下は照れながらもその問いを肯定したはずです。
彼女は西崎も含め自分の過去と感情に嘘をついていません。問われないから話さないだけなのです。「付き合っているのか?」と問われたから、事実と しての「付き合ってない!」を返したに過ぎない。
「そいつの事、好きなの?」彼女がその問いを肯定していれば…
安藤はプロポーズをする気にはならなかったでしょうし、そうなれば野口にもその意向を告げる事もない。野口の杉下の土下座に対する茶化し(安藤に ついていく?)もなく、杉下が野口を挑発する事態にも到らなかった…
これは本当に言葉のあや。微妙な表現の差異です。その差異が杉下の返答を変え、安藤の行動を変えた。杉下はあくまで事実を言った。安藤は『付き 合っていない=恋愛感情はない』と取った。だからプロポーズを画策した。
私がこの表現の差異を取り上げたのは、自分も似た経験があるからです。
ある意味、この時の安藤と杉下以上に複雑なやり取りでした。
私はマリア様に安藤と同じ問いをしました。『付き合っている人はいるの?』
彼女はこう答えました。『想いを寄せてくれる人がいる』
私は彼女にこう言いました。『その人に想いがあるなら、真剣に受け止めるべきだ』
私は彼女の背中を押したのです。自分の本心を殺して。
もし、彼女の答えが『付き合っている人はいない』だったら。
私は彼女に『もう一度付き合いたい』と言ったと思います。
もし、彼女の答えが『付き合っている人がいる』だったら。
私は彼女に『今でも君の事が好きだ』と伝えたと思います。
でも彼女の答えは『想いを寄せてくれる人がいる』でした。
彼女は告白されたのでしょう。そしてそれにまだ答えていない。
自分の時と同じだと思いました。
自分は彼女に思いを告げましたが、結局彼女の気持ちは聴けずじまいだった。
彼女は同じ事を繰り返していると思いました。それはいけない事だと思いました。
そして、そこに自分が介入するのは憚られました。
私は彼女の当時の気持ちが、自分にあって欲しい、と願っていました。
ですが『想いを寄せてくれる人がいる』状態の彼女の感情に介入するのは中学の頃の自分から、彼女の感情を掠め取るように感じたのです。彼女の事を 思って、というより自分から自分が彼女を掠め取る行為に思えた。そしてそれは自分には出来なかった。
彼女の本意はどこにあったのか?彼女の言った事は事実だったのか?
それは判りません。ですがこんな些細な、微妙な言葉の選択でその後の人の行動が決定的に異なる、異なりうるという事を経験した自分にとって、この ときの安藤の問いの言葉に『IF』を投掛けてみたくなります。
2015年11月10日火曜日
2015年11月9日月曜日
杉下が希求していたもの
杉下が15年間、求め続けていたもの。それは『Home』。
余命宣告を受けて、成瀬に言った言葉。
『欲しいものはそんなにない…帰る家があって、それを誰にも取られなければ、それでいい』
ささやかであるのに、それでいて未だ手に入らないそれ。
英文科を専攻しながら建築会社へ拘って就職活動したのも、パートナーと住宅設計事務所を立ち上げたのも、誰かがHomeを得る助力をする事がそれを持たない自分にとっての代理行為と感じたから。決して父親の影響ではない。
でもそれが自らのHomeの獲得に繋がるわけも無く、ただひたすらに成瀬の『頑張れ!』を念仏のように唱え続けた。
彼女にとってのHomeは、お城でなく、幽霊屋敷でもない。それらはさざなみの火で焼き払われた。それは素の自分をなんら注文を付けず優しく受け入れてくれる場所。『いつも一緒にいてくれて、嬉しかった』成瀬。
しかしそのHomeたる成瀬が、殊杉下のとことなると簡単に崩れそうな吊橋を渡ってしまう。危険を顧みない。Homeである成瀬を失いたくない、それでいて最後の最後でその成瀬を頼りたくなる衝動。そのジレンマを解消するための『誰にも頼りたくない』
大切なHomeたる成瀬を守るために自らそのHomeと距離を取らざるをえない矛盾。満たされる事のない渇望と罪悪感と苛まれる絶望、限りある寿命。そしてリフレイン。
彼女が最後に望んだものはそんなHomeたる成瀬との奇蹟であったはずなのに、それさえも目の前にすると躊躇せざるを得ない恐れ。『甘えられん』
希求していたものにさえたじろぐ杉下という人物のいじらしさがとても好きです。
余命宣告を受けて、成瀬に言った言葉。
『欲しいものはそんなにない…帰る家があって、それを誰にも取られなければ、それでいい』
ささやかであるのに、それでいて未だ手に入らないそれ。
英文科を専攻しながら建築会社へ拘って就職活動したのも、パートナーと住宅設計事務所を立ち上げたのも、誰かがHomeを得る助力をする事がそれを持たない自分にとっての代理行為と感じたから。決して父親の影響ではない。
でもそれが自らのHomeの獲得に繋がるわけも無く、ただひたすらに成瀬の『頑張れ!』を念仏のように唱え続けた。
彼女にとってのHomeは、お城でなく、幽霊屋敷でもない。それらはさざなみの火で焼き払われた。それは素の自分をなんら注文を付けず優しく受け入れてくれる場所。『いつも一緒にいてくれて、嬉しかった』成瀬。
しかしそのHomeたる成瀬が、殊杉下のとことなると簡単に崩れそうな吊橋を渡ってしまう。危険を顧みない。Homeである成瀬を失いたくない、それでいて最後の最後でその成瀬を頼りたくなる衝動。そのジレンマを解消するための『誰にも頼りたくない』
大切なHomeたる成瀬を守るために自らそのHomeと距離を取らざるをえない矛盾。満たされる事のない渇望と罪悪感と苛まれる絶望、限りある寿命。そしてリフレイン。
彼女が最後に望んだものはそんなHomeたる成瀬との奇蹟であったはずなのに、それさえも目の前にすると躊躇せざるを得ない恐れ。『甘えられん』
希求していたものにさえたじろぐ杉下という人物のいじらしさがとても好きです。
2015年11月8日日曜日
杉下の『みんな、一番大切な人のことだけを考えた』はいつの時点の認識か?
『その時考えていたのは大切な人のことだけだった。その人の未来が明るく幸せであるように。みんな、一番大切な人のことだけを考えた』
九話における杉下のモノローグです。
このモノローグでは、『みんな』と表現されているんですよね。つまりは安藤を含めて、という意味です。杉下は安藤も一番大切な人の未来が明るく幸せであるよう、その人の事だけ考えた、と杉下も取っていたという事です。
ですが杉下は安藤を嫌っていた。安藤の訪問を事件後拒絶しています。安藤の外鍵は中の三人の思惑の一致からこちらから隠蔽を図ったものですが、杉下には安藤が自身の保身からそれに乗ったように見えていたんです。だからこそ彼を拒絶し、そして彼を嫌った。この段階では杉下には、安藤の偽証意図を理解出来ていないはずです。視聴者側でさえ安藤のN=杉下、という安藤の高野への証言に違和感を抱いている人が多いのですから。
でもこれまで検討した通り、安藤の偽証意図は杉下を殺人の嫌疑の外に置く事です。
では最初の杉下のモノローグはいつの時点での彼女の認識を語ったものであったのかと言うと、安藤が杉下へプロポーズした後の段階です。つまり杉下は安藤が当時自分へプロポーズするつもりであった事をしった。好きな人間を嫌疑にさらす事はできない。だから安藤は自分を嫌疑から除外する意図で偽証した、という事に気付いたわけです。
参照
杉下はなぜ事件後、安藤の訪問を拒絶したのか?
『杉下のN=成瀬』説普及短期集中講座 そのⅠ〜11
安藤のNは杉下と言っていいのか? その一〜二
九話における杉下のモノローグです。
このモノローグでは、『みんな』と表現されているんですよね。つまりは安藤を含めて、という意味です。杉下は安藤も一番大切な人の未来が明るく幸せであるよう、その人の事だけ考えた、と杉下も取っていたという事です。
ですが杉下は安藤を嫌っていた。安藤の訪問を事件後拒絶しています。安藤の外鍵は中の三人の思惑の一致からこちらから隠蔽を図ったものですが、杉下には安藤が自身の保身からそれに乗ったように見えていたんです。だからこそ彼を拒絶し、そして彼を嫌った。この段階では杉下には、安藤の偽証意図を理解出来ていないはずです。視聴者側でさえ安藤のN=杉下、という安藤の高野への証言に違和感を抱いている人が多いのですから。
でもこれまで検討した通り、安藤の偽証意図は杉下を殺人の嫌疑の外に置く事です。
では最初の杉下のモノローグはいつの時点での彼女の認識を語ったものであったのかと言うと、安藤が杉下へプロポーズした後の段階です。つまり杉下は安藤が当時自分へプロポーズするつもりであった事をしった。好きな人間を嫌疑にさらす事はできない。だから安藤は自分を嫌疑から除外する意図で偽証した、という事に気付いたわけです。
参照
杉下はなぜ事件後、安藤の訪問を拒絶したのか?
『杉下のN=成瀬』説普及短期集中講座 そのⅠ〜11
安藤のNは杉下と言っていいのか? その一〜二
2015年11月7日土曜日
2015年11月6日金曜日
杉下の『なんで成瀬くんがここにおるん?』の心理 その二
…続き
二つ目は、この言葉から杉下は成瀬が自分との接触を断ったのは、事件処理の偽証(成瀬と杉下は事件前にはあっていなかった。会う関係でない。また相互に偽証をするような関係ではない)を成立させる為ではない、という事を理解していた、という事です。
本来この偽証は西崎の刑さえ確定してしまえば、それ以後も偽装を続ける意味はない。未解決のさざなみとは異なる。ですから西崎の刑が確定後も同じ状態が続いたのは、偽装とは別の意思があったという事であり、それを杉下も判っていた、という事です。
それでは杉下は成瀬の意思をどう取っていたのでしょうか?
もし杉下が成瀬の意思が西崎に関する事項だととっていた場合、成瀬も西崎の出所に併せて何がしか行動をとるだろう、と予測できるはずです。現に杉下自身も西崎も安藤も西崎の出所に併せておとしまえを付ける行動をとっている。ですが杉下の反応を見る限り、成瀬がそのような行動を取るとは予測していない、という事は成瀬の意思は西崎に関してだとは杉下は取っていなかった、という事になります。
そうすると杉下は成瀬の意思は安藤に関する事だととっていたと推測できます。
ズバリ書きます。杉下は成瀬が事件の際の自分の行動を安藤の保護と誤解しかつそれが元で自分は成瀬から嫌われた、と思っていたのです。
なぜ杉下が自分が嫌われた、と思ったのか。それは杉下自身が安藤を嫌ったからです。ですから成瀬が、杉下の行動意思を安藤の保護ととった、と思った杉下は同様に成瀬から嫌われた、と理解していたのです。
では、それはいつ?というと。
明確な論理的説明は難しいのですが、私は二人の手繋ぎの際だと思います。
ですから、杉下の『なんで成瀬くんがここにおるん?』を繰り返した心理は、自分が嫌われたと思っていた成瀬が自分を訪ねてきた事への驚きと戸惑いです。
でも、そう思うと杉下の高野に対する証言が非常に切ないんですよね。
杉下は自分が成瀬から嫌われた、と自覚している。それでもなお、杉下には成瀬が一番の大事で、成瀬のためであれば、どこまでも嘘をつきとうそうとしているんです。
どれほど成瀬という存在が杉下の中で大きな存在であるのか、これに気付いた時、本当に切なかったです。
参照
成瀬の『杉下のN=安藤誤解説』への転向 その1~3
杉下はなぜ事件後、安藤の訪問を拒絶したのか?
fin
二つ目は、この言葉から杉下は成瀬が自分との接触を断ったのは、事件処理の偽証(成瀬と杉下は事件前にはあっていなかった。会う関係でない。また相互に偽証をするような関係ではない)を成立させる為ではない、という事を理解していた、という事です。
本来この偽証は西崎の刑さえ確定してしまえば、それ以後も偽装を続ける意味はない。未解決のさざなみとは異なる。ですから西崎の刑が確定後も同じ状態が続いたのは、偽装とは別の意思があったという事であり、それを杉下も判っていた、という事です。
それでは杉下は成瀬の意思をどう取っていたのでしょうか?
もし杉下が成瀬の意思が西崎に関する事項だととっていた場合、成瀬も西崎の出所に併せて何がしか行動をとるだろう、と予測できるはずです。現に杉下自身も西崎も安藤も西崎の出所に併せておとしまえを付ける行動をとっている。ですが杉下の反応を見る限り、成瀬がそのような行動を取るとは予測していない、という事は成瀬の意思は西崎に関してだとは杉下は取っていなかった、という事になります。
そうすると杉下は成瀬の意思は安藤に関する事だととっていたと推測できます。
ズバリ書きます。杉下は成瀬が事件の際の自分の行動を安藤の保護と誤解しかつそれが元で自分は成瀬から嫌われた、と思っていたのです。
なぜ杉下が自分が嫌われた、と思ったのか。それは杉下自身が安藤を嫌ったからです。ですから成瀬が、杉下の行動意思を安藤の保護ととった、と思った杉下は同様に成瀬から嫌われた、と理解していたのです。
では、それはいつ?というと。
明確な論理的説明は難しいのですが、私は二人の手繋ぎの際だと思います。
ですから、杉下の『なんで成瀬くんがここにおるん?』を繰り返した心理は、自分が嫌われたと思っていた成瀬が自分を訪ねてきた事への驚きと戸惑いです。
でも、そう思うと杉下の高野に対する証言が非常に切ないんですよね。
杉下は自分が成瀬から嫌われた、と自覚している。それでもなお、杉下には成瀬が一番の大事で、成瀬のためであれば、どこまでも嘘をつきとうそうとしているんです。
どれほど成瀬という存在が杉下の中で大きな存在であるのか、これに気付いた時、本当に切なかったです。
参照
成瀬の『杉下のN=安藤誤解説』への転向 その1~3
杉下はなぜ事件後、安藤の訪問を拒絶したのか?
fin
Labels:
『なんで成瀬くんがここにおるん?』,
『成瀬の杉下への怒り決別説』,
杉下,
成瀬
2015年11月5日木曜日
杉下の『なんで成瀬くんがここにおるん?』の心理 その一
成瀬が西崎の連絡を受け、翌日に杉下を訪ねた際の杉下の言葉です。この時杉下は二度この言葉を繰り返します。
なぜこの時杉下は二度この言葉を繰り返したのか?
一度目に関して、成瀬は西崎から住所を聴いた、と答えています。つまり此処にたどり着いた理由を答えた。ですがそれでも杉下は再度同じ言葉を繰り返した。つまり彼女が聞きたかったのは、自分の住所に如何に成瀬がたどり着いた経路ではない訳です。
これをただ単に彼女の驚き、と解釈してしまうと思考停止です。必ず意図がある。では、この時杉下が再度同じ言葉を繰り返した心理はなにか?
彼女の驚きの正体は、成瀬の行動の意図であり、それが彼女の予測を外れたから驚きとなっているのです。つまり、自分を訪ねてくることなどあり得ない、と思っていた成瀬が自分の前に現れた事に対する驚きがこの言葉の繰り返しの杉下の心理なのです。
ここから杉下が事件後、自分と成瀬の関係をどう理解していたか?が推測されます。
一つは、杉下自身は成瀬と接触を持とう、という意思はなかった、という事です。
杉下は西崎が出所した際、彼に対するおとしまえを付けに西崎を訪ねました。それは西崎は杉下には罪を赦してもらうべき相手であるからです。
しかし、もう一人の罪を赦してもらうべき相手である成瀬に対しては、西崎のような対応を取る意思がなかった。だから成瀬が現れた事に驚いたのです。
続く…
なぜこの時杉下は二度この言葉を繰り返したのか?
一度目に関して、成瀬は西崎から住所を聴いた、と答えています。つまり此処にたどり着いた理由を答えた。ですがそれでも杉下は再度同じ言葉を繰り返した。つまり彼女が聞きたかったのは、自分の住所に如何に成瀬がたどり着いた経路ではない訳です。
これをただ単に彼女の驚き、と解釈してしまうと思考停止です。必ず意図がある。では、この時杉下が再度同じ言葉を繰り返した心理はなにか?
彼女の驚きの正体は、成瀬の行動の意図であり、それが彼女の予測を外れたから驚きとなっているのです。つまり、自分を訪ねてくることなどあり得ない、と思っていた成瀬が自分の前に現れた事に対する驚きがこの言葉の繰り返しの杉下の心理なのです。
ここから杉下が事件後、自分と成瀬の関係をどう理解していたか?が推測されます。
一つは、杉下自身は成瀬と接触を持とう、という意思はなかった、という事です。
杉下は西崎が出所した際、彼に対するおとしまえを付けに西崎を訪ねました。それは西崎は杉下には罪を赦してもらうべき相手であるからです。
しかし、もう一人の罪を赦してもらうべき相手である成瀬に対しては、西崎のような対応を取る意思がなかった。だから成瀬が現れた事に驚いたのです。
続く…
Labels:
『なんで成瀬くんがここにおるん?』,
『成瀬の杉下への怒り決別説』,
杉下,
成瀬
2015年11月4日水曜日
【二次作品】成瀬と西崎の会話 その三
…続き
西崎はそれに答えなかった。西崎は話の方向を変えた。
「結局、安藤も含めた俺たちの青春というのは、杉下希美という非常に魅惑的な女性に翻弄されっぱなしの青春だった。そう思うのだが、違うか?」
「あなたが杉下に観たものは何だったんです?」
「母性だ。自分の実の母親についぞ感じることの無かった、俺の中で欠落していた母性だ」
西崎はマフラーに口元を隠すように視線を下に向けた。
「もし、彼女のような人が自分の母親であったなら、自分はどんな人間になっていただろう、そんな事を幾度も考えたよ」
「母親…」
西崎は自嘲気味に続けた。
「可笑しいだろう?自分より年下の女性に、理想の母性を観ていたんだから…君には何が観えた?」
「判りません。自分が何かをしてあげる事で、悲しみの中の彼女が笑ってくれるのであれば、それで良かった。それが自分の勇気の源泉だった」
「君たち二人を見ていて、初めてそのような形の愛が有るんだと思い知ったよ。周りから見ていて、余りにももどかしい愛。それでいて絶対に揺るがない愛」
「ただお互いがその手の事に奥手なだけです。買いかぶりです」
「違うな。杉下には君の存在は絶対なんだ。盲目的とさえ言っていい。あれ程人に頼る事に頑なな杉下が、唯一助けを求める事が出来るのが君だ。君達二人には他のどんな人間にも立ち入れない領域がある」
「それは世間では歪みとかトラウマと言うんですよ。結局俺と杉下、そして西崎さんは似た者同志なんだ」
「安藤くんにはわからんだろうなぁ。我々歪んでいるものの心理は」
高松行きの長距離バスが発着場に入ってきた。待っていた乗客が脇をすり抜けて次々と乗り込む。
「そろそろ時間なんで…行きます」
「あゝ」
乗車口の前まで進み、そのまま乗り込もうとしたが、ちょっと立ち止まって、顔を西崎へ向けた。視線は下に落としたまま、西崎を見なかった。
「杉下には島に一緒に還ろう、と言ってあります。先に島で待っています」
「杉下も追っかけ還るさ…杉下を幸せにしてやってくれ」
その言葉に俺は西崎へ視線を向け、小さく頷いた。
西崎は〝それじゃあ〟と言い残し、踵を返した。俺はバスに乗り込み、フロントガラス越しに遠ざかる西崎の背中を一瞥して、長時間の乗車に備えてバックからカフェオレの缶を二つ出してシートに着いた。
程なくバスは発車した。心の中は複雑だった。新たな出発の地、そして程なく迎える事になるであろう杉下の命の終局の地への旅立ちが自分にとってどんな意味を持つのか、測りかねていた。
fin
西崎はそれに答えなかった。西崎は話の方向を変えた。
「結局、安藤も含めた俺たちの青春というのは、杉下希美という非常に魅惑的な女性に翻弄されっぱなしの青春だった。そう思うのだが、違うか?」
「あなたが杉下に観たものは何だったんです?」
「母性だ。自分の実の母親についぞ感じることの無かった、俺の中で欠落していた母性だ」
西崎はマフラーに口元を隠すように視線を下に向けた。
「もし、彼女のような人が自分の母親であったなら、自分はどんな人間になっていただろう、そんな事を幾度も考えたよ」
「母親…」
西崎は自嘲気味に続けた。
「可笑しいだろう?自分より年下の女性に、理想の母性を観ていたんだから…君には何が観えた?」
「判りません。自分が何かをしてあげる事で、悲しみの中の彼女が笑ってくれるのであれば、それで良かった。それが自分の勇気の源泉だった」
「君たち二人を見ていて、初めてそのような形の愛が有るんだと思い知ったよ。周りから見ていて、余りにももどかしい愛。それでいて絶対に揺るがない愛」
「ただお互いがその手の事に奥手なだけです。買いかぶりです」
「違うな。杉下には君の存在は絶対なんだ。盲目的とさえ言っていい。あれ程人に頼る事に頑なな杉下が、唯一助けを求める事が出来るのが君だ。君達二人には他のどんな人間にも立ち入れない領域がある」
「それは世間では歪みとかトラウマと言うんですよ。結局俺と杉下、そして西崎さんは似た者同志なんだ」
「安藤くんにはわからんだろうなぁ。我々歪んでいるものの心理は」
高松行きの長距離バスが発着場に入ってきた。待っていた乗客が脇をすり抜けて次々と乗り込む。
「そろそろ時間なんで…行きます」
「あゝ」
乗車口の前まで進み、そのまま乗り込もうとしたが、ちょっと立ち止まって、顔を西崎へ向けた。視線は下に落としたまま、西崎を見なかった。
「杉下には島に一緒に還ろう、と言ってあります。先に島で待っています」
「杉下も追っかけ還るさ…杉下を幸せにしてやってくれ」
その言葉に俺は西崎へ視線を向け、小さく頷いた。
西崎は〝それじゃあ〟と言い残し、踵を返した。俺はバスに乗り込み、フロントガラス越しに遠ざかる西崎の背中を一瞥して、長時間の乗車に備えてバックからカフェオレの缶を二つ出してシートに着いた。
程なくバスは発車した。心の中は複雑だった。新たな出発の地、そして程なく迎える事になるであろう杉下の命の終局の地への旅立ちが自分にとってどんな意味を持つのか、測りかねていた。
fin
2015年11月3日火曜日
【二次作品】成瀬と西崎の会話 その二
…続き
西崎がこちらに向かって歩を進めてきた。俺の前に立つ。
「君にとって、愛とはひたすら待つ事なのか?愛とはもっとアクティブなものなのではないのか?相手の意思を無視してでも、強引に自分を押し付ける事が相手の幸せになる時もある。今の杉下はまさにその時なのじゃないのか?」
「それが誰も望まない結末に終わる場合も有りますよ。現に十年前がそうだった」
西崎の痛いところを突いてやった。その怒気を受け流す。
「…君も相変わらず無礼だな」
「別にあなたの事だけを言っている訳じゃ無いですよ。安藤さんも俺も、そして杉下も、皆んながそれぞれ誰かのために動いた結果があの事件で有り、その幕引きとして皆んなががそれぞれのエゴを貫いたが故にあなただけが罪に問われた」
俺は事件の本質に関する持論を打った。
「またその話か。しつこいな君は。そして杉下のエゴは俺だ、と続くんだろう」
西崎が服役している間、府中で何度となく西崎と交わした議論だ。西崎の口調が説得調になった。
「何度でも言うが、杉下はあの時君との関係を再開させるキッカケとして俺に協力したのだし、偽証したのも、君を守るためだ。彼女は俺が偽証を要求しても拒絶した。しかし君の指示は受け入れた。つまり君のためなら偽証出来たということだ。それが全てだよ。君は杉下が作戦に協力した理由を俺に対する愛故だ、言うのだろうが、それは今この段で議論しても意味がない。大事なのは、あの時杉下が誰との未来を思い描いていたか、誰の未来を守りたかったのか、そして今誰がその思いを汲んでやれるのかだと思うが、違うかね?」
「…」
「それは俺ではないし、安藤でもない。君なんだよ、成瀬くん」
俺には事件処理に関して、西崎に対する負い目がある。服役中の西崎を何度も訪ねたのは、そんな心理からだ。
「…俺は自分のエゴのためにあなたを切り捨てた。あなたの論理で言えば、杉下もあなたを切り捨てた事になる…」
「…何が言いたい」
「あなたを切り捨てた杉下を、なぜあなたはそうまでして思いやれるんです?事件の時あなたは杉下を俺に託そうとした。杉下の病気を俺に伝えてきた。そして今もそうだ。…あなたのNは本当に奈央子さんだったんですか?」
俺は事件の日に浮かんだ疑問、府中で議論するたびに大きくなっていった疑問を西崎にぶつけた。
「あなたの本当のNは杉下希美だったのではないんですか?」
続く…
西崎がこちらに向かって歩を進めてきた。俺の前に立つ。
「君にとって、愛とはひたすら待つ事なのか?愛とはもっとアクティブなものなのではないのか?相手の意思を無視してでも、強引に自分を押し付ける事が相手の幸せになる時もある。今の杉下はまさにその時なのじゃないのか?」
「それが誰も望まない結末に終わる場合も有りますよ。現に十年前がそうだった」
西崎の痛いところを突いてやった。その怒気を受け流す。
「…君も相変わらず無礼だな」
「別にあなたの事だけを言っている訳じゃ無いですよ。安藤さんも俺も、そして杉下も、皆んながそれぞれ誰かのために動いた結果があの事件で有り、その幕引きとして皆んなががそれぞれのエゴを貫いたが故にあなただけが罪に問われた」
俺は事件の本質に関する持論を打った。
「またその話か。しつこいな君は。そして杉下のエゴは俺だ、と続くんだろう」
西崎が服役している間、府中で何度となく西崎と交わした議論だ。西崎の口調が説得調になった。
「何度でも言うが、杉下はあの時君との関係を再開させるキッカケとして俺に協力したのだし、偽証したのも、君を守るためだ。彼女は俺が偽証を要求しても拒絶した。しかし君の指示は受け入れた。つまり君のためなら偽証出来たということだ。それが全てだよ。君は杉下が作戦に協力した理由を俺に対する愛故だ、言うのだろうが、それは今この段で議論しても意味がない。大事なのは、あの時杉下が誰との未来を思い描いていたか、誰の未来を守りたかったのか、そして今誰がその思いを汲んでやれるのかだと思うが、違うかね?」
「…」
「それは俺ではないし、安藤でもない。君なんだよ、成瀬くん」
俺には事件処理に関して、西崎に対する負い目がある。服役中の西崎を何度も訪ねたのは、そんな心理からだ。
「…俺は自分のエゴのためにあなたを切り捨てた。あなたの論理で言えば、杉下もあなたを切り捨てた事になる…」
「…何が言いたい」
「あなたを切り捨てた杉下を、なぜあなたはそうまでして思いやれるんです?事件の時あなたは杉下を俺に託そうとした。杉下の病気を俺に伝えてきた。そして今もそうだ。…あなたのNは本当に奈央子さんだったんですか?」
俺は事件の日に浮かんだ疑問、府中で議論するたびに大きくなっていった疑問を西崎にぶつけた。
「あなたの本当のNは杉下希美だったのではないんですか?」
続く…
2015年11月2日月曜日
【二次作品】成瀬と西崎の会話 その一
東京駅八重洲口のバスターミナルに着いた。時刻は二十時十五分を少し廻ったところだ。どれだけも片付いていない荷物を徹夜で梱包して漸く送り出したのが今日の午前中。午後は役所や郵便局、その他諸々の諸手続きをこなして、漸く部屋を出たのが七時近く。部屋の鍵は不動産屋が最後の確認に来た際に引き渡した。
島を出て十五年。途中幾度か住まいを移したが、それでも島にいたのと大差ない時間をこの街で過ごした。島の時間には物心つく前の幼少期も含まれるから、実質的にはこっちでの時間の方が長いと言っていいかもしれない。でも、特別何か思い入れがある訳ではない。多すぎる人、多すぎる車、多すぎる情報、多すぎる明かり、多すぎる情念。何もかもが濃密過ぎる。刺激が多くて飽きない、という意味では若い時分には有難かったけれど、三十も過ぎればそれが絶対的な価値を持ち得ないという事位は判る。今この街を離れ島に戻る事をこの街の人がどう思うか、島の人がどう思うか。人によっては負けて帰った、と取るだろう。ではそう思っている人は勝者なのか?そうではないだろう。人の幸せなど人それぞれ。他人の価値基準で自分を測る事ほど愚かしい事はない。自分には自分の価値基準が有り、その価値基準に沿ったその時々の選択の連続として今がある。そしてそれは死ぬまで続く。死ぬときに、良い人生だったと言えるよう、今とこれからを生きるしか無い。自分はそう信じる。そして杉下にもそうであって欲しい。
「なぜ杉下がいない」
背後から大きな声がした。〝杉下〟という単語に引っ掛かりを覚え、とっさに振り返った先に、西崎が壁に背を預けて立っている。『ああ、面倒くさい奴に捕まった』そう思った。昨日西崎にメールを送ったのを後悔した。そんな気持ちが自分の顔に出たのだろう、西崎は先ほどより明らかに不機嫌そうに語気を強めて言った。
「なぜ杉下を連れていない」
続く…
島を出て十五年。途中幾度か住まいを移したが、それでも島にいたのと大差ない時間をこの街で過ごした。島の時間には物心つく前の幼少期も含まれるから、実質的にはこっちでの時間の方が長いと言っていいかもしれない。でも、特別何か思い入れがある訳ではない。多すぎる人、多すぎる車、多すぎる情報、多すぎる明かり、多すぎる情念。何もかもが濃密過ぎる。刺激が多くて飽きない、という意味では若い時分には有難かったけれど、三十も過ぎればそれが絶対的な価値を持ち得ないという事位は判る。今この街を離れ島に戻る事をこの街の人がどう思うか、島の人がどう思うか。人によっては負けて帰った、と取るだろう。ではそう思っている人は勝者なのか?そうではないだろう。人の幸せなど人それぞれ。他人の価値基準で自分を測る事ほど愚かしい事はない。自分には自分の価値基準が有り、その価値基準に沿ったその時々の選択の連続として今がある。そしてそれは死ぬまで続く。死ぬときに、良い人生だったと言えるよう、今とこれからを生きるしか無い。自分はそう信じる。そして杉下にもそうであって欲しい。
「なぜ杉下がいない」
背後から大きな声がした。〝杉下〟という単語に引っ掛かりを覚え、とっさに振り返った先に、西崎が壁に背を預けて立っている。『ああ、面倒くさい奴に捕まった』そう思った。昨日西崎にメールを送ったのを後悔した。そんな気持ちが自分の顔に出たのだろう、西崎は先ほどより明らかに不機嫌そうに語気を強めて言った。
「なぜ杉下を連れていない」
続く…
2015年11月1日日曜日
杉下の『究極の愛』は『成瀬に対する罪』を杉下自身に対して隠蔽する心理システム
杉下の『究極の愛』は罪の共有であり、これ自体はさざなみの事件処理を契機に杉下に形成されたものです。
一方、彼女の独立心は実はその起源はお城放火未遂の際の『何もいらん』です。この時杉下は自分を救ってくれる存在が成瀬である事を自覚しながら、一方で成瀬が自分のためなら、簡単に崩れそうな吊橋を渡ってしまうのを観た。自分を救う=成瀬が危険を冒す様を見てしまった。だから成瀬を巻き込む事を恐れた杉下は成瀬を遠ざける=『何もいらん』を言わざるを得なくなった。自分を救ってくれると確信した存在を、その存在を護る手段として遠ざけざるを得ないという強烈なジレンマを抱えた。それが翌日のさざなみの火事で成瀬が本当にやった!と誤解した。『大事な場所』に対する同じ感情を共有していた杉下はその導火線は自身のお城放火未遂だという強い後悔=罪を抱え込んでしまったんです。ですから、『何もいらん』がさざなみで『成瀬に対する罪』プラス『成瀬に頼ってはいけない』になり、『成瀬に頼ってはいけない』が『誰にも頼れない』が形成されたた訳です。ですから、彼女の独立心は人を頼る事に対する罪意識及び驚怖なんです。
ですから、以後の杉下の独立心はバルコニーでの『誰にも頼らん』宣言が起源ではなく、この『誰にも頼れん』が起源であり、『究極の愛』とセットなんですね。
で、実は『究極の愛=罪の共有』は杉下の『成瀬に対する罪』を杉下自身から隠蔽するためのものだったと、今は取っています。
頼れる存在に対する、頼る事に対する罪意識。なら、会わなければいい。会わなければ頼る事もないし罪意識を感じる事もない…
こんな強烈なジレンマと自身の後悔及び罪意識から彼女の精神を保護するために『究極の愛=罪の共有』でオブラートしたものなんです。
一方、彼女の独立心は実はその起源はお城放火未遂の際の『何もいらん』です。この時杉下は自分を救ってくれる存在が成瀬である事を自覚しながら、一方で成瀬が自分のためなら、簡単に崩れそうな吊橋を渡ってしまうのを観た。自分を救う=成瀬が危険を冒す様を見てしまった。だから成瀬を巻き込む事を恐れた杉下は成瀬を遠ざける=『何もいらん』を言わざるを得なくなった。自分を救ってくれると確信した存在を、その存在を護る手段として遠ざけざるを得ないという強烈なジレンマを抱えた。それが翌日のさざなみの火事で成瀬が本当にやった!と誤解した。『大事な場所』に対する同じ感情を共有していた杉下はその導火線は自身のお城放火未遂だという強い後悔=罪を抱え込んでしまったんです。ですから、『何もいらん』がさざなみで『成瀬に対する罪』プラス『成瀬に頼ってはいけない』になり、『成瀬に頼ってはいけない』が『誰にも頼れない』が形成されたた訳です。ですから、彼女の独立心は人を頼る事に対する罪意識及び驚怖なんです。
ですから、以後の杉下の独立心はバルコニーでの『誰にも頼らん』宣言が起源ではなく、この『誰にも頼れん』が起源であり、『究極の愛』とセットなんですね。
で、実は『究極の愛=罪の共有』は杉下の『成瀬に対する罪』を杉下自身から隠蔽するためのものだったと、今は取っています。
頼れる存在に対する、頼る事に対する罪意識。なら、会わなければいい。会わなければ頼る事もないし罪意識を感じる事もない…
こんな強烈なジレンマと自身の後悔及び罪意識から彼女の精神を保護するために『究極の愛=罪の共有』でオブラートしたものなんです。
登録:
投稿 (Atom)