2015年6月29日月曜日

杉下の『成瀬くん、ごめん』と『甘えられん』


成瀬が杉下から血で染まったブランケットを引き取り、部屋に入った時、杉下は成瀬の背中に向かって『成瀬くん、ごめん』とつぶやきます。この『成瀬くん、ごめん』という杉下の気持ちを考えます。

この時杉下が成瀬に抱いていた気持ちは、以下のものだったと推測されます。

一つ目は、心中の現場に立ち入っていない成瀬を引き込んでしまった事。
二つ目は、そもそも野口や奈央子と全く関係のない成瀬を、作戦に巻き込んだ事。
三つ目は、その結果として未解決であるさざなみの放火事件がこれを契機として再び成瀬を放火犯の嫌疑に晒す危険を発生させる事になる事。
四つ目は、二つ目とも関連しますが、成瀬の自分への感情を結果として利用する形で成瀬を事件に巻き込んでしまった事。杉下自身には勿論成瀬に対する感情が有り、作戦後は成瀬との関係の再開を目論んでいたのですが、作戦そのものは杉下の西崎への感情が発端となっている。だから杉下には成瀬を〝理用した〟という感覚がある。

この四点に対する、成瀬への罪の意識が『ごめん』の表現になっているんです。

で、実はここでの『ごめん』の理由が、そのまま十年後、成瀬のプロポーズへの返答、『甘えられん』に繋がっている。
この『甘えられん』という表現は〝甘えたいんだけれども〟という前提があって初めて成立する表現です。西崎や安藤に対しては使っていない表現です。
病気で余命宣告を受け不安で仕方ない、本当は成瀬に甘えたい、頼りたいけれど成瀬に対する罪の意識がそれを許さない、だから『甘えられん』。逆に言えば、病気が成瀬に対する甘えたい感情を生み出しているのです。

ここで注目したいのが西崎への拒絶と成瀬への拒絶では杉下の拒絶の理由が異なる、という部分です。勿論杉下には西崎にも罪の意識があるのは間違いない。しかし西崎の金銭その他の援助の申し出に対しては間接的に『病気の事は別』という表現で病気を理由としてあげています。
しかし成瀬に対する拒絶は、病気が理由には入っていません。成瀬は杉下が病気である事を解ってプロポーズをしています。そして杉下は結果として成瀬の元に行った。拒絶の理由が病気であるならば、その事実が時間の経過で変わる訳がないので、杉下は成瀬の元には行けない。この時の拒絶の理由は病気以外のものであり、それは何か?と考えると、上記の成瀬に対する罪の意識であり、この罪の意識が何かで解消したため、最終的に成瀬の元に行く事が出来た、と考えます。

では、その何かとは?
それは成瀬のプロポーズを拒絶する事に対する『冒涜観念』だと思います。冒涜観念が成瀬に対する罪意識を解消させ、成瀬の元に行く事が出来たんです。

参照
杉下は成瀬の何に〝悪魔的絶望〟を抜け出す光を見たのか

2015年6月27日土曜日

成瀬と西崎が顔を合わすシーンが欲しかった


四人の関係性の中で、現代編で顔を合わさなかったのが、唯一成瀬と西崎です。

個人的にはこの二人が顔を合わせるシーンが観たかった。
と、言うのもこの二人が杉下にとっての究極の愛の相手であり、スカイローズガーデンの事件を引き寄せた二人であったからです。さらには事件後の杉下の事を託し、託された関係でした。

先に整理した通り、西崎の服役期間中、四人の関係性で一番密であったのが成瀬と西崎です。西崎が成瀬という人物を見込んで杉下を託したにも関わらず、成瀬はその杉下の中に西崎を見て、身を引いた。西崎の『杉下を守ってやってくれ』と成瀬の『杉下を守る』意思が見事にすれ違ってしまった。そのすれ違いを正すべく、相互に杉下に関する応酬があった筈です。『俺に構わず、杉下を幸せにしてやってくれ』ー『いや、出来ない』

そのようなやりとりが交わされたであろう二人を、成瀬が杉下にプロポーズした後、成瀬が島へ出立する際にでも合わせるシーンがあったら、最高に緊張するシーンとなったのではないか?と妄想しています。
 ただ、この二人が交わすであろう会話はまさしくミステリーの根幹に触れる事になりますから、難しかったのかな?

参照
N作戦2における杉下の魂胆
事件後の四人の接触関係の整理
西崎は成瀬と杉下のその後を知っていた

成瀬は安藤が外鍵をかけた事を捜査機関に喋らない事が判っていた


成瀬は安藤が操作機関に対して、安藤が鍵を掛けた事を始め、西崎とあった事、作戦の存在につながるであろう一切の証言はしないだろう、という事が事前に判っていた、ととってよさそうです。

当初より、私は成瀬が安藤が自分から捜査機関に対して鍵を掛けた事は証言しない、と判断していたと思っていました。
それは一般的な心理として、自身の行動が少なからず人の生き死にに関わったなら、自分から積極的にその行為を話したがらないだろう、という推察から、成瀬はそう判断する、ととっていたんです。

しかしですが、安藤側から改めて事件にどう当たるべきか、という事の推理をしてみたら、安藤が何も語らない事が杉下のためと言い得る事が判りました。

そうした時、成瀬が冒頭の認識に立ち得る、という事も分かったんです。

成瀬は安藤が杉下へプロポーズする意思を知っていた。だからこそ、安藤が鍵を掛けた理由も理解出来ている。その上で、成瀬自身が現場の状況に関する情報で事の真相は野口夫妻の心中である事まで到達し、杉下を守るためには偶然を装う必要性まで理解出来た訳です。ほとんど同じ情報を得た安藤が自分と同じく推論を進めれば、同じ結論になる、と成瀬は判断できるんですね。安藤が杉下を大事にする限りにおいて、その行動は自分とおなじだ、という事です。

実は、安藤自身も成瀬の行動方針は自分と同じだろう、と理解しているので、成瀬と安藤との間には奇妙な共闘関係が成立していたんですね。

参照
安藤のNは杉下と言っていいのか? その二
事件に対する成瀬の認識の到達度の検証

2015年6月26日金曜日

安藤が真相を誰からも教えてもらえない理由をまだ見つけられない その二


安藤が誰からも真相を明かされない理由につらつらと思考を巡らせています。
安藤と他の三人を隔てているものは何だろうと。

一つは先に書いた通り、事件処理における共謀関係です。
その後に気づいたのは、歪みの有無です。

西崎、杉下、成瀬は夫々歪みを抱えた人物です。
ここでいう歪みとは、『自分の力ではどうしようもない現実に飲み込まれ、その中で何かをよすがに、信じる事でしかそれを乗り越える術を持たなかった』経験です。
そのよすがとは西崎にとっては母親、杉下にとっては成瀬、成瀬にとっては杉下です。

しかし安藤にはそのような経験はありません。安藤にとっての世界は、自己の努力で切り開かれるもの、として捉えられています。世界が自分の手の届かない何かの力で、閉ざされる、という経験はありません。

この経験の差が、西崎の『崩れ落ちそうな橋』の質問の、成瀬と安藤の答えの差となっているように感じます。

参照
安藤が真相を誰からも教えてもらえない理由をまだ見つけられない
崩れ落ちる橋 への二人の答え

西崎は成瀬と杉下のその後を知っていた


成瀬と西崎は、西崎の服役期間中、四人の中で一番密な関係でした。
その中で相応の情報の交換がなされた事が想像されます。
西崎は杉下さえ知らなかった変更後の成瀬の携帯番号さえ知っていました。

出所後、安藤にも話していましたが、服役期間中の西崎の心配は杉下でした。そして、その杉下を託した成瀬が面会に来てくれれば、話題は杉下が対象になる。その中で成瀬が杉下と接触を絶っている、というい事も知れた筈です。

二人の間に相応の応酬さえあった事が予想されます。
西崎とすれば、単に事件への関与から杉下を守るだけでなく、その後の事も含めて成瀬に杉下を託した。成瀬が杉下の究極の愛の相手である事を知っていて、杉下が作戦後成瀬との関係を再開させたがっていた事も理解できるからです。
それなのに成瀬は杉下と接触を絶っている。なぜだ、と成瀬に問い詰めている情景が浮かびます。

おそらくは西崎は杉下の究極の愛について成瀬に話したでしょうし、その対象は成瀬である事を話した筈です。偽証も成瀬のためとも語った。そして成瀬に促したでしょう。

一方で成瀬は自分の認識を語った筈です。杉下の中には西崎がいる。偽証をしたのも西崎のため。それを差し置いて杉下へ接触など出来ない、と。

こう考えてくると、成瀬が西崎の電話に『相変わらず回りくどい』といったのもわかる気がしました。
ドラマに描写されていない、服役中での二人のコミニケーションが、成瀬に西崎へそう言わせるだけの濃密なものであった、という示唆だったのかもしれません。


参照
事件後の四人の接触関係の整理
西崎はひょっとしたら自分に対する杉下の気持ちに気づいていた?
西崎の『杉下を守ってやってくれ』に対する成瀬の態度について

16/01/30 追記
ここは修正が必要ですね。
二人は府中ではあっていません。成瀬が服役中の西崎に面会できる人物としての要件を満たせていないからです。
ですので二人の情報交換は手紙になります。
西崎は成瀬に杉下の事を問い合わせたでしょうが、成瀬は杉下と接触していないと答えたか若しくは答えなかったと見ています。
そうでなければ、西崎が成瀬の前に安藤をテストする心理を説明できません。

何故杉下は安藤からプロポーズされた事を西崎に話したのか


西崎へ杉下が安藤からプロポーズされた事を話した事情を考えます。

ドラマの演出としては、西崎にその後『崩れ落ちそうな橋』の問いを安藤に対してさせるためですが、もう一つは、その行為が杉下にとってどういう意味があるのか、つまり杉下が西崎に伝えたかったものは何か、それが気になります。

安藤のプロポーズは杉下に改めて事件の真相の一部を明らかにしました。それは安藤が野口の言う『僻地行き』をむしろチャンスと取っていたのを自分が取り違えて事件のトリガーを引いてしまった、という事です。
これにより、杉下はより一層自身の罪の意識を深めます。
そのきっかけとなった安藤のプロポーズを西崎に話した。

恐らく杉下は西崎に自身が知り得た事件の真相の一部を伝えたかったのだと思います。それは何かと言えば、なぜ安藤がチェーンを掛けたのか、という理由です。

この問題について、西崎が認識していると杉下が考えている事項を整理します。

1)西崎は安藤が鍵を掛けた理由は正確には知らない
杉下が安藤からプロポーズされた事で知り得た事が、安藤が外鍵を掛けた正確な理由です。事件当時、杉下にも安藤が成瀬に対する嫉妬心から鍵を掛けたのだろう事は推測出来ましたが、正確な理由は理解出来ていませんでした。しかし安藤のプロポーズで、それが杉下にも理解出来た。つまり作戦でプロポーズの機会を失った安藤は作戦成功後では杉下に自分が入り込む余地が無くなる。そのため作戦を頓挫させかつ杉下の自分への気持ちを確認する為に鍵を掛けた、という事を杉下は理解した。しかし西崎はまだここまで認識出来ていない、というのが杉下の判断です。

2)西崎は自分と安藤の関係は粗であったことを知っている
西崎は興信所を使って、杉下の事を調べた、と杉下自身へ説明しています。これを受けて杉下は自分と安藤の関係も粗であった事は西崎も知っている、ととっている。

つまり、杉下が安藤が自分へのプロポーズした、という事を西崎へ伝えれば、西崎は
『この十年安藤と杉下の関係は粗であった。それでも安藤は杉下へプロポーズしたということは、事件当時すでに安藤にはその気があった。そこへ杉下の究極の愛の相手である成瀬が噛む作戦を知った。作戦の成功は安藤には杉下の気持ちに入り込む余地を無くす。そこで鍵を掛け、計画を潰し、混乱の中で真に杉下が頼る相手は自分か成瀬かを試した』
という推論が出来るだろう、と踏んだんです。また、杉下としてはそれに西崎が気付いてほしい、という気持ちがあったはずです。安藤の行動の原因が自分であり、その結果が西崎の服役ですから、杉下としてはストレートにそれを西崎には話し難い。でも事件の真相は西崎にも伝えたい。そういう心理がプロポーズされた、という事実のみを西崎に伝える行動になったと思われます。

参照
安藤の指輪に対する杉下の涙の本当の訳
杉下は安藤が外鍵をかけた理由を認識し得たか
西崎は外鍵をかけたのが安藤であるといつ認識したか
安藤はなぜ外鍵を掛けたのか?

2015年6月25日木曜日

成瀬は安藤に嘘は言っていなかった 前言の撤回


以前、成瀬と安藤が会ったシーンの評価として、成瀬は安藤に嘘をついた、と記載しました。

具体的には成瀬のこのセリフです。
「杉下があの時考えていたのは安藤さんの事だと思います。あなたを守ろうとしていました」

以前は、成瀬の認識として杉下が偽証及び外鍵の隠蔽を図ったのは西崎の為で、安藤の為ではない、だからこれは成瀬が嘘を言っている、と判断したんです。

ですが、成瀬のこの発言、嘘ではない事に気付きました。
成瀬は野口に杉下が追い込まれた状況、野口が部屋を出てきた状況について成瀬自身が到達した認識を安藤に話ししたんです。

成瀬は杉下が安藤の事で野口から追い込まれ、計画をバラす事で安藤を野口からまもろうとした、と認識しています。成瀬が安藤に話したのは、ここの部分についてだったんです。だからその限りについては成瀬は安藤に嘘を言っていない事になります。

そんな事、成瀬に分かるはずないのでは?成瀬も安藤と同じく事件について殆どの説明を受けていない、という意見はあられるでしょうが、何故野口と西崎が争ったのか?について成瀬が知り得た状況から推論を推し進めると到達し得る認識です。

成瀬は嘘をついた、との前言は撤回します。
ですが、成瀬と安藤が対峙した、夕焼けのシーンはやはり不要だったという評価は変わりません。
視聴率欲しさに挿入されたという認識も変わりません。

参照
安藤と成瀬が会ったシーンの評価
事件に対する成瀬の認識の到達度の検証

2015年6月24日水曜日

西崎が想像した事件が無かった時の杉下の様子


西崎は安藤に『崩れ落ちそうな橋』の問いの後、呟きます。

『あの日が無ければ杉下は幸せになっていたんじゃないかと思うと胸が痛む』

余命僅かな杉下がそれでも尚人の助けを拒み、孤独の中にいるのを憂いています。
西崎は自らの IF にどのような姿を想像したのでしょう。

西崎は成瀬が杉下の恋い焦がれた『究極の愛』の相手であり、杉下が成瀬と関係を再開させようとしていた事を認識しています。
成瀬が杉下の部屋を訪れる事になったのは西崎とは無関係であり、杉下は成瀬を作戦には巻き込みたくない様子も見ている。また杉下が成瀬の言葉に良く反応しているのにも気付いた。
西崎から見ても、成瀬は杉下に相応しい人間に見えていた。『崩れ落ちそうな橋』の問いに対する答え『呼ばれれば渡る』も西崎の美意識とも合致するし、実際橋を渡り杉下を救い出した。事件前に安藤に『なかなかいい奴だ』と言っている。
二人の間に誰も入り込める余地など無さそうである事を理解していた。

出所後、最初に連絡を入れたのは成瀬であるし、服役期間中一番密な接触を取っている。
事件処理においても、杉下を委ねたのは成瀬であるし、共謀を成立させる為の安藤の外鍵の隠蔽を担ったのも成瀬。

こう考えると、西崎の成瀬に対する信頼度は、相当なものです。

やはり、事件が無かったら…の IF で西崎が想定しているのは成瀬だと思って良さそうです。

西崎の想定にの中にも、安藤が入り込むる余地は見出せません。

安藤派、と呼ばれる方たちの一部に、事件が無ければ安藤が杉下を幸せにしていた、と西崎が思っていた、との意見があります。その根拠は、西崎が安藤にした『崩れ落ちそうな橋』の質問に対する安藤の〝なんだってする〟という、想いの強さだ、というのです。その強さで杉下を幸せにしただろう、という論です。

でもこの主張には簡単に反論が出来ます。西崎は安藤の杉下への想いの強さを知っている。杉下の中の成瀬の大きさは十分知りつつも、一時は杉下を安藤とくっ付けるために背中を押した時期もある。
それでも尚、西崎は杉下を成瀬に託そうとした。それはなぜ?という問いに、上記の主張は答えを与える事は出来ません。

参照
事件後の四人の接触関係の整理
N作戦2における杉下の魂胆

西崎はひょっとしたら自分に対する杉下の気持ちに気づいていた?


杉下のスカイローズガーデン当時の『究極の愛』の対象は西崎です。
しかしそれは殆どドラマ内の情景描写としては描かれていません。ですので殆どの視聴者はその可能性にさえ気付いていません。

しかし杉下のN作戦2における魂胆は、究極の愛の相手である西崎に成瀬と共に協力した上で、西崎に対する気持ちにけりを付け、成瀬との関係を再開させる事であったのは間違い有りません。

そして西崎は杉下の自分への気持ちに気付いていた可能性が有ります。

N作戦時、作戦への参加を渋る安藤に対して西崎がなぜ野ばら荘を守ろうとするのかを話しています。その際、大家から聴いた情報として杉下の家庭環境を説明している。父親が愛人を連れ込んで家を追い出された、という事情についてです。

その前段が有って、奈央子と自分との関係を杉下に話した際の杉下の反応も知っている。杉下が強く拒否反応を示したのは、杉下自身が経験した父親の不貞から来ている事も理解出来る。

それでも尚、杉下が奈央子救出の為に力を貸してくれる姿勢を示した事を見て、どう西崎が捉えるか?

西崎は成瀬が杉下の『究極の愛』の相手である事を知っています。杉下の中に成瀬が大きな存在であり続けている事も、杉下の母親が野ばら荘に訪れた際の事で知っている。

杉下が成瀬と関係を復活させる事だけ考えれば、自分へなど協力せず、成瀬との関係再開だけ考えればいい。実際杉下は成瀬を作戦に参加させる事を渋っていた。それでも尚そういった情報を自分に与え、彼女自身が作戦に関わろうとする姿勢を見た時、西崎は杉下の気持ちに気が付ける。少なくともその可能性がある、という事は認識できるのです。

成瀬の杉下の中での大きさは西崎にも理解できていますから、確信までは行かずともそういう可能性を否定できない、と西崎は考えていたと思います。


参照
杉下のN
N作戦2における杉下の魂胆



西崎が安藤に『崩れ落ちそうな橋』の問いをした理由


西崎は安藤へ、事件前に成瀬に対して発したのと同じく問いを安藤に聞いています。

『崩れ落ちそうな橋の向こうで杉下が助けを呼んでいる。どうする?』

先の投稿で、西崎が気にしていた IF 事件が無ければ杉下は幸せになっていたのでは?という想像では、杉下は成瀬との関係において幸せになっていたかもしれない、と西崎は取っていた筈です。そこには安藤の姿は無い。

それなのにあえて西崎は安藤にこの問いを発したのは何故か?

これは、その直前に父親を訪ねた際の言葉が影響していたと思います。〝世話になった人へ恩を返せ〟
この言葉に、世話になった安藤への態度を改め、もし自分が納得し得る回答を安藤がするのであれば、杉下を安藤に託す事で、恩返しの一つとしよう、と考えた。安藤に問わずに済ませるのは、杉下に想いを寄せる彼に対する不義理だと考えたんです。

もう一つは、西崎が杉下を託した成瀬が結局杉下との接触を断ち続けていた、という事。
その中で杉下に病気という新たな状況が発生した事で、以前の認識はリセットされた。その状況下においてなら、相応しい人物はもしかしたら成瀬以外にもいるかもしれない、と西崎は考えた。

だから安藤を呼び出して問うた訳ですが、結局安藤は西崎が納得できる回答は出来なかった。これがこのシーンの意味だと思います。

参照
崩れ落ちる橋への二人の答え
西崎が想像した事件が無かった時の杉下の様子

2015年6月23日火曜日

みんな『安藤の僻地行き』の意味を取り違えている


野口と安藤の賭け将棋について。

安藤と野口はこの将棋の勝敗で安藤が勝てば国内残留、負ければ太陽光発電のプロジェクトメンバーとしてダリナ共和国へ赴任、との賭けをしました。

ダリナ共和国は電気もガスも通っていないような地。

杉下は野口のブレーンとして逆転の手を考える、という役回り。結局は野口自身が逆転の手に気付き、安藤の赴任が決定…

これ、皆さんどう取られました?
オフィシャルサイトのコメントを見ても、どうやら杉下と同じく『僻地行き=左遷』と取られている方が大半の様です。私が見つけた限りではしのぶ様の2月20日の投稿くらいでしょうか。そうでは無い、と取られている意見は。

これ、特段のトリックも無い、冷静に考えればわかる事です。ミスリードを誘うための演出は有りましたが。

これは左遷ではありません。野口が安藤の能力を非常に高く買っているが故の抜擢人事です。

野口はあくまでダリナ共和国という開発の遅れた国情を評して『僻地』と言っているだけです。

冷静に以下のテキストを見てください。

三羽商事は世界規模の商社。
世界最大規模の太陽光発電所建設プロジェクト。
各課から若手を一人現地要員として送り込む。
野口、安藤の営業部プロジェクト課は、油田開発も手がける部署。
安藤は新入社員。

どう見ても抜擢でしょう。

安藤も左遷だなんて取ってない。

確かに野口は安藤の非常に高い能力に嫉妬していたかもしれない。競争心もあったでしょう。だから将棋で負けたくなかった。この若い男にまだまだ俺は負けん、という感情はあった。だから賭け将棋をした。でも基本は上記の通りなんです。

ここの部分を視聴者側が左遷、と取ってしまうから、10年後に杉下が安藤の指環に涙するシーンを取り違えている。

安藤派の方は『病気だから安藤と一緒になることが出来ない』、その涙だといい、成瀬派は涙の意味を説明出来ていない。

杉下の涙の本当の訳は、自分が安藤の左遷阻止と思って起こした行動から心中に発展したにもかかわらず、その実情が左遷でもなんでも無いということが解って、罪の意識に苛まれていた、その涙なのです。

参照
安藤の指輪に対する杉下の涙の本当の訳

2015年6月22日月曜日

西崎の『杉下を守ってやってくれ』に対する成瀬の態度について


事件の際、成瀬が杉下へ『それでいいね』と偽証を指示し、それにより三人の間で事件の処理方針が合意された後のシーンです。

西崎が成瀬に杉下を託します。

『杉下を守ってやってくれ』

これに対して成瀬は決意を込めた表情で頷きます。

個人的にはとっても好きなシーンです。

ですが、その後成瀬は10年間杉下と接触を断ちます。そして杉下はその期間に病を患い手術をし、そして手術から3年経過した後再発、余命宣告を受けました。

これを持って、〝成瀬は何ら杉下を守っていない〟という意見が公式サイト1月19日及び20日の奈々美様の意見です。

奈々美様の意見の骨子は、スカイローズガーデンにおいては、西崎の刑が確定してしまえば、成瀬が杉下と接触する事に支障が無い筈であるのに、成瀬はなぜ杉下と接触を立ち続けたのか?という疑問です。杉下側の事情=さざなみが未解決とは様相が違う、というものです。

このご意見、至極まっとうだと思います。二人が〝事件後は〟接触する関係性になった、というのは十分通る。なのに成瀬はそれ以後も杉下と接触しようとしない=守るという意思が無い、と取られても不思議では無いのです。

そうすると、成瀬が西崎の刑の確定後も一貫して杉下と接触を立ち続けたのは、単に偽証の体裁を取り続ける為、という理由と別のところにある、と考えた方が合理的です。

では、その理由は何か?

それは西崎の存在です。
成瀬は杉下の心の中に西崎がいる事を作戦の参加時点で知っていた。そして杉下が偽証した理由も、西崎の為と理解していた。だから西崎が服役している間に自分が杉下の気持ちに干渉する事は一切しない、と事件の時決めたのです。つまり成瀬は黙っって身を引いた。それは杉下に対する愛ゆえに。これが西崎に対する頷きであり、手繋ぎで成瀬が杉下に伝えようとした意思です。

事件の際の杉下のNは本当は成瀬だったのですが。これが成瀬と杉下の最大のすれ違いでした。

参照
『成瀬が事件の時唯一認識出来なかった事』
『成瀬がN作戦2に協力する事にした理由』
『結局杉下は誰のために偽証したのか』





2015年6月19日金曜日

事件後の四人の接触関係の整理


スカイローズガーデン殺人事件事件後十年間の杉下、成瀬、西崎、安藤の相互の接触関係を整理してみます。

成瀬ー安藤
これは一切の接触が有りません。元々が事件現場に安藤が入ってきて四人が揃った時に顔を合わせた以外の関係は無いので当然相互の連絡先も了解していない。高野と成瀬が偶然島で再会して、成瀬が高野に電話番号を教えた事から、安藤が成瀬に連絡を取る事が出来た訳です。

西崎ー安藤
これも一切の接触が有りません。西崎の出所後、安藤が野ばら荘へ西崎を訪ねてきましたが、西崎は安藤に対して『関わる気はない』と言い放っています。安藤は裁判他で西崎を支援していましたから、府中にも訪れた思われますが、西崎が拒否していた可能性が大です。但しクリスマスイブに安藤を『串若丸』に呼び出している事から、電話番号は控えていたと思われます。但し再会時の様子からその場で電話番号を交換する、という雰囲気ではありませんでしたのでどうやら安藤は当時の携帯電話番号を変更していなかったようです。

杉下ー安藤
これも十年間、会っていません。最初の再会時に杉下が『十年ぶり』『昔の友達』と言っています。事件後のスナップ写真のスタックで野ばら荘の杉下の部屋を訪ねた安藤に門前払をした杉下が描写されています。但し通信でのやり取りはあった、と想像されます。一つには安藤の帰国後最初のメールがSNS系のツールを使用しています。当時は今で言うガラ携の時代。十年間通信も取っていない相手とやりとり出来ません。また、メールの書き出し(西崎の出所まで待った)は杉下は安藤が海外に赴任している事を知っている前提での記述です。但し安藤のメールをすぐ消そうとした処を見ると、その関係はかなり粗であったと思われます。

杉下ー西崎
これも十年間会っていません。西崎が出所後に杉下を気に掛けて興信所まで使って様子を掴もうとした処を見ると、服役中も杉下は面会をしなかったようです。また、この事から杉下は事件後携帯番号も変更していたと推測出来ます。

成瀬ー西崎
実はここが一番密であったと思われます。
成瀬自身が杉下に『何度か府中に差し入れした』と言っています。また事件後直ぐに変更し、杉下さえ知らない成瀬の携帯番号を知っており出所後直ぐに西崎が連絡を入れています。

杉下ー成瀬
会ってもいないし、通信もしていない。お互いに携帯番号も変えており、相互に連絡先さえ知らない状況です。成瀬は島で高野に会った際に杉下の携帯番号を知りました。その際杉下の様子を聞いています。また杉下は成瀬の電話番号を西崎に会った際に聞かされていた可能性が有ります。成瀬からの電話を取った際、第一声に成瀬がそれに続いて言った〝下にいる〟との発言程の驚きはありませんでした。地下街で倒れた際に出れなかった着信の履歴を把握していたからだと思われます。

2015年6月18日木曜日

杉下はなぜ事件後、安藤の訪問を拒絶したのか?


十話でスカイローズガーデンでの事件の描写が終わり、現代編への繋ぎでスナップ写真のスタックとして事件後のそれぞれが描写されていました。
そのトップで安藤が野ばら荘の杉下の部屋を訪ねるものの、杉下が安藤に会うのを拒絶するシーンがあります。

オフィシャルサイトのファンメッセージでも、このシーンの解釈については投稿を見つけられませんでした。
オフィシャルサイトでは安藤派、中間派はもちろん成瀬派も含めて、杉下が守ろうとしたのは安藤、という認識が支配的でした。しかしそうするとこのシーンの説明がつけられないんですね。四人の相互関係からいって、杉下ー安藤間だけが唯一事件後も接触があっても問題のない関係性です。だからこそ安藤は杉下の部屋を訪れた。杉下が安藤を守ろうとしたのであるなら、安藤を拒絶する理由を全く見出せない。だから意識してか無意識かはともかく全ての方が無視したシーンなんです。

私は安藤の外鍵の隠蔽は四人による暗黙の取引の成立説を取っています。西崎、杉下、成瀬にとっては、非計画性と偶然性を主張する偽証を通すための必要条件として安藤の外鍵を隠蔽した。そして安藤は安藤自身の利益の為にその取引に乗ったように見える。
※但しここについては先に検討した通り、安藤は自らの意志として杉下を庇う為口を噤んだのですが…

杉下としては西崎、杉下、成瀬夫々が夫々の利益の為に必要であった外鍵の隠蔽ですが、安藤のエゴイスティックな行動が事件の凄惨化に繋がったとの認識がある。
野口夫妻は死亡し、西崎は何もしていないにも関わらず奈央子を庇う為に服役。本来ならつかないでいいはずの嘘『鍵は掛かっていなかった』を成瀬一人にさせる事となり、成瀬を再び遠ざける事になった。
このような事態を作り出した安藤に対して、ある種の感情を杉下が持つのは当然です。

それは不信、嫌悪、幻滅、怒りです。

ですので杉下は安藤を拒絶したのです。

『すべてはNのために 俺たちがやった事は…』ってそもそもそ言っちゃいけない んじゃ無い?


西崎が弁護士に証言したとされる『すべてはNのために 俺たちがやった事は…』の第三回です。

ここでこんな事を落ちを付けてしまうのは、本意では無いんですが。

これ、本当は西崎、弁護士に喋ってはいけない話しですよね。
高野がこの証言を見て、ある種の計画性と必然性に気づき、西崎に『殺してませんよね』と言っている。
偽証のポイントは非計画性と偶然性の主張にあった訳だから、それを真っ向から否定するような事を弁護士にさえ言ってはいけなかった筈なんですが。
弁護士だって気づく筈です。それが事件当時はスルーされている。

粗探しみたいなものですが、まあ、ティーブレイク的に書いておきます。

『すべてはNのために 俺たちがやった事は…』のNって誰?


西崎が弁護士に語ったとされる『すべてはNのために 俺たちがやった事は…』についての続編です。

昨夜見た通り、俺たち=西崎、杉下、成瀬です。
では、Nは何でしょう?西崎は奈央子と答えています。彼にとってこれは真です。

で、ここで問題にしたいのは、杉下、成瀬も含めて奈央子、といっていいのか?という事です。なぜこんな事を問題にしているか、というと西崎が事件の真相をどう理解しているか、という事の一端を示すからです。

杉下、成瀬も含めてN=奈央子というとのは、1つの考え方。実際、西崎は杉下に『罪の共有』を要求しています。基本的にその方向性で事件が三人の間で処理された訳ですから。
でも、そうであるなら西崎はNの部分をわざわざイニシャルで表現する必要は無い筈なんですね。
『すべては奈央子のために…』という表現でいい筈なんです。

そうすると、西崎はこの時の認識として杉下及び成瀬にそれぞれ奈央子でない、別のNがいた可能性を認識していると言えます。

では西崎は夫々のNは誰と認識していたのでしょう。
まず成瀬についてですが、これはN=杉下と認識していた。そもそも成瀬は西崎とも増して野口とも関係性がありません。唯一杉下を経由して繋がっていた訳ですから。そして実際成瀬は杉下に殺害への嫌疑が掛からない方向性での処理をする、そのための補強案さえ提示している訳ですから。

次は杉下です。
奈央子か?
西崎は基本的に杉下は奈央子が好きで無いという事を知っています。ですから奈央子ではない。

自分か?
杉下に対して罪の共有を求めた際に自ら『愛は無いかもしれないが…』と杉下に言っていますから、自分である、とも思っていません。

安藤か?
これは三人の間で、暗黙として安藤の外鍵の隠蔽が偽証の必須条件である事が認識されていましたから、安藤はあくまで手段と見ていました。

最後に成瀬です。
西崎は自らが『罪の共有』を杉下に求められた時、杉下が拒否されています。しかし成瀬の提案、指示は杉下は受け入れた。西崎であっても成瀬であってもやる事は変わりません。計画性の否定と偶然の主張です。この行為を杉下には、自分に対しては受け入れ出来なくとも、成瀬に対してなら受け入れ出来る様を見ています。
また西崎は成瀬が杉下の罪の共有相手である事も知っています。内容は知らずとも、杉下が成瀬との関係性を捜査機関に対して隠蔽する必要性がある、だからこそ偽証を受け入れた、という事も理解出来ています。

ですから、杉下にとってのNは成瀬だ、と西崎も取っていた、と理解していいと思います。

2015年6月17日水曜日

『すべてはNのために 俺たちがやった事は…』の俺たちって誰?


西崎が事件後弁護士に語ったとされる証言、『すべてはNのために、俺たちがやったのはそういう事だ』。

西崎自身は高野に対して覚えていない、と話していますが、高野は〝俺たちとは、誰と誰か〟と問うています。西崎はその問いには答えませんでした。

事件当時の西崎にとって、〝俺たち〟は誰を指していたんでしょう?

一人目は西崎自身です。一人称複数形での表現ですから。
二人目は杉下。西崎は杉下に『罪の共有』を求めています。
三人目は成瀬。成瀬との間で事件の処理方針を擦り合わせ、杉下を託しました。

安藤は、というとやはり西崎の中に入っていない、と見るべきでしょう。
一つには安藤はもともと作戦外の人物である、というと事。
二つには事件の処理方針を三人で擦り合わせています。もっともこれは『罪の共有』ではなく、共謀ですが。これにも安藤は含まれません。
三つ目には外鍵の隠蔽についてです。中の三人には安藤が外鍵を掛けた理由を喋って欲しく無いが故に、積極的に隠蔽を図りました。中側から見るとその取引に安藤は自己の利益のためにのった、という風に見える。つまり自己保身のために取引に応じた、という理解です。実際は、昨日投稿したように、安藤には安藤のN(=杉下)のために意志を持って口を噤んだのですが。

以上から、西崎の〝俺たち〟に安藤は含まれていない、と見ていいと思います。

2015年6月16日火曜日

安藤のNは杉下と言っていいのか? その二


安藤は事件発生直後には、事件の本質は野口夫妻の心中である事は理解出来ていました。

その上で、自身がどう証言するか、選択したわけです。

ここで問題なのは、安藤は中の三人と異なり、事件の処理方針を聴いていない、と言う事です。
安藤が中の三人から唯一伝えられた情報は西崎の「逃げられなかった」です。

ここから安藤はどう判断するか?
西崎の発言から、鍵が安藤が掛けたものである、という事が中の三人にも判っている、と言う事と、その鍵のせいで事件にまで発展した、と言う事が伝わりました。
一方で、事件が野口夫妻の心中である事、西崎をはじめとする中の三人が事前の計画を練っていた事も判っています。
この段階で、安藤は捜査機関が『計画の末の心中』とは取らないだろう、という事が推測出来る。
そして中の三人も同じ判断をするだろう事も推測可能です。
その時、成瀬は直接の嫌疑の外になる。鍵を開けて中に入ったから。嫌疑の対象は西崎と杉下に絞られる。

安藤としては中の三人の処理は不明ではあるが、最悪の場合杉下が犯人とされてしまう場合が発生する事が理解出来る。この時、どちらを取る?当然杉下を取る。

そこから安藤の事件への対処方針が構築されていきます。

以下は安藤のモノローグとして

もし中の三人が夫妻の心中として処理していくならば、計画その他は隠蔽されるだろう。それで処理が進むなら、誰も傷付かずに済む。そうであるなら、自分から鍵と計画の存在を示唆するような証言はするべきではない。
そうであるなら、西崎に会ったことも、三人が会っていた事も、自分が鍵を掛けた事も黙っているべきだろう。

もしその方向性が破綻した場合。
もし西崎単独犯で処理をしようと中の三人が判断するなら、それでよし。上記と同じ行動を取ればいい。西崎単独犯である限りはわざわざ計画の存在を暴露されかねない鍵の事は隠蔽されるだろう。もし仮に情状酌量が欲しくて鍵は掛かっていたと、西崎が証言しても、成瀬がそれを否定するだろう。成瀬にとっても杉下への嫌疑は回避したいはずだ。

その他の杉下に嫌疑がかかる可能性のあるケースについても、すべて同じだ。成瀬と歩調を合わせればいい。

つまり、俺からは何も話さない。もし杉下に嫌疑が向く可能性のある展開は成瀬が潰しにかかる。俺はそれに歩調を合わせる。仮に成瀬がどうしよう無くなっても俺は何も言わない。それが何れにせよ杉下の被害を最小化する方法だ。


自分で書いておいて、驚きだったんですが、安藤が杉下を護る為には、何れにせよ一切の事について口を噤む、と言う方法がベストなんですね。
この点において、安藤にもN=杉下は成立するんだ。
正直ビックリです。

2015年6月15日月曜日

安藤のNは杉下と言っていいのか?


安藤は高野の問いに答えています。
『自分にとってのNは杉下希美』

でもこれ、納得出来ないんですよね。

『一番大切な人の事だけ考えた』に対して、安藤だけ解を与えられない。
一番大切な人は、自分以外の誰かです。そしてそれは事件の直後、何を自分の利益としてどう事件を処理するか、と言う究極の選択をする際の事なんです。

この時のそれぞれのNは、

西崎=奈央子
奈央子の罪を自分が引っ被って、奈央子を自分だけのものにする。

成瀬=杉下
計画性が認められた際に、殺害の関与を疑われる、ひいては殺人犯にされかねない杉下を嫌疑から除外する。

杉下=成瀬
計画性が認められる=成瀬と計画を練る間柄=さざなみに於ける偽証の発覚=成瀬を放火犯として捜査機関に差し出す、と言う展開を阻止する。

この時、
安藤=杉下?とすると安藤は杉下を護るための選択をしたの?と言う問題が残ってしまう。
安藤はこの時、杉下を護るために何をしたんでしょう?

どうもここの部分を考えると、安藤のN=自分?に思えるんです。 安藤が行った究極の選択は、自分が行った外鍵を掛ける行為を捜査機関に口を噤んだ、と言うものです。
それは誰のため?と考えると、それは自分のため、と見えるんですよね。安藤と言う、中の三人とは異なり、歪みのない真っ当な人間として描かれているキャラクターの行動として、この自分可愛さ故の行動は、十分説得力があるんですよ。私は、安藤の外鍵の隠蔽がある種の取引として実現した、と取っているのも、これが根拠になっています。

すごく曲解すると、安藤にも成瀬の利益と同じく、自分が鍵を掛けた事を話すと杉下が捜査機関の嫌疑対象になる、とは理解出来るのですが、これで杉下のために安藤が積極的に自らの鍵をかける行為に口を噤んだ、と言っていいのかは疑問です。

でもそうすると、全員が自分以外の大切な人の事だけ考えた、と言う杉下のモノローグと矛盾する。

このドラマでは、幾つかの場所で言葉のレトリック操作が行われていますが、それはそれで嘘はついていないのです。だからここの部分も嘘がない、という前提に立つならば矛盾が生じる。

もう少し考える必要のある部分のようです。



2015年6月11日木曜日

安藤が真に知りたかった事


安藤は事件の真相を知りたがっていました。
しかし、野口夫妻の死亡は奈央子の心中であった事は安藤にも推測出来ました。では安藤が本当に知りたかった事は何だったのでしょう?

作戦から除外されたのは容易に推測できます。自分と野口の関係からです。
野口から土地を売却する意思の有無を聞き出すのは杉下の役目とされ、安藤は知らない事とされました。
N作戦2で自分が除外されたのも、容易に想像しうる事です。

安藤の疑問は、何故三人は偽証したのか、ひいてはなぜ自分が行った外鍵をかけた行為が隠蔽されたのか、です。

これは西崎に呼び出された際、はっきりと口にしています。『なんで自分がやったなんていったの?』

安藤のセンスとして、他人の罪を自分がひっ被る、というのが理解出来ないんです。これが安藤にとっての第一の疑問。
西崎が奈央子を救出しようとしていた=西崎は奈央子を愛していた、と理解出来た訳ですから、百歩譲ってだから西崎は奈央子を庇おうと犯人になろうとした、と理解しても、なせ杉下と成瀬がそれに同調したのかが判らない。これが第二の疑問

三人が外鍵をかけたのは安藤だ、という事を知っているのは安藤も理解しています。
それが西崎も杉下もそれには触れず、まして自分となんら関係性のない成瀬が、鍵はかかっていなかった、と証言しているのですから、三人による隠蔽が行われたのは間違いない。

鍵がかかっていた、それでは逃げれずに事件になった、としたほうが情状酌量が得られる可能性がある。杉下、成瀬の行動としてそちらが正しいように安藤には思える。

では、なぜそうしないか、と考えた時、安藤ととしては二つの可能性が考えられる。一つは自分が守られた、という可能性。もう一つは安藤になぜ鍵を掛けたのかを喋って欲しくない、という判断が入った可能性。計画は無かった、偶然だった、としたいんだ、という取引だと。

安藤のセンスとしては、自分が守られる、というのは可能性として低位でしょう。〝究極の愛=自己満足〟というセンスの持ち主ですから。つまりは、これは取引なんだ、と安藤は理解した。それではその取引に参加した三人のそれぞれの利益とは?と考える。
ここで大事なのは、安藤も計画の末の心中事件だとは捜査機関は取らないだろう、と言う事は想像出来る、という事です。いくら性格的に真っ直ぐな安藤といえど、ビジネスの世界での成功を目指す人間がこのような事を理解できぬはずがない。

その前提であってもまず西崎が理解出来ない。奈央子を庇うにせよ、自身が全てをひっ被る必要はない。鍵を理由に情状酌量を求めた方が合理的に見える。安藤には愛ゆえにその罪さえも独占する、という西崎のセンスは理解出来ない。

杉下と成瀬について考える。西崎に同情し奈央子の罪の隠蔽に協力するとしても西崎の事を考えれば鍵の事を話した方が西崎にはいいはず。では、鍵の事を話すとした場合、安藤は計画があったと捜査機関が判断するであろう、三人が会っていたと自分が証言をした場合の展開を考える。この時は、西崎以外の人間も展開によっては犯人とされる可能性が発生する、という事は想像出来る。そのような展開となった場合、成瀬は鍵を外して中に入った訳であるから、嫌疑の外になる。その場合の犯人とされてしまう可能性が発生するのは杉下。杉下にとって成瀬は究極の愛の相手だと聞いていたので、成瀬側にも杉下を庇うに足る事情があり得る。であるなら成瀬は杉下を庇うために外鍵を隠蔽する行動を取りうる、つまりは西崎を切る事は理解出来る。
では杉下は?
鍵をバラすことで自分が嫌疑の対象になる。そうすると杉下は自分自身を守るために西崎を切った?もう一つの可能性としては、罪の共有関係であるという成瀬のため、とも思える。しかし罪の共有の内容とその成立過程を知らない安藤には〝三人が会ったのは偶然〟との偽証との関係性を理解出来ない。

以上から、安藤が知りたがった事件の真相とは下記になります。

何故自分の外鍵を掛けた行為が中の三人から隠蔽されたのか?
その中でも、西崎にとっての意味、利益。杉下にとっての意味、利益。その中でも杉下の利益が、杉下自身であるのか、成瀬にあるのか、はたまたわずかな可能性として自分自身にあったのか。

これが安藤が知りたかった事です。











安藤は誰を疑っているのか


安藤は〝西崎は犯人ではない〟と判断していました。
それでは安藤は誰が犯人と考えていたのでしょうか。

安藤が明かしている認識です。
西崎は奈央子を連れ出すために来た。
西崎、杉下、成瀬は計画を練っていた。
自分が掛けた鍵のせいで事件になった。
西崎は火のついた燭台を持てない。 

この判断と認識を元に条件を絞り込むと、こうなります。

西崎は犯人ではない→事件のシナリオの否定→西崎は野口を殺していない、野口は奈央子を殺していない。
西崎は奈央子を連れ出すつもりでいた→西崎は奈央子を殺さない
自分が掛けた鍵のせいで事件になった→成瀬が入室前に事件が起きた→成瀬は殺していない

そうすると、この論理で殺害への疑いを否定出来ないのは杉下になるのです。

安藤は三人による計画を認識していました。
西崎の目的も奈央子の救出である事を理解していました。
そうすると、仮に杉下が疑いの対象として残っても、杉下は西崎の協力者であるわけで、杉下が奈央子を殺害することは無い、という論が成立します。

ここまで来ると残る可能性は
野口が奈央子を殺害→杉下が野口を殺害
奈央子が野口を殺害→奈央子が自殺
杉下が野口を殺害→奈央子が自殺

のいずれかです。

但しここで問題となるのは、杉下の服が血で染まっていた、という部分です。
野口は頭を殴打されていた。もし殺害の際についた血であるなら、杉下の服が汚れる部位が異なる。そうすると、杉下は野口を殺害していない、と推測できる。
それはあくまで介抱の結果による血である、という事です。

ここまで来ると、安藤は成瀬と同じ領域にまで認識が届きます。
事件の真相は奈央子が野口を殺害した後、奈央子が自殺した、という処まで認識が可能なのです。

2015年6月8日月曜日

安藤が真相を誰からも教えてもらえない理由をまだ見つけられない


安藤はずっと事件の真相を知りたがっていました。しかし結局他の三人からは、何も教えてもらえませんでした。それは何故か?

これについて、実はまだはっきりこうだ!と言えるものを持ち合わせていないんです。

一つ理由として挙げうるのが、事件処理が中の三人(西崎、杉下、成瀬)による共謀だと言う事です。
そうではありつつ、これだけでは誰も何も安藤に語らない理由としては弱い。もっとはっきりした理由がそれぞれにある筈なのですが、それを未だに読み解けていないのです。

ここで高野みたいに、みんなから愛されていたから、などという理由で納得出来ないんですね。
なぜなら、スカイローズガーデンの事件処理は夫々が夫々のエゴイスティックな選択の末になされたものであるからです。安藤に対する態度も、この基本的態度の延長上にある筈、というのが私の判断です。

また改めて考えようと思います。

参照
偽証を匿う為の偽証は罪の共有?
安藤の外鍵を掛けた行為の隠蔽工作 4人の行動原理・利益

杉下にとっての成瀬の存在


成瀬はよく〝月〟に例えられていましたよね。安藤が太陽で、成瀬が月。太陽が沈んでいる間の暗い時間も常に杉下に寄り添う、というニュアンスですかね。

でも、この例え、私はしっくりこなかったんです。もっとも、自分に代わりになる例えがあったわけでは無いんですが。

基本的に描写やセリフから何かを読み取ろう、といスタンスはとっていません。あくまで謎解きとして、各キャラクターが何を知り得て、どう行動し得るか、というのを至ってロジカルに分析してゆく、というのが自分のスタンスですが、時にはこんな問題も考えてみたくなります。

で、ここまで色々と考えを巡らしてきて、現段階で杉下にとっての成瀬とはどのような存在だったのか、を一言で表すなら、私は〝灯火〟だと思っています。

ある時は杉下に暖を与える焚火として
(好奇な視線で孤独に陥っていた杉下に、変わらず接した事)

ある時は杉下を縛るものを焼き払う業火として
(さざなみの家事で父親、母親、父親の愛人を焼き尽くしてくれた事ーー勘違い)

ある時は道を見失いそうな杉下に道を示す篝火として
(母親の錯乱に心が折れかけていた時に野望を語り、早朝デートに連れ出してくれた事)
(奨学金を成瀬に譲ってしまい、母親に部屋に閉じ込められて進学を諦めかけた時に成瀬のチケットに勇気付けられた事)

ある時は自ら掲げて杉下を暗闇から救い出すための松明として
(杉下の自宅への放火を阻止した事)
(スカイローズガーデンで窮した杉下の元に駆け付け、偽証を指示した事)
(悪魔的絶望にある杉下を迎えに行った事)

こうやってみると、多少強引とも感じますが、杉下のポイントポイントで成瀬はその有り様を変えつつ、灯火として存在したのかな?と思います。

こう感じるのは実は杉下と西崎の関係性を意識しています。
西崎は火で母親に縛り付けられていました。トラウマです。
一般的には杉下はさざなみで自分を縛るものから解放された、と理解されています。それは間違いないと思いますが、実はそれを契機に今度は火で成瀬に縛り付けられていたのではないか?それが杉下が西崎に心理的に引き寄せられた事情なのでは?と最近考えています。
当初は杉下と西崎は対照関係にあると思っていたのですが、実は同類かも、と思っているのです。

これは又別の機会に考えてみようと思っています。

2015年6月7日日曜日

なぜ多くの人が杉下が守ろうとしたは安藤と取り違えたのか


スカイローズガーデンでの杉下のNは、成瀬です。

しかし視聴者のほとんどはスカイローズガーデンで杉下が護ったのは安藤、と取っていました。
これは巧妙に仕掛けられたトリックの為です。

概要は先の投稿『トリックの場所』を参照いただくとして、ここではどのような手で製作者はミスリードを誘ったのか、を詳述します。

事前の刷り込みとして、安藤が鍵をかけたカットに杉下の『一番大切な人のことだけ考えた』のモノローグを被せる演出
追い込まれた杉下が野口に僻地赴任を取消して貰うよう懇願する、という演出。
野口に〝ついて行くか〟と聴かれ、杉下に〝安藤が付いてこいと言えば〟と言わせた。
安藤の僻地行き阻止のために警察沙汰にしようと、計画をばらし、野口を挑発。
成瀬と杉下には会話をさせず、安藤が部屋を出て行くタイミングで杉下に成瀬へ外鍵の隠蔽を依頼。
夏江がただ一心に成瀬親子を庇う為に声を失った現実を見た高野に、安藤に〝守ろうとするが故に何も教えない〟と言わせる。
成瀬に、〝杉下が守ろうとしていた〟と言わせる。

これだけふんだんに安藤の為、的な演出を繰り返しました。ここまでやれば大抵の人は杉下のN=安藤、と思いますよね。

大事なポイントがあります。〝何から安藤を守るのか〟という部分です。
大概の方は、これを切り分けていないのです。
事件が起こる前、確かに杉下は〝野口から〟安藤を守ろうとした。それは間違いありません。
しかし事件以後、杉下が〝捜査機関から〟安藤を守ろうとしたと言えるのか?

これは必ずしも真とは言えないのです。何からまもるのか?という対象が変わっているのですから、守ろうとする側の行動原理も変化している、と考えるべきなのです。

更に複雑なのは、その変化した行動原理の結果として、安藤の外鍵の隠蔽が行われたのですが、これが隠蔽を行おうとした三人(杉下、西崎、成瀬)の真の目的ではなく、それぞれがそれぞれに実現したい利益の、共通の手段として外鍵の隠蔽が行われた、という部分です。
ここで視聴者の目くらましに効果を発揮したのがタイトルです。『〜ために』という言葉の持つ多義性を利用した、原因、意図、効果のすり替え誘導です。三人の意図は別のところにある、そのための行動の効果として安藤の外鍵が隠蔽された、というのが真理なのですが、これがさも意図と視聴者がとってしまった。

もう一つ絶大な効果を発揮したのが、『大事な人のことだけ考えた』です。
これはレトリック操作が行われました。
大事な人=守るべき人=愛する人、というステレオタイプによる誘導です。
視聴者はこの言葉に被せられた安藤の鍵をかけるカットから以下の類推をした。

守られた人=安藤→大事な人=愛された人=安藤

このように見事に制作側に引っ掛けられたんです。

では、大事な人という表現は嘘なのか?
製作者は嘘を劇中に挿入したのか?というと、必ずしもそうではないんです。
真の目的を達成するための必須条件、中間目標も大事、と言い得るレトリック操作です。

三人が居合わせたのは偶然、という偽証を成立させるためには安藤の外鍵の隠蔽が必須条件、だから大切なのは安藤。

こうして安藤の外鍵の隠蔽にトリックが仕込まれたわけです。

参照
『トリックの場所』
『ミステリーとしての仕掛け』
『結局杉下は誰のために偽証したのか』

2015年6月6日土曜日

伝えられなかった思い、すれ違った願い


事件の真相が全て明かされた後に流れる杉下のモノローグ。

『あの日伝えられなかった思い、すれ違った願いに答えを出そうとは思わない。
けれど十年という歳月が答えを導き出そうとしていた
それぞれが心の底に閉じ込めて誰にも知られないまま終わるはずだった、その答えを』

実はこれに未だに明瞭な解を与える事が出来ていません。
オフィシャルサイトのコメントでも幾つかの説が出ているのですが、ストンと胸に収まらないんです。

答えは十年後に出た、という事ですから、このモノローグの後のラストシーンに答えがあるように思える。
これは杉下のモノローグですから、杉下にとっての答えです。彼女の最終的な選択は成瀬だった。だから、ここでいう答えとは成瀬とその後の人生を歩む、という事です。

問題は、それぞれが心に閉じ込めた思い、願いが誰の何だったのか、なんです。
私は、この問題を以下の通りに解釈しました。


伝えられなかった思い=作戦前に作戦が終わった時点で相手に伝えようと思っていた事
すれ違った願い=事件の解決の際、それを願って処理した自分の覚悟が相手とずれていた事

先ず伝えられなかった思いから。
杉下:成瀬への思い。杉下が作戦に込めた魂胆、成瀬との関係を再開させる。
これには証拠があって、これはオフィシャルサイトでの2月10日投稿のうめ様の手柄なのですが、事件の日に杉下がしていたハートのピアスを成瀬の元に戻った日にもしていたんです。ここから杉下は事件の日に成瀬と自室に戻り自らの気持ちを成瀬に伝えるつもりであった事が推測できます。

私は、ここに杉下の安藤に対する〝誰に邪魔されず…〟を加える事が出来ません。確かにオフィシャルサイトでも見られた論で、有力だとは感じましたが、これに十年後である必然性が見出せないのです。
他のキャラクターとの関係の中で、杉下と安藤だけが事件後も接触があって問題のない関係性です。野口に対して僻地行き阻止の行動を取っていますので、その気持ちの存在〝誰に邪魔されず…〟は認めますが、別に10年後である必然性はない。むしろ安藤との接触を拒絶した、まさにその時に伝える事が出来たのに、杉下はそれをしていない。そうであるなら、これはここで議論すべき〝伝えられなかった思い〟では無いんです。

成瀬:杉下へのプロポーズ。さざなみの真相の暴露含む。
安藤がプロポーズするつもりである、という情報は成瀬にも事件前に伝わっていました。
成瀬は杉下の気持ちは西崎に在る、と考えていましたが安藤がプロポーズする意図があるなら、成瀬も同じ土俵に立つ必要が生じていたわけで、成瀬はそのつもりでいたんです。ただしそうであるなら、成瀬は杉下に対してさざなみの真相を明かさなければなりません。杉下が自分から離れた理由がさざなみ放火が成瀬の手によるものだ、と勘違いしている事を成瀬が知っているからです。又、この時点では成瀬自身が疑っていた父親も他界しています。成瀬としては、それを杉下に明かす事は問題ないのです。いや、むしろ明かさなければ、と考えていたはずです。

次はすれ違った願いについてです
杉下:成瀬がさざなみの犯人として蒸し返される事を阻止する
これは杉下が偽証を受け入れた理由そのものです。これに対して、成瀬は先に見た通り、杉下にさざなみの真相を明かそうとしていました。

成瀬:西崎に対する思いを遂げて欲しい
これは成瀬が自ら十年間杉下への接触を絶った理由です。西崎が出所するまで自らは杉下の感情に介入しない決意でした。これに対して杉下は作戦終了後は成瀬に自分の思いを伝えるつもりででいたのです。
これが私の『伝えられなかった思い、すれ違った願い』の解釈と成ります。
参照
『成瀬が事件の時唯一認識出来なかった事』
『結局杉下は誰のために偽証したのか』
『成瀬は作戦終了後杉下との関係とどうしようとしていたのか』


安藤と成瀬があったシーンの評価


成瀬と安藤が夕焼けの中で対峙したシーン。
最初で最後の、杉下を想う二人の男が対峙する場面で、短いシーンでしたが成瀬派、安藤派とも賞賛した名場面とされていますよね。

でも、私は当時から違和感を感じていたんです。
正直、このシーンは不要だったと思っています。

これは視聴率欲しさに強引にストーリーに挿入されたもの、と疑っています。
その疑いの根拠は成瀬が安藤に向かっていった「杉下があの時考えていたのは安藤さんの事だと思います。あなたを守ろうとしていました」というセリフです。
この成瀬の発言、 明らかに嘘なんですね。 真実と異なる、という意味ではなく、成瀬自身の認識と異なることを成瀬は言っているんです。

成瀬は杉下の心に西崎がいる事を計画段階から知っていました。ですので、杉下が偽証を受け入れたのも西崎のためと理解している。そして安藤の外鍵を隠蔽する目的は〝計画はなかった、三人が居合わせたのは偶然だった〟という偽証を成立させるために必要なのであり、それが安藤の保護のためではない事は明白なのです。

このドラマでは幾つかのトリック、レトリックの操作を行っていますが、キャラクターに嘘は言わせていません。この成瀬の発言が唯一の嘘です。
それが視聴率欲しさに急遽入れたシーンでは無いか、と疑っている理由です。

仮にこのシーンが事前に予定されていたもの、と仮定したとするとどのような意図で入れられたのでしょうか?

狙った効果としては、安藤の外鍵の隠蔽が、安藤の保護が目的である、というミスリードの刷り込みです。原作では杉下のモノローグで語られた部分をドラマでは成瀬に言わせた。事後的な刷り込みです。
ですが、ここであえて成瀬に嘘までつかせてそれをさせる必要はなかった筈です。何故ならその直前の高野とのシーンで高野に「安藤には誰も何も言わない、何かを守るために無心で嘘をつく人間もいる」とすでに事後的刷り込みを視聴者に行っているんです。更に言えば夏江というキャラクターは、この時高野にこう言わせるため、視聴者へのミスリードの事後刷り込みを行うために設定されたキャラクターなんですね。

つまり、さざなみで夏江は成瀬親子を守りたいその一心で真実を明かさず、声を失った。
スカイローズガーデンで同じポジションだった杉下は、安藤を守りたい一心で外鍵を隠蔽し、病を患った。

高野との安藤の会話は、このような刷り込みの為のシーンだったのに、更に輪をかけて成瀬にそれをさせる必要は無かったと思います。これでは夏江のドラマでの設定意義が失われてしまいます。

ですので、この成瀬と安藤のシーンは、ドラマの作りとしては唯一汚点となったシーンです。残念です。

参照
『成瀬が事件の時唯一認識できなかった事』
『ミステリーとしての仕掛け 一番大切な人の事だけ考えた』

2015年6月5日金曜日

杉下は成瀬の何に〝悪魔的絶望〟を抜け出す光を見たのか


杉下はキルケゴールのいう、最高度の絶望状態の一様相としての、誰からの助けも拒絶する〝悪魔的絶望〟の状態に有りました。

杉下を救う為に西崎が最後の切り札とした、成瀬の申し出にさえ「甘えられん」と一旦拒絶しています。

しかし、杉下は成瀬との会話後、主治医に対して「誰も悲しませずに死ねないのか?」とそれまでの頑なだった心境の変化を見せています。

この心境の変化は、やはり成瀬との会話による影響です。成瀬との会話に〝悪魔的絶望の中、死を迎える事の罪深さ〟に思い至った何かが有ったのです。それは何だったのでしょうか?

それは成瀬の申し出を拒絶することに対する成瀬への冒涜観念です。

成瀬との会話により、杉下の心に何層にも被さっていたかさぶたが剥がされていきます。

先ずさざなみの真犯人が成瀬で無い、という事が明かされ、成瀬と接触してはならない、という感情が破壊されます。それと同時に、成瀬が火で自分を救ってくれた、という幻想も破壊されました。この二つが作り出した、『究極の愛』という名の心理機構の存在意義さえ破壊された。そして『究極の愛』が破壊されたことにより、それが形成されたさざなみ放火事件に対するある種の美的感覚、美意識も破壊された。

ここまでくると、自身の『究極の愛』が引き寄せたスカイローズガーデン殺人事件とはなんだったのか、という思いに至る。美であったさざなみが作り出した『究極の愛』が引き起こした醜であるスカイローズガーデン。しかしさざなみの美性が否定された時、スカイローズガーデンの醜性も否定された。

では、結局二つの事件は自分にとって何だったのか、それでも自分の中に間違い無く存在するものとはなんであったのか?という問いに突き当たる。

一つは、自分が何に変えても成瀬を守ろうとした感情です。
そしてもう一つが、成瀬が何に変えても自分を守ろうとしてくれた、という確信。

杉下にとっては、この二つが真理なのです。

自身の成瀬への感情と成瀬の自分への想い。それをはっきりと自覚した。

そこで再び成瀬の発言が被る。「杉下の人生や、杉下の好きに生きたらええ」。

この言葉で、杉下はスカイローズガーデンの原因となった「究極の愛」の相手が西崎である、という事を成瀬が知っていた事、そのために十年間も成瀬が自分との接触を絶った事、そしてそれでもなおかつ今自分の余命を知りつつ再び自分を救う為に現れたという事を理解した。

これを拒絶するのは、成瀬に対する冒涜では無いか?そう考えたのです。
勿論杉下は成瀬を冒涜する気などありません。そうであるなら、自分は成瀬に救われてもいいのかもしれない。

これが後の魂の上昇のきっかけとなったのです。

参照
『キルケゴールの思想に対する証左』
『魂の解放』
『成瀬がN作戦2に協力することにした理由』
『N作戦2における杉下の魂胆』

2015年6月3日水曜日

成瀬が事件の時唯一認識出来なかった事

成瀬はスカイローズガーデンでの事件の真実についてほぼ完全に理解していました。

しかし一つだけ成瀬が認識し得なかった事があります。それは杉下のN=成瀬、自分である、という事です。この時、成瀬は杉下のN=西崎だと思っていたのです。

成瀬は作戦に協力を申し出た時点で、杉下の西崎に対する感情を知っていました。しかし杉下が作戦終了後に、成瀬との関係を再開させようとしていた事は認識していません。
増して杉下が西崎の『罪の共有』の要求に対しても〝出来ない〟と返している事を知りません。これは成瀬が入室する前のやり取りです。

ですので、成瀬が〝いいね〟と杉下に偽証を促して杉下が泣き崩れる事で偽証を受け入れた事を見た時、成瀬は杉下が偽証を受け入れたのは西崎のため、と理解していたのです。

実はこれが杉下と成瀬の10年にも及ぶ空白期間の理由です。
勿論成瀬としても自分と杉下の関係を偽装する必要があったわけですから、杉下と距離を置く必要性はあった。さざなみにおける杉下のように。しかし成瀬側からすれば、西崎の刑が確定してしまえば、杉下と接触を取れない理由は無くなります。杉下とは異なり、さざなみの事件が未解決である事が接触を絶ち続ける理由にはなりません。この時点では成瀬自身が疑っていた父親は他界している。だからこそ結婚式後に成瀬は杉下と接触していたのです。

しかし成瀬は杉下への接触を絶った。自ら電話番号を変えてまで。
それは何故かというと、杉下の西崎への気持ちを(誤解ですが)優先させ、西崎が服役している間、自分は杉下の感情ヘ一切介入しない、そして杉下に西崎への想いを遂げさせる、という意図であったのです。 

しかし実際には杉下のNは成瀬です。
これがこの物語で、二人の間で数多く発生したすれ違いの中で最大のものだったんです。

2015年6月2日火曜日

成瀬に会う前の杉下の心理状況

成瀬が十年ぶりに成瀬が訪ねた頃の杉下の心理状況は、どのようなものだったのでしょう。

西崎が成瀬に電話した際の説明として、「杉下本人は誰の助けも求めていない」と言っています。
西崎の金銭的な協力も、その他の協力も断っています。安藤のプロポーズを断った下りから、安藤の助けも拒絶するのは明白です。成瀬がプロポーズした際の「親にも世話になりたくない?」の描写から、親に世話になる事も拒絶する意思が明白です。

つまり、誰からの助けも拒絶する心理状態です。それは成瀬に対しても同様で、成瀬のプロポーズに「もし一緒になっとったら〜」とやんわりとした拒絶の意思を示しています。
この助けに対する拒絶の心理は、杉下が成瀬に対してもバルコニーで宣言した「誰にも頼らん」とは起源が違います。それは西崎との会話で杉下自身が否定しています。

一方で西崎が安藤に『崩れ落ちそうな橋』の問いをした際、ホスピスの申し込み用紙に緊急連絡先を記載することが出来ない杉下が描写されています。すごい孤独です。

この時杉下は間違いなく絶望していました。
杉下にとってのスカイローズガーデン殺人事件は、自分が生み出した〝究極の愛〟が結節点となって発生した事件です。更には野口を挑発した事で直接的なトリガーを引いてしまった。
この事件で野口夫妻は心中し、真の犯人である奈央子を庇うために西崎が服役し、本来野口家とは全く関係のない、自分に想いを寄せてくれている成瀬まで共謀に巻き込んだ挙句、その成瀬さえ失うことになってしまった。自分が存在しなければ、という自己否定的感情と関係した人々への罪の意識は相当であったはずです。

そこに更自身の病気と余命宣告。これは杉下は罪深い自分への罰と受け取った筈です。
それが自分は救われてはならないという絶望の感情となっていた訳です。

そのように十年を過ごしてきた上に、安藤のプロポーズにより野口を挑発した行為が、そもそもしないで済んだ事だ、という事が解って、杉下の絶望度は一層増すこととなってしまった。
※「安藤の指輪に対する杉下の涙の本当の訳」参照


絶対的な絶望、孤独の中でも、助けを拒絶する心理。

これが私がドラマがキルケゴールの実在主義哲学をモチーフにしている、とした根拠の一つです。
キルケゴールは、絶望が最高度に高まった心理状態の一つの様相として、(神による)救済を拒絶する状態を〝悪魔的絶望〟と呼んでいます。この〝悪魔的絶望〟に杉下はあったのです。
※投稿『キルケゴールの思想に対する証左』参照