2016年2月29日月曜日

杉下の早苗に会う心理 その二

杉下は、成瀬に対する冒涜観念の故に成瀬の元に還った。
病で迷惑が掛る事が掛る事が明白であるにも関わらず、それでも自分に寄り添う意志を表明した成瀬の申し出を固辞する事への冒涜感。
つまり自分が成瀬に迷惑を掛ける事を嫌がる感情をより、それでも彼が自分に寄り添いたい、という彼の感情を蔑ろしする事を恐れた訳です。

そのような杉下ががその後どう考えるか。
彼の望み、感情を全身全霊で受け止め、彼を全身全霊で愛そうと考えたのだと思います。
そのために障害となるものは全て捨て去ろうとした。
彼の前にまっさらな存在として立つために。

それは成瀬に抱えた罪意識であり、
野口夫妻への罪意識であり、
西崎、早苗に対する罪意識であり、
安藤への憎悪、嫌悪感です。

だから早苗に赦される事を欲し、安藤にエールを送った…
全てはN=成瀬のために

だから、この局面においてもやはり杉下は成瀬という存在に歪み、そのためにエゴイスティックな選択をしているんですね。
ですが、その突き抜けた先に彼女が到達したのは自分と関わった全ての人と出来事への感謝の念であり、人としての清らかさであった。その到達点がラストシーンだったのだろうと思うんです。

杉下の、成瀬に歪みに歪んだ人生の到達点としての、魂の奇跡の領域への上昇。成瀬の元での杉下の至福。
やはり、このドラマは奇跡を描いたドラマなのです。

成瀬との関係性において早苗に赦される事を欲した杉下ではあるけれど、早苗との関係性において一番の障害は、杉下が早苗に対して『ごめんなさい』と言えるか?だった。
『ごめんなさい』と言う事を欲したのは成瀬との関係性から来ている。
では、その言葉を発するのを阻害しているものは何か?

単純に考えると、俗に言う母親に対して抱えているとされるトラウマ、と答えそうだけど、彼女が早苗の前から逃げ出した心理ってもっと複雑なように感じるんです。

『ごめんなさい』を言いに行った相手の前から逃げ出す心理って、二つあると思います。
一つは赦されないかもしれない、という可能性に対する恐怖ですよね。
二つ目は過去に負った心的外傷がフラッシュバックする可能性への恐怖。

この時の杉下は『早苗から赦されないかもしれない可能性への恐怖』と見ています。その根拠は、杉下にとって早苗は直接的にフラッシュバックを呼び覚ます存在ではないからです。
トラウマとしての早苗はさざなみの火で成瀬という存在にオブラートされた。
しかし早苗の野ばら荘訪問時の杉下の反応から、早苗は成瀬と接触出来ない一番辛い時期を呼び覚ます存在ではあり続けている。

でも、杉下が早苗を訪ねた時は、成瀬の前に立つために早苗を訪ねた訳です。そうすると一番辛い時期を呼び覚ます存在に恐怖した、とは言えないと思うんです。
つまりフラッシュバックに対する恐怖から逃げ出したのではない、という結論になります。

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