シェフ、シェフの想い人がいらっしゃいましたよ!
連絡しようと、インカムのスイッチを入れ、コールした。外であっても、周囲なら届く。
『フロントより成瀬シェフへ』反応がない。もう一度コールする。
『フロント岡本より、成瀬シェフ!』やはり返事はなかった。
「もう、なんでよりによってこんな時にカムを外してるのよ!」そうとなれば急いで探さないと。
この朝の早い時間帯にシェフが居る場所は限られる。外に居るはずだが、店内という可能性も有る。外を探す前にまずは店内だ。
厨房を覗いたが誰もいない。その奥の食品庫もいない。スタッフルームかとドアを開けてもいない。男性用更衣室を勇気を出して入ってみたけれどやっぱりいない。やはり外だ。気持ちがはやる。早くシェフに伝えたい。
エントランスから外へ駆け出した。テラスの手前に車が数台置けるスペースがあり、仕入れの準備の際はシェフはそこへ車を止めている。きっとそこだ。ゲスト用の小径は通らず、そのスペースへ続く舗装路を駆け上がった。ゲスト用の小径はちょっと遠回りだ。
ちょっと息が上がってきた。高校までは走っていたけど、ここのところ運動は全くやっていない。やってないと、すぐ体力は低下するんだ、という至極もっともでかつ分かりきった事に妙に納得してしまう。でももう少し、急がないと。
最後のカーブを曲がり視界が開けた先、軽トラックの脇にシェフが立っているのが見える。シェフーーー!!
「着たよ!」
テラス側から声がした。シェフの想い人の声だ。何やら紙片を右手に挙げ、合図を送っている。それが何かは判らないけれど、きっと彼女に取って大事なサインなのだろう。
シェフに視線を戻すと、なんだか妙にぎこちない右腕の動きで軽トラックを指し、
「これから仕入れに行くけど、乗る?」
これには思わず面食らった。なに?あの不自然な動作は?
厨房でのシェフの動きはスマートで、男性としては細めの指をしなやかに動かし、繊細な加工が必要なデザートなども綺麗に仕上げる。その動きの美しさに思わず見惚れてしまうのに、今の動きはなに?声も上ずって変。〝何もない関係〟って言ってたけど、本当なんだ。そもそも女性慣れしてない??
シェフが想い人へ歩み寄る。視線は想い人へ据えられている。やがて二人は並び立ち、シェフが想い人の左手を取った。しばらく愛おしそうにその手を弄ってから、二人は視線を合わせる。シェフの顔は見えないけれど、想い人の顔は幸せそうな笑みをたたえ、シェフを愛おしそうに見つめている。そしてシェフがゆっくりと手を引くと、二人は抱き合った。お互いがお互いをふんわりとした、最上級の軽いシルクのベールで包み込むような、そんな抱擁。それでいて決して離れないという強い意志を感じる抱擁。
〝綺麗…〟
私は思わず見惚れてしまった。二人を羨ましくも思った。そしてシェフの想い人へのチョットした嫉妬も。
〝シェフ、これからお二人でお幸せに〟
そんな強がりをしないと、今日は一日持ちそうに無い。
2015年10月7日水曜日
【二次作品】 スタッフの問い その5
今日は早出のシフトで、夜間シフト者からの引き継ぎを済ませたところだ。この時間は店内の清掃や営業の準備の時間で、私もフロント周りの整理や、今日の宿泊や食事の予約を確認する時間だ。伝票類の整理をしていると、エントランスから赤い大きなスーツケーズを引いた人が入ってくるのに気付いた。
「今日の宿泊をお願いしたいんですが」
「はい」と返事をして来店客をプロファイリングする。〝女性、一人、長身、歳の頃は三十ほど…〟
私はもしやと想い、尋ねた。
「お名前をお伺いさせて下さい」
「杉下希美です」
〝やっぱり!〟私は思わずその言葉を発しそうになったのをすんでで飲み込んだ。
〝ちょっと早過ぎましたよね〟という彼女に
「杉下さんがいらっしゃられたら、宿泊の手続きより先にシェフに連絡しろ、と言われています。仕入れの準備で外に居るはずです」
彼女は大きく眼を見開き、小さく『え?』と呟いた。
「荷物はお預かり致しますので、テラスでお待ちください。シェフ、ずっと杉下さんの事をお待ちでしたよ」
彼女は私を不思議そうに暫し凝視した。私は自分が若干顔を赤らめているのが分かった。彼女の大きくキラキラした瞳で見つめられると、女の私でもドキドキした。〝この瞳で見つめられたら、男の人はみんな惚れちゃうだろうな〟と思った。
彼女が〝彼から何かお聴きですか?〟と聴くので、〝いいえ、特別には〟と小さな嘘を一つ入れた。シェフに振られたことをわざわざ彼女に言う必要はない。
彼女のスーツケーズを預り、テラスまでの小径を案内した。彼女は再びエントランスを出て、テラスに向かいゆっくりと歩き出した。彼女は出際に微笑み『ありがとう』と島言葉で言ってくれた。
「今日の宿泊をお願いしたいんですが」
「はい」と返事をして来店客をプロファイリングする。〝女性、一人、長身、歳の頃は三十ほど…〟
私はもしやと想い、尋ねた。
「お名前をお伺いさせて下さい」
「杉下希美です」
〝やっぱり!〟私は思わずその言葉を発しそうになったのをすんでで飲み込んだ。
〝ちょっと早過ぎましたよね〟という彼女に
「杉下さんがいらっしゃられたら、宿泊の手続きより先にシェフに連絡しろ、と言われています。仕入れの準備で外に居るはずです」
彼女は大きく眼を見開き、小さく『え?』と呟いた。
「荷物はお預かり致しますので、テラスでお待ちください。シェフ、ずっと杉下さんの事をお待ちでしたよ」
彼女は私を不思議そうに暫し凝視した。私は自分が若干顔を赤らめているのが分かった。彼女の大きくキラキラした瞳で見つめられると、女の私でもドキドキした。〝この瞳で見つめられたら、男の人はみんな惚れちゃうだろうな〟と思った。
彼女が〝彼から何かお聴きですか?〟と聴くので、〝いいえ、特別には〟と小さな嘘を一つ入れた。シェフに振られたことをわざわざ彼女に言う必要はない。
彼女のスーツケーズを預り、テラスまでの小径を案内した。彼女は再びエントランスを出て、テラスに向かいゆっくりと歩き出した。彼女は出際に微笑み『ありがとう』と島言葉で言ってくれた。
2015年10月6日火曜日
【二次作品】 スタッフの問い その4
ちょうどシフト開けで店を出るタイミングがシェフと同じになり、シェフと一緒に海岸沿いの道を歩いた。私は昨日からの疑問をシェフに問うた。
「…昨日仰ってましたよね、杉下さんとは何もないって。何もない関係で、十年も合わないで、いきなりプロポーズなんて出来ないですよね。それにシェフはその方がプロポーズに応えてくれると思ってるんですよね。だから来たら連絡しろ、て」
私は続けた。
「十五年もの間、同じ気持ちで居続ける事が出来る、そして相手も同じだと思う事ができる。何も無くてなぜそんな風に思えるんですか?」
私は自分が理解できない事をシェフにぶつけた。シェフは答えない。仕事上の事はなんでも答えてくれるのに。
「私なら、例え真面目に付き合っていた相手であっても、十年も会ってない相手にプロポーズ出来ないと思う。そもそも好きな人に十年も合わないでなんて居られない。もしそうなってしまったとしたら…徐々に忘れていかなければ、自分の心が持たないと思う」
「君のご両親は健在だったよね?夫婦仲も良好、そうじゃない?そして経済的にも困ったという事はない」
「…」
「そして人生といういうのは、自らの努力によってのみ開かれる。開かれない人生はその努力が足りないから。そう思っている」
「…はい。そう思っています。だからこそ、人として成長出来ると思っていますし、そうやって人は学習すると。違いますか?」
「それは決して間違いじゃない。人として尊敬すべき姿勢だと思う」
シェフは立ち止まり夕日を眺めた。私はシェフの左に立ち、シェフにならった。私は勇気を出して、シェフの袖を掴んでみた。シェフは拒まなかった。
「でもね…自分の努力じゃ手の届かない所で自分の人生が閉ざされるんじゃないか。自分にできるあらゆる努力もそんな力に抗うことが出来ないんじゃないか。それでも何とかしたい、諦めたくない、頑張れる力が欲しい。人はそんな時、何かをよすがにし、奇蹟を信じるしかない…俺と彼女はそういう関係だった。お互いがお互いをよすがにして、力を得て、奇蹟を信じた」
「だから、今も奇蹟を信じてる…そういうことですか?」
シェフは小さくうなずいた。
「…私がシェフの心に入り込める隙間はないんですね」
シェフは私の方へ向き直った。私はシェフの顔を見上げ、想いのたけをぶつけた。もう、答えは出ているけれど、言わずに済ませる事など出来なかった。
「私、シェフの事が好きです。料理はとっても美味しいし、仕事に向かう姿勢も尊敬しています。厨房のシェフはとっても美しくて、凛々しくて、それでいてふとした時に見せてくれる笑顔がとっても可愛くて。まだほんの一ヶ月だけど、歳も随分離れているけど、シェフの事がとっても好きです。私じゃ駄目ですか?」
「チーちゃんはとっても魅力的な女性だよ。能力も高い。…もっと素敵なパートナーがきっといるさ」
私は今自分が出来る最大限の笑顔を作ってこう伝えた。
「シェフの想い人、還って来るといいですね。でも…もう少しこうしていてもいいですか」
そこまで言い終えて私は嗚咽した。シェフは私の気が済むまで、付き合ってくれた。
「…昨日仰ってましたよね、杉下さんとは何もないって。何もない関係で、十年も合わないで、いきなりプロポーズなんて出来ないですよね。それにシェフはその方がプロポーズに応えてくれると思ってるんですよね。だから来たら連絡しろ、て」
私は続けた。
「十五年もの間、同じ気持ちで居続ける事が出来る、そして相手も同じだと思う事ができる。何も無くてなぜそんな風に思えるんですか?」
私は自分が理解できない事をシェフにぶつけた。シェフは答えない。仕事上の事はなんでも答えてくれるのに。
「私なら、例え真面目に付き合っていた相手であっても、十年も会ってない相手にプロポーズ出来ないと思う。そもそも好きな人に十年も合わないでなんて居られない。もしそうなってしまったとしたら…徐々に忘れていかなければ、自分の心が持たないと思う」
「君のご両親は健在だったよね?夫婦仲も良好、そうじゃない?そして経済的にも困ったという事はない」
「…」
「そして人生といういうのは、自らの努力によってのみ開かれる。開かれない人生はその努力が足りないから。そう思っている」
「…はい。そう思っています。だからこそ、人として成長出来ると思っていますし、そうやって人は学習すると。違いますか?」
「それは決して間違いじゃない。人として尊敬すべき姿勢だと思う」
シェフは立ち止まり夕日を眺めた。私はシェフの左に立ち、シェフにならった。私は勇気を出して、シェフの袖を掴んでみた。シェフは拒まなかった。
「でもね…自分の努力じゃ手の届かない所で自分の人生が閉ざされるんじゃないか。自分にできるあらゆる努力もそんな力に抗うことが出来ないんじゃないか。それでも何とかしたい、諦めたくない、頑張れる力が欲しい。人はそんな時、何かをよすがにし、奇蹟を信じるしかない…俺と彼女はそういう関係だった。お互いがお互いをよすがにして、力を得て、奇蹟を信じた」
「だから、今も奇蹟を信じてる…そういうことですか?」
シェフは小さくうなずいた。
「…私がシェフの心に入り込める隙間はないんですね」
シェフは私の方へ向き直った。私はシェフの顔を見上げ、想いのたけをぶつけた。もう、答えは出ているけれど、言わずに済ませる事など出来なかった。
「私、シェフの事が好きです。料理はとっても美味しいし、仕事に向かう姿勢も尊敬しています。厨房のシェフはとっても美しくて、凛々しくて、それでいてふとした時に見せてくれる笑顔がとっても可愛くて。まだほんの一ヶ月だけど、歳も随分離れているけど、シェフの事がとっても好きです。私じゃ駄目ですか?」
「チーちゃんはとっても魅力的な女性だよ。能力も高い。…もっと素敵なパートナーがきっといるさ」
私は今自分が出来る最大限の笑顔を作ってこう伝えた。
「シェフの想い人、還って来るといいですね。でも…もう少しこうしていてもいいですか」
そこまで言い終えて私は嗚咽した。シェフは私の気が済むまで、付き合ってくれた。
2015年10月5日月曜日
【二次作品】 スタッフの問い その3
風呂から上がり、自室のベッドで横になると、先ほどのシェフの言葉が思い出される。
〝彼女とそれっぽい関係〟
〝俺の事を庇ってくれた〟
〝恩人〟
〝何も無い〟
シェフはその人の事が好きなんだ。去年の年末に久しぶりに会ってプロポーズした。何も無いのに、久しぶりになのに、それでもプロポーズ出来る関係。シェフがプロポーズする事に躊躇しない関係。そしてそのプロポーズを相手が受けると思える関係…
十年もの空白を飛び越える事が出来る、それでいて何も無い関係って、何?そんなものが有り得るの?
〝彼女とそれっぽい関係〟
〝俺の事を庇ってくれた〟
〝恩人〟
〝何も無い〟
シェフはその人の事が好きなんだ。去年の年末に久しぶりに会ってプロポーズした。何も無いのに、久しぶりになのに、それでもプロポーズ出来る関係。シェフがプロポーズする事に躊躇しない関係。そしてそのプロポーズを相手が受けると思える関係…
十年もの空白を飛び越える事が出来る、それでいて何も無い関係って、何?そんなものが有り得るの?
2015年10月4日日曜日
【二次作品】 スタッフの問い その2
次の日のスタッフミーティングの後、私からシェフを呼び止めた。ビジネスライクを装う。
「シェフ、昨日指示頂いた事について改めて確認したいんですけど、今宜しいですか?」
「え、なんか俺指示したっけ?」
「杉下希美様の事です」
「あ、あれ?あれは仕事や無いし、プライベートなお願いだから」
「私にとっては上役の依頼は仕事です。それに私が居ない間だってあるんですから、ちゃんと引き継がないといけないですし?」
「…上手いとこ突いてくるな、チーちゃんは。で、確認したい事って?」シェフはこちらの本心を見破ったようだ。そうであればことさら遠回しに尋ねる必要も無い。
「島に還るのを誘った、って言ってましたよね?杉下さんはプロポーズのお相手って事ですよね?しかも十年ぶりに会って、いきなりって事ですよね。何もない関係で再会直後にプロポーズなんて出来ないし、それ以前から恋仲だったって事でしょう?しかも十年経っても変わらない気持ちで居た、って事ですよね。なんかロマンチックだな?と。お相手の方、どんなに素敵なんだろう」
「それ、完全に個人的な興味だよな」シェフは照れくさそうに微笑んだ。
「いけませんか?それに…素敵な人の事をよく知りたい、って言う感情は人として普通じゃないです?」
〝私の素敵な人はシェフの事ですけど〟と心の中で呟く。
「…俺の実家、もう焼けてしもうたけど、料亭しとったの知っとったよね」
「はい。火事の事も子供心に覚えています。確か十五年程前ですよね」
「その火事の時、実は俺が放火したんやないかと疑われた。彼女は必死に俺の事を庇ってくれた。俺は彼女に護られた。俺の恩人や。彼女のお陰で島を出て、結局辞めてしもうたけど大学へも行けたし、そのあと料理人の道で頑張る事も出来た。今こうして居られるのは彼女のお陰や」
シェフの眼は、遠くを見つめている。
「彼女とそれっぽい関係やったのは、高三で同じクラスになってから火事までの短い期間や。それ以後は疎遠になった。高校を出てから、また合わんくなるまでの四年間に顔を合わせたのも四、五回やと思う。デートと呼べるようなモンはろくに無かったし、普通の意味で、手を繋いだなんて事も無かった。お互いに言葉で気持ちを伝え合った訳でもない。だから当然それ以上のモンは何も無い」
「十年も会わなかったのは、何故です?」
「それはちょっと言われへんな」シェフは笑ってそう答えた。
「シェフ、昨日指示頂いた事について改めて確認したいんですけど、今宜しいですか?」
「え、なんか俺指示したっけ?」
「杉下希美様の事です」
「あ、あれ?あれは仕事や無いし、プライベートなお願いだから」
「私にとっては上役の依頼は仕事です。それに私が居ない間だってあるんですから、ちゃんと引き継がないといけないですし?」
「…上手いとこ突いてくるな、チーちゃんは。で、確認したい事って?」シェフはこちらの本心を見破ったようだ。そうであればことさら遠回しに尋ねる必要も無い。
「島に還るのを誘った、って言ってましたよね?杉下さんはプロポーズのお相手って事ですよね?しかも十年ぶりに会って、いきなりって事ですよね。何もない関係で再会直後にプロポーズなんて出来ないし、それ以前から恋仲だったって事でしょう?しかも十年経っても変わらない気持ちで居た、って事ですよね。なんかロマンチックだな?と。お相手の方、どんなに素敵なんだろう」
「それ、完全に個人的な興味だよな」シェフは照れくさそうに微笑んだ。
「いけませんか?それに…素敵な人の事をよく知りたい、って言う感情は人として普通じゃないです?」
〝私の素敵な人はシェフの事ですけど〟と心の中で呟く。
「…俺の実家、もう焼けてしもうたけど、料亭しとったの知っとったよね」
「はい。火事の事も子供心に覚えています。確か十五年程前ですよね」
「その火事の時、実は俺が放火したんやないかと疑われた。彼女は必死に俺の事を庇ってくれた。俺は彼女に護られた。俺の恩人や。彼女のお陰で島を出て、結局辞めてしもうたけど大学へも行けたし、そのあと料理人の道で頑張る事も出来た。今こうして居られるのは彼女のお陰や」
シェフの眼は、遠くを見つめている。
「彼女とそれっぽい関係やったのは、高三で同じクラスになってから火事までの短い期間や。それ以後は疎遠になった。高校を出てから、また合わんくなるまでの四年間に顔を合わせたのも四、五回やと思う。デートと呼べるようなモンはろくに無かったし、普通の意味で、手を繋いだなんて事も無かった。お互いに言葉で気持ちを伝え合った訳でもない。だから当然それ以上のモンは何も無い」
「十年も会わなかったのは、何故です?」
「それはちょっと言われへんな」シェフは笑ってそう答えた。
2015年10月3日土曜日
【二次作品】 スタッフの問い
店がオープンして三日。シフト間の引き継ぎを兼ねたスタッフミーティングも終わって、さあ、帰ろうとスタッフ用出入口から店を出た時、シェフから呼び止められた。
〝お願いがあるんやけど〟
〝名前は杉下希美。女性。歳は俺と同い年やけん、三十二。身長は俺よりちょっと低いくらいやから女性としては随分高い方〟
〝その人が俺を訪ねてくるなり、泊まりの手続きするなりがあれば、真っ先に教えて〟
〝休みの日でもなんでも直ぐ飛んで来るけん、待たしとって〟
なんだか随分とおずおずとした物言いだ。明らかに厨房で料理に向かう時の表情とは異なる。
「その方、杉下さんはシェフの彼女さんですか?」ちょっと茶化してみた。
「付きおうとるんなら、こんな事頼まん。電話の一本で用が足りる。そうやないから頼んどる」
「じゃあ、どんな関係なんです?」
「幼馴染みや。去年の年末に十年ぶりに会って…一緒に島に還らんか誘った」
え?幼馴染みに一緒に島に帰らないか誘った、って…
私の心の中で急に波風が強くなった。
〝お願いがあるんやけど〟
〝名前は杉下希美。女性。歳は俺と同い年やけん、三十二。身長は俺よりちょっと低いくらいやから女性としては随分高い方〟
〝その人が俺を訪ねてくるなり、泊まりの手続きするなりがあれば、真っ先に教えて〟
〝休みの日でもなんでも直ぐ飛んで来るけん、待たしとって〟
なんだか随分とおずおずとした物言いだ。明らかに厨房で料理に向かう時の表情とは異なる。
「その方、杉下さんはシェフの彼女さんですか?」ちょっと茶化してみた。
「付きおうとるんなら、こんな事頼まん。電話の一本で用が足りる。そうやないから頼んどる」
「じゃあ、どんな関係なんです?」
「幼馴染みや。去年の年末に十年ぶりに会って…一緒に島に還らんか誘った」
え?幼馴染みに一緒に島に帰らないか誘った、って…
私の心の中で急に波風が強くなった。
2015年10月2日金曜日
【二次作品】 NOTREでの再開
NOTREに着き受付で今日の宿泊の手続きをしようとした。若い女性スタッフから名前を尋ねられ、杉下希美と答えた。歳の頃は二十歳前後であろう、そのスタッフは顔をパッと赤らめた。どうやら彼から聞かされていた様だ。
〝杉下さんがいらっしゃられたら、宿泊の手続きより先にシェフに連絡しろ、と言われています。仕入れの準備で外に居るはずです〟と返された。
〝荷物はお預かり致しますので、テラスでお待ち下さい。シェフ、ずっと杉下さんの事をお待ちでしたよ〟とも。
彼とはクリスマスの日以来言葉も交わしていない。今日訪れたのも、事前に何も伝えていない。それでも彼は私が来る事を確信している。私も彼が待っていてくれていることを確信している。この相互の確信は一体何処から来るのだろう。それは分からないけれど、これだけは確かだ。お互い十五年も待ち続けた。僅か三ヶ月足らずなど、どうという期間ではない。
一度外に出て、海に面したテラスを目指す。一歩を踏み出すたびに実感する。私は私が本来居るべき場所に帰ってきたんだ。随分と遠回りしたように思う。そこにたどり着くのに十五年もの歳月を要したなんて。でもそれはきっと必要な歳月だったのだろう。
テラスが見えた。その先に見慣れた景色が広がる。澄み渡った青く突き抜ける空と、朝日に波頭が白く輝く蒼い海。思わず小走りになる。そう、私が真に求めていたのは、見るたびにその景色を変えてゆく都会のビルの上から見る水平線ではなく、いつも変わらず同じ表情を見せてくれるこの見慣れた水平線。
手摺に手をかけ、あの日の事を思い出す。今思うと可笑しくなる。子供だったんだな、と思う。あなたを自分の拠り所にし、それを自覚したにも拘らず、誰にも頼らず上を目指す、とあなたに向かって宣言したのだから。あのバルコニーで。
これまでの事が思い出される。沢山の事があり、時に傷付き時に人を傷つけた。それらは全て事実であり、無かった事になど出来ない。その現実に押しつぶされそうになった事もある。罪の意識から必死に逃れようとした時期もある。それが叶わぬとわかった時、全てを諦めそうになった。その時、あなたは私の前に現れた。崩れ落ちそうな橋を、松明を掲げて渡って来た。一度ならず、三度も。
それら全てを私は私の一部として受け入れよう。それら全てが、私がここにたどり着く為に必要な事だったのだ。今なら全ての人と出来事に対して心からの感謝と祈りを捧げる事が出来る。
背後に気配を感じ、振り向いた。軽トラックの傍に立つ、パーカーにビーチサンダルの、あの日と変わらぬ出で立ちのあなた。
成瀬くん、成瀬くん、成瀬くん。私はようやくここに………
「着たよ!!」
「これから仕入れに行くけど、乗る?」
思わず笑みを浮かべて頷いてしまった。助手席を指差すぎこちない腕の動き。未明に自転車で連れ出してくれた時の、荷台を指した時と同じ。そう、私があなたの背中にあなたへの想いを自覚したあの時と。あなたは今も変わらない。私のあなたへの想いも。いや、私は決意を持ってやってきた。あなたの野望が一つかなった時、あなたが流す涙の分以上の何かをあなたの中に残す。涙が枯れても、それでも流れ落ちないだけの何かをあなたの中に残す。そして私はあなたの中で永遠となる。あなたへの想いはこれまでで一番強い。
あなたがゆっくりと此方に歩を進めてくる。その一歩ごとに鼓動が高まる。でも心は穏やかで、あなたとの距離が縮まるにつれ、心の視界が急速に開けてきた。明かりが差し、霧は晴れ、遥か遠くまで見透せる。遮るものは何もない。ああ、私は今、心に一点の曇りもなくあなたの前に立つ事ができる。
私は視線を一度テラスからの景色に戻した。子供の頃から見慣れた景色。でも何かが違う。全ての色がそのコントラストを上げ、鮮やかな色彩を帯びて見える。違う世界にいる様だ。
「何食べたい?」とのあなたの問いに、「美味しいもの!」とリクエストする。
食は徐々に細りつつある。心なしか体力の低下も感じる。残された時間は多くはない。それでも私は幸せだ。残された時間を精一杯生きる。独りでは出来ないそれを、あなたとであれば出来る。奇跡さえも信じる事ができる。
私の左手を取り、それを愛おしそうにあなたの手が弄る。そこに視線を落とすあなた。これまで二度、こうして手を繋いだ。さざなみの時はあなたの言葉になら無い悲しみ、怒り、虚しさが私の中に濁流の様に流れ込んできた。スカイローズガーデンの時はあなたの決意と壮絶な覚悟が私の中で響き渡った。何れもが別れの合図となった。でも今は違う。私にはあなたの慈しみと歓びが見える。あなたとの未来が見える。あなたには何が見えているの?
あなたが視線を上げ、しばらく見つめあった後、ゆっくりと手を引かれる。その身を委ねる。私を包み込む優しい感触。ずっと求め続けてきた感触。諦めていた感触。初めてのはずなのに、何故か懐かしいその感触。その中で感じる。赤子の如く何もかもあなたに委ねる事が出来る私は…私は幸せだ。ありがとう。
〝杉下さんがいらっしゃられたら、宿泊の手続きより先にシェフに連絡しろ、と言われています。仕入れの準備で外に居るはずです〟と返された。
〝荷物はお預かり致しますので、テラスでお待ち下さい。シェフ、ずっと杉下さんの事をお待ちでしたよ〟とも。
彼とはクリスマスの日以来言葉も交わしていない。今日訪れたのも、事前に何も伝えていない。それでも彼は私が来る事を確信している。私も彼が待っていてくれていることを確信している。この相互の確信は一体何処から来るのだろう。それは分からないけれど、これだけは確かだ。お互い十五年も待ち続けた。僅か三ヶ月足らずなど、どうという期間ではない。
一度外に出て、海に面したテラスを目指す。一歩を踏み出すたびに実感する。私は私が本来居るべき場所に帰ってきたんだ。随分と遠回りしたように思う。そこにたどり着くのに十五年もの歳月を要したなんて。でもそれはきっと必要な歳月だったのだろう。
テラスが見えた。その先に見慣れた景色が広がる。澄み渡った青く突き抜ける空と、朝日に波頭が白く輝く蒼い海。思わず小走りになる。そう、私が真に求めていたのは、見るたびにその景色を変えてゆく都会のビルの上から見る水平線ではなく、いつも変わらず同じ表情を見せてくれるこの見慣れた水平線。
手摺に手をかけ、あの日の事を思い出す。今思うと可笑しくなる。子供だったんだな、と思う。あなたを自分の拠り所にし、それを自覚したにも拘らず、誰にも頼らず上を目指す、とあなたに向かって宣言したのだから。あのバルコニーで。
これまでの事が思い出される。沢山の事があり、時に傷付き時に人を傷つけた。それらは全て事実であり、無かった事になど出来ない。その現実に押しつぶされそうになった事もある。罪の意識から必死に逃れようとした時期もある。それが叶わぬとわかった時、全てを諦めそうになった。その時、あなたは私の前に現れた。崩れ落ちそうな橋を、松明を掲げて渡って来た。一度ならず、三度も。
それら全てを私は私の一部として受け入れよう。それら全てが、私がここにたどり着く為に必要な事だったのだ。今なら全ての人と出来事に対して心からの感謝と祈りを捧げる事が出来る。
背後に気配を感じ、振り向いた。軽トラックの傍に立つ、パーカーにビーチサンダルの、あの日と変わらぬ出で立ちのあなた。
成瀬くん、成瀬くん、成瀬くん。私はようやくここに………
「着たよ!!」
「これから仕入れに行くけど、乗る?」
思わず笑みを浮かべて頷いてしまった。助手席を指差すぎこちない腕の動き。未明に自転車で連れ出してくれた時の、荷台を指した時と同じ。そう、私があなたの背中にあなたへの想いを自覚したあの時と。あなたは今も変わらない。私のあなたへの想いも。いや、私は決意を持ってやってきた。あなたの野望が一つかなった時、あなたが流す涙の分以上の何かをあなたの中に残す。涙が枯れても、それでも流れ落ちないだけの何かをあなたの中に残す。そして私はあなたの中で永遠となる。あなたへの想いはこれまでで一番強い。
あなたがゆっくりと此方に歩を進めてくる。その一歩ごとに鼓動が高まる。でも心は穏やかで、あなたとの距離が縮まるにつれ、心の視界が急速に開けてきた。明かりが差し、霧は晴れ、遥か遠くまで見透せる。遮るものは何もない。ああ、私は今、心に一点の曇りもなくあなたの前に立つ事ができる。
私は視線を一度テラスからの景色に戻した。子供の頃から見慣れた景色。でも何かが違う。全ての色がそのコントラストを上げ、鮮やかな色彩を帯びて見える。違う世界にいる様だ。
「何食べたい?」とのあなたの問いに、「美味しいもの!」とリクエストする。
食は徐々に細りつつある。心なしか体力の低下も感じる。残された時間は多くはない。それでも私は幸せだ。残された時間を精一杯生きる。独りでは出来ないそれを、あなたとであれば出来る。奇跡さえも信じる事ができる。
私の左手を取り、それを愛おしそうにあなたの手が弄る。そこに視線を落とすあなた。これまで二度、こうして手を繋いだ。さざなみの時はあなたの言葉になら無い悲しみ、怒り、虚しさが私の中に濁流の様に流れ込んできた。スカイローズガーデンの時はあなたの決意と壮絶な覚悟が私の中で響き渡った。何れもが別れの合図となった。でも今は違う。私にはあなたの慈しみと歓びが見える。あなたとの未来が見える。あなたには何が見えているの?
あなたが視線を上げ、しばらく見つめあった後、ゆっくりと手を引かれる。その身を委ねる。私を包み込む優しい感触。ずっと求め続けてきた感触。諦めていた感触。初めてのはずなのに、何故か懐かしいその感触。その中で感じる。赤子の如く何もかもあなたに委ねる事が出来る私は…私は幸せだ。ありがとう。
2015年9月28日月曜日
安藤が杉下の連絡先を知っていた事の理屈づけ
ずっと安藤がなぜ帰国直後、連絡を取り合っていない、と高野にも言った杉下宛にメッセージを送れたのか?宛先を知っていたのか、考えてたんですね。
杉下は事件後携帯の番号を変えている。安藤が言っていることが正しいなら(もっともミステリーで嘘はなしですが)なんで安藤は杉下宛にメッセージを出せたのか?
この問題、ついに解けました!
使っていたツールが肝です。
はっきりいいます。LINEです。
LINEの特徴として、相手は自分の携帯番号の登録がなく、相手がLINEを使っている状態で、自分が相手の携帯番号を登録した状態でLINEに登録すると、自分の携帯に登録された番号でLINEの登録があるかを探し、一致する相手があればそのアカウントを『ともだち』として相手側にも通知する、という機能があります。
これなら説明が出来るんです。
つまりこうです。
安藤は携帯番号を事件後も変えなかった。
杉下は携帯番号を変えた。しかし安藤へはそれを教えなかった。安藤の携帯電話の登録は残したままだった。
LINEが普及し、安藤はLINEに自分の番号でアカウントを作った。
杉下もLINEのアカウントを作った。その際杉下側の携帯に登録された安藤の携帯番号で安藤のアカウントの照合がされ、杉下のアカウントが安藤側にも通知された…
この時電話番号は安藤側には通知されません。
ですので、よく見ると10話を除いて二人が携帯で会話しているシーンはない。安藤側からはLINEのアカウント以外に杉下とつながる方法がない。だから携帯で話すシーンは無いものの、安藤が一方的にLINEで時折現況連絡を入れたいたから、最初のメッセージがさも杉下が安藤が海外に行っていたことを知っている前提の書き出しになっているんです。
杉下は事件後携帯の番号を変えている。安藤が言っていることが正しいなら(もっともミステリーで嘘はなしですが)なんで安藤は杉下宛にメッセージを出せたのか?
この問題、ついに解けました!
使っていたツールが肝です。
はっきりいいます。LINEです。
LINEの特徴として、相手は自分の携帯番号の登録がなく、相手がLINEを使っている状態で、自分が相手の携帯番号を登録した状態でLINEに登録すると、自分の携帯に登録された番号でLINEの登録があるかを探し、一致する相手があればそのアカウントを『ともだち』として相手側にも通知する、という機能があります。
これなら説明が出来るんです。
つまりこうです。
安藤は携帯番号を事件後も変えなかった。
杉下は携帯番号を変えた。しかし安藤へはそれを教えなかった。安藤の携帯電話の登録は残したままだった。
LINEが普及し、安藤はLINEに自分の番号でアカウントを作った。
杉下もLINEのアカウントを作った。その際杉下側の携帯に登録された安藤の携帯番号で安藤のアカウントの照合がされ、杉下のアカウントが安藤側にも通知された…
この時電話番号は安藤側には通知されません。
ですので、よく見ると10話を除いて二人が携帯で会話しているシーンはない。安藤側からはLINEのアカウント以外に杉下とつながる方法がない。だから携帯で話すシーンは無いものの、安藤が一方的にLINEで時折現況連絡を入れたいたから、最初のメッセージがさも杉下が安藤が海外に行っていたことを知っている前提の書き出しになっているんです。
2015年9月27日日曜日
ミステリーネタ その2 Nチケットの有効期限日
再びミステリーと称して、どうでもいいネタの話をしてみたいと思います。
成瀬と杉下が、島を出るために相互に送りあったNチケット。
成瀬から杉下へのチケットの発行日が11月17日。
杉下から成瀬へのチケットの発行日が3月9日。
でも、この2つのチケット、いずれも有効期限が3月31日!
瀬戸内で運行されている連絡船などのチケットの発行のルールを知らないので、これ以上突っ込めないのですが…
例えば4月1日からの料金改定が決まっていて、いつ発行しても期限が年度末まで、とか?
成瀬と杉下が、島を出るために相互に送りあったNチケット。
成瀬から杉下へのチケットの発行日が11月17日。
杉下から成瀬へのチケットの発行日が3月9日。
でも、この2つのチケット、いずれも有効期限が3月31日!
瀬戸内で運行されている連絡船などのチケットの発行のルールを知らないので、これ以上突っ込めないのですが…
例えば4月1日からの料金改定が決まっていて、いつ発行しても期限が年度末まで、とか?
2015年9月26日土曜日
成瀬のプロポーズの日付けの比定について
私は成瀬の杉下へのプロポーズを12月25日と比定しています。
これについて某所でどのように比定したのか?と質問を受けました。
チョッとしたネタとしてアップします。
西崎が安藤をテストし、その安藤の答えに満足出来なかった西崎が成瀬に杉下の病気を伝えます。それを受けて成瀬が翌日に杉下へ会いに行き、杉下へプロポーズした。
成瀬が杉下へ会いに行ったのが西崎の電話の翌日、と同定できるものは有りませんが、この時西崎は成瀬に杉下の病状を包み隠さず話しているものと思われ、杉下大事の成瀬がわざわざ日を開けるとも考えにくい。よって西崎の電話の翌日に成瀬が杉下に会いに行った、としました。
そうすると、後は西崎が安藤を駆使若丸に呼び出した日を同定出来ればいい。
西崎は実家へ挨拶した後に安藤を駆使若丸へ呼び出しています。
そして安藤を呼び出す前に、クリスマスのパーティをする家庭を窓外から眺めたんですね。
このクリスマスパーティの描写から、この日を12月24日と比定しました。
つまり西崎が安藤をテストした翌日が成瀬が杉下にプロポーズした日。テストした日は24日だからその翌日は25日。
このように比定しました。
参照
Nのために 記念日一覧
これについて某所でどのように比定したのか?と質問を受けました。
チョッとしたネタとしてアップします。
西崎が安藤をテストし、その安藤の答えに満足出来なかった西崎が成瀬に杉下の病気を伝えます。それを受けて成瀬が翌日に杉下へ会いに行き、杉下へプロポーズした。
成瀬が杉下へ会いに行ったのが西崎の電話の翌日、と同定できるものは有りませんが、この時西崎は成瀬に杉下の病状を包み隠さず話しているものと思われ、杉下大事の成瀬がわざわざ日を開けるとも考えにくい。よって西崎の電話の翌日に成瀬が杉下に会いに行った、としました。
そうすると、後は西崎が安藤を駆使若丸に呼び出した日を同定出来ればいい。
西崎は実家へ挨拶した後に安藤を駆使若丸へ呼び出しています。
そして安藤を呼び出す前に、クリスマスのパーティをする家庭を窓外から眺めたんですね。
このクリスマスパーティの描写から、この日を12月24日と比定しました。
つまり西崎が安藤をテストした翌日が成瀬が杉下にプロポーズした日。テストした日は24日だからその翌日は25日。
このように比定しました。
参照
Nのために 記念日一覧
2015年9月25日金曜日
杉下の野望の本質
杉下の野望の性格について考えます。
家を追い出された後の杉下は懸命に現実対応をしようとしていましたよね。洋介との会話でも、今までが夢、と言っています。もしこの段階で母親も現実的対応を見せていたら、杉下の野望は生まれていないんでは?と考えています。
では野望はどこから来たか?と考えると現実的対応を出来ない母親のプレッシャーとゆきさんの土下座要求以降からだと取っています。高校生として出来る現実的対応以上のものを必要とされた反動、空想上の逃避先としての野望です。
ですので、その野望には現実性が乏しい。
バルコニーでの演説は成瀬が早々に実現してくれましたが、本来であれば、どのような立場で、といった、演説するに足るポジションに関する構想が伴って具体化されるものですが、彼女の場合、それがない。自分の空想上のシチュエーションさえ揃って仕舞えば、それで満足なんですね。具体的であるなら、その次というものが当然あるべきにも関わらず、それが存在しない。
だから基本的に彼女の野望は中身が空っぽと言っていい。
その点については安藤が早々に、アラブの富豪と出会う、という野望について指摘しています。
また、これも安藤からのの問いで何になりたい?と聞かれ『何になれるかわからんけど…』と答えている。
ですから、彼女の野望は本来彼女が島を脱出出来た時点で用無しになる筈だったのです。
ですが、大学に入ってからも彼女が野望実現に邁進したのは、バルコニーでの初心表明、Nチケットおよび頑張れエールでそれが成瀬との約束になったからです。
特に重要なのはNチケットで、この時進学を諦めかけていた杉下が成瀬のNチケットで行動する勇気を得た。『上をみる、上に行く』=野望の実現=成瀬との約束=成瀬と自分の繋がり、という図式が出来上がった瞬間だと取っています。
これは、先の安藤との会話で小馬鹿にされた杉下が『真面目に聴いてくれた人がいる』と反発したり、『約束だから』とつぶやいたりしている事で明らかです。
つまり杉下にとって野望の実現は成瀬と自分との繋がりの確認行為であり、野望そのものの内容は実は大して重要では無いのです。
この野望そのものの内容は重要で無いからこそ、『上に行く』が『物理的に高い処に行く』に変換され、『まっすぐな水平線が見たい』が、『高い処から水平線を見る』に変換されて、ゴンドラのシーンに繋がる、と理解しています。
家を追い出された後の杉下は懸命に現実対応をしようとしていましたよね。洋介との会話でも、今までが夢、と言っています。もしこの段階で母親も現実的対応を見せていたら、杉下の野望は生まれていないんでは?と考えています。
では野望はどこから来たか?と考えると現実的対応を出来ない母親のプレッシャーとゆきさんの土下座要求以降からだと取っています。高校生として出来る現実的対応以上のものを必要とされた反動、空想上の逃避先としての野望です。
ですので、その野望には現実性が乏しい。
バルコニーでの演説は成瀬が早々に実現してくれましたが、本来であれば、どのような立場で、といった、演説するに足るポジションに関する構想が伴って具体化されるものですが、彼女の場合、それがない。自分の空想上のシチュエーションさえ揃って仕舞えば、それで満足なんですね。具体的であるなら、その次というものが当然あるべきにも関わらず、それが存在しない。
だから基本的に彼女の野望は中身が空っぽと言っていい。
その点については安藤が早々に、アラブの富豪と出会う、という野望について指摘しています。
また、これも安藤からのの問いで何になりたい?と聞かれ『何になれるかわからんけど…』と答えている。
ですから、彼女の野望は本来彼女が島を脱出出来た時点で用無しになる筈だったのです。
ですが、大学に入ってからも彼女が野望実現に邁進したのは、バルコニーでの初心表明、Nチケットおよび頑張れエールでそれが成瀬との約束になったからです。
特に重要なのはNチケットで、この時進学を諦めかけていた杉下が成瀬のNチケットで行動する勇気を得た。『上をみる、上に行く』=野望の実現=成瀬との約束=成瀬と自分の繋がり、という図式が出来上がった瞬間だと取っています。
これは、先の安藤との会話で小馬鹿にされた杉下が『真面目に聴いてくれた人がいる』と反発したり、『約束だから』とつぶやいたりしている事で明らかです。
つまり杉下にとって野望の実現は成瀬と自分との繋がりの確認行為であり、野望そのものの内容は実は大して重要では無いのです。
この野望そのものの内容は重要で無いからこそ、『上に行く』が『物理的に高い処に行く』に変換され、『まっすぐな水平線が見たい』が、『高い処から水平線を見る』に変換されて、ゴンドラのシーンに繋がる、と理解しています。
2015年9月24日木曜日
『杉下の人生や…』と『成瀬の杉下への怒り決別説』の整合
さて、私は『成瀬の杉下への怒り決別説』採用する事にしました。ですが『成瀬は杉下のN=西崎と誤解した説』も捨てていません。
成瀬は杉下のNについて、二重の誤解をした、と判断しています。
つまりこういう事です。
作戦への参加経緯から杉下の偽証受入までが杉下のN=西崎、の誤解。
杉下の安藤入室阻止行動から西崎の電話までが杉下のN=安藤、の誤解
西崎の電話以降が杉下のN=西崎、の誤解
つまり先ず西崎、という誤解があり、その上に安藤という誤解が上乗せされた。高野との会話、および西崎からの説得で安藤については誤解は解消したものの、依然西崎については解消していない、という判断です。
何故このような判断になったのかというと、成瀬のプロポーズ時のセリフ『杉下の人生や、杉下の好きにしたらええ』が原因です。
高野及び西崎との会話で成瀬は安藤については誤解であった事が分かっていた。それでもなおかつ上記発言が出る、という事はこの時点においても成瀬にはなお別の男が杉下の中にいる、と想定して会話している事になるのです。
参照
成瀬の『杉下のN=安藤誤解説』への転向 1〜3
『成瀬の杉下への怒り決別説』採用による変更点概要
成瀬が杉下に『杉下の人生や、杉下の好きにしたらええ』と言った理由
成瀬は杉下のNについて、二重の誤解をした、と判断しています。
つまりこういう事です。
作戦への参加経緯から杉下の偽証受入までが杉下のN=西崎、の誤解。
杉下の安藤入室阻止行動から西崎の電話までが杉下のN=安藤、の誤解
西崎の電話以降が杉下のN=西崎、の誤解
つまり先ず西崎、という誤解があり、その上に安藤という誤解が上乗せされた。高野との会話、および西崎からの説得で安藤については誤解は解消したものの、依然西崎については解消していない、という判断です。
何故このような判断になったのかというと、成瀬のプロポーズ時のセリフ『杉下の人生や、杉下の好きにしたらええ』が原因です。
高野及び西崎との会話で成瀬は安藤については誤解であった事が分かっていた。それでもなおかつ上記発言が出る、という事はこの時点においても成瀬にはなお別の男が杉下の中にいる、と想定して会話している事になるのです。
参照
成瀬の『杉下のN=安藤誤解説』への転向 1〜3
『成瀬の杉下への怒り決別説』採用による変更点概要
成瀬が杉下に『杉下の人生や、杉下の好きにしたらええ』と言った理由
2015年9月23日水曜日
『成瀬の杉下への怒り決別説』採用による変更点概要
成瀬が杉下のN=安藤、と誤解し彼が杉下を怒りの末決別したという説(『成瀬の杉下への怒り決別説』とします)をとる事にした事から、これまでに見解の内の幾つかを修正する必要が生じました。
まず成瀬が杉下と接触を絶った理由ですが、これは当初成瀬が杉下のN=西崎と誤解し、西崎が服役している期間は杉下の感情に介入しないため、と理解していました。しかし『成瀬の杉下への怒り決別説』では、もっとシンプルに、そのものズバリ、杉下への怒りによる決別を決めたから、となります。
二つ目は服役期間中における成瀬と西崎の杉下に関する情報交換についてです。
西崎は杉下と成瀬が接触を絶っている事を知り、成瀬を説得したと思われます。ここまでは変更有りません。ですが成瀬は何故自分が杉下と接触を絶ったのかを一切西崎へ話さなかったと思われます。
これは従来、成瀬が杉下のN=西崎と理解しており、出所まで杉下の感情に介入しないためだ、と話していたと思っていました。
これが修正点になります。
三つめが西崎が杉下の病状について先に安藤をテストした理由です。
これは当初父親から『世話になった人に恩を返せ』と諭され、杉下を愛する安藤をテストせずに成瀬に話すのは幅られたため、と理解していました。
しかし『成瀬の杉下への怒り決別説』を採用する事で、修正します。
つまり、修正点その二とも関係するのですが、成瀬が西崎に何故杉下と接触しないのかを一切語らないため、成瀬を動かせる自身が無かったのです。恐らく杉下との間の事であろう、そして成瀬が杉下と接触を嫌がっていると感触は得られても、何が成瀬を動かせる材料であるのかが、全く見当が付かない。そうであるなら、間違いなく動くであろうと計算できる安藤を先にテストすることにした。
以上が『成瀬の杉下への怒り決別説』採用に伴う、これまでの論からの主な変更点になります。
参照
西崎の『杉下を守ってやってくれ』に対する成瀬の態度について
西崎は成瀬と杉下のその後を知っていた
西崎が安藤に『崩れ落ちそうな橋』の問いをした理由
まず成瀬が杉下と接触を絶った理由ですが、これは当初成瀬が杉下のN=西崎と誤解し、西崎が服役している期間は杉下の感情に介入しないため、と理解していました。しかし『成瀬の杉下への怒り決別説』では、もっとシンプルに、そのものズバリ、杉下への怒りによる決別を決めたから、となります。
二つ目は服役期間中における成瀬と西崎の杉下に関する情報交換についてです。
西崎は杉下と成瀬が接触を絶っている事を知り、成瀬を説得したと思われます。ここまでは変更有りません。ですが成瀬は何故自分が杉下と接触を絶ったのかを一切西崎へ話さなかったと思われます。
これは従来、成瀬が杉下のN=西崎と理解しており、出所まで杉下の感情に介入しないためだ、と話していたと思っていました。
これが修正点になります。
三つめが西崎が杉下の病状について先に安藤をテストした理由です。
これは当初父親から『世話になった人に恩を返せ』と諭され、杉下を愛する安藤をテストせずに成瀬に話すのは幅られたため、と理解していました。
しかし『成瀬の杉下への怒り決別説』を採用する事で、修正します。
つまり、修正点その二とも関係するのですが、成瀬が西崎に何故杉下と接触しないのかを一切語らないため、成瀬を動かせる自身が無かったのです。恐らく杉下との間の事であろう、そして成瀬が杉下と接触を嫌がっていると感触は得られても、何が成瀬を動かせる材料であるのかが、全く見当が付かない。そうであるなら、間違いなく動くであろうと計算できる安藤を先にテストすることにした。
以上が『成瀬の杉下への怒り決別説』採用に伴う、これまでの論からの主な変更点になります。
参照
西崎の『杉下を守ってやってくれ』に対する成瀬の態度について
西崎は成瀬と杉下のその後を知っていた
西崎が安藤に『崩れ落ちそうな橋』の問いをした理由
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『成瀬の杉下への怒り決別説』,
Nのために
2015年9月22日火曜日
成瀬は杉下のN=安藤が誤解だと、何で気付いたのか?
杉下と怒りの決別後の成瀬の行動は徹底していました。
電話番号を変えています。そしてこれは桃さんの推測ですが、程なくシャルティエ広田も移った事が推測されます。杉下が自分を追えないようにです。成瀬には島に既に帰る処はありません。恐らく完全に彼を追う手段を断ち切ったと考えられます。
しかし十年を経て、再び成瀬は杉下に会いに行きました。それは何故に?
一つは十年という歳月が成瀬の杉下への怒りを解いた事。十年もの期間、人は一つの事で怒りを継続する事は出来ません。
二つ目は、怒りで決別したものの、やはり成瀬は杉下が好きなんです。一度その人の事をよすがとした者の心理として、如何にひどい仕打ちを受け、複雑な感情を抱こうとも、それでもその人の事が好きで止まないのです。同様の経験をお持ちでない方にはなかなかご理解頂けないし、言葉でも説明出来ないのですが、私自身の経験から断言できます。
そういう心理状態で十年を迎えた。そして高野と再会した。
杉下に会ったという高野に対しておずおずと問うています
成瀬『杉下、元気やった?』
高野『変わらんよ、あの子は。強い子やけん…電話してやり』
高野はこの時、杉下の状態をカモフラージュしています。
そして、このカモフラージュの言葉が成瀬に杉下のN=安藤が誤解だったと気付かせたんです。
高野は島以降の杉下を知らない。その高野が『変わらない』という事は高野は杉下が島にいた頃と変わらない、と言ってる事になる。つまり成瀬が事件時に感じた(=誤解した)杉下の変化の否定なんです。そしてさらには高野の言葉は言外に『今でも成瀬を庇っている』事を成瀬に伝えようとしたものであり、成瀬もそれを理解した。そうして成瀬は自分の杉下のN=安藤が誤解であった事に思い至ったのです。
なお、この部分については桃さんの論にほぼ準ずる形である事を申し添えます。
電話番号を変えています。そしてこれは桃さんの推測ですが、程なくシャルティエ広田も移った事が推測されます。杉下が自分を追えないようにです。成瀬には島に既に帰る処はありません。恐らく完全に彼を追う手段を断ち切ったと考えられます。
しかし十年を経て、再び成瀬は杉下に会いに行きました。それは何故に?
一つは十年という歳月が成瀬の杉下への怒りを解いた事。十年もの期間、人は一つの事で怒りを継続する事は出来ません。
二つ目は、怒りで決別したものの、やはり成瀬は杉下が好きなんです。一度その人の事をよすがとした者の心理として、如何にひどい仕打ちを受け、複雑な感情を抱こうとも、それでもその人の事が好きで止まないのです。同様の経験をお持ちでない方にはなかなかご理解頂けないし、言葉でも説明出来ないのですが、私自身の経験から断言できます。
そういう心理状態で十年を迎えた。そして高野と再会した。
杉下に会ったという高野に対しておずおずと問うています
成瀬『杉下、元気やった?』
高野『変わらんよ、あの子は。強い子やけん…電話してやり』
高野はこの時、杉下の状態をカモフラージュしています。
そして、このカモフラージュの言葉が成瀬に杉下のN=安藤が誤解だったと気付かせたんです。
高野は島以降の杉下を知らない。その高野が『変わらない』という事は高野は杉下が島にいた頃と変わらない、と言ってる事になる。つまり成瀬が事件時に感じた(=誤解した)杉下の変化の否定なんです。そしてさらには高野の言葉は言外に『今でも成瀬を庇っている』事を成瀬に伝えようとしたものであり、成瀬もそれを理解した。そうして成瀬は自分の杉下のN=安藤が誤解であった事に思い至ったのです。
なお、この部分については桃さんの論にほぼ準ずる形である事を申し添えます。
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