2015年9月28日月曜日

安藤が杉下の連絡先を知っていた事の理屈づけ

ずっと安藤がなぜ帰国直後、連絡を取り合っていない、と高野にも言った杉下宛にメッセージを送れたのか?宛先を知っていたのか、考えてたんですね。

杉下は事件後携帯の番号を変えている。安藤が言っていることが正しいなら(もっともミステリーで嘘はなしですが)なんで安藤は杉下宛にメッセージを出せたのか?

この問題、ついに解けました!

使っていたツールが肝です。
はっきりいいます。LINEです。

LINEの特徴として、相手は自分の携帯番号の登録がなく、相手がLINEを使っている状態で、自分が相手の携帯番号を登録した状態でLINEに登録すると、自分の携帯に登録された番号でLINEの登録があるかを探し、一致する相手があればそのアカウントを『ともだち』として相手側にも通知する、という機能があります。

これなら説明が出来るんです。

つまりこうです。
安藤は携帯番号を事件後も変えなかった。
杉下は携帯番号を変えた。しかし安藤へはそれを教えなかった。安藤の携帯電話の登録は残したままだった。

LINEが普及し、安藤はLINEに自分の番号でアカウントを作った。
杉下もLINEのアカウントを作った。その際杉下側の携帯に登録された安藤の携帯番号で安藤のアカウントの照合がされ、杉下のアカウントが安藤側にも通知された…

この時電話番号は安藤側には通知されません。
ですので、よく見ると10話を除いて二人が携帯で会話しているシーンはない。安藤側からはLINEのアカウント以外に杉下とつながる方法がない。だから携帯で話すシーンは無いものの、安藤が一方的にLINEで時折現況連絡を入れたいたから、最初のメッセージがさも杉下が安藤が海外に行っていたことを知っている前提の書き出しになっているんです。

2015年9月27日日曜日

ミステリーネタ その2 Nチケットの有効期限日

再びミステリーと称して、どうでもいいネタの話をしてみたいと思います。
成瀬と杉下が、島を出るために相互に送りあったNチケット。

成瀬から杉下へのチケットの発行日が11月17日。
杉下から成瀬へのチケットの発行日が3月9日。

でも、この2つのチケット、いずれも有効期限が3月31日!
瀬戸内で運行されている連絡船などのチケットの発行のルールを知らないので、これ以上突っ込めないのですが…

例えば4月1日からの料金改定が決まっていて、いつ発行しても期限が年度末まで、とか?

2015年9月26日土曜日

成瀬のプロポーズの日付けの比定について

私は成瀬の杉下へのプロポーズを12月25日と比定しています。
これについて某所でどのように比定したのか?と質問を受けました。
チョッとしたネタとしてアップします。
西崎が安藤をテストし、その安藤の答えに満足出来なかった西崎が成瀬に杉下の病気を伝えます。それを受けて成瀬が翌日に杉下へ会いに行き、杉下へプロポーズした。
成瀬が杉下へ会いに行ったのが西崎の電話の翌日、と同定できるものは有りませんが、この時西崎は成瀬に杉下の病状を包み隠さず話しているものと思われ、杉下大事の成瀬がわざわざ日を開けるとも考えにくい。よって西崎の電話の翌日に成瀬が杉下に会いに行った、としました。

そうすると、後は西崎が安藤を駆使若丸に呼び出した日を同定出来ればいい。

西崎は実家へ挨拶した後に安藤を駆使若丸へ呼び出しています。
そして安藤を呼び出す前に、クリスマスのパーティをする家庭を窓外から眺めたんですね。
このクリスマスパーティの描写から、この日を12月24日と比定しました。
つまり西崎が安藤をテストした翌日が成瀬が杉下にプロポーズした日。テストした日は24日だからその翌日は25日。
このように比定しました。

参照
Nのために 記念日一覧

2015年9月25日金曜日

杉下の野望の本質

杉下の野望の性格について考えます。

家を追い出された後の杉下は懸命に現実対応をしようとしていましたよね。洋介との会話でも、今までが夢、と言っています。もしこの段階で母親も現実的対応を見せていたら、杉下の野望は生まれていないんでは?と考えています。

では野望はどこから来たか?と考えると現実的対応を出来ない母親のプレッシャーとゆきさんの土下座要求以降からだと取っています。高校生として出来る現実的対応以上のものを必要とされた反動、空想上の逃避先としての野望です。
ですので、その野望には現実性が乏しい。
バルコニーでの演説は成瀬が早々に実現してくれましたが、本来であれば、どのような立場で、といった、演説するに足るポジションに関する構想が伴って具体化されるものですが、彼女の場合、それがない。自分の空想上のシチュエーションさえ揃って仕舞えば、それで満足なんですね。具体的であるなら、その次というものが当然あるべきにも関わらず、それが存在しない。
だから基本的に彼女の野望は中身が空っぽと言っていい。
その点については安藤が早々に、アラブの富豪と出会う、という野望について指摘しています。
また、これも安藤からのの問いで何になりたい?と聞かれ『何になれるかわからんけど…』と答えている。
ですから、彼女の野望は本来彼女が島を脱出出来た時点で用無しになる筈だったのです。

ですが、大学に入ってからも彼女が野望実現に邁進したのは、バルコニーでの初心表明、Nチケットおよび頑張れエールでそれが成瀬との約束になったからです。
特に重要なのはNチケットで、この時進学を諦めかけていた杉下が成瀬のNチケットで行動する勇気を得た。『上をみる、上に行く』=野望の実現=成瀬との約束=成瀬と自分の繋がり、という図式が出来上がった瞬間だと取っています。
これは、先の安藤との会話で小馬鹿にされた杉下が『真面目に聴いてくれた人がいる』と反発したり、『約束だから』とつぶやいたりしている事で明らかです。
つまり杉下にとって野望の実現は成瀬と自分との繋がりの確認行為であり、野望そのものの内容は実は大して重要では無いのです。
この野望そのものの内容は重要で無いからこそ、『上に行く』が『物理的に高い処に行く』に変換され、『まっすぐな水平線が見たい』が、『高い処から水平線を見る』に変換されて、ゴンドラのシーンに繋がる、と理解しています。

2015年9月24日木曜日

『杉下の人生や…』と『成瀬の杉下への怒り決別説』の整合

さて、私は『成瀬の杉下への怒り決別説』採用する事にしました。ですが『成瀬は杉下のN=西崎と誤解した説』も捨てていません。
成瀬は杉下のNについて、二重の誤解をした、と判断しています。
つまりこういう事です。

作戦への参加経緯から杉下の偽証受入までが杉下のN=西崎、の誤解。
杉下の安藤入室阻止行動から西崎の電話までが杉下のN=安藤、の誤解
西崎の電話以降が杉下のN=西崎、の誤解

つまり先ず西崎、という誤解があり、その上に安藤という誤解が上乗せされた。高野との会話、および西崎からの説得で安藤については誤解は解消したものの、依然西崎については解消していない、という判断です。

何故このような判断になったのかというと、成瀬のプロポーズ時のセリフ『杉下の人生や、杉下の好きにしたらええ』が原因です。
高野及び西崎との会話で成瀬は安藤については誤解であった事が分かっていた。それでもなおかつ上記発言が出る、という事はこの時点においても成瀬にはなお別の男が杉下の中にいる、と想定して会話している事になるのです。

参照
成瀬の『杉下のN=安藤誤解説』への転向 1〜3
『成瀬の杉下への怒り決別説』採用による変更点概要
成瀬が杉下に『杉下の人生や、杉下の好きにしたらええ』と言った理由

2015年9月23日水曜日

『成瀬の杉下への怒り決別説』採用による変更点概要

成瀬が杉下のN=安藤、と誤解し彼が杉下を怒りの末決別したという説(『成瀬の杉下への怒り決別説』とします)をとる事にした事から、これまでに見解の内の幾つかを修正する必要が生じました。

まず成瀬が杉下と接触を絶った理由ですが、これは当初成瀬が杉下のN=西崎と誤解し、西崎が服役している期間は杉下の感情に介入しないため、と理解していました。しかし『成瀬の杉下への怒り決別説』では、もっとシンプルに、そのものズバリ、杉下への怒りによる決別を決めたから、となります。

二つ目は服役期間中における成瀬と西崎の杉下に関する情報交換についてです。
西崎は杉下と成瀬が接触を絶っている事を知り、成瀬を説得したと思われます。ここまでは変更有りません。ですが成瀬は何故自分が杉下と接触を絶ったのかを一切西崎へ話さなかったと思われます。
これは従来、成瀬が杉下のN=西崎と理解しており、出所まで杉下の感情に介入しないためだ、と話していたと思っていました。
これが修正点になります。

三つめが西崎が杉下の病状について先に安藤をテストした理由です。
これは当初父親から『世話になった人に恩を返せ』と諭され、杉下を愛する安藤をテストせずに成瀬に話すのは幅られたため、と理解していました。
しかし『成瀬の杉下への怒り決別説』を採用する事で、修正します。
つまり、修正点その二とも関係するのですが、成瀬が西崎に何故杉下と接触しないのかを一切語らないため、成瀬を動かせる自身が無かったのです。恐らく杉下との間の事であろう、そして成瀬が杉下と接触を嫌がっていると感触は得られても、何が成瀬を動かせる材料であるのかが、全く見当が付かない。そうであるなら、間違いなく動くであろうと計算できる安藤を先にテストすることにした。

以上が『成瀬の杉下への怒り決別説』採用に伴う、これまでの論からの主な変更点になります。

参照
西崎の『杉下を守ってやってくれ』に対する成瀬の態度について
西崎は成瀬と杉下のその後を知っていた
西崎が安藤に『崩れ落ちそうな橋』の問いをした理由

2015年9月22日火曜日

成瀬は杉下のN=安藤が誤解だと、何で気付いたのか?

杉下と怒りの決別後の成瀬の行動は徹底していました。
電話番号を変えています。そしてこれは桃さんの推測ですが、程なくシャルティエ広田も移った事が推測されます。杉下が自分を追えないようにです。成瀬には島に既に帰る処はありません。恐らく完全に彼を追う手段を断ち切ったと考えられます。

しかし十年を経て、再び成瀬は杉下に会いに行きました。それは何故に?

一つは十年という歳月が成瀬の杉下への怒りを解いた事。十年もの期間、人は一つの事で怒りを継続する事は出来ません。
二つ目は、怒りで決別したものの、やはり成瀬は杉下が好きなんです。一度その人の事をよすがとした者の心理として、如何にひどい仕打ちを受け、複雑な感情を抱こうとも、それでもその人の事が好きで止まないのです。同様の経験をお持ちでない方にはなかなかご理解頂けないし、言葉でも説明出来ないのですが、私自身の経験から断言できます。

そういう心理状態で十年を迎えた。そして高野と再会した。
杉下に会ったという高野に対しておずおずと問うています

成瀬『杉下、元気やった?』
高野『変わらんよ、あの子は。強い子やけん…電話してやり』

高野はこの時、杉下の状態をカモフラージュしています。
そして、このカモフラージュの言葉が成瀬に杉下のN=安藤が誤解だったと気付かせたんです。
高野は島以降の杉下を知らない。その高野が『変わらない』という事は高野は杉下が島にいた頃と変わらない、と言ってる事になる。つまり成瀬が事件時に感じた(=誤解した)杉下の変化の否定なんです。そしてさらには高野の言葉は言外に『今でも成瀬を庇っている』事を成瀬に伝えようとしたものであり、成瀬もそれを理解した。そうして成瀬は自分の杉下のN=安藤が誤解であった事に思い至ったのです。

なお、この部分については桃さんの論にほぼ準ずる形である事を申し添えます。

2015年9月20日日曜日

成瀬の『杉下のN=安藤誤解説』への転向 その3

成瀬には怒りを抱いていい状況がありました。
密室を作った安藤。その為死亡者二人と、無実の罪を被る決意の西崎。杉下のために崩れそうなつり橋を渡った自分…
それなのに自分の最愛の、恋い焦がれる人がそれを作り出した張本人を庇うなどという状況。

なぜ君は、あんな奴を庇うんだ!
俺と君との事はウソだったのか!
あの時俺に向けてくれた笑顔は、何だったんだ!
それをよすがにしてきた俺は、俺は!

安藤同様に杉下へ向かう怒り。

そして成瀬は杉下への決別を伝えるため、彼女の手を取った。怒りを込めて…
『君とはもうお終いだ。もう二度と逢わない』


そしてその怒りは偽証の為には必要だったのです。
もし成瀬が怒りで、瓦解しそうな自分を支えられなかったとしたら?私のようにボロボロになっていたら?
偽証は通らず、全ての関係者が誰も利を得られない状況に陥るんです。最後の最後、偽証を通したのは成瀬の怒りです。

参照
成瀬は杉下のN=安藤と誤解した? 1~4
成瀬の誤解癖
杉下の『安藤、待って!』と『助けて、成瀬くん!』
成瀬は杉下が計画をバラしたのを誤解が原因だと気付いていた
杉下はなぜ事件後、安藤の訪問を拒絶したのか?
独白 1〜7

2015年9月19日土曜日

成瀬の『杉下のN=安藤誤解説』への転向 その2

そうした成瀬の特徴に気がつき、成瀬は杉下のN=安藤と誤解した説を受け入れました。
で、その後が問題なんですね。
私以外の論者(桃さん、アフロ1さん、naoさん)は成瀬が安藤を想う(と誤解した)杉下を慮って自ら身を引いた、と説かれています。手繋ぎは、『自分は身を引く、安藤と幸せになって欲しい』だと。

私はこれを採れないんです。理由は二つ。
一つは安藤が密室を作った行為者である、という事。
もう一つは成瀬にとって杉下が闇堕ちからの復帰の際のよすがだった事です。

密室についてですが、この行為により成瀬は重大な嫌悪を抱いた。もっとはっきり言います。怒り、憎しみです。
成瀬にはなぜ安藤が鍵を掛けたのかが詳細に判っている。計画の参加者たる自分と安藤、杉下がどちらを頼るのかを試した。その方法が密室を造るという、成瀬の大事の杉下を危機に貶める行為です。そこになんら酌量できる要素を見つけられない。そして彼の行為により二人が死亡し、西崎は奈央子を庇うため犯人になり、成瀬は危ない橋を渡って事件処理に当たった。その状況を作った人物に対して、人が感じる感情は?

もう一つは成瀬にとっての杉下の存在です。成瀬にとって杉下はよすがです。そのよすがが自分を振り向いてもらえない現実に直面したとき、どうなるか?
これについては恥ずかしながら自分自身の経験を引っ張りだし、その上での推測をしなければなりません。

私は殊二人の関係性と言う意味で、成瀬がこの時置かれた状況と酷似したプロセスを経験しています。

好きな相手から突き放された(棚田での別れ)
それでも相手がよすがだった(闇堕ちからの復帰)
関係の再開を期待しての再会(結婚式二次会以降)
そして相手の気持ちが別にある事を突きつけられた(杉下のNの誤解)

私はこの状況下で壊れました。ボロボロになりました。でも成瀬は成らなかった。成瀬は非常に辛かったハズです。同様なプロセスを経た自分にはよくわかります。では彼が私と同じ状態に陥らなかったのは何故か?
私が彼同様に、落ち着いている為には何が必要だったかと考えると、それは怒りだったと思うのです。ショックがデカければデカイ程、瓦解しそうな自分を支え得る感情は怒りです。

続く…

2015年9月18日金曜日

成瀬の『杉下のN=安藤誤解説』への転向

成瀬の『杉下のN=安藤誤解説』への転向

これまで私は成瀬が杉下のN=西崎と誤解した、という説をとっていました。それを転向する事になりました。

正確にいえば上記の、成瀬が杉下のN=西崎と誤解したという認識を捨てた訳ではありません。これは今も生きています。ですが、その誤解に加え、成瀬が杉下のN=安藤と誤解したという説を受け入れる事と致しました。

成瀬が杉下のN=西崎と誤解した説で、一つ自分でも弱いな、と考えていたのが、成瀬が独自判断で島へ還る事を杉下と接触する前に決めていた事です。

西崎を思う杉下の感情に介入しない。なぜなら西崎は杉下とは接触出来ないから。西崎が出所した後改めて杉下にその選択を委ねる…
当初はダメ元だから杉下がついて来るならOK、西崎を選んでもOK、杉下が一人での生き方を選ぶならそれも良し、と考えて先に線を引いたと考えたんです。

ですが、自分では思ってもみない反論があったんです。
成瀬は杉下のN=安藤と誤解した、とする説を頂いたんです。
これは、そんなバカな、というのが当初の反応でした。
成瀬は事件の真相を完全に理解しており、論理的に判断すれば安藤と誤解する訳がない。そもそも密室を作った人間をかばう人を、その人のため、として身を引く、手を取るなど出来るはずがない!という理解だったんです。

そんなんでいろいろ議論していたんですが、その過程で成瀬の面白い特徴に気づいたんですね。その特徴というのが『杉下の成瀬に向けられた意思、行動の意図を読み間違える』というものです。具体的にはさざなみでの『ばかやろう』『ひきょうもの』の誤解です。

この特徴に気づき、これがスカイローズガーデンでも出てしまった、という事に気がついたんです。
杉下の安藤入室拒否行動と外鍵の隠蔽依頼を見て、成瀬は杉下のN=安藤と誤解したんですね。
これは実はこの行動だけ見て判断した訳では無いんです。
一つは安藤が杉下にプロポーズする意思がある、と言う事前の情報があった。そして決定的だったのが、杉下が野口から安藤を庇う意図で作戦のことをバラしていた事を成瀬が解っていた事なんです。
そう、成瀬は視聴者と全く同じミスリードをしてしまったんです。

続く…

2015年9月16日水曜日

ミステリーネタ その1 西崎の携帯電話の怪

今日、三話を見直していてとんでもないシーンを見つけてしまいました。

西崎の電話に成瀬が出たシーンです。

成瀬の携帯に西崎の電話番号が登録されている、という事実を発見しました。

西崎は所内にいる頃から携帯電話を所持していて、それを成瀬が知っていた?

西崎が持っているのはいまどきのスマホ。

そうすると、西崎は服役前から携帯電話を所持していて、服役中も契約は継続し、出所後すぐ機種変更をしたという事か?

でも事件当時西崎携帯持ってたっけ?

2015年9月15日火曜日

このドラマにはまった人

私のマリア様は今の自分の足を引っ張っている。
決して今の自分を救ってくれる存在ではない。

本来向けるべき方向に意識を向ける事を阻んでいる。
かつてのようには、自分に力を与えてはくれない。
情けない自分の原因にもし、自分が逃げ込む先にもしている。
それではいけないことは解っている。
自分の中の巨大な暗黒が時折襲い掛かって来て、とても辛い。
それでもそれを焼ききる、吹っ切る事さえ出来ない。
離れる事さえ怖くて、そこで安住を得ている自分。

現実からも、未来からも逃避している。絶望している。

かつては自分を支え、自らの今を形成した価値観、思いが今の自分を苦しめる。今更それを捨て去るのはこれまでの自分を否定する事。そしてその価値観はある特定の個人と結びついていて、その個人から精神的に離れる事に対する躊躇いと怖れ。葛藤を抱えつつ思慕したい思い。それが自分とその人との繋がりであるから。
それまでの自分を否定した相手を自らが否定出来ない心理。

このドラマにはまり、未だに謎解きを続けている人、関心を持ってこのブログを訪れる人は、みんな同じ問題を抱えている。
ドラマの登場人物の行動を理解するには、自らの経験に基づく理由を見つけなければならない。もし、自らの価値観に疑問を持たない人ならば、通り一編の解釈を与えて、このドラマから離れていく。でも自らの価値観に疑問を持つが故にそれが正しいのか自信が持てない。他人の見え方を知りたくなる。でも知った処で個別に異なる経験に依存する理由付けは当然自分と異なる。そして再び自らの価値基準に疑問を持ち、自分の本当の姿を掘り下げざるを得ない。
その作業に耐えられない人は、途中で挫折し、最後に残るのは自分が深い闇を抱えている自覚に到達した人だけ。

その自覚にたどり着くほどに、ラストシーンは以前にも増して美しいものである事に気付く。そして、その度に自らの闇の本質に否応無く気付かされるドラマ。それがこのドラマの本当なのかもしれません。

2015年9月14日月曜日

杉下の野望と上昇志向 セリフ編

杉下の野望、及びその上昇志向について改めて考え見たくて、杉下のセリフを追ってみたいと思っています。

一話
弟と愛人からもらった食事中に
『生きていくためにはなんだってせんならんのよ、なんだってやってやる』

愛人からもらった食事のタッパーを前に東屋で
『下は見ない、上を向く、上を向く』

成瀬と東屋で
『野望に燃えとるだけよ』

成瀬と堤防で
『それぐらい野望大きくないと、つまらん現実にのみこまれるやろ』
『わたしね、あの先まで行ってみたい。何もない場所で、何もせんで、幸せって言い聞かせながら、狭い世界で人生終えるなんて、やよ…広い世界で生きていきたい』

野望ノート
『豪華客船で富豪とであう』
『まっすぐな水平線が見たい』
『バルコニーで演説をする』

バルコニー演説
『私、杉下希美は一人で正々堂々と生きていく。誰にも頼らん、欲しいものは全部自分で手に入れる。最後まで諦めずに、上目指す。力の限り戦略的に、どんな手を使ってでも全力で戦う事を誓います』

二話
高松デート
『今は島を出ることしか、考えてない…親がなんて言っても、私はもっと上に行ってみたい。そこから何が見えるんか、見てみたいんよ』

2015年9月13日日曜日

成瀬の誤解癖

『成瀬は杉下のN=安藤と誤解した?』の議論で一つの知見を得る事が出来ました。成瀬の認識の癖の発見です。

成瀬の面白い特徴として、杉下の自分に向けられた意思による行動の意図を読み間違える、という癖?があるんですね。

その特徴はさざなみとスカイローズガーデンでそれぞれ出ました。

さざなみでのそれは、杉下が奨学金を成瀬に譲った後の、彼女の感情を読み間違えました。
成瀬が奨学金に通ったとクラスで紹介された際の杉下のシャーペンのノック5回を『ばかやろう』だと取りました。でも実際は『よかったね』です。

そしてスカイローズガーデンでは、杉下の安藤入室阻止行動以降の杉下の行動を読み違えています。
スカイローズガーデンでの杉下のN=成瀬です。
杉下の安藤入室阻止行動は、彼女の行動特性の現れです。杉下には『都合が悪い事は咄嗟に他人に隠す』特性があります。
この時、杉下には成瀬は“内”であり、安藤は“外”です。事が事なだけに杉下は安藤の入室を必死に止めようとするのですが、これを成瀬は杉下が安藤を事件に関わらせたくない意思による行動=安藤の保護行動と見ました。
さらに追い打ちをかけたのが、杉下の安藤の外鍵隠蔽依頼です。
これは安藤の外鍵については事前の共謀では方針が話題に上っていなかった事項です。成瀬には安藤が鍵を掛けた事が明らかになった時点でその隠蔽は必然であったのですが、杉下は、安藤が証言をひっくり返す具体的な証拠を持っており、確実にその隠蔽をしたいが故に成瀬に依頼したのです。
ですがこれが成瀬には、自明である事項に対して改めて杉下が依頼してきた。それは確実に安藤の保護したい為、といういうふうにとってしまった。

こうして成瀬は杉下のN=安藤との誤解してしまったのです。

参照
杉下の『安藤、待って!』と『助けて、成瀬くん!』
成瀬は杉下のN=安藤と誤解した?
『杉下のN=成瀬』説普及短期集中講座 その1~11

2015年9月12日土曜日

独白 その6

その5で Fin. と書いておきながら追記します。
彼女に「もう、昔のことだから」と言われた際の自分の状態についてです。

これだけは、はっきりと覚えています。

高く積んだ積み木が崩れていく様
氷河の先端が海に崩落する様

ゆっくりと、だけれども一瞬で瓦解していく自分
瓦解する様をただ見つめるしか出来ない無力な自分
泣きながらわめきながら、ばらばらになった自分をかき集める自分
そんな自分を眺める感情の抜け殻たる観察者としての自分

その後、彼女の電車を見送るまで自分支配したのは、ばらばらになった自分をかき集める自分でした。
彼女を見送った後は、ばらばらになった自分を呆然と見つめる自分でした。

2015年9月10日木曜日

成瀬は杉下のN=安藤と誤解した? その4

熱い議論が止みません。この議論がこれほど熱を帯びるとは!
私が最初に提示した、成瀬は杉下のN=安藤とは取っていない、西崎だと取っていた説。
ポイントはそれでは成瀬は杉下の手を取れないだろう、というものでした。

当初桃さんの杉下は恋愛出来ない説→西崎への感情への疑問の応酬から始まり、その後成瀬が杉下のN=安藤と誤解したとする場合の、島での高野と成瀬の会話の検証と解釈へと話が進みました。
その後杉下の抱えるトラウマの解釈へと話は進み、電話番号を変えた意図の解釈の応酬が行われます。

そこへnaoさんの『杉下の安藤入室阻止行動』の意味は?との問いが入ります。そこから再び事件現場での杉下の行動意図とそれを見た成瀬の解釈論、成瀬から見たときの杉下が偽証を受け入れた理由の再評価と進みました。そして杉下の『都合の悪い事は外の人間に対してとっさに隠す』行動特性が、安藤の入室阻止行動の意味である、という重要な知見が得られた。
その後『大切な人の事だけ考えた』の意味論が展開されました。

そしてついに成瀬が『杉下のN=安藤と誤解した』説の拡張型として『成瀬は杉下を嫌った』説が出てきます。それに対して手厳しい意見も頂きつつ、西崎がなぜ安藤を先に呼び出したのか?という解釈からアプローチが始まっているところです。

参照
成瀬は杉下のN=安藤と誤解した? 1〜3

独白 その5

彼女を先に電車に乗せ見送った後、ホームで一人始発を待つ間、涙が止まりませんでした。嗚咽が止まりませんでした。もう誰かを好きになるのはやめよう、そうも思いました。
そして、
「もう、昔のことだから」
これが彼女の言葉で記憶に残る唯一の言葉となりました。
大人になっていたであろう彼女からみて、中学の頃の私は幼く見えたと思います。大学に進んでいた私も中学の頃と大差なく見えたのかもしれない。そんな私に本当の事を言ってどうなるのか、という気持ちだったのかもしれません。当時の私にはその言葉を受け止めるのが困難でした。

その後暫くの間は、飲めもしない酒を毎晩かっくらってました。やけ酒です。
あったのは、後悔と八つ当たり、虚しさと悲しさ。後はなんでしょう、それは言葉にならない、だけれども決してポジティブでない何か。

私は結局大学の間、住まいを移しませんでした。それはもしかしたら、彼女から連絡があるかもしれない、そんな奇蹟を期待して、電話番号を変えたくなかったからです。ですが、彼女から電話が掛かってくる事は有りませんでした。

もし、彼女が『想いを寄せてくれる人がいる』でなく、『付き合っている人がいる』と答えていたら、もしかしたら自分の反応はまた違うものだったかもしれません。
自分の時と同じだ。だとしたら自分の時は、自分に気持ちがあったと思いたい。そこに自分が介入するのは自分から彼女をかすめ取る事のように感じたのかもしれません。

私の中の彼女には笑顔が有りません。
戸惑った顔、泣いている顔。苦しそうな顔。
彼女は結局一度も私に笑いかけてはくれませんでした。
だから私は成瀬が羨ましいんです。だって、成瀬には自分に向かって笑ってくれた杉下が居るのですから。

fin

2015年9月9日水曜日

独白 その4

待ち合わせの場所で彼女の顔を見たとき、瞬く間に中学の時のときめきが甦りました。ですがそれも直ぐに打ち砕かれました。想いを寄せてくれる人がいる、と聞かされて。手を伸ばせば届く処に彼女が居るのに、その距離が絶望的に感じました。「その人に気持ちが有るなら、真剣に受け止めるべきだ」多分こんな意味の事を言ったと思います。でも、それは嘘です。単なる格好つけ。動揺している自分を繕いたかっただけ。私の本心は別の処に有りました。
 『あの時まともに出来なかった恋愛を、もう一度ここから始めたい』
ですが、その言葉を彼女に伝える事は出来ませんでした。

『彼女はその人のことが好きなんだ』私はそう判断しました。『自分の時と同じだ』と。
このとき、なぜ自分がそう判断したのか不思議です。自分は中学の頃彼女から返事をもらえませんでした。だから彼女の気持ちが本当はどうだったのか知りません。それを知りたかったのですが、何故か彼女の答えを、相手を好きなんだと取った。恐らく、彼女の答えに自分が割り込める、となった場合、中学の時の彼女の自分に対する感情を自ら否定する事になるからでしょう。
いずれにせよ、私ははそう思いました。

あとはせめてもの救いを、とすがるような心境でした。せめてあの時の彼女の気持ちが聴きたい。確かめたい。『あの時、君は好きでいてくれたの?』
ですが、心が折れていた私の口から出た言葉は、その心同様屈折したものでした。
「恋に恋してたんじゃないか」
この言葉を発した瞬間『しまった!』と思いました。『違う、それは本心じゃない!』
ですが彼女の言葉でそれを取消す気も失せました。
「もう、昔のことだから」
そう、周りの時間は四年という歳月と共にそれに相応しいだけ進んでいるのに、自分だけがそれから取り残されていたという事にその時、その言葉で思い知らされたのです。既に全ては過去の事だと。

それ以後は、言葉を搾り出すように話していた記憶があるだけで、会話の内容も情景も何も覚えていません。とにかく彼女の前で泣かないよう、必死に堪えていた。酷い顔をしていたんだと思います。彼女はその顔を見て『怖い』と思ったんだと思います。

続く…

2015年9月8日火曜日

独白 その3

私は自分のマリア様について、冷静に事をお話しすることが出来ません。それは自分にとって強烈なコンプレックスだからです。文章になるか自信がありません。ですがこのドラマの解釈に、彼女に関する経験が色濃く反映してるのは間違いありません。

大学で彼女と再会した際の事です。
『恥ずかしいという名のシカト』の後、彼女は私のマリア様になりました。そして彼女と接点を持ったのは、その『恥ずかしいという名のシカト』以来の事でした。高校の間も年に数度、部活の大会で出かける際に駅などで顔を合わせましたが、一切会話はありませんでした。それでも彼女は私のマリア様でした。その頃は”マリア様”だなんて呼びませんでしたが、はっきりと自覚はありました。自分の彼女に感じた感情、それをよすがに、苦しい期間を乗り越え、漸く脱出した…

大学一年の前期が終わり、後期に入った頃から、無性に彼女の事が思い出されました。新しい生活にもなれ、リズムを掴んだ頃です。よく外国に出た人が外国にいるからこそ自分が日本人である事を意識する、といった話を聴きますがそれに近い感覚かも知れません。自分という人間の根っこが何であるのか、自分のアイデンティティーとは何か。それを強く意識したんだと思います。自分を見つめ直した時、彼女という存在が自分のアイデンティティーの非常に大きな位置を占めている事に気付きました。単に思い出の一つとして片付けられない何かとして。自分の中で彼女の事が未完である事を自覚しました。
それまで彼女がどうしているのか、全く知りませんでした。場所を聞いて浮かれたました。それは自分と近い場所でした。本当に偶然でした。もう一度彼女との関係を再開出来るかも知れないと思いました。

続く…

2015年9月7日月曜日

杉下の『安藤、待って!』と『助けて、成瀬くん!』

この話題は実は成瀬は杉下のN=安藤と誤解した?を巡る議論の中でコメントを頂いてるnaoさんからの問題提起、『成瀬には杉下の安藤入室阻止行動がどのように見えていたか?』から始まり、そこに桃さんも加わった議論で得た成果です。お二人に感謝!

杉下のN=成瀬という認識下で、成瀬を守る為の行動として杉下の安藤入室阻止行動がどのような意図であるのかがさっぱり見当が付かなかったんですが、naoさん、桃さんの説明で理解出来ました。
『成瀬を護りたい杉下にとって、成瀬と自分の関係を知る者を増やしたくない』という心理です。
この心理は彼女の行動特性から来ています。杉下には『都合が悪い事は咄嗟に他人に隠す』という特徴があります。

四阿で成瀬に対して母親の発作を高野に言わ無いでほしい、と頼むシーン。
さざなみ放火で成瀬が高野に詰め寄られる場面で咄嗟についた嘘『四阿で成瀬に奨学金の申請書を渡した』
そして安藤の入室阻止行動

いづれもが『都合が悪い事は咄嗟に他人に隠す』特性の発露です。

そう考えると、成瀬には『助けて!』と言い、安藤には『入らないで!』という、杉下の二人に対する心理的距離の対比が非常に面白いですね。
杉下にとっては、成瀬は『中の人』であり、安藤は『外の人』だという事が如実に表れている。この心理は作戦の参加者かどうかに関係無い。危機に際して杉下が誰を頼るのか?というまさに安藤が知りたかった事そのものの発露なんですね。
杉下は成瀬の入室直後、その背中に『成瀬くん、ごめん』とつぶやいています。杉下も成瀬は本質的に巻き込んではいけない存在だとこの時点で判っていてる。それでも切羽詰まった時に助けを求めざるを得ない、そしてそれができるのが唯一成瀬なんだ、という事が端的に表されているのが、この二人に対する対応の描写なんですね。

2015年9月6日日曜日

『杉下のN=成瀬』説普及短期集中講座 その11

 あとがき的に

 とにかく、このドラマ、徹底して真意を隠す事を徹底しています。この安藤の外鍵の隠蔽がトリックである事さえ事前・事後の刷り込みを使って隠蔽しました。

 このトリック破りで一番の勘所は、講座のその3で開設した時間軸を区切って考えることと、意図を明確に意識する事です。これに気付く事自体が本来はトリック破りの醍醐味です。

 杉下は誰を何から護るのか?
 杉下が偽証を受入れたタイミングは?
 偽証の主従構造は?
 偽証をひっくり返すことが出来るのは誰?

 これらを冷静に分析すれば、杉下のN=安藤とはならないのです。

 皆さんに気付いてほしい。製作者に完全に負けたままで、なおかつそれに気付かないなんて悔しいじゃないですか。製作者に一太刀浴びせましょう!

 このトリックを破ったからと言って、この物語の謎解きは終わりません。その先にやっと見えてくる謎が幾つもあるのです。ぜひその世界を皆さんも楽しんでください。

 なお、杉下のN=安藤説に対して明確な最初の異を唱えたのは、ここでもコメントを頂いている桃さんです。安藤の外鍵のトリック破りは桃さんのものです。

 最後に
 安藤派が一つの論拠にしている、公式での原作者のコメントについて。

 『主人公と相手が紆余曲折を経て両思いになり、めでたし、めでたし、といった話ではありません。それなら、私が書く意味がない』

 私は原作者のコメントはあくまで原作について述べたもの、と割り切っています。ミステリー作家が自らの作品について、本当の事を言うわけがない。それを詮索するのは無意味です。原作の描写からドラマを理解しようとする行為自体が間違いです。

 実は安藤派、若しくは中間派と呼ばれる方の多くが原作を読んでいる方たちです。この方たちが陥ったのが、原作の最終版に記述されている十年後の杉下のモノローグ、『安藤望のために』の記述です。この記述を物語全体と取っているんです。ですが、この記述は野口に対する僻地赴任阻止行動の事しか書かれていない。杉下の種明かし的に『安藤望のために』と書くことで原作者は読者に対して物語り全体が安藤の為に、という事後刷り込みをしているんですね。

参照
安藤のNは杉下と言っていいのか? 1~2
成瀬は安藤が外鍵をかけた事を捜査機関に喋らない事が判っていた
杉下の立ち位置のくせ 1~2
成瀬が安藤にいった 『杉下があの時考えていたのは… 』の意図 1~4
成瀬は杉下のN=安藤と誤解した? 1~3
『杉下のN=安藤』を採用しない理由
安藤の僻地赴任阻止行動の杉下の源泉
杉下の安藤の外鍵隠蔽行動
安藤の指輪に杉下が涙する理由
杉下が安藤に事件の真相を語らないのは愛されていたから?
安藤の名前が『のぞみ』である事の必要性 1~2

2015年9月5日土曜日

『杉下のN=成瀬』説普及短期集中講座 その10

トリックその7
『〜のために』という言葉の多義性による原因、意図、効果のすり替え誘導

これは端的に言えば、タイトル「Nのために」そのものが、ある種の心理的誘導効果がある、という事を言っています。

「~のために」という言葉でみなさんはどのように感じるでしょうか?特別の前提を置かなければ基本的に行為者の意図を表現しているととると思います。「~」の部分が行為者の意図の向け先となります。

「~を…する意図で何がしかの行動をする」

しかし、よくよく考えてみてください。この言葉、私は最低3つの、明確に区分すべき用法があると理解しています。

一つはすでに述べました。行為者の意図です。
二つめは、「~が原因で」という使用方法。
三つめは、「~まで効果が及ぶ」という使用方法
これらを、明確に使い分けないといけない。これらを明確に使い分けないで「~のために」を使うと、発言側が原因を言っているのに、受け側が意図をと受け取る、はたまた使用者自身が無意識に取り違える、という事さえ起こるのです。

例えば
「成瀬は安藤のために外鍵の隠蔽の偽証をした」

これは表現として間違っていません。安藤が外鍵を掛けたから(=原因)成瀬が偽証をする必要が発生したのです。ですが、成瀬の意図は杉下の保護です。
また、上記の表現はこうともとれます。外鍵の隠蔽の偽証により、成瀬の意図ではないものの、その効果が安藤にも及ぶという表現でも成立するのです。

この罠に陥った例が西崎の評価です。
西崎が犯人になる動機をあれだけ明確に語っているにも関わらず、その評価として“全員を護る意図”で西崎が犯人になった、という評価がある。これなどは完全にこの誘導効果に陥った例です。

ぜひ自分で「~のために」という言葉で理解されているシナリオが、上記の「意図」であるのか、「原因」であるのか、「効果」であるのか、検証してみてください。より事件の真相がクリアーに見えるはずです。それぞれの「~のために」を明確に区分することで、「~のために」の間で不整合が生じる可能性が大です。

2015年9月4日金曜日

『杉下のN=成瀬』説普及短期集中講座 その9

トリックその5
高野の安藤への発言『誰かを守るために無心に嘘をつく人間もいる』

これは視聴者への事後刷り込みです。
正確には高野はスカイローズガーデンの事を言っているのではなく、自分が真実にたどり着いたさざなみの事を言っている。それは夏恵の事であり、成瀬を庇い続けた杉下の事を念頭に話している。しかし安藤が誰からも真実を明かされないという会話の中でこれを言わせる事で、さも安藤が真実を知らされないのは愛されていたから、というカモフラージュを製作側が行ったんです。それはつまり安藤の外鍵が隠蔽されたのは安藤への愛故、という刷り込みを行ったんです。こうして安藤の外鍵のトリックそのものが隠蔽されているんですね。
さらに言えば、実は夏恵はこのシーンのために設定されたキャラクターと取っています。つまり、トリックの隠蔽のためのキャラクターという意味です。これに気付いた時に、如何に製作側が入念に安藤の外鍵のトリックを徹底的に隠蔽しようとしたかに思いが至りました。つまり視聴者にトリックがある事さえ気が付かせない、という強い意志です。

トリックその6
成瀬の安藤への発言『あなたを護ろうとしていました』

これも視聴者をへの事後刷り込みです。外鍵の隠蔽偽証を担った成瀬自身に言わせる事で、杉下のN=安藤を視聴者への刷り込み、トリックの存在そのものを隠蔽したんです。
実はこの成瀬の発言の出処として、実際に成瀬が杉下のN=安藤と取った、という説と、杉下の野口に対する安藤の僻地赴任阻止行動の意図を成瀬が知っていてその部分だけを言ったもの、という二説があり、まだ決着がついていませんが、いずれにせよ製作側からすれば成瀬にこう言わせる事でトリックの存在そのものを隠蔽した事に違いは無いんです。

続く…

2015年9月3日木曜日

『杉下のN=成瀬』説普及短期集中講座 その8

トリックその4
8話での杉下の立ち位置の操作

8話における、杉下の成瀬及び安藤とのツーショット時のポジションの対称性の演出に気付かれた方はいらっしゃいます?。
安藤とは野口宅からの帰り、杉下は野ばら荘から駅までの送りで共に橋の上でツーショットの描写があります。

安藤との際には杉下は右に、成瀬との際には杉下は左にポジションしています。

実はこのドラマ全編を通して異性とのツーショット時の杉下のポジションは一定のルールに基づいて演出されていました。それは以前にも『杉下の癖』として紹介したのですが、そのルールの一つに『心を開いている異性の右に立つ』というのがあります。

つまり制作者はずっと一定のルールで視聴者に対して、杉下の異性に対する心象を刷り込んできたんです。
そのため、この8話での二つのシーンの演出により視聴者は杉下の気持ちは安藤にある、と刷り込みされたんですね。

但し、この立ち位置のルールには例外があって、相手に対する蟠りがある場合には杉下は左に立つ、というものがあります。この時杉下は成瀬を西崎の奈央子救出に巻き込む、という蟠りを抱えていたので成瀬の左に立ちました。ですので決して成瀬に対して心を開いていない、という訳ではないのですが、これを意図的に安藤との対比として演出する事で杉下の気持ちは安藤にある、という刷り込みを視聴者に行ったんです。

続く…

2015年9月2日水曜日

『杉下のN=成瀬』説普及短期集中講座 その7

トリックその2
杉下の成瀬への外鍵隠蔽依頼の演出

これは講座その5において、偽証の構造論より杉下のN=安藤とはなり得ないことは解説しました。それではここではどのようなトリックがあるのでしょう。
これはトリックその1の、僻地赴任阻止行動とセットで理解するべき部分です。つまり僻地阻止行動において杉下は安藤の保護を目的に行動した。ここで杉下の大事は安藤、という刷り込みをした上で、具体的安藤の罪(外鍵を掛ける)について、警察に安藤が連れ出されるまさにそのタイミングで成瀬に対して隠蔽を依頼する、という演出をすることで、杉下の行動ルールの事件前後での変化と、偽証の構造上の従属関係性を視聴者に対して目眩ませをしたんです。

トリックその3
『一番大切な人の事だけ考えた』の杉下のモノローグ

これが実は事前の視聴者への刷り込みだとどれほどの人が気付いたでしょうか?
事件の真相が明かされる前の段階で、杉下のモノローグが安藤が鍵をかけて立ち去る描写に被せられているんです。これで視聴者は、無意識下に杉下の大事は安藤、という刷り込みをされたんですね。
では、このシーンにおいて制作者は嘘をついたのか!というと必ずしもそうは言えない。ある種のレトリック操作で、大切な人=安藤、という表現は成立し得るんです。
それがどのようなものであるかというと、『真の目的を達成するための必須条件、中間目標も真の目的同様に大事と表現し得る』というものです。つまり、『成瀬の保護の為には安藤の外鍵の隠蔽が必須条件。だから大切なのは安藤』というロジックです。

続く…

2015年9月1日火曜日

『杉下のN=成瀬』説普及短期集中講座 その6

前回までで杉下のN=成瀬説の立証を行いました。ここからはなぜ視聴者は杉下のN=安藤と取ったのか、製作者が仕込んだトリックを解説します。

使われたトリックをリストします。

直接的なトリック
トリックその1 杉下の安藤の僻地赴任阻止行動
トリックその2 杉下の成瀬への外鍵隠蔽依頼の演出

事前の刷り込み
トリックその3 『一番大切な人の事だけ考えた』の杉下のモノローグ
トリックその4 8話での杉下の立ち位置の操作

事後の刷り込み
トリックその5 高野の安藤への発言『誰かを守るために無心に嘘をつく人間もいる』
トリックその6 成瀬の安藤への発言『あなたを護ろうとしていました』

全般
トリックその7 『〜のために』という言葉の多義性による原因、意図、効果のすり替え誘導

恐らくこのリスト、その4とその7については?で、それ以外は全部杉下のN=安藤の証拠では?と思われる方がほとんどだと思います。
ですが、これらは巧妙に製作者が杉下のN=安藤とのミスリードを誘うためのトリックなのです。

トリックその1
杉下の安藤の僻地赴任阻止行動

これこそ、杉下のN=安藤の証拠なのでは!という方がほとんどだと思います。なぜ、これがトリックであるのか?
私が奈央子の自殺以降を対象に杉下のNを論じているのには、ここに理由がある。
事件の発生の前と後で、杉下の行動ルールが違うんです。
この時確かに杉下は野口に対して安藤を守る意図で行動した。
しかし事件発生以後は、杉下は何に対して彼女のNを守るのか?
それは捜査機関に対してです。闘う相手が異なるのですから、杉下の行動ルールが変わるのは必然です。杉下は野口から安藤を守る意図で僻地赴任阻止行動を行った。これは真です。しかしそれをもって杉下が捜査機関から安藤を保護する事を意図としてその後の行動をする、とは断定出来ないのです。
ですから、これは人間の因果律を利用した、視聴者を引っ掛けるためのトリックなんです。