…続き
杉下の島での過去とは相容れない行動を取ろうとする西崎へ、決して積極的ではないものの彼に有益な情報を流し、俺に遠慮しつつも作戦への協力の再考については感謝する杉下…
…杉下は西崎を愛しているんだ。島での忌まわしい記憶を呼び覚ますような西崎の行動に協力するのは、それは西崎に対する愛で無ければ合理化出来ない。杉下が追われた自宅に火をつけようとした時、俺が代わりに火を付けようとした。相手が杉下で無ければそんな事できる筈かない。愛するがゆえに自らのルール、倫理を逸脱する行動。杉下は西崎を愛している…そして西崎はそれを知らない。
もうあれから四年経つ。その間彼女とは接点がなかった。島を出るときお互いに『頑張れ!』と声を掛け合ったけれど、それっきり。親父の葬式の時に顔を見せてくれたけれども、この前島で話したのが唯一の会話だ。その間に世間を知り、新しい友人が出来、その中で新たな恋が始まる、といった事はごく自然な事だ。何らおかしな事じゃない。俺はそれをどうのこうの何かを言える立場ではない。
杉下、綺麗だったよなあ。島にいた頃より垢抜けて、表情も穏やかになって、笑顔にも陰りを感じなくなった。島を出てからきっと良い人間関係に恵まれたんだろうな。四年は…永いな。
俺の四年は何だったんだろう。奨学金のために勉強して、生活のためにバイトして。何のためにそこにいるのかがわからなくなっていた。そこに親父の死。もう何もかもどうでもよくなった。意志もなく善悪の判断さえ放棄して詐欺の片棒まで担いだ。俺は堕ちた。もし、あの時杉下を頼っていたら…彼女はどう反応しただろう。でも結局それは出来なかった。親父が原因の事で杉下を頼る事は出来なかった。やはり仕方のない事だったんだろう。
俺はどうしよう。俺はどうしたい?
料理を人助けの道具になんか出来ない。そんな事したら親父に殴られる。でも、今こうして料理に携わる事が出来ているのは杉下のお陰だ。彼女は俺の恩人だ。それに俺は今でも彼女の事が好きだ。俺は彼女の恩に何かむくいる事が出来ているか?何も出来ていないじゃないか。彼女が彼女の片思いの相手の事を想って、自らの過去を乗り越えようとしているのなら、そしてそのために俺の協力が必要であるなら、それに答えるのは俺の責務なんじゃないか?そして…それで杉下の笑顔が見れるなら…俺はそれで満足するべきなんだろうな。かつての友人として。
彼女に連絡しよう。作戦に協力すると。
でも、今彼女の声を聴くのは辛い。泣いてしまいそうだ。返事はメールでする事にしよう。
fin
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