店がオープンして三日。シフト間の引き継ぎを兼ねたスタッフミーティングも終わって、さあ、帰ろうとスタッフ用出入口から店を出た時、シェフから呼び止められた。
〝お願いがあるんやけど〟
〝名前は杉下希美。女性。歳は俺と同い年やけん、三十二。身長は俺よりちょっと低いくらいやから女性としては随分高い方〟
〝その人が俺を訪ねてくるなり、泊まりの手続きするなりがあれば、真っ先に教えて〟
〝休みの日でもなんでも直ぐ飛んで来るけん、待たしとって〟
なんだか随分とおずおずとした物言いだ。明らかに厨房で料理に向かう時の表情とは異なる。
「その方、杉下さんはシェフの彼女さんですか?」ちょっと茶化してみた。
「付きおうとるんなら、こんな事頼まん。電話の一本で用が足りる。そうやないから頼んどる」
「じゃあ、どんな関係なんです?」
「幼馴染みや。去年の年末に十年ぶりに会って…一緒に島に還らんか誘った」
え?幼馴染みに一緒に島に帰らないか誘った、って…
私の心の中で急に波風が強くなった。
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