2015年12月16日水曜日

【二次作品】西崎の判断 その九

…続き

 なに?お前は何を言っている?杉下のNは俺だと?何を寝ぼけたことを…。急に腹が立ってきた。

“杉下があなたに協力したのも、偽証を受入れたのも、杉下のNがあなただからですよ。だから、杉下を救えるのは俺じゃない。…あなたです”
「違う!それは違うぞ、成瀬くん。まさか君が杉下と接触を絶ったのはそれが理由か?」
“…きっかけは別にありますが、そう思って貰っても間違いじゃない”
「杉下の中に君以外の人間などいない。杉下にとって君の存在は絶対なんだ。彼女はあの時君に助けを求めた。俺は杉下が誰かに頼ろうとしたのを始めて見た。以前母親が彼女を訪ねてきた事がある。その時彼女が自身の過去を少しだけ明かした。彼女は『助けて』と言いたかったのに、助けを求める事が出来なかったそうだ。その助けを求めようとした相手と罪を共有した。その罪の共有相手が彼女の『究極の愛』の相手だ。『相手の罪を共有して、黙って身を引く』。それが彼女の『究極の愛』であり、その相手は君だ」

 携帯の向こうの成瀬は答えない。

「作戦に協力したのは、君との関係を再開させる為だ。事件の偽証もそうだ。君が部屋に入る前、俺は杉下に偽証を要求したが彼女はそれを拒絶した。しかし君の指示は受入れた。つまり入室する事で当事者の一人となった君を護る為であるなら、その為であれば彼女は偽証できたという事だ。彼女が偽証した理由は俺ではない。かつて彼女が罪を共有した君を、その罪から遠ざけるためだ」

 俺はボロボロと涙を流しながら懇願していた。杉下を救う事が出来るなら、彼が動いてくれるなら自分の体裁などどうでもよかった。
 
「かつて君は俺に『杉下が呼ぶなら、今にも崩れそうな吊橋でも渡る』と言った。そして実際に渡った。頼む、頼むからもう一度その吊橋を渡って、杉下を救ってやってくれ。それが出来るのは君しかいないんだ!」

 暫くの沈黙の後、無言のまま通話は切られた。
 
fin

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