…続き
そうすると一番難しいのは何気に西崎が予定通り奈央子を連出した後といえます。
この場合、どう展開するか
予定では成瀬が到着するのは西崎が連出した後。成瀬が到着する前か、若しくはその後かは別としても、いずれ野口は奈央子不在に気付く。
仮に奈央子不在の理由に野口が気付かず、奈央子を暫く待つ、という事であれば成瀬は食事会の準備を淡々と進める。この限りにおいて、彼は野口宅に 居続ける事が出来る。
問題は野口が奈央子の連出しに気付いた場合です。そしてどこかでそれはやって来る。このときにどう振舞うか?
この時、成瀬としてはそれ以上野口宅に留まる理由はない。自然に振舞うなら彼はその後を安藤に託して野口宅を去るのが道理。でも杉下は野口及び安 藤の関係性から成瀬と一緒に野口宅を離れる、というのは不自然。まして野口がその後に共謀の可能性に気付いた時その向け先が杉下となる可能性はゼ ロではない。
そうすると、成瀬としては杉下を自分から離す展開は避けたいと考えると思うのです。
もう一つは安藤と野口の関係についてです。
杉下は安藤を巻き込みたくない、と考えていた。作戦の展開次第でどのように転ぶかは不明でありつつ、安藤を野口の攻撃対象から除外するには野口の 前で安藤が作戦に無関係である事を宣言するのが一番効果的です。そうであれば仮に野口のDVの立証に不調を来しても、安藤が会社に対して三人によ る計画を理由に野口の不当な攻撃を事前に防止する口実を作ってやる事が出来る。
そして最後の一つが自分と杉下の関係性です。
杉下と安藤を野口宅に残すと安藤が杉下にプロポーズする機会を残す事になる。杉下の気持ちは見えないけれど、安藤に勝ちうるとすると、シャルティ ヒロタのオーナーの弁の通り『言ったもん勝ち』の状況を作りたい。そうすると確実に安藤のプロポーズ機会を潰したい。
以上を考慮すると、成瀬としては確実に杉下を野口の下から隔離し、安藤の地位保全に配慮し、且つ安藤とのプロポーズ競争に勝ちうるポジションを得 るには、野口、安藤、杉下の前で、成瀬自身が西崎・杉下・自分による作戦の暴露が一番効果的、となると思うのです。
ですので、巷で期待されている『成瀬の起死回生の一手』とは成瀬による作戦暴露であり車中で考えていたのは、この事ではないか?と推理しました。
2015年12月30日水曜日
2015年12月29日火曜日
成瀬が車中で考えていた事は野口への作戦ばらしだった? その一
一つ面白い事を思いつきました。成瀬が野口宅へ向かう車中で考えていた事です。
このシーンについては従来私は安藤に対抗して杉下へプロポーズすべきか?その際さざなみの真相を杉下に話した時、杉下はどう反応するか?について 考えていたと思っていたんです。
ですが、N研でひまわりさんやしのぶさんと作戦の安藤への影響とそれについての展開をここのところ議論していて、今日ひらめいた事があります。
それは成瀬自身が作戦をどう終結させようと考えていたか?です。
実は作戦会議において、ここは殆ど議論されていません。作戦会議で出ていたのはせいぜいが、『野口が成瀬くんに八つ当たりしたら…』くらいのもの で、西崎が奈央子を連出した後の展開と現場からの離脱については未規定なんですね。西崎は完全に成瀬と杉下だのみですし、杉下はあまりこの手の先 を読む、という事にうとい。結局ここの部分は成瀬だのみの状態です。
物語が結局は心中となり、はっきり言ってしまえばここの部分ってまったくストーリー展開に影響を与えないのですが、ひょっとしたら、ここの解釈で その後のエピソードの見え方が変わるかも、と想い検討してみます。
仮に成瀬が作戦の終結方法を考えていたとして、どういうシチュエーションを想定したか?ですが、これは西崎が無事奈央子を連れ出した場合のみ、と 思っていいと思います。
西崎自身が奈央子が外に出る事を嫌がる可能性を口にしますが、それは成瀬には伝わっていない。西崎から伝わっていない状況を成瀬が想定するのはな い、と思っていいでしょう。同様に連出しに失敗する、という状況も想定していなかったはずです。この場合は西崎が室内で野口と対峙している状況が 予想されますから、それを見守り、仮に野口が手を挙げれば警察を呼ぶ、という考えで方が付く。
続く…
このシーンについては従来私は安藤に対抗して杉下へプロポーズすべきか?その際さざなみの真相を杉下に話した時、杉下はどう反応するか?について 考えていたと思っていたんです。
ですが、N研でひまわりさんやしのぶさんと作戦の安藤への影響とそれについての展開をここのところ議論していて、今日ひらめいた事があります。
それは成瀬自身が作戦をどう終結させようと考えていたか?です。
実は作戦会議において、ここは殆ど議論されていません。作戦会議で出ていたのはせいぜいが、『野口が成瀬くんに八つ当たりしたら…』くらいのもの で、西崎が奈央子を連出した後の展開と現場からの離脱については未規定なんですね。西崎は完全に成瀬と杉下だのみですし、杉下はあまりこの手の先 を読む、という事にうとい。結局ここの部分は成瀬だのみの状態です。
物語が結局は心中となり、はっきり言ってしまえばここの部分ってまったくストーリー展開に影響を与えないのですが、ひょっとしたら、ここの解釈で その後のエピソードの見え方が変わるかも、と想い検討してみます。
仮に成瀬が作戦の終結方法を考えていたとして、どういうシチュエーションを想定したか?ですが、これは西崎が無事奈央子を連れ出した場合のみ、と 思っていいと思います。
西崎自身が奈央子が外に出る事を嫌がる可能性を口にしますが、それは成瀬には伝わっていない。西崎から伝わっていない状況を成瀬が想定するのはな い、と思っていいでしょう。同様に連出しに失敗する、という状況も想定していなかったはずです。この場合は西崎が室内で野口と対峙している状況が 予想されますから、それを見守り、仮に野口が手を挙げれば警察を呼ぶ、という考えで方が付く。
続く…
2015年12月21日月曜日
スカイローズガーデンで杉下が成瀬を頼った理由
スカイローズガーデンで杉下が成瀬を頼った理由、事情について違和感というか疑念を持たれている方が以外と多いようです。
恐らく二つの要因から来ているものと思われます
一つ目
お城放火未遂では『俺に何が出来る?』という成瀬の問いかけに『何もいらん』と拒絶したのに、スカイローズガーデンでは成瀬を引き込んだ、という二つの事件における対応の違い
二つ目
成瀬が杉下の保護意図の相手(この論考ではスカイローズガーデンでの杉下のN=成瀬です)であれば、なぜ成瀬に助けを求めたのか?むしろ成瀬を部屋へ引き込まず成瀬以外に連絡をしたほうがよかったのではないか?
特に二番目の論点は安藤派の論拠の一部になっていますよね。だからスカイローズガーデンでの杉下のNは成瀬ではない、という。
そこで、この問題を改めて考えました。で、結論から言えばスカイローズガーデンでの四人の取引が成立した理由が援用で理解出来ます。
杉下が外部と連絡をとる候補としては成瀬以外に三者が挙げられます。
一つ目は警察。二つ目はコンシェルジュ。三つ目が安藤です。
最初の警察についてですが、これはほぼ四人による取引に関する思惑の援用で理解できます。
警察に連絡をとった場合、外鍵が掛かっている事を直接的に知る事になりますから、警察は密室内での殺人事件として捜査する。夫妻の心中と主張しても取り合わない。当然だれが鍵を掛けたかが問われ、杉下にも安藤が鍵を掛けた事は濃厚である事が判っている(救急を呼ぶ際に途中でやめた)。鍵が掛かっている事を警察が直接しる限りにおいて安藤は言い逃れは出来ない。安藤が計画の存在を証言しうる存在であり、杉下と成瀬の関係が辿られ結局は成瀬もさざなみ炎上の容疑者として蒸し返される。
二つめのコンシェルジュの場合は、そのまま警察へ連絡した場合と全く同じ。
ここまでの状況は警察が直接的に鍵が掛かっていた状況を知ると結局は成瀬も護れないという事。つまり成瀬を保護したくとも、鍵が掛かっていた事実を警察が直接知ると、いかなる言い逃れも出来なくなる、という事なんです。
では安藤はどうか?
安藤は杉下が陥っている状況を作り出した張本人である事が濃厚な人物。その状況を抜け出す為に頼る人物としては杉下には選択出来ない存在なんです。
つまり、成瀬以外には選択肢が存在しないんです。偽証の受入れはまた別としても、成瀬が鍵を外す事が杉下には成瀬を守るための唯一の可能性であり、あのタイミングで成瀬を頼らないと、家局は安藤が部屋に現れる事になりますから、時間との勝負だったんです。
参照
『杉下のN=成瀬』説普及短期集中講座 その4~5
恐らく二つの要因から来ているものと思われます
一つ目
お城放火未遂では『俺に何が出来る?』という成瀬の問いかけに『何もいらん』と拒絶したのに、スカイローズガーデンでは成瀬を引き込んだ、という二つの事件における対応の違い
二つ目
成瀬が杉下の保護意図の相手(この論考ではスカイローズガーデンでの杉下のN=成瀬です)であれば、なぜ成瀬に助けを求めたのか?むしろ成瀬を部屋へ引き込まず成瀬以外に連絡をしたほうがよかったのではないか?
特に二番目の論点は安藤派の論拠の一部になっていますよね。だからスカイローズガーデンでの杉下のNは成瀬ではない、という。
そこで、この問題を改めて考えました。で、結論から言えばスカイローズガーデンでの四人の取引が成立した理由が援用で理解出来ます。
杉下が外部と連絡をとる候補としては成瀬以外に三者が挙げられます。
一つ目は警察。二つ目はコンシェルジュ。三つ目が安藤です。
最初の警察についてですが、これはほぼ四人による取引に関する思惑の援用で理解できます。
警察に連絡をとった場合、外鍵が掛かっている事を直接的に知る事になりますから、警察は密室内での殺人事件として捜査する。夫妻の心中と主張しても取り合わない。当然だれが鍵を掛けたかが問われ、杉下にも安藤が鍵を掛けた事は濃厚である事が判っている(救急を呼ぶ際に途中でやめた)。鍵が掛かっている事を警察が直接しる限りにおいて安藤は言い逃れは出来ない。安藤が計画の存在を証言しうる存在であり、杉下と成瀬の関係が辿られ結局は成瀬もさざなみ炎上の容疑者として蒸し返される。
二つめのコンシェルジュの場合は、そのまま警察へ連絡した場合と全く同じ。
ここまでの状況は警察が直接的に鍵が掛かっていた状況を知ると結局は成瀬も護れないという事。つまり成瀬を保護したくとも、鍵が掛かっていた事実を警察が直接知ると、いかなる言い逃れも出来なくなる、という事なんです。
では安藤はどうか?
安藤は杉下が陥っている状況を作り出した張本人である事が濃厚な人物。その状況を抜け出す為に頼る人物としては杉下には選択出来ない存在なんです。
つまり、成瀬以外には選択肢が存在しないんです。偽証の受入れはまた別としても、成瀬が鍵を外す事が杉下には成瀬を守るための唯一の可能性であり、あのタイミングで成瀬を頼らないと、家局は安藤が部屋に現れる事になりますから、時間との勝負だったんです。
参照
『杉下のN=成瀬』説普及短期集中講座 その4~5
2015年12月20日日曜日
【二次作品】成瀬の再考 その二
…続き
杉下の島での過去とは相容れない行動を取ろうとする西崎へ、決して積極的ではないものの彼に有益な情報を流し、俺に遠慮しつつも作戦への協力の再考については感謝する杉下…
…杉下は西崎を愛しているんだ。島での忌まわしい記憶を呼び覚ますような西崎の行動に協力するのは、それは西崎に対する愛で無ければ合理化出来ない。杉下が追われた自宅に火をつけようとした時、俺が代わりに火を付けようとした。相手が杉下で無ければそんな事できる筈かない。愛するがゆえに自らのルール、倫理を逸脱する行動。杉下は西崎を愛している…そして西崎はそれを知らない。
もうあれから四年経つ。その間彼女とは接点がなかった。島を出るときお互いに『頑張れ!』と声を掛け合ったけれど、それっきり。親父の葬式の時に顔を見せてくれたけれども、この前島で話したのが唯一の会話だ。その間に世間を知り、新しい友人が出来、その中で新たな恋が始まる、といった事はごく自然な事だ。何らおかしな事じゃない。俺はそれをどうのこうの何かを言える立場ではない。
杉下、綺麗だったよなあ。島にいた頃より垢抜けて、表情も穏やかになって、笑顔にも陰りを感じなくなった。島を出てからきっと良い人間関係に恵まれたんだろうな。四年は…永いな。
俺の四年は何だったんだろう。奨学金のために勉強して、生活のためにバイトして。何のためにそこにいるのかがわからなくなっていた。そこに親父の死。もう何もかもどうでもよくなった。意志もなく善悪の判断さえ放棄して詐欺の片棒まで担いだ。俺は堕ちた。もし、あの時杉下を頼っていたら…彼女はどう反応しただろう。でも結局それは出来なかった。親父が原因の事で杉下を頼る事は出来なかった。やはり仕方のない事だったんだろう。
俺はどうしよう。俺はどうしたい?
料理を人助けの道具になんか出来ない。そんな事したら親父に殴られる。でも、今こうして料理に携わる事が出来ているのは杉下のお陰だ。彼女は俺の恩人だ。それに俺は今でも彼女の事が好きだ。俺は彼女の恩に何かむくいる事が出来ているか?何も出来ていないじゃないか。彼女が彼女の片思いの相手の事を想って、自らの過去を乗り越えようとしているのなら、そしてそのために俺の協力が必要であるなら、それに答えるのは俺の責務なんじゃないか?そして…それで杉下の笑顔が見れるなら…俺はそれで満足するべきなんだろうな。かつての友人として。
彼女に連絡しよう。作戦に協力すると。
でも、今彼女の声を聴くのは辛い。泣いてしまいそうだ。返事はメールでする事にしよう。
fin
杉下の島での過去とは相容れない行動を取ろうとする西崎へ、決して積極的ではないものの彼に有益な情報を流し、俺に遠慮しつつも作戦への協力の再考については感謝する杉下…
…杉下は西崎を愛しているんだ。島での忌まわしい記憶を呼び覚ますような西崎の行動に協力するのは、それは西崎に対する愛で無ければ合理化出来ない。杉下が追われた自宅に火をつけようとした時、俺が代わりに火を付けようとした。相手が杉下で無ければそんな事できる筈かない。愛するがゆえに自らのルール、倫理を逸脱する行動。杉下は西崎を愛している…そして西崎はそれを知らない。
もうあれから四年経つ。その間彼女とは接点がなかった。島を出るときお互いに『頑張れ!』と声を掛け合ったけれど、それっきり。親父の葬式の時に顔を見せてくれたけれども、この前島で話したのが唯一の会話だ。その間に世間を知り、新しい友人が出来、その中で新たな恋が始まる、といった事はごく自然な事だ。何らおかしな事じゃない。俺はそれをどうのこうの何かを言える立場ではない。
杉下、綺麗だったよなあ。島にいた頃より垢抜けて、表情も穏やかになって、笑顔にも陰りを感じなくなった。島を出てからきっと良い人間関係に恵まれたんだろうな。四年は…永いな。
俺の四年は何だったんだろう。奨学金のために勉強して、生活のためにバイトして。何のためにそこにいるのかがわからなくなっていた。そこに親父の死。もう何もかもどうでもよくなった。意志もなく善悪の判断さえ放棄して詐欺の片棒まで担いだ。俺は堕ちた。もし、あの時杉下を頼っていたら…彼女はどう反応しただろう。でも結局それは出来なかった。親父が原因の事で杉下を頼る事は出来なかった。やはり仕方のない事だったんだろう。
俺はどうしよう。俺はどうしたい?
料理を人助けの道具になんか出来ない。そんな事したら親父に殴られる。でも、今こうして料理に携わる事が出来ているのは杉下のお陰だ。彼女は俺の恩人だ。それに俺は今でも彼女の事が好きだ。俺は彼女の恩に何かむくいる事が出来ているか?何も出来ていないじゃないか。彼女が彼女の片思いの相手の事を想って、自らの過去を乗り越えようとしているのなら、そしてそのために俺の協力が必要であるなら、それに答えるのは俺の責務なんじゃないか?そして…それで杉下の笑顔が見れるなら…俺はそれで満足するべきなんだろうな。かつての友人として。
彼女に連絡しよう。作戦に協力すると。
でも、今彼女の声を聴くのは辛い。泣いてしまいそうだ。返事はメールでする事にしよう。
fin
2015年12月19日土曜日
【二次作品】成瀬の再考 その一
純粋に酔う事だけを目的に飲むのだとしたら、バーボンが一番だ。
ビールにはつまみが必須だし、ワインや日本酒は一緒に食べる食事が欠かせない。紹興酒やウォッカは一人で飲むイメージは湧いてこない。スコッチならカウンターが欲しい。そうやって消去法で候補を消していったら、狭いワンルームの独身男が部屋で一人かっ喰らう酒としてバーボンが残った。
一緒に買ってきたかち割り氷をグラスに足し、上からドクドクと注ぐ。時々氷がミシ、と鳴ってヒビが入る。その音が妙に今の自分の心を表しているようで、なぜか心地よい。自分でもどうかしてると思うのだが、心象世界が現実世界に降りてきたような感じで、とにかく酔いの回ってきた頭には小気味いい。
ボトルが半分位まで減って、もうそろそろ空も白み始める時刻だというのに、その間俺は何を考えていた?あぁ、確か杉下の事だ。杉下に約束したんだ。
「考える」
そう杉下に言ったものの、自分は何を考えようというのか?将棋の事?いや、それは付け足しの様なものだ。本論はそっちじゃ無い。
多分俺が本当に考えないといけないのは作戦の事。本来なら、こんな事考える必要も無い事だ。俺が料理に携わるのは、近しい人同士が楽しい時間と思い出を共有してもらうためであって、人助けのためでは無い。だから西崎にもそう言って断った。だけれどもそれでもなお考えざるを得ないのは、この件に杉下が噛んでいるからだ。
杉下は西崎に協力したがっているように見える。俺が作戦に参加する事に対しては消極的ではあるものの、それでも拒絶するというふうでも無い。そもそも俺が野口氏なる人物の贔屓のレストランで働いているという情報を西崎に伝えている時点で俺の作戦への協力を期待してる事になる。
でも西崎がやろうとしている事は…
西崎がやろうとしているのは夫婦関係にある男女間に第三者が恋愛感情を持って夫婦を引き離す介入行為だ。それを『略奪』というのか『救出』というのかは立場の差でしか無い。しかし杉下が島で苦労したきっかけはまさにその『第三者が恋愛感情を持って夫婦を引き離す介入行為』じゃないか。西崎は杉下の親父さんの愛人と同じ立場だ。そんな西崎になぜ杉下は協力しようとする?
DVを受けているという野口氏の婦人、奈央子さんに対する同情?確かに優しい性格の杉下らしいように見える。杉下自身も奈央子さんと近しい様だ。もともと奈央子さんを救いたいという思いがあったところに西崎と奈央子さんの関係を知って二人の利益が一致したが故の協力、という見方も出来なくはない。
だが、今日の様子ではどうも西崎が計画の主導者だ。俺への協力の依頼に杉下の強い意志は感じられない。雰囲気としては『本意ではない協力』。
本意ではない、というのはやはり親父さんに関する記憶だろう。決して愉快なものではないはずだ。それでもなお西崎へ協力しようとするのは?杉下と西崎の関係性か?
二人の関係性というとそれは何だ?杉下は何か西崎に弱みを握られている?いや弱みを握られているような相手なら、今回はこちらが弱みを握れる立場になり得るのだから、逆に杉下がこの件では優位になれる筈だ。それに二人の会話を聞く限りそのような関係性とは思えない。とすると…
続く…
ビールにはつまみが必須だし、ワインや日本酒は一緒に食べる食事が欠かせない。紹興酒やウォッカは一人で飲むイメージは湧いてこない。スコッチならカウンターが欲しい。そうやって消去法で候補を消していったら、狭いワンルームの独身男が部屋で一人かっ喰らう酒としてバーボンが残った。
一緒に買ってきたかち割り氷をグラスに足し、上からドクドクと注ぐ。時々氷がミシ、と鳴ってヒビが入る。その音が妙に今の自分の心を表しているようで、なぜか心地よい。自分でもどうかしてると思うのだが、心象世界が現実世界に降りてきたような感じで、とにかく酔いの回ってきた頭には小気味いい。
ボトルが半分位まで減って、もうそろそろ空も白み始める時刻だというのに、その間俺は何を考えていた?あぁ、確か杉下の事だ。杉下に約束したんだ。
「考える」
そう杉下に言ったものの、自分は何を考えようというのか?将棋の事?いや、それは付け足しの様なものだ。本論はそっちじゃ無い。
多分俺が本当に考えないといけないのは作戦の事。本来なら、こんな事考える必要も無い事だ。俺が料理に携わるのは、近しい人同士が楽しい時間と思い出を共有してもらうためであって、人助けのためでは無い。だから西崎にもそう言って断った。だけれどもそれでもなお考えざるを得ないのは、この件に杉下が噛んでいるからだ。
杉下は西崎に協力したがっているように見える。俺が作戦に参加する事に対しては消極的ではあるものの、それでも拒絶するというふうでも無い。そもそも俺が野口氏なる人物の贔屓のレストランで働いているという情報を西崎に伝えている時点で俺の作戦への協力を期待してる事になる。
でも西崎がやろうとしている事は…
西崎がやろうとしているのは夫婦関係にある男女間に第三者が恋愛感情を持って夫婦を引き離す介入行為だ。それを『略奪』というのか『救出』というのかは立場の差でしか無い。しかし杉下が島で苦労したきっかけはまさにその『第三者が恋愛感情を持って夫婦を引き離す介入行為』じゃないか。西崎は杉下の親父さんの愛人と同じ立場だ。そんな西崎になぜ杉下は協力しようとする?
DVを受けているという野口氏の婦人、奈央子さんに対する同情?確かに優しい性格の杉下らしいように見える。杉下自身も奈央子さんと近しい様だ。もともと奈央子さんを救いたいという思いがあったところに西崎と奈央子さんの関係を知って二人の利益が一致したが故の協力、という見方も出来なくはない。
だが、今日の様子ではどうも西崎が計画の主導者だ。俺への協力の依頼に杉下の強い意志は感じられない。雰囲気としては『本意ではない協力』。
本意ではない、というのはやはり親父さんに関する記憶だろう。決して愉快なものではないはずだ。それでもなお西崎へ協力しようとするのは?杉下と西崎の関係性か?
二人の関係性というとそれは何だ?杉下は何か西崎に弱みを握られている?いや弱みを握られているような相手なら、今回はこちらが弱みを握れる立場になり得るのだから、逆に杉下がこの件では優位になれる筈だ。それに二人の会話を聞く限りそのような関係性とは思えない。とすると…
続く…
2015年12月18日金曜日
野望と『成瀬を頼れん』の関係
ゴンドラ以降、杉下に『成瀬を頼れん(禁止)』の心理が見られない事について思考を巡らせていたんですが、漸く解決がつきました。結局、この『成瀬を頼れん(禁止)』も『究極の愛』と紐付いている事がわかりました。
『成瀬を頼れん(禁止)』と『究極の愛』は成立は異なりますが、実質一体化していたんです。『究極の愛』が成瀬との接触を抑制する心理システムですから、成瀬と接触しなければ『成瀬を頼る』事もない。ですから『究極の愛』が杉下の表層心理上、『成瀬を頼れん(禁止)』を隠蔽していた事になります。
ですからゴンドラで野望が実現する事で『究極の愛』が成瀬に対して効かなくなると、この『成瀬を頼れん(禁止)』も効かなくなった。この『成瀬を頼れん(禁止)』が『誰にも頼らん(意志)』の根源ですから、他の人物への依存への抑制もはずれることになった。
それが安藤に対する『捕まってていい?』で有り就職に関しての奈央子のへの答『どこもダメだったら(野口に相談する)』の発言になっている。
そう考えると、ゴンドラで杉下の世界観が変わり、彼女が自分の限界を自覚したのは、景色を見て、ではなく野望実現によりこの『誰にも頼らん(意志)』が解消したが故、という見方も出来るんです。
参照
杉下の『究極の愛』の時間条件
『成瀬を頼れん(禁止)』と『究極の愛』は成立は異なりますが、実質一体化していたんです。『究極の愛』が成瀬との接触を抑制する心理システムですから、成瀬と接触しなければ『成瀬を頼る』事もない。ですから『究極の愛』が杉下の表層心理上、『成瀬を頼れん(禁止)』を隠蔽していた事になります。
ですからゴンドラで野望が実現する事で『究極の愛』が成瀬に対して効かなくなると、この『成瀬を頼れん(禁止)』も効かなくなった。この『成瀬を頼れん(禁止)』が『誰にも頼らん(意志)』の根源ですから、他の人物への依存への抑制もはずれることになった。
それが安藤に対する『捕まってていい?』で有り就職に関しての奈央子のへの答『どこもダメだったら(野口に相談する)』の発言になっている。
そう考えると、ゴンドラで杉下の世界観が変わり、彼女が自分の限界を自覚したのは、景色を見て、ではなく野望実現によりこの『誰にも頼らん(意志)』が解消したが故、という見方も出来るんです。
参照
杉下の『究極の愛』の時間条件
2015年12月17日木曜日
杉下の『究極の愛』の時間条件
杉下の『究極の愛』がスカイローズガーデン時には成瀬に対して働いていない理由について、結構真面目に検討して、一つの発見がありました。
杉下の『究極の愛』の変換因子の中には実は時間に関する条件が存在したんです。
杉下の『究極の愛』の心理変換機構は以下の構造です。
A-1.(入力)成瀬が好きで堪らない
A-2.(制御因子)成瀬に遭うのは成瀬の利益にならない
A-3.(変換)成瀬に逢えない
A-4.(出力)悲しい
B-1.(入力)悲しい
B-2.(制御因子)成瀬が好きで堪らない
B-3.(変換)成瀬に遭うのは成瀬の利益にならない
B-4.(出力)成瀬に遭わない、遠ざける
そして
A-2.B-3.『成瀬に遭うのは成瀬の利益にならない』
B-4.『成瀬に遭わない、遠ざける』
の変換因子は実は時間に関する条件が存在していたんですね。
つまり
A-2.B-3.『(今は)成瀬に遭うのは成瀬の利益にならない』
B-4.『(熱りが冷めるまで暫くは)成瀬に遭わない、遠ざける』
これが島を出るまでの杉下の感情。
そしてそれが長期化する中で(熱りが冷めるまで暫くは)が(『野望』が実現するまで)にいつの間にか、すり替わったんです。だからゴンドラ後はシステムが呼び出されたにも関わらず、『成瀬にあってはいけない』という抑制が働いていないんですね。
そしてこれは杉下自身も気付いていなかったのでしょう。もし自分で気づいていたなら、ゴンドラの後自ら成瀬と接触を取ろうとした筈です。でも自らは動いていない。
だからこの心理は杉下自身も知らない深層下の心理なんですね。
参照
杉下の『究極の愛』の構造 その1~2
杉下の『究極の愛』の変換因子の中には実は時間に関する条件が存在したんです。
杉下の『究極の愛』の心理変換機構は以下の構造です。
A-1.(入力)成瀬が好きで堪らない
A-2.(制御因子)成瀬に遭うのは成瀬の利益にならない
A-3.(変換)成瀬に逢えない
A-4.(出力)悲しい
B-1.(入力)悲しい
B-2.(制御因子)成瀬が好きで堪らない
B-3.(変換)成瀬に遭うのは成瀬の利益にならない
B-4.(出力)成瀬に遭わない、遠ざける
そして
A-2.B-3.『成瀬に遭うのは成瀬の利益にならない』
B-4.『成瀬に遭わない、遠ざける』
の変換因子は実は時間に関する条件が存在していたんですね。
つまり
A-2.B-3.『(今は)成瀬に遭うのは成瀬の利益にならない』
B-4.『(熱りが冷めるまで暫くは)成瀬に遭わない、遠ざける』
これが島を出るまでの杉下の感情。
そしてそれが長期化する中で(熱りが冷めるまで暫くは)が(『野望』が実現するまで)にいつの間にか、すり替わったんです。だからゴンドラ後はシステムが呼び出されたにも関わらず、『成瀬にあってはいけない』という抑制が働いていないんですね。
そしてこれは杉下自身も気付いていなかったのでしょう。もし自分で気づいていたなら、ゴンドラの後自ら成瀬と接触を取ろうとした筈です。でも自らは動いていない。
だからこの心理は杉下自身も知らない深層下の心理なんですね。
参照
杉下の『究極の愛』の構造 その1~2
2015年12月16日水曜日
【二次作品】西崎の判断 その九
…続き
なに?お前は何を言っている?杉下のNは俺だと?何を寝ぼけたことを…。急に腹が立ってきた。
“杉下があなたに協力したのも、偽証を受入れたのも、杉下のNがあなただからですよ。だから、杉下を救えるのは俺じゃない。…あなたです”
「違う!それは違うぞ、成瀬くん。まさか君が杉下と接触を絶ったのはそれが理由か?」
“…きっかけは別にありますが、そう思って貰っても間違いじゃない”
「杉下の中に君以外の人間などいない。杉下にとって君の存在は絶対なんだ。彼女はあの時君に助けを求めた。俺は杉下が誰かに頼ろうとしたのを始めて見た。以前母親が彼女を訪ねてきた事がある。その時彼女が自身の過去を少しだけ明かした。彼女は『助けて』と言いたかったのに、助けを求める事が出来なかったそうだ。その助けを求めようとした相手と罪を共有した。その罪の共有相手が彼女の『究極の愛』の相手だ。『相手の罪を共有して、黙って身を引く』。それが彼女の『究極の愛』であり、その相手は君だ」
携帯の向こうの成瀬は答えない。
「作戦に協力したのは、君との関係を再開させる為だ。事件の偽証もそうだ。君が部屋に入る前、俺は杉下に偽証を要求したが彼女はそれを拒絶した。しかし君の指示は受入れた。つまり入室する事で当事者の一人となった君を護る為であるなら、その為であれば彼女は偽証できたという事だ。彼女が偽証した理由は俺ではない。かつて彼女が罪を共有した君を、その罪から遠ざけるためだ」
俺はボロボロと涙を流しながら懇願していた。杉下を救う事が出来るなら、彼が動いてくれるなら自分の体裁などどうでもよかった。
「かつて君は俺に『杉下が呼ぶなら、今にも崩れそうな吊橋でも渡る』と言った。そして実際に渡った。頼む、頼むからもう一度その吊橋を渡って、杉下を救ってやってくれ。それが出来るのは君しかいないんだ!」
暫くの沈黙の後、無言のまま通話は切られた。
fin
なに?お前は何を言っている?杉下のNは俺だと?何を寝ぼけたことを…。急に腹が立ってきた。
“杉下があなたに協力したのも、偽証を受入れたのも、杉下のNがあなただからですよ。だから、杉下を救えるのは俺じゃない。…あなたです”
「違う!それは違うぞ、成瀬くん。まさか君が杉下と接触を絶ったのはそれが理由か?」
“…きっかけは別にありますが、そう思って貰っても間違いじゃない”
「杉下の中に君以外の人間などいない。杉下にとって君の存在は絶対なんだ。彼女はあの時君に助けを求めた。俺は杉下が誰かに頼ろうとしたのを始めて見た。以前母親が彼女を訪ねてきた事がある。その時彼女が自身の過去を少しだけ明かした。彼女は『助けて』と言いたかったのに、助けを求める事が出来なかったそうだ。その助けを求めようとした相手と罪を共有した。その罪の共有相手が彼女の『究極の愛』の相手だ。『相手の罪を共有して、黙って身を引く』。それが彼女の『究極の愛』であり、その相手は君だ」
携帯の向こうの成瀬は答えない。
「作戦に協力したのは、君との関係を再開させる為だ。事件の偽証もそうだ。君が部屋に入る前、俺は杉下に偽証を要求したが彼女はそれを拒絶した。しかし君の指示は受入れた。つまり入室する事で当事者の一人となった君を護る為であるなら、その為であれば彼女は偽証できたという事だ。彼女が偽証した理由は俺ではない。かつて彼女が罪を共有した君を、その罪から遠ざけるためだ」
俺はボロボロと涙を流しながら懇願していた。杉下を救う事が出来るなら、彼が動いてくれるなら自分の体裁などどうでもよかった。
「かつて君は俺に『杉下が呼ぶなら、今にも崩れそうな吊橋でも渡る』と言った。そして実際に渡った。頼む、頼むからもう一度その吊橋を渡って、杉下を救ってやってくれ。それが出来るのは君しかいないんだ!」
暫くの沈黙の後、無言のまま通話は切られた。
fin
2015年12月15日火曜日
【二次作品】西崎の判断 その八
…続き
“…はい”
「西崎です。成瀬くん、もう一度杉下を助ける気はないか?杉下は誰の助けも求めていない。だがもしかしたら成瀬くんなら、と思ってね」
“相変わらず回りくどいですね”
「単刀直入に言おう。杉下は…胃癌で余命宣告を受けている。あと一年の命だ。しかし彼女は誰の助けも一切得ようとしない。まるで自分が助かる事を拒絶しているように。杉下はたった独りで最後を迎えようとしている。全ての真実を自らの命と供に墓場まで持っていく気だ」
暫く彼からの返事は無かった。漸く還ってきた言葉の前に、彼の喉が鳴る音を聴いたような気がした。彼はどんな顔をして今この話を聴いているのだろう。
“…誰か近しい人はいないんですか?”
「いない。君に電話した後、興信所を使って杉下の事を調べた。少なくともステディな関係だった人物は過去にもいないようだ。親とも殆ど接触を断っている」
“それでなぜ西崎さんが俺に知らせてくるんです?あなた自身は?確かにあなたのNは奈央子さんだった。でもあなたのエゴを全て受け止めたのは杉下であり、あなたは杉下に一生の借りがあるんじゃないですか?あなたはその借りを杉下に返すべきでしょう。まさにその時ではないんですか?”
「…やはり君は全て解っていたんだな。あの場では何も聴かなかったが…」
“そして杉下のNは西崎さん、…あなたですよ。あなただって気付いているでしょう?”
続く…
“…はい”
「西崎です。成瀬くん、もう一度杉下を助ける気はないか?杉下は誰の助けも求めていない。だがもしかしたら成瀬くんなら、と思ってね」
“相変わらず回りくどいですね”
「単刀直入に言おう。杉下は…胃癌で余命宣告を受けている。あと一年の命だ。しかし彼女は誰の助けも一切得ようとしない。まるで自分が助かる事を拒絶しているように。杉下はたった独りで最後を迎えようとしている。全ての真実を自らの命と供に墓場まで持っていく気だ」
暫く彼からの返事は無かった。漸く還ってきた言葉の前に、彼の喉が鳴る音を聴いたような気がした。彼はどんな顔をして今この話を聴いているのだろう。
“…誰か近しい人はいないんですか?”
「いない。君に電話した後、興信所を使って杉下の事を調べた。少なくともステディな関係だった人物は過去にもいないようだ。親とも殆ど接触を断っている」
“それでなぜ西崎さんが俺に知らせてくるんです?あなた自身は?確かにあなたのNは奈央子さんだった。でもあなたのエゴを全て受け止めたのは杉下であり、あなたは杉下に一生の借りがあるんじゃないですか?あなたはその借りを杉下に返すべきでしょう。まさにその時ではないんですか?”
「…やはり君は全て解っていたんだな。あの場では何も聴かなかったが…」
“そして杉下のNは西崎さん、…あなたですよ。あなただって気付いているでしょう?”
続く…
2015年12月14日月曜日
【二次作品】西崎の判断 その七
…続き
彼だ。やはり彼なのだ。杉下を救いうる存在は。
彼は自身の発言どおり、あの時躊躇なく今にも崩れそうな吊橋を渡った。彼がどれ程真実を理解していたのかは判らない。だが杉下を事件の嫌疑がら除外するというたった一つの目標の為、泥を被ることを厭わなかった。たとえそれが杉下との別れとなろうが、彼女を護るという一点の為に自らの欲を簡単に捨て、彼女の為だけに俺との共謀に乗った。恐らく島で苦境にあった杉下を同じように救い出したのだろう。だからこそ杉下の『究極の愛』の相手なのだ。だからこそ、あの杉下が頼る事が出来る相手なのだ。
それは最初から判っていた事だ。でも俺は彼に杉下の病状を伝える事に躊躇した。それは俺が良かれと託したはずの杉下と事件後一切の接触を絶っていたからだ。
彼は時折おれに差し入れをしてくれた。そしてその度におれは杉下の様子を尋ねた。しかし彼は杉下とは一切連絡を取っていない、と答えるだけでその理由も明かすことは無かった。俺は尋ねようにも看守も勿論だが弁護士も含め知られるわけにはいかないから通り一編の問いと要請を繰り返す以外に出来ず、そしてその度に還ってくる答えは同じだった。何が彼と杉下とを遠ざけたのかが皆目検討がつかない。だから俺には彼を動かすことが出来る自信が無かった。だから、杉下の病状を離せば必ず動く事が間違いない安藤に先に声を掛けた。だが駄目だった。安藤では杉下を救うことは出来ない。そう、やはり彼しか残っていないのだ。
彼を動かすことが出来るか?正直に言えば自信はない。しかし俺は話せる事全てを彼に伝え、彼を説得する以外に残された手はない。そして…
続く…
彼だ。やはり彼なのだ。杉下を救いうる存在は。
彼は自身の発言どおり、あの時躊躇なく今にも崩れそうな吊橋を渡った。彼がどれ程真実を理解していたのかは判らない。だが杉下を事件の嫌疑がら除外するというたった一つの目標の為、泥を被ることを厭わなかった。たとえそれが杉下との別れとなろうが、彼女を護るという一点の為に自らの欲を簡単に捨て、彼女の為だけに俺との共謀に乗った。恐らく島で苦境にあった杉下を同じように救い出したのだろう。だからこそ杉下の『究極の愛』の相手なのだ。だからこそ、あの杉下が頼る事が出来る相手なのだ。
それは最初から判っていた事だ。でも俺は彼に杉下の病状を伝える事に躊躇した。それは俺が良かれと託したはずの杉下と事件後一切の接触を絶っていたからだ。
彼は時折おれに差し入れをしてくれた。そしてその度におれは杉下の様子を尋ねた。しかし彼は杉下とは一切連絡を取っていない、と答えるだけでその理由も明かすことは無かった。俺は尋ねようにも看守も勿論だが弁護士も含め知られるわけにはいかないから通り一編の問いと要請を繰り返す以外に出来ず、そしてその度に還ってくる答えは同じだった。何が彼と杉下とを遠ざけたのかが皆目検討がつかない。だから俺には彼を動かすことが出来る自信が無かった。だから、杉下の病状を離せば必ず動く事が間違いない安藤に先に声を掛けた。だが駄目だった。安藤では杉下を救うことは出来ない。そう、やはり彼しか残っていないのだ。
彼を動かすことが出来るか?正直に言えば自信はない。しかし俺は話せる事全てを彼に伝え、彼を説得する以外に残された手はない。そして…
続く…
2015年12月13日日曜日
【二次作品】西崎の判断 その六
…続き
「どうした?杉下に何があった?」
「いや、大したことじゃない。あの日事件が無かったら杉下は幸せになっていたんじゃないかと思うと胸が痛む」
「まだまだこれからだよ、俺も杉下も、西崎さんも」
暫く安藤の昔話に適当に相槌をいれつつ、多少自棄酒っぽく飲んでから、串若丸を引き上げた。あいつは何故かご機嫌だった。余り酒は強くないがちょうどいい具合につぼに入ったのだろう。普段以上に饒舌だった。
だが、それに付き合った俺の方はあまり旨い酒ではなかった。杉下の事が頭から離れない。俺は曲がりなりにも独りではなく、二人で過ごしているのに、あいつは独りなんだろうな、と思うと申し訳なくなった。
そんな事を酒の廻った頭でつらつらと思い巡らしつつ野ばら荘について、今は空いているかつての杉下の部屋、102号室に目をやった時、杉下がインターフォンに向かって助けを求めた際の様を思い出した。
『助けて!助けて、成瀬くん』
杉下が助けを求めた相手。あれほど人を頼る事に頑なな杉下が助けを求めた、杉下の『究極の愛』の相手。
二人が共有した罪の内容は知らない。決して明かされる事もない。それはたった二人だけの秘密。初めて彼に会った時、安藤にしたのと同じ問いへの彼の答え。
『呼ばれれば、渡ります』
続く…
「どうした?杉下に何があった?」
「いや、大したことじゃない。あの日事件が無かったら杉下は幸せになっていたんじゃないかと思うと胸が痛む」
「まだまだこれからだよ、俺も杉下も、西崎さんも」
暫く安藤の昔話に適当に相槌をいれつつ、多少自棄酒っぽく飲んでから、串若丸を引き上げた。あいつは何故かご機嫌だった。余り酒は強くないがちょうどいい具合につぼに入ったのだろう。普段以上に饒舌だった。
だが、それに付き合った俺の方はあまり旨い酒ではなかった。杉下の事が頭から離れない。俺は曲がりなりにも独りではなく、二人で過ごしているのに、あいつは独りなんだろうな、と思うと申し訳なくなった。
そんな事を酒の廻った頭でつらつらと思い巡らしつつ野ばら荘について、今は空いているかつての杉下の部屋、102号室に目をやった時、杉下がインターフォンに向かって助けを求めた際の様を思い出した。
『助けて!助けて、成瀬くん』
杉下が助けを求めた相手。あれほど人を頼る事に頑なな杉下が助けを求めた、杉下の『究極の愛』の相手。
二人が共有した罪の内容は知らない。決して明かされる事もない。それはたった二人だけの秘密。初めて彼に会った時、安藤にしたのと同じ問いへの彼の答え。
『呼ばれれば、渡ります』
続く…
2015年12月12日土曜日
【二次作品】西崎の判断 その五
…続き
この時店のラジオからジングルベルの曲が流れてきた。あの日あの場所で、奈央子がリモコンを踏みつけた事でスイッチの入ったテレビから流れていたあの曲。十年経った今でも、克明に思い出せるあの時の音、声、におい、感触、情景、感情…あぁ、俺は一生あの時の事を忘れる事は無いんだな。
そして安藤、お前という男の本質が改めて判ったよ。お前は今目の前にあるその橋を渡れないんだ。だからそれ以外の事なら『なんでもする』んだ。でもな、その橋を今渡る以外に、杉下を助ける方法は無いんだ。
お前の『なんでもする』の中には危ないから、とその橋を落としてしまう事も含まれるだろう?杉下がそこにいるにも関わらず!唯一の可能性であるその橋を!お前があの時鍵を掛けたのと同じように!
お前ならきっとそこに新しい立派で頑丈な橋を掛けてしまうんだろうな。でもお前がその橋を渡った先には、もう杉下はいない。あるのは杉下の亡骸だけだ。そんな橋に何の意味がある?そんな橋、俺には何の価値もない。でもお前ならこう言うのだろう、『橋は残った。努力は無駄ではなかった』と。
結局お前は奇蹟というものを信じていないんだ。お前が信じているのは自らの努力のみ。別にそれがいけない訳じゃない。そうやってお前は結果を残しているのだから、凄いと思うよ。俺には到底真似できない。だがな、絶望の中、奇蹟を信じることを放棄した杉下を救うのに、救う側であるお前が奇蹟を信じずに奇蹟など起きるはずがない。今杉下に必要なのは、杉下が救われうる存在であると彼女に気付かせる、信じさせるという奇蹟を起こす事が出来る人間だ。
安藤、やはり君は失格だ。
続く…
この時店のラジオからジングルベルの曲が流れてきた。あの日あの場所で、奈央子がリモコンを踏みつけた事でスイッチの入ったテレビから流れていたあの曲。十年経った今でも、克明に思い出せるあの時の音、声、におい、感触、情景、感情…あぁ、俺は一生あの時の事を忘れる事は無いんだな。
そして安藤、お前という男の本質が改めて判ったよ。お前は今目の前にあるその橋を渡れないんだ。だからそれ以外の事なら『なんでもする』んだ。でもな、その橋を今渡る以外に、杉下を助ける方法は無いんだ。
お前の『なんでもする』の中には危ないから、とその橋を落としてしまう事も含まれるだろう?杉下がそこにいるにも関わらず!唯一の可能性であるその橋を!お前があの時鍵を掛けたのと同じように!
お前ならきっとそこに新しい立派で頑丈な橋を掛けてしまうんだろうな。でもお前がその橋を渡った先には、もう杉下はいない。あるのは杉下の亡骸だけだ。そんな橋に何の意味がある?そんな橋、俺には何の価値もない。でもお前ならこう言うのだろう、『橋は残った。努力は無駄ではなかった』と。
結局お前は奇蹟というものを信じていないんだ。お前が信じているのは自らの努力のみ。別にそれがいけない訳じゃない。そうやってお前は結果を残しているのだから、凄いと思うよ。俺には到底真似できない。だがな、絶望の中、奇蹟を信じることを放棄した杉下を救うのに、救う側であるお前が奇蹟を信じずに奇蹟など起きるはずがない。今杉下に必要なのは、杉下が救われうる存在であると彼女に気付かせる、信じさせるという奇蹟を起こす事が出来る人間だ。
安藤、やはり君は失格だ。
続く…
2015年12月11日金曜日
【二次作品】西崎の判断 その四
…続き
「本題に入ろう。杉下の事だ」
「逢ったの?」
「逢った」
「俺も何度か逢った。あいつまるで別人みたいに元気がない…大丈夫かな?」
やはり杉下は安藤に何も話していないようだな。先日の杉下の話からあらかた予想は付いていたが。そもそも今日のこの時間に俺とここに居る事自体が間違いだ。まあ、杉下も好き好んでコイツと一緒にいたい訳ではなかろう。俺だってそうだ。
しかし、もしコイツが杉下を孤独の淵から救い出しうる存在であるなら、俺はコイツを杉下のもとへ届けなければならん。そしてその可能性はコイツにはある。それを確かめねば。
「今にも崩れそうな吊橋の向こう側に杉下が居たとしよう。杉下が吊橋の向こうから『助けて』と叫んでいるとしたら、君はどうする?」
「は?なんでそんな処に?」
「もう元の生活には戻れないかもしれない。それでも君はその吊橋を渡るかい?」
「杉下は簡単に『助けて』なんて言わない」
「言ったとしたら?」
「なんだってする」
「…」
続く…
「本題に入ろう。杉下の事だ」
「逢ったの?」
「逢った」
「俺も何度か逢った。あいつまるで別人みたいに元気がない…大丈夫かな?」
やはり杉下は安藤に何も話していないようだな。先日の杉下の話からあらかた予想は付いていたが。そもそも今日のこの時間に俺とここに居る事自体が間違いだ。まあ、杉下も好き好んでコイツと一緒にいたい訳ではなかろう。俺だってそうだ。
しかし、もしコイツが杉下を孤独の淵から救い出しうる存在であるなら、俺はコイツを杉下のもとへ届けなければならん。そしてその可能性はコイツにはある。それを確かめねば。
「今にも崩れそうな吊橋の向こう側に杉下が居たとしよう。杉下が吊橋の向こうから『助けて』と叫んでいるとしたら、君はどうする?」
「は?なんでそんな処に?」
「もう元の生活には戻れないかもしれない。それでも君はその吊橋を渡るかい?」
「杉下は簡単に『助けて』なんて言わない」
「言ったとしたら?」
「なんだってする」
「…」
続く…
2015年12月10日木曜日
【二次作品】西崎の判断 その三
…続き
「もう関わる気はない、って言ってなかった?」
俺は安藤を串若丸に呼び出した。電話した際、ちょっと驚いていた。そりゃそうだろう。俺だって杉下の事が無ければ、あえて安藤に連絡をとる事はない。恐らくこれからもそうだろう。もう、二人が住む世界は違うのだから。
「関わらんに越したことはない」
「俺は気にしないけど」
そういう事を俺に向かって言えてしまうコイツにはやはり腹が立つ。お前は自分がした行為をどう思っているんだ?お前が鍵を掛けなければ、奈央子と野口が死ぬことも、俺が服役することも、杉下に一生の秘密を抱え込ませる事も起きなかったんだ。
しかし、裁判に関しては彼が助力してくれたのは事実だ。そこは俺は彼に頭を下げる必要がある。それに杉下の事もある。小事より大事だ。
「安藤くんのおかげで、マイナスだった自分がゼロになった。これからはプラスで行くさ」
自分で口にしたセリフに、多少のテレを感じた。俺は役者には向いていない事は判っていたが、自分で自分のセリフに突込みを入れたくなった。もう前置きはいいだろう。
安藤に注文したビールが来た。
続く…
「もう関わる気はない、って言ってなかった?」
俺は安藤を串若丸に呼び出した。電話した際、ちょっと驚いていた。そりゃそうだろう。俺だって杉下の事が無ければ、あえて安藤に連絡をとる事はない。恐らくこれからもそうだろう。もう、二人が住む世界は違うのだから。
「関わらんに越したことはない」
「俺は気にしないけど」
そういう事を俺に向かって言えてしまうコイツにはやはり腹が立つ。お前は自分がした行為をどう思っているんだ?お前が鍵を掛けなければ、奈央子と野口が死ぬことも、俺が服役することも、杉下に一生の秘密を抱え込ませる事も起きなかったんだ。
しかし、裁判に関しては彼が助力してくれたのは事実だ。そこは俺は彼に頭を下げる必要がある。それに杉下の事もある。小事より大事だ。
「安藤くんのおかげで、マイナスだった自分がゼロになった。これからはプラスで行くさ」
自分で口にしたセリフに、多少のテレを感じた。俺は役者には向いていない事は判っていたが、自分で自分のセリフに突込みを入れたくなった。もう前置きはいいだろう。
安藤に注文したビールが来た。
続く…
2015年12月9日水曜日
【二次作品】西崎の判断 その二
…続き
実家からの帰り道、最寄り駅から野ばら荘への道すがら、親父から言われた言葉を思い出していた。
『世話になった人に恩を返せ』
一番世話になったのは杉下だ。彼女の事は事件直後から一番の気がかりだった。俺のエゴに付き合わせ、一生の秘密を背負わせてしまった。彼女には感謝しても仕切れない。いや、感謝などという生易しい言葉では片付けることなど出来ない。俺は彼女の一生をぶち壊したも同然だ。
本来であれば俺の一生を彼女に差し出すべきなのだ。そして奈央子がもうこの世に居ない限りにおいて俺にもそれ位の事は出来る。だが今の杉下を俺は救い出す事は出来ない。今杉下に必要なのは彼女を絶望の淵から救い出す事が出来る存在。それを彼女に届ける事が俺が杉下に出来る最大限の罪滅ぼしだ。
ふと、気付くと何処かの家庭の居間で繰り広げられる、楽しそうなパーティの模様を窓越しに見つめていた。
『あぁ、そうか今日はあの日か』
杉下、今お前はどうしている?人生最後になるであろうクリスマスを一人で過ごそうとしているんだよな?お前は一人でこの世からいなくなろうとしているけれど、お前はそれで満足なのか?お前こそその人生の最後に輝ける時を迎えるべきだと思う。
そう思い至ったとき、俺は携帯を取り出し多少躊躇いつつもあいつに電話をした…
続く…
実家からの帰り道、最寄り駅から野ばら荘への道すがら、親父から言われた言葉を思い出していた。
『世話になった人に恩を返せ』
一番世話になったのは杉下だ。彼女の事は事件直後から一番の気がかりだった。俺のエゴに付き合わせ、一生の秘密を背負わせてしまった。彼女には感謝しても仕切れない。いや、感謝などという生易しい言葉では片付けることなど出来ない。俺は彼女の一生をぶち壊したも同然だ。
本来であれば俺の一生を彼女に差し出すべきなのだ。そして奈央子がもうこの世に居ない限りにおいて俺にもそれ位の事は出来る。だが今の杉下を俺は救い出す事は出来ない。今杉下に必要なのは彼女を絶望の淵から救い出す事が出来る存在。それを彼女に届ける事が俺が杉下に出来る最大限の罪滅ぼしだ。
ふと、気付くと何処かの家庭の居間で繰り広げられる、楽しそうなパーティの模様を窓越しに見つめていた。
『あぁ、そうか今日はあの日か』
杉下、今お前はどうしている?人生最後になるであろうクリスマスを一人で過ごそうとしているんだよな?お前は一人でこの世からいなくなろうとしているけれど、お前はそれで満足なのか?お前こそその人生の最後に輝ける時を迎えるべきだと思う。
そう思い至ったとき、俺は携帯を取り出し多少躊躇いつつもあいつに電話をした…
続く…
2015年12月8日火曜日
【二次作品】西崎の判断 その一
親父にこれまでの事について頭を下げてきた。あんな事があったにも関わらず家に俺を上げ、『たまには帰って来い』とまで言われた。あの厳格な父親の事だ。俺はてっきり母親と同じく勘当を言い渡されるものだと思っていた。野原の爺さんからは『頭を下げてくればいい』と言われて出てきたものの、頭を下げることさえ許されないだろうと思っていたから、以外な反応だった。やはり俺の事で何がしか考える事があったのか、それとも単に歳なだけか。それは判らんがどうやら自分はまだ一人ぼっちではなさそうだ。母親と一緒だった時でさえ、いつも一人ぼっちだと思っていたのに。
親父は母親に俺を渡した事を悔いていたようだ。それについては多少自分の中でも親父に対して嬉しい感情を持った。しかしそれと同じだけの母親に対する弁護の気持ちも起きた。俺に対するDVの事実があったにせよ、俺は今この時を生きている。
「それでも、育ててくれましたから」
この言葉を自ら言った時、急に心が軽くなった気がする。俺は漸く母親を赦す事が出来た。母親を見殺しにした罪の意識から服役を自ら望んだものの、やはり自分は母親に対して何かを抱えたままだった事は自覚していた。そしてそれは父親に対しても同じだった。俺は母親と父親を赦していなかった。でもこの言葉が自然と口にでた時、俺は漸く二十数年掛かって二人に対する蟠りを解くことができたんだと気付いた。今となっては、もうそれだけで十分だ。
結局親父は俺と視線を合わすことは無く、ずっと碁盤を見つめていたままだったが、それは親父の照れ隠しなのだろう。俺や母親の事を含め周囲から色々と言われたはずだ。それでも『たまには帰って来い』という言葉に、俺は親父の中に様々な感情を観、そしてその中の一部に俺が親父から赦された、という意味を見出す事にした。今度来る時は囲碁も覚えてこようか、と思った。
続く…
親父は母親に俺を渡した事を悔いていたようだ。それについては多少自分の中でも親父に対して嬉しい感情を持った。しかしそれと同じだけの母親に対する弁護の気持ちも起きた。俺に対するDVの事実があったにせよ、俺は今この時を生きている。
「それでも、育ててくれましたから」
この言葉を自ら言った時、急に心が軽くなった気がする。俺は漸く母親を赦す事が出来た。母親を見殺しにした罪の意識から服役を自ら望んだものの、やはり自分は母親に対して何かを抱えたままだった事は自覚していた。そしてそれは父親に対しても同じだった。俺は母親と父親を赦していなかった。でもこの言葉が自然と口にでた時、俺は漸く二十数年掛かって二人に対する蟠りを解くことができたんだと気付いた。今となっては、もうそれだけで十分だ。
結局親父は俺と視線を合わすことは無く、ずっと碁盤を見つめていたままだったが、それは親父の照れ隠しなのだろう。俺や母親の事を含め周囲から色々と言われたはずだ。それでも『たまには帰って来い』という言葉に、俺は親父の中に様々な感情を観、そしてその中の一部に俺が親父から赦された、という意味を見出す事にした。今度来る時は囲碁も覚えてこようか、と思った。
続く…
2015年12月5日土曜日
ドレッサーは早苗に対する罪意識と一番辛かった時期を呼び出すシンボル
ドレッサーは冷蔵庫と同じく『ドレッサーのトラウマ』という表現で一般的にはトラウマと理解されています。ですがこれも冷蔵庫と同じくで実はトラウマではないと思うんです。ドレッサーそのものが彼女に心的外傷を負わすものでは無いですよね。
ただ、冷蔵庫はあくまで彼女のストレス発散行為(大量の料理を作ってしまう、ヤケ食いならぬヤケ作り?)の結果ですが、ドレッサーは何がしか彼女の記憶を呼び出すシンボルだとは思います。
ではそれは何かというと?
一つの可能性としては島時代のドレッサーに関連した苦労という見方。具体的にはゆきのドレッサーを壊した上で父親に鏡の破片を向けた事。ドレッサーを壊した事を理由に食事を分けてもらう際にゆきに土下座を強要された事。母親の贅沢病の発作とそれに起因する経済的苦境及び母親の依存性による束縛。
でもこれは後に杉下自身が『父親も母親もあの女も…縛るものは誰もおらん』とさざなみの火を見て感じた訳で、彼女は自身の呪縛から解放された、ととっている。そうすると上記ではない事になる。
そうするとドレッサーとは何を呼び出すシンボルか?と考えると早苗に対する罪意識だと思うんです。象徴的なのが杉下が大学に受かった事を母親へ報告するシーン。ドレッサーの前でアルバムをめくる早苗に向かって『これからは一人でやって行くけん、お母さんも一人でやって』と告げる。つまり杉下は早苗を『捨てた』。これに対する罪悪感なんですね。
よく考えるとさざなみ炎上で以降、成瀬の1117Nチケットで野望の実現が成瀬との誓約になり、これまでの彼女の受け身での現実適応的行動が積極的手段に替わっている。母親への進学宣言であり、父親への公衆の面前での土下座がそれ。しかしその結果として彼女が抱えたのは母親への罪意識だったんです。
だから同窓会で島へ帰った時、遠目から明るく働く早苗を見て安堵しつつ、いざ彼女が目の前に現れる(早苗の野ばら荘訪問)と『会いたくないと訳やない』と言いつつ避けてしまう、という行動になったんです。
そして彼女は上記の発言の後に『島におるころに引き戻されそうで怖い』と言っている。
一見すると、苦労が呼び出されるから、と見えますがそれは上記で否定されていますから、苦労では無いんです。では彼女のいう島にいた時とはいつかというと、さざなみ炎上から島を出るまでの期間という事になる。
経済的的にも行き詰まり、心の支えであった成瀬とも距離をとらざるをえなくなり、挙句は母親さえ切り捨てざるを得なかった、絶対的な孤独な期間。彼女が本当に辛かったのはこの期間で、その時期を呼び出すシンボルでもあるんです。
参照
冷蔵庫のトラウマは存在しない
杉下が一番辛かった時期
ただ、冷蔵庫はあくまで彼女のストレス発散行為(大量の料理を作ってしまう、ヤケ食いならぬヤケ作り?)の結果ですが、ドレッサーは何がしか彼女の記憶を呼び出すシンボルだとは思います。
ではそれは何かというと?
一つの可能性としては島時代のドレッサーに関連した苦労という見方。具体的にはゆきのドレッサーを壊した上で父親に鏡の破片を向けた事。ドレッサーを壊した事を理由に食事を分けてもらう際にゆきに土下座を強要された事。母親の贅沢病の発作とそれに起因する経済的苦境及び母親の依存性による束縛。
でもこれは後に杉下自身が『父親も母親もあの女も…縛るものは誰もおらん』とさざなみの火を見て感じた訳で、彼女は自身の呪縛から解放された、ととっている。そうすると上記ではない事になる。
そうするとドレッサーとは何を呼び出すシンボルか?と考えると早苗に対する罪意識だと思うんです。象徴的なのが杉下が大学に受かった事を母親へ報告するシーン。ドレッサーの前でアルバムをめくる早苗に向かって『これからは一人でやって行くけん、お母さんも一人でやって』と告げる。つまり杉下は早苗を『捨てた』。これに対する罪悪感なんですね。
よく考えるとさざなみ炎上で以降、成瀬の1117Nチケットで野望の実現が成瀬との誓約になり、これまでの彼女の受け身での現実適応的行動が積極的手段に替わっている。母親への進学宣言であり、父親への公衆の面前での土下座がそれ。しかしその結果として彼女が抱えたのは母親への罪意識だったんです。
だから同窓会で島へ帰った時、遠目から明るく働く早苗を見て安堵しつつ、いざ彼女が目の前に現れる(早苗の野ばら荘訪問)と『会いたくないと訳やない』と言いつつ避けてしまう、という行動になったんです。
そして彼女は上記の発言の後に『島におるころに引き戻されそうで怖い』と言っている。
一見すると、苦労が呼び出されるから、と見えますがそれは上記で否定されていますから、苦労では無いんです。では彼女のいう島にいた時とはいつかというと、さざなみ炎上から島を出るまでの期間という事になる。
経済的的にも行き詰まり、心の支えであった成瀬とも距離をとらざるをえなくなり、挙句は母親さえ切り捨てざるを得なかった、絶対的な孤独な期間。彼女が本当に辛かったのはこの期間で、その時期を呼び出すシンボルでもあるんです。
参照
冷蔵庫のトラウマは存在しない
杉下が一番辛かった時期
2015年12月3日木曜日
早苗の訪問時の杉下の心理プロセス その二
…続き
このように説明すると、非常にきれいにつながるんです。一見この通りだと思える。
でも、一つ障害があって、この心理プロセスがトラウマ起源とすると、成瀬のさざなみ炎上の暴露に対する『父親も母親もあの女も…縛るものは誰もお らん』の杉下の独白と矛盾する。この独白はさざなみ炎上で杉下はトラウマ(と思われているもの)から解放された、と言っているわけです。つまりト ラウマをトリガーとする心理プロセスとして理解してはいけない、という事になるんですね。
そうすると、この時の杉下の心理プロセスのトリガーとなったのは何か?というと杉下の早苗に対する罪意識だと思います。
先に検討した通り、実は杉下は早苗に対して罪意識を抱えていた。それは成瀬との誓約を守るために早苗を捨てた事です。杉下の中ではさざなみ炎上以 前と以後では明確に区分されるべきものなのです。
ですので、『島に居た頃にひきもどされそうで』の島時代とはさざなみ炎上から島を出るまでの期間という事になる。
そこから心理プロセスを進めると杉下の『罪意識』と『誰にも頼らず生きていきたい』が等価でありそれはつまり『罪意識』と『成瀬を頼れない』が等価。
『成瀬を頼れない』の成立はそもそも杉下自身による『お城放火未遂』を発端とした成瀬に対する罪意識が起源。
そうすると早苗の登場で早苗に対する罪意識の刺激→成瀬に対する罪意識が刺激され『究極の愛』システムが起動した…
こういう風に理解すれば、杉下の独白とも矛盾せず、『究極の愛』システムの起動による成瀬への感情の発露も説明がつくと思います。
参照
早苗に対する杉下の罪意識
fin
このように説明すると、非常にきれいにつながるんです。一見この通りだと思える。
でも、一つ障害があって、この心理プロセスがトラウマ起源とすると、成瀬のさざなみ炎上の暴露に対する『父親も母親もあの女も…縛るものは誰もお らん』の杉下の独白と矛盾する。この独白はさざなみ炎上で杉下はトラウマ(と思われているもの)から解放された、と言っているわけです。つまりト ラウマをトリガーとする心理プロセスとして理解してはいけない、という事になるんですね。
そうすると、この時の杉下の心理プロセスのトリガーとなったのは何か?というと杉下の早苗に対する罪意識だと思います。
先に検討した通り、実は杉下は早苗に対して罪意識を抱えていた。それは成瀬との誓約を守るために早苗を捨てた事です。杉下の中ではさざなみ炎上以 前と以後では明確に区分されるべきものなのです。
ですので、『島に居た頃にひきもどされそうで』の島時代とはさざなみ炎上から島を出るまでの期間という事になる。
そこから心理プロセスを進めると杉下の『罪意識』と『誰にも頼らず生きていきたい』が等価でありそれはつまり『罪意識』と『成瀬を頼れない』が等価。
『成瀬を頼れない』の成立はそもそも杉下自身による『お城放火未遂』を発端とした成瀬に対する罪意識が起源。
そうすると早苗の登場で早苗に対する罪意識の刺激→成瀬に対する罪意識が刺激され『究極の愛』システムが起動した…
こういう風に理解すれば、杉下の独白とも矛盾せず、『究極の愛』システムの起動による成瀬への感情の発露も説明がつくと思います。
参照
早苗に対する杉下の罪意識
fin
2015年12月2日水曜日
早苗の訪問時の杉下の心理プロセス その一
早苗が訪問した際、杉下は西崎の前で怯え、成瀬への想いをダダ漏れさせました。
この時の杉下の心理プロセスを詳述してみたいと思います。
このシーン、杉下の中での早苗の存在というものがよくあらわされていますよね。
まづ、杉下にとっては早苗は思慕の対象である、という事。
これは杉下の『お母さんに逢いたくない訳やない』という発言に現れています。
また杉下が同窓会(=成瀬父葬儀)の為に島へ戻った際、河岸で働く早苗を遠目から確認して安堵している描写と繋がっています。
二つ目が、『逢うと島にいた頃に引き戻されそうで』という発言から垣間見える逃避対象である、という事。
それは早苗は杉下を苦しめた存在であり、彼女のトラウマだから、というのが以前の理解でした。
ここを出発点として成瀬への感情に繋がる心理プロセスを検討すると以下になります。
島にいた頃には戻りたくない、『誰にも頼らんと生きて活きたい』とありますので、『島時代からの逃避』と『誰にも頼らず生きていきたい』が杉下に とっては等価。そしてその『誰にも頼らず生きていきたい』はさざなみ炎上で『成瀬に頼れん』の変形であり、そのことからこの時の杉下の心理は『島時代からの逃避』 と『成瀬に頼れん』が等価。
そしてこの『成瀬に頼れん』心理を杉下に隠蔽・保護するための心理機構である『究極の愛』が起動するものの、早苗の登場という直接的なストレスに 『究極の愛』システムも感情を処理しきれずに西崎が成瀬について問うと涙を流し声を震わせ成瀬への感情ダダ漏れ状態に陥った…
続く…
この時の杉下の心理プロセスを詳述してみたいと思います。
このシーン、杉下の中での早苗の存在というものがよくあらわされていますよね。
まづ、杉下にとっては早苗は思慕の対象である、という事。
これは杉下の『お母さんに逢いたくない訳やない』という発言に現れています。
また杉下が同窓会(=成瀬父葬儀)の為に島へ戻った際、河岸で働く早苗を遠目から確認して安堵している描写と繋がっています。
二つ目が、『逢うと島にいた頃に引き戻されそうで』という発言から垣間見える逃避対象である、という事。
それは早苗は杉下を苦しめた存在であり、彼女のトラウマだから、というのが以前の理解でした。
ここを出発点として成瀬への感情に繋がる心理プロセスを検討すると以下になります。
島にいた頃には戻りたくない、『誰にも頼らんと生きて活きたい』とありますので、『島時代からの逃避』と『誰にも頼らず生きていきたい』が杉下に とっては等価。そしてその『誰にも頼らず生きていきたい』はさざなみ炎上で『成瀬に頼れん』の変形であり、そのことからこの時の杉下の心理は『島時代からの逃避』 と『成瀬に頼れん』が等価。
そしてこの『成瀬に頼れん』心理を杉下に隠蔽・保護するための心理機構である『究極の愛』が起動するものの、早苗の登場という直接的なストレスに 『究極の愛』システムも感情を処理しきれずに西崎が成瀬について問うと涙を流し声を震わせ成瀬への感情ダダ漏れ状態に陥った…
続く…
2015年12月1日火曜日
早苗に対する杉下の罪意識
杉下にとって、早苗は二重の意味を持っていると思います。
一つは父親やゆきと同様、自分を苦しめた原因としての嫌悪感。
しかしもう一方で、他者依存性の強い早苗を成瀬との約束の為に切り捨てざるを得なかった事に対する罪意識です。
この早苗に対する罪意識は明確には語られていないですね。どちらかと言えば隠されていると思います。成瀬のプロポーズシーンで『父親も母親もあの 女も…縛るものは誰もおらん』と上を向けた。と語っており、さも他の二人と同列のように語られています。
また、所謂『ドレッサーのトラウマ』という言われ方でドレッサーに伴うゆきとの確執と早苗のドレッサーとの関連を演出し、さも一連の、杉下にとっ て逃避すべき対象、トラウマという流れで視聴者に刷り込んでいます。
でも、ドラマの描写として早苗は他の二人と同列ではないです。現に東京まで杉下を追わせて、ラストで早苗のみ杉下は再会して和解した。
そうした時、父親やゆきと早苗を隔てているものは何か?と考えるとそれは杉下の早苗に対する罪意識だと思うんです。
杉下の三人に対する対応で、母親のみ異なるのが『杉下自身が母親を捨てた』という行為です。父親とゆきは『自分達を捨てた存在とその原因』で、自 分が捨てられた側。ですが早苗に対しては『自分が捨てた側』に立っているんです。それは成瀬との誓約を実現するため。
さざなみ以降の彼女は本当に窮地に陥り、成瀬との約束だけをよすがに非常手段を取らざるを得ない状況だった。その為に母親さえも切り捨てざるをえ なかったわけですが、基本的に気持ちの優しい杉下には、実母を切り捨てる、という行為は罪の意識を持たざるをえない存在であり、父親とゆきとは扱 いが別なのだと思います。
参照
杉下が一番辛かった時期
一つは父親やゆきと同様、自分を苦しめた原因としての嫌悪感。
しかしもう一方で、他者依存性の強い早苗を成瀬との約束の為に切り捨てざるを得なかった事に対する罪意識です。
この早苗に対する罪意識は明確には語られていないですね。どちらかと言えば隠されていると思います。成瀬のプロポーズシーンで『父親も母親もあの 女も…縛るものは誰もおらん』と上を向けた。と語っており、さも他の二人と同列のように語られています。
また、所謂『ドレッサーのトラウマ』という言われ方でドレッサーに伴うゆきとの確執と早苗のドレッサーとの関連を演出し、さも一連の、杉下にとっ て逃避すべき対象、トラウマという流れで視聴者に刷り込んでいます。
でも、ドラマの描写として早苗は他の二人と同列ではないです。現に東京まで杉下を追わせて、ラストで早苗のみ杉下は再会して和解した。
そうした時、父親やゆきと早苗を隔てているものは何か?と考えるとそれは杉下の早苗に対する罪意識だと思うんです。
杉下の三人に対する対応で、母親のみ異なるのが『杉下自身が母親を捨てた』という行為です。父親とゆきは『自分達を捨てた存在とその原因』で、自 分が捨てられた側。ですが早苗に対しては『自分が捨てた側』に立っているんです。それは成瀬との誓約を実現するため。
さざなみ以降の彼女は本当に窮地に陥り、成瀬との約束だけをよすがに非常手段を取らざるを得ない状況だった。その為に母親さえも切り捨てざるをえ なかったわけですが、基本的に気持ちの優しい杉下には、実母を切り捨てる、という行為は罪の意識を持たざるをえない存在であり、父親とゆきとは扱 いが別なのだと思います。
参照
杉下が一番辛かった時期
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