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2024年1月16日火曜日

ドラマ:スカイローズガーデンを読み解く入り口

謎解きの入り口としての鳥瞰カットの内、2つ(西崎との会話後の成瀬の後ろ姿、杉下の成瀬からの電話を出た際の立ち姿)からスカイローズガーデンを紐解く入り口を与えてくれています。

  • 成瀬と杉下が距離を取る事になった理由
  • 杉下のN=成瀬である事の理由

成瀬と杉下が距離を取る事になった理由

これは成瀬が西崎に話したはずの内容です。成瀬と杉下の間にこの事件の後に接触がない事から、理由はスカイローズガーデンの中にあります。これは成瀬が西崎に語った内容ですので、端的に言えば、成瀬から見てスカイローズガーデンでの杉下の行動がどう見えたのか?がポイントになります。

成瀬には杉下が安藤を庇っているように見えた

西崎が警察に犯人が自分である事を自供し、杉下は成瀬に「外からドアチェーンが掛かっとった事、警察には言わんで」と依頼しています。これが成瀬には杉下が安藤を庇っていると見えたのです。

成瀬には過去に似た経験があります。島時代、初めて杉下の買い出しに付き合い、幽霊屋敷を訪れた際に早苗の壊れっぷりを見た後に二人で東屋へ立ち寄ります。そこへ高野が訪れ杉下に大丈夫か、と問いかけがありました。この時杉下は成瀬に『母親の事は黙っていてほしい』旨を頼んでいます。

成瀬は、ドアチェーンを安藤が掛けた事を認識しています。この島での経験から成瀬にはドアチェーンの隠蔽の依頼する杉下は安藤を庇おうとしている、と見えたのです。

また、この見え方を補強してしまった事前情報がありました。安藤がこの食事会で杉下にプロポーズしようとしている、というシャルティ・広田でシェフから聴いた情報です。少なくとも成瀬には安藤は杉下と恋仲なのか?と考えさせられる情報を持っていた事が、杉下が安藤を庇っていると見えた要因ともなっています。

成瀬には安藤は許しがたい存在

成瀬はこのドラマでは性格的には『普通』な存在として描かれています。自身の父親がさざなみ炎上の放火犯であると疑っていた彼は、杉下の勘違いを訂正できずにいました。

また、その父親が亡くなった事から自暴自棄に陥り、詐欺まがいの事までしてしまった。決して強靭でも聖人君子でもない普通の青年なのです。

そのような成瀬から見たとき、結果野口夫妻が亡くなり、西崎が奈央子を庇う為に無実の罪を被る決意をし、自分も杉下も偽証するという危険な橋を渡る事になる状況を、鍵を掛ける事で作り出した安藤は許しがたい存在です。

成瀬にとっては安藤を庇うようにみえる杉下も許しがたい存在

そんな成瀬には、安藤を庇うように見える杉下の行動は驚きであり、またそのような行動をする杉下は安藤同様に許しがたい存在であるのです。

事実成瀬は、杉下の依頼に対して目を見開いて彼女を凝視し、警察と部屋を出ていく安藤に視線を送り、再び杉下を凝視しました。その後杉下の手を取り、杉下が部屋を出るのを見送りますが、彼の視線は一貫して冷めたものであり、杉下の背中に向けられたそれは、敵意さへ感じられるほどのものです。

そこには、それまでの杉下を護ろうとする意思、彼女をいたわる感情が全く見られません。

血濡れの手繋ぎは成瀬からの杉下への決別宣言

そのような状況下、成瀬は杉下の手を取ります。杉下は成瀬に視線を送りますが、成瀬は杉下へ視線を送りません。

この手繋ぎは、先の成瀬の杉下への視線、安藤についての成瀬の反応、事件の後10年間成瀬と杉下に接点がない点を考えると、この行為は成瀬から杉下への、決別の意思表示と考えるべきです。

成瀬が西崎に話した事

成瀬と西崎の電話において、西崎は成瀬に何故二人に距離が出来てしまったのか?を問うたでしょう。成瀬は以下の点を西崎に話したはずです。

  • 『杉下からドアチェーンが掛かっていた事を警察に話さないよう頼まれた』
  • 『それは杉下が安藤を庇う意図と理解した』
  • 『安藤は許されざる存在。その安藤を庇う杉下を嫌悪した』

杉下のN=成瀬である事の理由

これは西崎と成瀬との会話において、西崎が成瀬を説得する事を意図し、成瀬に話したはずの内容です。これが説得の決め手となり、成瀬は翌朝、杉下を訪ねます。二人の会話の内容・流れを推測するならば、順番的には先に成瀬が、杉下と自分が距離を取る事になった事情を西崎に話した内容のカウンターとして西崎が話した事項になります。

まず西崎は、成瀬がと杉下の距離を取った理由に対する、彼の誤解を解く

ここでの成瀬の誤解とは杉下が成瀬にドアチェーンの隠蔽を依頼した真意です。西崎は『安藤を庇う』事とは別に存在する、杉下がそうする必要性を成瀬に説明する事になります。

西崎にはドアチェーンの隠蔽の意図が判る

杉下が成瀬にドアチェーンの隠蔽を依頼した事実は西崎は知りません。その時既に彼は警察に導かれ、部屋を退いているからです。しかし西崎は杉下が成瀬にドアチェーンの隠蔽を依頼した真意が判ります。何故なら、西崎自身がドアチェーンについて、警察には話をしていないからです。

当然西崎は安藤がドアチェーンを掛けた事を判っています。西崎は後に入室した安藤に向かって「逃げられなかった」と彼の行為を責め、また出所後西崎を訪ねてきた安藤に対して冷たい対応をしています。西崎の対応には、安藤を庇う意図は見られません。しかしドアチェーンについては杉下と同じ行動を取っているのです。

三人の謀議内容

成瀬が入室した後に3人による謀議の内容は以下のものです。

西崎:「作戦は失敗だ。警察に通報してくれ。警察には作戦の事は黙っておこう。俺が一人で奈央子を連れ出すつもりだった」

杉下:「でも」

成瀬モノローグ:(どうして、今自分がここにいるのか解った。4年前杉下は何も聴かず俺を庇ってくれた。今度は俺の番だ)

成瀬:「大丈夫。全部偶然だ、って言えばいい」

西崎:「ああ」

成瀬:「杉下と俺はなんも知らんかった、今日会ったのも偶然。(杉下に)それでいいね」

(頷く西崎、西崎が自分に向ける笑顔に膝まづく杉下)

つまり、3人の謀議のポイントは以下の通りです

  • 西崎単独計画・単独実行
  • 3人が現場に居合わせたのは偶然

3人の謀議を覆しうる存在

しかし、この3人の謀議を覆しうる人物が存在しています。それが安藤です。

  • 杉下へ電話した際、部屋に『男性のお客さん』が訪ねてきている事を知っている(7話)
  • 蟹を杉下の部屋へ届けた際、西崎の話から西崎と杉下及び『杉下の友人』が食事をしていた事を知っている(8話)
  • 冷蔵庫内にシャルティエ・広田のケーキが在るのを確認している(8話)(そして安藤がその光景=『シャルティエ・広田のケーキが冷蔵庫内にある事』を見ている事を杉下は認識している)
  • 安藤と杉下の会話で、野口宅でのパーティがシャルティエ・広田の出張サービスによるものである事を安藤は知っており、杉下が同級生が働いており、その同級生が特別にクリスマスイブにキャンセルが出た事を教えてもらった事を安藤に話している。また安藤はその同級生が杉下の部屋を訪ねてきた『お客さん』である事に気付いており、杉下も同意している(8話)
  • 安藤と西崎がスカイローズガーデンのエレベーターで鉢合わせした際、西崎に『杉下の同級生の関わり』を問い、「3人そろって偶然な訳ないだろ。何考えてる?」と3人による何がしかの計画に気付いている(10話)

つまり、これらの事実を安藤が警察に証言した場合、上記の3人の謀議は簡単にひっくり返るのです。

杉下の成瀬へのドアチェーンの隠蔽依頼は安藤の口封じ

西崎及び杉下は安藤が謀議内容をひっくり返しうる存在である事は判っていました。そして、3人(西崎、杉下、成瀬)がドアチェーンに言及しなければ、西崎と杉下には安藤は自らドアチェーンを掛けた事は証言しないだろう、と推測したと思われます。

ドアチェーンは野口夫妻の死亡の間接的な原因であり、故に自ら進んでドアチェーンを掛けた事は安藤は証言しないだろう、との判断です。人間は自らに都合が悪い事象については口を紡ぎがちとなりますから、この推測は妥当と思われます。

しかし、成瀬は安藤が謀議をひっくり返し得る存在であるという事を知りません。上記の諸点はいずれも成瀬が認識しえない場所で展開されています。ですから杉下は成瀬にドアチェーンには触れる事がないよう、成瀬に依頼したのです。

ですので、西崎も成瀬に対して杉下のドアチェーンの隠蔽依頼の意図を『安藤の口封じ』が目的であった事を説明したと考えられます

西崎からみて杉下の行動が誰を護るためのものであったのか?

西崎が成瀬に対して、杉下のN=成瀬である、と成瀬に説明するには、西崎自身が見聞きしている杉下に関する情報から説明する必要があります。

  • 西崎との会話で杉下は『究極の愛』の概念を持っており、それが『罪の共有』である事も西崎は聞いている(4話)
  • 早苗が杉下を訪ねてきた際、西崎に匿われた杉下は彼女の『罪の共有』相手に対して感情を駄々洩れさせた(5話)
  • 奈央子救出作戦に成瀬が加わる事を報告した杉下に西崎は成瀬が杉下の『罪の共有』相手であるかを問い、杉下もそれを否定しなかった(8話)
  • 成瀬が杉下の部屋を訪ねてきた際、杉下が非常に成瀬に気を配っている事を見ている(7、8話)
  • 杉下が複数回に渡り、自分と成瀬が共同で事に対処するという趣旨の発言をしており、西崎はそれを聞いている(8話)
    • 「そしたら私が体当たりして成瀬君を助けるよ」
    • 「後の事は私と成瀬君がなんとかするから…」
    • 「なにかあっても、私と成瀬君がついているから」

つまり西崎は成瀬に以下の点を話したはずです。

  1. 成瀬は杉下の『究極の愛』の概念を生んだ相手
  2. 彼女にとって成瀬は『罪の共有』をさせるに至った事件を抱えるにいたった特別な存在
  3. 疎遠であった間も彼女が成瀬に強烈な感情を有していた事
  4. 奈央子救出作戦を契機に杉下が成瀬との関係を再開させようとしていた

決定的な証拠は杉下が謀議を受け入れたタイミング

野口を殴打した奈央子から、西崎と杉下は退去を求められます。西崎は既にドアチェーンが掛かっている事を知っていたため動きませんでしたが、杉下は玄関へ向かいました。そこでドアチェーンが掛かっており、脱出不可能である事を知ります。

奈央子が自殺をし、西崎が偽装工作をしつつ、杉下に偽証を求めます

  • 「野口を殴ったのはおれだ、奈央子を刺した野口を俺が殺した」
  • 「何も見なかった事にしてくれ」
  • 「愛はないかもしれないが、罪を共有してくれ」

しかし杉下はこの西崎の要求に対して杉下はこれを拒否します

  • 「なんでそんな嘘つかなきゃならないの。西崎さんが罪を被る事はないでしょう」
  • 「そんな嘘、つきとおせる自信ない」
  • 「そんなの、出来ないよ」

しかし、その後成瀬が入室し、成瀬が3人が居合わせたのは偶然、という謀議内容を西崎・杉下に提示した段階で、杉下はそれを受け入れました。成瀬の示した内容は、西崎が先に提示した『西崎単独計画・単独実行』を補強するもので、西崎が杉下に要求した偽証と方向性は変わらず、西崎が杉下に要求した偽証の方向から必然として生じる内容なのです。

しかし西崎の要求には拒絶し、成瀬の指示にはそれを受け入れたという事は、成瀬が状況に加わる事で杉下に偽証を行わなければならない理由が生じたという事です。『罪の共有』という彼女の概念を知る西崎には杉下が成瀬と『罪の共有』をするに至った事件は当然未解決である事が予想されます。

つまり西崎には杉下が偽証を受け入れたのは、成瀬が状況に加わる事で、未解決である過去の事件が蒸し返され、再び成瀬が危険な状況に陥る事を杉下が恐れたから、と見えます。

安藤は杉下が偽証を受け入れた理由には入らない

西崎は杉下が野口宅を出ようと玄関に向かった事を知っています。ドアチェーンが掛かっており外に脱出出来ないという事を彼女も認識したと判断したはずです。一方西崎は鍵を掛けたのは安藤と判断していました。彼が入室した際に安藤に向かって「逃げられなかった」と言ったのは、西崎の安藤に対する非難です。

西崎から見たとき、杉下の偽証受け入れに安藤の存在が感じられるでしょうか?

もし西崎からみて杉下が安藤の存在を意識する場面があるとするなら、それは彼女がドアチェーンが掛かっているを確認した時でしょう。しかし、その後の西崎との会話においては彼女は西崎の偽証要求を拒絶しています。つまり嘘を付く事に拒絶をしているのです。もし安藤を庇う意思があるのであれば、西崎の要求には拒絶しないでしょう。そうすると、彼女が偽証の受け入れた理由に安藤を庇う意図はなかった、と見る事ができます。

西崎が成瀬に語った事

以上をまとめると、西崎が成瀬を説得する為に語った事は以下の通りとなります
  • 杉下にとっての成瀬とは『究極の愛』『罪の共有』の相手であり、強烈な感情を抱いている
  • 杉下は奈央子救出作戦を機に『罪の共有』概念に含まれる『だまって身を引く』ことで距離を取っていた成瀬との関係を再度取り戻そうとしていた
  • 杉下が成瀬にドアチェーンの隠蔽を依頼した理由は安藤が3人の謀議を覆し得る存在であった為の口封じ
  • 西崎の偽証要求に対して杉下は拒絶しており、杉下の偽証受け入れは、状況に加わった成瀬の過去の事件の蒸し返しを恐れたからであり、杉下が護ろうとしたのは成瀬である、という事

2023年11月3日金曜日

なぜ成瀬は外鍵を隠蔽した?

 やはり最初は偽証の中身を確認するところから始まると思います。

正直、原作では何を解けばよいのか?どこが謎解きの入り口なのか?という点がドラマ程はっきりしていない印象なのですが、やはりとっかかりはスカイローズガーデンでの偽証の分析から始まるのだろう、と考えるのです。

まずは、成瀬、杉下、西崎の謀議(口裏合わせ)の内容を確認します。(双葉文庫版P123、以下同じ)

  • 計画性の否定
    • 3人が会ったのは偶然
      • 成瀬と杉下は同窓会後会っていない
      • 成瀬と西崎は初対面
      • 杉下は西崎と奈央子に面識があった事は知らなかった
    • 西崎の単独計画
  • 西崎による野口殺害(野口が奈央子殺害→西崎の野口殴打)

次に杉下と西崎の謀議の内容を確認します。成瀬に対するものです。(P314)

  • 西崎による野口殺害(野口が奈央子殺害→西崎の野口殴打)
  • 杉下は奥の書斎にいて殺害を見ていない
  • 杉下はチェーンが掛かっている事を知らない(外鍵の隠蔽)
杉下と西崎の謀議の内容は、西崎が発案・指示したものです。彼の意図がどこにあったか別として、彼は自分が野口殺害の犯人となる事を望んだ。そうすると、杉下に対する2つの指示(杉下は殺害現場を見ていない、チェーンが掛かっていた事を知らない)は自分が野口殺害犯となる事を担保するために必要だった事と評価できます。杉下が殺害現場を見ていない事にすれば、その状況について矛盾する証言をせずに自身の証言だけが証拠となるからです。またチェーンの隠蔽も外部要因による事件への影響といった観点を取り除くという意味で、西崎が自身が野口殺害犯として振舞うには都合がいい内容です。

一つ不思議なのが、なぜ成瀬が外鍵の隠蔽を図ったか?その必要性に気付けたか、なんです。3人による謀議では外鍵については話題に上がっていなかったにも関わらず西崎と同じ判断に至った。

成瀬が事件の現場に関して把握している状況としては
・西崎による野口殺害(西崎の説明)
・杉下は殺害を見ていない(杉下の説明)
・外鍵が掛かっていた
このような内容です。しかし実際のところは二人の説明を疑っていた。それどころか、杉下の殺害への関与を否定できずにいた(P126)

西崎が燭台を持てないだろう、という判断は事件後西崎の『灼熱バード』を読んでからの判断ですから、彼が事件直後に杉下の殺害の関与を疑っていたのか?は疑問ですが、杉下・西崎の自分への説明に対して何がしかの違和感を抱いたのは間違いない。
作戦では杉下が野口を書斎に引き留め続け、奈央子を西崎が連れ出すものであったにもかかわらず、それが出来ずに野口が西崎の前に現れた事になるからです。しかも確認した書斎の将棋盤の駒配置がコントロール可能なものであったはずなものであるなら、野口を書斎に留めておくことが出来なかったという状況が彼には理解出来なかった(P127)。

少なくとも、彼には事件時にここまでの状況把握はあっただろうと思うのですね。そのうえで外鍵の隠蔽という彼の独自行動に結びつくのかが、ギャップがあって理解できていない点です。

2015年9月6日日曜日

『杉下のN=成瀬』説普及短期集中講座 その11

 あとがき的に

 とにかく、このドラマ、徹底して真意を隠す事を徹底しています。この安藤の外鍵の隠蔽がトリックである事さえ事前・事後の刷り込みを使って隠蔽しました。

 このトリック破りで一番の勘所は、講座のその3で開設した時間軸を区切って考えることと、意図を明確に意識する事です。これに気付く事自体が本来はトリック破りの醍醐味です。

 杉下は誰を何から護るのか?
 杉下が偽証を受入れたタイミングは?
 偽証の主従構造は?
 偽証をひっくり返すことが出来るのは誰?

 これらを冷静に分析すれば、杉下のN=安藤とはならないのです。

 皆さんに気付いてほしい。製作者に完全に負けたままで、なおかつそれに気付かないなんて悔しいじゃないですか。製作者に一太刀浴びせましょう!

 このトリックを破ったからと言って、この物語の謎解きは終わりません。その先にやっと見えてくる謎が幾つもあるのです。ぜひその世界を皆さんも楽しんでください。

 なお、杉下のN=安藤説に対して明確な最初の異を唱えたのは、ここでもコメントを頂いている桃さんです。安藤の外鍵のトリック破りは桃さんのものです。

 最後に
 安藤派が一つの論拠にしている、公式での原作者のコメントについて。

 『主人公と相手が紆余曲折を経て両思いになり、めでたし、めでたし、といった話ではありません。それなら、私が書く意味がない』

 私は原作者のコメントはあくまで原作について述べたもの、と割り切っています。ミステリー作家が自らの作品について、本当の事を言うわけがない。それを詮索するのは無意味です。原作の描写からドラマを理解しようとする行為自体が間違いです。

 実は安藤派、若しくは中間派と呼ばれる方の多くが原作を読んでいる方たちです。この方たちが陥ったのが、原作の最終版に記述されている十年後の杉下のモノローグ、『安藤望のために』の記述です。この記述を物語全体と取っているんです。ですが、この記述は野口に対する僻地赴任阻止行動の事しか書かれていない。杉下の種明かし的に『安藤望のために』と書くことで原作者は読者に対して物語り全体が安藤の為に、という事後刷り込みをしているんですね。

参照
安藤のNは杉下と言っていいのか? 1~2
成瀬は安藤が外鍵をかけた事を捜査機関に喋らない事が判っていた
杉下の立ち位置のくせ 1~2
成瀬が安藤にいった 『杉下があの時考えていたのは… 』の意図 1~4
成瀬は杉下のN=安藤と誤解した? 1~3
『杉下のN=安藤』を採用しない理由
安藤の僻地赴任阻止行動の杉下の源泉
杉下の安藤の外鍵隠蔽行動
安藤の指輪に杉下が涙する理由
杉下が安藤に事件の真相を語らないのは愛されていたから?
安藤の名前が『のぞみ』である事の必要性 1~2

2015年9月5日土曜日

『杉下のN=成瀬』説普及短期集中講座 その10

トリックその7
『〜のために』という言葉の多義性による原因、意図、効果のすり替え誘導

これは端的に言えば、タイトル「Nのために」そのものが、ある種の心理的誘導効果がある、という事を言っています。

「~のために」という言葉でみなさんはどのように感じるでしょうか?特別の前提を置かなければ基本的に行為者の意図を表現しているととると思います。「~」の部分が行為者の意図の向け先となります。

「~を…する意図で何がしかの行動をする」

しかし、よくよく考えてみてください。この言葉、私は最低3つの、明確に区分すべき用法があると理解しています。

一つはすでに述べました。行為者の意図です。
二つめは、「~が原因で」という使用方法。
三つめは、「~まで効果が及ぶ」という使用方法
これらを、明確に使い分けないといけない。これらを明確に使い分けないで「~のために」を使うと、発言側が原因を言っているのに、受け側が意図をと受け取る、はたまた使用者自身が無意識に取り違える、という事さえ起こるのです。

例えば
「成瀬は安藤のために外鍵の隠蔽の偽証をした」

これは表現として間違っていません。安藤が外鍵を掛けたから(=原因)成瀬が偽証をする必要が発生したのです。ですが、成瀬の意図は杉下の保護です。
また、上記の表現はこうともとれます。外鍵の隠蔽の偽証により、成瀬の意図ではないものの、その効果が安藤にも及ぶという表現でも成立するのです。

この罠に陥った例が西崎の評価です。
西崎が犯人になる動機をあれだけ明確に語っているにも関わらず、その評価として“全員を護る意図”で西崎が犯人になった、という評価がある。これなどは完全にこの誘導効果に陥った例です。

ぜひ自分で「~のために」という言葉で理解されているシナリオが、上記の「意図」であるのか、「原因」であるのか、「効果」であるのか、検証してみてください。より事件の真相がクリアーに見えるはずです。それぞれの「~のために」を明確に区分することで、「~のために」の間で不整合が生じる可能性が大です。

2015年9月4日金曜日

『杉下のN=成瀬』説普及短期集中講座 その9

トリックその5
高野の安藤への発言『誰かを守るために無心に嘘をつく人間もいる』

これは視聴者への事後刷り込みです。
正確には高野はスカイローズガーデンの事を言っているのではなく、自分が真実にたどり着いたさざなみの事を言っている。それは夏恵の事であり、成瀬を庇い続けた杉下の事を念頭に話している。しかし安藤が誰からも真実を明かされないという会話の中でこれを言わせる事で、さも安藤が真実を知らされないのは愛されていたから、というカモフラージュを製作側が行ったんです。それはつまり安藤の外鍵が隠蔽されたのは安藤への愛故、という刷り込みを行ったんです。こうして安藤の外鍵のトリックそのものが隠蔽されているんですね。
さらに言えば、実は夏恵はこのシーンのために設定されたキャラクターと取っています。つまり、トリックの隠蔽のためのキャラクターという意味です。これに気付いた時に、如何に製作側が入念に安藤の外鍵のトリックを徹底的に隠蔽しようとしたかに思いが至りました。つまり視聴者にトリックがある事さえ気が付かせない、という強い意志です。

トリックその6
成瀬の安藤への発言『あなたを護ろうとしていました』

これも視聴者をへの事後刷り込みです。外鍵の隠蔽偽証を担った成瀬自身に言わせる事で、杉下のN=安藤を視聴者への刷り込み、トリックの存在そのものを隠蔽したんです。
実はこの成瀬の発言の出処として、実際に成瀬が杉下のN=安藤と取った、という説と、杉下の野口に対する安藤の僻地赴任阻止行動の意図を成瀬が知っていてその部分だけを言ったもの、という二説があり、まだ決着がついていませんが、いずれにせよ製作側からすれば成瀬にこう言わせる事でトリックの存在そのものを隠蔽した事に違いは無いんです。

続く…

2015年9月3日木曜日

『杉下のN=成瀬』説普及短期集中講座 その8

トリックその4
8話での杉下の立ち位置の操作

8話における、杉下の成瀬及び安藤とのツーショット時のポジションの対称性の演出に気付かれた方はいらっしゃいます?。
安藤とは野口宅からの帰り、杉下は野ばら荘から駅までの送りで共に橋の上でツーショットの描写があります。

安藤との際には杉下は右に、成瀬との際には杉下は左にポジションしています。

実はこのドラマ全編を通して異性とのツーショット時の杉下のポジションは一定のルールに基づいて演出されていました。それは以前にも『杉下の癖』として紹介したのですが、そのルールの一つに『心を開いている異性の右に立つ』というのがあります。

つまり制作者はずっと一定のルールで視聴者に対して、杉下の異性に対する心象を刷り込んできたんです。
そのため、この8話での二つのシーンの演出により視聴者は杉下の気持ちは安藤にある、と刷り込みされたんですね。

但し、この立ち位置のルールには例外があって、相手に対する蟠りがある場合には杉下は左に立つ、というものがあります。この時杉下は成瀬を西崎の奈央子救出に巻き込む、という蟠りを抱えていたので成瀬の左に立ちました。ですので決して成瀬に対して心を開いていない、という訳ではないのですが、これを意図的に安藤との対比として演出する事で杉下の気持ちは安藤にある、という刷り込みを視聴者に行ったんです。

続く…

2015年9月2日水曜日

『杉下のN=成瀬』説普及短期集中講座 その7

トリックその2
杉下の成瀬への外鍵隠蔽依頼の演出

これは講座その5において、偽証の構造論より杉下のN=安藤とはなり得ないことは解説しました。それではここではどのようなトリックがあるのでしょう。
これはトリックその1の、僻地赴任阻止行動とセットで理解するべき部分です。つまり僻地阻止行動において杉下は安藤の保護を目的に行動した。ここで杉下の大事は安藤、という刷り込みをした上で、具体的安藤の罪(外鍵を掛ける)について、警察に安藤が連れ出されるまさにそのタイミングで成瀬に対して隠蔽を依頼する、という演出をすることで、杉下の行動ルールの事件前後での変化と、偽証の構造上の従属関係性を視聴者に対して目眩ませをしたんです。

トリックその3
『一番大切な人の事だけ考えた』の杉下のモノローグ

これが実は事前の視聴者への刷り込みだとどれほどの人が気付いたでしょうか?
事件の真相が明かされる前の段階で、杉下のモノローグが安藤が鍵をかけて立ち去る描写に被せられているんです。これで視聴者は、無意識下に杉下の大事は安藤、という刷り込みをされたんですね。
では、このシーンにおいて制作者は嘘をついたのか!というと必ずしもそうは言えない。ある種のレトリック操作で、大切な人=安藤、という表現は成立し得るんです。
それがどのようなものであるかというと、『真の目的を達成するための必須条件、中間目標も真の目的同様に大事と表現し得る』というものです。つまり、『成瀬の保護の為には安藤の外鍵の隠蔽が必須条件。だから大切なのは安藤』というロジックです。

続く…

2015年9月1日火曜日

『杉下のN=成瀬』説普及短期集中講座 その6

前回までで杉下のN=成瀬説の立証を行いました。ここからはなぜ視聴者は杉下のN=安藤と取ったのか、製作者が仕込んだトリックを解説します。

使われたトリックをリストします。

直接的なトリック
トリックその1 杉下の安藤の僻地赴任阻止行動
トリックその2 杉下の成瀬への外鍵隠蔽依頼の演出

事前の刷り込み
トリックその3 『一番大切な人の事だけ考えた』の杉下のモノローグ
トリックその4 8話での杉下の立ち位置の操作

事後の刷り込み
トリックその5 高野の安藤への発言『誰かを守るために無心に嘘をつく人間もいる』
トリックその6 成瀬の安藤への発言『あなたを護ろうとしていました』

全般
トリックその7 『〜のために』という言葉の多義性による原因、意図、効果のすり替え誘導

恐らくこのリスト、その4とその7については?で、それ以外は全部杉下のN=安藤の証拠では?と思われる方がほとんどだと思います。
ですが、これらは巧妙に製作者が杉下のN=安藤とのミスリードを誘うためのトリックなのです。

トリックその1
杉下の安藤の僻地赴任阻止行動

これこそ、杉下のN=安藤の証拠なのでは!という方がほとんどだと思います。なぜ、これがトリックであるのか?
私が奈央子の自殺以降を対象に杉下のNを論じているのには、ここに理由がある。
事件の発生の前と後で、杉下の行動ルールが違うんです。
この時確かに杉下は野口に対して安藤を守る意図で行動した。
しかし事件発生以後は、杉下は何に対して彼女のNを守るのか?
それは捜査機関に対してです。闘う相手が異なるのですから、杉下の行動ルールが変わるのは必然です。杉下は野口から安藤を守る意図で僻地赴任阻止行動を行った。これは真です。しかしそれをもって杉下が捜査機関から安藤を保護する事を意図としてその後の行動をする、とは断定出来ないのです。
ですから、これは人間の因果律を利用した、視聴者を引っ掛けるためのトリックなんです。

2015年8月31日月曜日

『杉下のN=成瀬』説普及短期集中講座 その5

つまりどういう事かと言えば、安藤に一切触れずに済む偽証を杉下が成瀬の指示で受け入れたという事は、杉下は安藤の保護が目的で偽証を受け入れたのではない、安藤以外の誰かを保護対象として偽証を受け入れた、という意味なんです。

そしてそれはだれか?と言えば、それは成瀬です。
杉下のN=成瀬、その人です。

なぜ成瀬と言えるのか?これには直接的証拠があります。
成瀬の入室前、西崎は杉下に対して『罪の共有』という名の偽証要求をしていますが杉下は拒否しています。
しかし成瀬の、西崎との共謀による『それでいいね』という偽証指示は受け入れた。
どちらの要求・指示によっても、偽証内容に差はない。
つまり、西崎を保護する(奈央子を庇って西崎自身が犯人になるという西崎の意思の実現)目的では杉下は偽証を受け入れる事は出来無いが、後に状況に加わった成瀬を保護する(杉下との関係性からさざなみ放火事件を蒸し返される事を防ぐ)目的であれば偽証を受け入れる事が出来たんです。

ですから杉下のN=成瀬なのです。

それではなぜ安藤の外鍵の隠蔽が行われたのでしょう?
これは中の三人(西崎、杉下、成瀬)と安藤との間で暗黙のゲームが成立したからです。

中の三人に取って、安藤が鍵をかけた事が捜査機関に対して知られるのは致命的です。西崎に会った事、西崎が成瀬について言及した事、三人が杉下の部屋で会っていたことが全て明らかとなり、偽証の根幹がくつがえってしまうのです。
ですので、三人には安藤に喋って欲しくない、だから『こっちは黙っててやるから、そっちも黙っていろ』。それが西崎の安藤への『逃げられなかった』の発言の意図です。

安藤は安藤で、自身の行為が野口夫妻の死亡のきっかけとなった自覚がある。出来る事なら自らの行為は捜査機関に知られたくない。だから自分からは鍵について触れない。

こうして安藤の外鍵が隠蔽されたのです。ですから中の三人にとっては、安藤の外鍵の隠蔽はあくまで偽証を通す為の手段であり、安藤の保護が目的ではない。杉下のN=安藤とはなり得ないのです。

続く…

追記
実は成瀬と安藤については、正確にはもう少し別の意味が加わるのですが、議論が複雑になるので省略します。すでに投稿した記事がありますので、そちらをご参照ください。

2015年8月30日日曜日

『杉下のN=成瀬』説普及短期集中講座 その4

それでは具体的に見ていきましょう。

奈央子の自殺以降の経過を記します。
1.奈央子自殺
2.西崎の杉下に対する『罪の共有』の要求と杉下の拒否
3.成瀬入室
4.西崎、成瀬の共謀→杉下の偽証受け入れ
5.成瀬、警察へ通報
5.安藤入室
6.安藤の『おれのせいだ』
7.警察着
8.杉下の成瀬への外鍵隠蔽要求、安藤退出、成瀬、杉下の手繋ぎ

杉下のNを判断するには、偽証の構造と杉下が偽証を受け入れたタイミング、そしてその偽証を受け入れた杉下の動機を読み解く必要があります。

まず偽証の構造の分析から始めます。
・西崎単独犯
・西崎の単独犯とするには、作戦の存在を隠蔽する
・作戦の存在を隠蔽する目的で、三人の関係性は希薄であり、偶然現場に居合わせた事にする
・その偶然性を担保するには、外鍵の隠蔽が必要

上の三つ(西崎単独犯、作戦の隠蔽、偶然の主張)は、成瀬と西崎が合意し、杉下がそれを受け入れました。
最後の外鍵の隠蔽は3人の間での合意は無く、杉下が成瀬へ依頼しています。

実は偽証の構造のうち、核心は上の三つ(西崎単独犯、作戦の隠蔽、偶然の主張)であり、仮に安藤が外鍵を掛けていなくても、同じ事を主張したはずの事項なのです。
つまり、最後の外鍵の隠蔽は、安藤が外鍵を掛けた為に、偽証の核心部分を担保する必要から追加的に生じた偽証です。

それではなぜ安藤の外鍵の隠蔽が必要になったかと言えば、安藤が偽証の核心部分をひっくり返す事が可能な存在であるからなんです。

続く…

2015年8月29日土曜日

『杉下のN=成瀬』説普及短期集中講座 その3

先ず一つ言葉の定義について明確にさせて頂きたいと思います。ここで論じる『杉下のN』とは、スカイローズガーデン事件の処理の際、杉下が誰の事を大事として行動したか、とします。より具体的には奈央子の自殺以降、杉下がその人物を護るために行動、選択をした対象者とします。つまり杉下が『一番大切な人の事だけ考えた』相手です。

なぜこのような形で時間軸上のある点以降に限定するか、については実はそれ自体がトリックに関係するからです。ですので本来であれば、このようなテクニックを用いる事自体がトリック破りのための方法論なので、謎解きの一部に含まれるのですが、これを予め提示した上で先を進めないと、話が正確に伝わらない可能性が高いため、便宜上先に提示させて頂きました。

もう一点はここで分析、解説させていただく事項に関しては、『杉下の意図』がその対象である、という事も併せて先に断っておきます。
この点についても、上記の時間軸に関する説明と同じです。これから進める論中、『〜のために』という表現が頻出する事になりますが、その意味を取り違えるとこれも話が正確に伝わらない、あまつさえ、全く意味が逆になる事が起こるので、先に明確にさせて頂きます。

実を言うと、上記二点を明確に意識する、使い分ける事に気付く事がこの『杉下のN』分析上の方法論として必要不可欠で、これを取り違えるとあらぬ方向に論が進んでしまいます。その意味で製作側のミスリードのテクニックのネタばらしであり、これに気付く事自体がここの謎解きの楽しみの一つではあるのですが、それでは解説にならないので、皆さんの楽しみを幾つか減じますが、その点は了承願います。

それでは明日以降、具体的に話を進めていきましょう

続く…

2015年8月28日金曜日

『杉下のN=成瀬』説普及短期集中講座 その2

この二派の主張は真っ向から対立しており、相容れないもののように見える。
また俳優などのインタビュー記事などでも“視聴者に解釈を委ねる”的な情報も流れており、さもその二派両方の解釈はそれはそれで成立するんだ、といった雰囲気が醸成されていた。

しかし、よく両派の論を見比べると、一致点も存在している。
それは『スカイローズガーデンでは杉下は自らの意思で安藤を護った』、つまり『杉下のN=安藤』と安藤派だけでなく、成瀬派もこの点について認めているんです。

これは奇妙な現象です。

杉下のNが明かされていないにも関わらず、その意見を異にする二つの系統双方が、『杉下のN=安藤』との一致を見ている。ドラマの謎とされている部分について見解が一致しているにも関わらず、その他の部分の解釈が真っ向から対立している。

なぜこのような事象が発生するのか?
それは、この『杉下のN=安藤』という、ドラマを見た殆どの方が一致している正にこの見解が間違っているからです。

『杉下のN=安藤』はトリックです。その詳細は次回以降詳述させてもらいます。
そして、この『杉下のN=安藤』説を脱却出来たとき、このドラマの本当の面白さが目の前に広がります。それはこのトリック破りの何倍もの面白さです。皆さんにぜひその世界を知って頂きたい。それがこの講座の本意です。

今は、ここから先の議論で必要な心構えだけ述べさせてもらいます。
一つ、キャラクターへの思い入れは捨てる。
一つ、全ての描写へ懐疑の眼を向ける
一つ、このドラマがミステリーである事を認める
一つ、ミステリーにおいては論理的可能性は必然である事を受入れる

続く…

2015年8月27日木曜日

『杉下のN=成瀬』説普及短期集中講座

このドラマで一番解りやすく且つ一番多くの方が解消できていないギャップがスカイローズガーデンで『杉下のN=安藤』に見えるにも関わらず、ラストシーンで杉下は成瀬の元で幸せを得た描写です。
他のメンバー、成瀬、西崎、安藤がそれぞれ自身のNが誰であったかを高野に明かしているにも関わらず、杉下のNだけは最後まで明かされることなくドラマは終了してしまいました。

このギャップを解消するため、番組終了直後からさまざまな解釈が展開されました。それは成瀬を中心に解釈する系譜(いわゆる成瀬派)と安藤を中心とする系譜(いわゆる安藤派)の2系統に大別されます。

成瀬派の論旨
・島時代を含め、全編で杉下の成瀬への想いが描写されている。だからラストで杉下が成瀬の元に還るのは当然。
・スカイローズガーデンでは杉下は安藤を護った(杉下のN=安藤)
・杉下が安藤を護ったのは、安藤が杉下の上昇志向の象徴的存在であり、彼の将来がつぶされることは何としても避けたかった。また生活能力に若干の問題(のこぎりをろくに使えない)のある安藤を長女気質でまもった。

安藤派の論旨
・東京編での杉下の恋愛感情は安藤にあった。
・だからスカイローズガーデンでは安藤を護った(杉下のN=安藤)
・成瀬の元に還ったのは杉下が病気となり、安藤の将来への邪魔になるのを嫌がったから。安藤を諦め、それでも受入れてくれる幼馴染の元へ行くのは、現実的な女性の選択。
・原作者自身が『紆余曲折を経て主人公が両思いになる物語を自分が書く意味がない』と言っている。成瀬派の論旨は原作者が書かない、と言っている事そのもの

いわゆる中間派、と呼ばれる系統も存在しますが、これは上記二派のハイブリッド論ですので、この講座では特に扱いません。

続く…

2015年6月27日土曜日

成瀬は安藤が外鍵をかけた事を捜査機関に喋らない事が判っていた


成瀬は安藤が操作機関に対して、安藤が鍵を掛けた事を始め、西崎とあった事、作戦の存在につながるであろう一切の証言はしないだろう、という事が事前に判っていた、ととってよさそうです。

当初より、私は成瀬が安藤が自分から捜査機関に対して鍵を掛けた事は証言しない、と判断していたと思っていました。
それは一般的な心理として、自身の行動が少なからず人の生き死にに関わったなら、自分から積極的にその行為を話したがらないだろう、という推察から、成瀬はそう判断する、ととっていたんです。

しかしですが、安藤側から改めて事件にどう当たるべきか、という事の推理をしてみたら、安藤が何も語らない事が杉下のためと言い得る事が判りました。

そうした時、成瀬が冒頭の認識に立ち得る、という事も分かったんです。

成瀬は安藤が杉下へプロポーズする意思を知っていた。だからこそ、安藤が鍵を掛けた理由も理解出来ている。その上で、成瀬自身が現場の状況に関する情報で事の真相は野口夫妻の心中である事まで到達し、杉下を守るためには偶然を装う必要性まで理解出来た訳です。ほとんど同じ情報を得た安藤が自分と同じく推論を進めれば、同じ結論になる、と成瀬は判断できるんですね。安藤が杉下を大事にする限りにおいて、その行動は自分とおなじだ、という事です。

実は、安藤自身も成瀬の行動方針は自分と同じだろう、と理解しているので、成瀬と安藤との間には奇妙な共闘関係が成立していたんですね。

参照
安藤のNは杉下と言っていいのか? その二
事件に対する成瀬の認識の到達度の検証