2015年8月11日火曜日

何故杉下は「西崎が野口に殴られ、警察沙汰にする」方法を選択したのか? その2

前項からの続き…

『DVバラし』は野口は激昂というより狼狽するでしょう。
彼の歪みは、自身の不安が暴力という形で奈央子に向いてしまう事であり、且つそれを制御出来ない事だという事を自ら自覚している。そんな自分を他者に知られる事は恐怖であり、隠したい事ではあるけれども、それを知った人間が既に目の前に存在する、となった場合に、果たしてその人間に対して暴力が向くか?と考えると、それでもその人物に対してそれを隠そうとするか、『どうすればいい?』とむしろ救いを求めるのではないかと思います。

そうであれば、いずれも杉下への暴力とはならなかった、と想像されます。

その上で、なぜ杉下が、一度西崎が口にした『西崎が殴られて警察沙汰にする』案を取ったか?です。

これは、はっきりと言ってしまうと『それ以外に思い浮かばなかった』からです。

人間、切羽詰ると思考の幅というものが凄く狭められる、という特徴があります。一歩引いて考えれば、直ぐ傍にあるちょっとした事に気付くのに、その瞬間に落ち込むとどんな人間でもそうなります。
あの局面では杉下は切羽詰まっていました。その状況下で局面を打開する方策を考えても、新しいアイデアなど出てこない。出てきたのは既に一度頭にインプットされていた、『西崎が野口に殴られて、警察沙汰にする』というアイデアのみ。だから杉下はこれに飛びついた。そのために野口に計画をバラす、という行動に出たんです。

この心理は、逆に言えばこうとも言える。
もし、作戦検討段階で、『西崎が野口に殴られて、警察沙汰にする』というアイデアが出ていなければ、杉下には何もアイデアは浮かばず、野口に懇願し続けたであろう。もしそうであれば、野口側がその異常さに気付き、杉下をとりなしたと想像されます。そうであれば事件は発生しなかった、という事です。

参照
みんな『安藤の僻地行き』の意味を取り違えている

2 件のコメント:

nao さんのコメント...

う~ん、motoさん、凄いです。感動しました。
私は、DVをするような人に嫌なことを言えば、「激高し暴力をふるう」または「ずる賢く取引しようとする」しか思いつかなかったのです。十把一絡げ的ですね。
言動を推測するには、状況を的確に踏まえ、性格を把握し、思い込みで決め付けないことが大切なんですね。

確かにシャルティェ広田のシェフの台詞から、安藤が野口さんに「勝負に負けたら、杉下にプロポーズして一緒に赴任します!」と告げていたことが分かります。エリート同士、僻地赴任の価値は十分に分かっていた。原作(別扱いにするべきですが)にも「むしろそうなった方がありがたい」という安藤の台詞がありましたね。

「人間、切羽詰まると思考の幅というものが凄く狭められる」「一歩引いて考えれば、直ぐ傍にあるちょっとした事に気付くのに、その瞬間に落ち込むとどんな人間でもそうなります」も納得です。私は、希美ちゃんが西崎さんを大切に想うなら、西崎さんを売るようなことをするはずがない、という一方向からだけ考えていました。希美ちゃんにとっては、それが殺人事件につながるとは思ってもみない選択だったのでしょうし。そうなんだ、なるほどなあ!

考えの進め方、とても勉強になりました。ありがとうございました!
いつかちゃんとした考察が出来るようになりますね。

motoさん さんのコメント...

naoさん、おはようございます。
遅い時間まで読んでいただいてありがとうございます。
naoさん、褒めたからって、何も出ませんよ?
あ、でも明日cafeでコーヒーの一杯位店主からサービスして貰えるよう、私から頼んでおきますね(笑)
店主もいろんな方に逢えるのを楽しみにしてるみたいです。

naoさんから頂いたお題は、面白かったですよ。
自分はどちらかと言うと、物語の中の出来事は与件として考えてしまい、余り『もしこうだったら?』という事を考える事がないので、そういう楽しみ方も有るんだと判りました。