彼だ。やはり彼なのだ。杉下を救いうる存在は。
彼は自身の発言どおり、あの時躊躇なく今にも崩れそうな吊橋を渡った。彼がどれ程真実を理解していたのかは判らない。だが杉下を事件の嫌疑がら除外するというたった一つの目標の為、泥を被ることを厭わなかった。たとえそれが杉下との別れとなろうが、彼女を護るという一点の為に自らの欲を簡単に捨て、彼女の為だけに俺との共謀に乗った。恐らく島で苦境にあった杉下を同じように救い出したのだろう。だからこそ杉下の『究極の愛』の相手なのだ。だからこそ、あの杉下が頼る事が出来る相手なのだ。
それは最初から判っていた事だ。でも俺は彼に杉下の病状を伝える事に躊躇した。それは俺が良かれと託したはずの杉下と事件後一切の接触を絶っていたからだ。
彼は時折おれに差し入れをしてくれた。そしてその度におれは杉下の様子を尋ねた。しかし彼は杉下とは一切連絡を取っていない、と答えるだけでその理由も明かすことは無かった。俺は尋ねようにも看守も勿論だが弁護士も含め知られるわけにはいかないから通り一編の問いと要請を繰り返す以外に出来ず、そしてその度に還ってくる答えは同じだった。何が彼と杉下とを遠ざけたのかが皆目検討がつかない。だから俺には彼を動かすことが出来る自信が無かった。だから、杉下の病状を離せば必ず動く事が間違いない安藤に先に声を掛けた。だが駄目だった。安藤では杉下を救うことは出来ない。そう、やはり彼しか残っていないのだ。
彼を動かすことが出来るか?正直に言えば自信はない。しかし俺は話せる事全てを彼に伝え、彼を説得する以外に残された手はない。そして…
続く…
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