2015年12月8日火曜日

【二次作品】西崎の判断 その一

 親父にこれまでの事について頭を下げてきた。あんな事があったにも関わらず家に俺を上げ、『たまには帰って来い』とまで言われた。あの厳格な父親の事だ。俺はてっきり母親と同じく勘当を言い渡されるものだと思っていた。野原の爺さんからは『頭を下げてくればいい』と言われて出てきたものの、頭を下げることさえ許されないだろうと思っていたから、以外な反応だった。やはり俺の事で何がしか考える事があったのか、それとも単に歳なだけか。それは判らんがどうやら自分はまだ一人ぼっちではなさそうだ。母親と一緒だった時でさえ、いつも一人ぼっちだと思っていたのに。
 親父は母親に俺を渡した事を悔いていたようだ。それについては多少自分の中でも親父に対して嬉しい感情を持った。しかしそれと同じだけの母親に対する弁護の気持ちも起きた。俺に対するDVの事実があったにせよ、俺は今この時を生きている。

「それでも、育ててくれましたから」

 この言葉を自ら言った時、急に心が軽くなった気がする。俺は漸く母親を赦す事が出来た。母親を見殺しにした罪の意識から服役を自ら望んだものの、やはり自分は母親に対して何かを抱えたままだった事は自覚していた。そしてそれは父親に対しても同じだった。俺は母親と父親を赦していなかった。でもこの言葉が自然と口にでた時、俺は漸く二十数年掛かって二人に対する蟠りを解くことができたんだと気付いた。今となっては、もうそれだけで十分だ。
 結局親父は俺と視線を合わすことは無く、ずっと碁盤を見つめていたままだったが、それは親父の照れ隠しなのだろう。俺や母親の事を含め周囲から色々と言われたはずだ。それでも『たまには帰って来い』という言葉に、俺は親父の中に様々な感情を観、そしてその中の一部に俺が親父から赦された、という意味を見出す事にした。今度来る時は囲碁も覚えてこようか、と思った。

続く…

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