杉下と怒りの決別後の成瀬の行動は徹底していました。
電話番号を変えています。そしてこれは桃さんの推測ですが、程なくシャルティエ広田も移った事が推測されます。杉下が自分を追えないようにです。成瀬には島に既に帰る処はありません。恐らく完全に彼を追う手段を断ち切ったと考えられます。
しかし十年を経て、再び成瀬は杉下に会いに行きました。それは何故に?
一つは十年という歳月が成瀬の杉下への怒りを解いた事。十年もの期間、人は一つの事で怒りを継続する事は出来ません。
二つ目は、怒りで決別したものの、やはり成瀬は杉下が好きなんです。一度その人の事をよすがとした者の心理として、如何にひどい仕打ちを受け、複雑な感情を抱こうとも、それでもその人の事が好きで止まないのです。同様の経験をお持ちでない方にはなかなかご理解頂けないし、言葉でも説明出来ないのですが、私自身の経験から断言できます。
そういう心理状態で十年を迎えた。そして高野と再会した。
杉下に会ったという高野に対しておずおずと問うています
成瀬『杉下、元気やった?』
高野『変わらんよ、あの子は。強い子やけん…電話してやり』
高野はこの時、杉下の状態をカモフラージュしています。
そして、このカモフラージュの言葉が成瀬に杉下のN=安藤が誤解だったと気付かせたんです。
高野は島以降の杉下を知らない。その高野が『変わらない』という事は高野は杉下が島にいた頃と変わらない、と言ってる事になる。つまり成瀬が事件時に感じた(=誤解した)杉下の変化の否定なんです。そしてさらには高野の言葉は言外に『今でも成瀬を庇っている』事を成瀬に伝えようとしたものであり、成瀬もそれを理解した。そうして成瀬は自分の杉下のN=安藤が誤解であった事に思い至ったのです。
なお、この部分については桃さんの論にほぼ準ずる形である事を申し添えます。
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