スカイローズガーデンでの杉下のNは、成瀬です。
しかし視聴者のほとんどはスカイローズガーデンで杉下が護ったのは安藤、と取っていました。
これは巧妙に仕掛けられたトリックの為です。
概要は先の投稿『トリックの場所』を参照いただくとして、ここではどのような手で製作者はミスリードを誘ったのか、を詳述します。
事前の刷り込みとして、安藤が鍵をかけたカットに杉下の『一番大切な人のことだけ考えた』のモノローグを被せる演出
追い込まれた杉下が野口に僻地赴任を取消して貰うよう懇願する、という演出。
野口に〝ついて行くか〟と聴かれ、杉下に〝安藤が付いてこいと言えば〟と言わせた。
安藤の僻地行き阻止のために警察沙汰にしようと、計画をばらし、野口を挑発。
成瀬と杉下には会話をさせず、安藤が部屋を出て行くタイミングで杉下に成瀬へ外鍵の隠蔽を依頼。
夏江がただ一心に成瀬親子を庇う為に声を失った現実を見た高野に、安藤に〝守ろうとするが故に何も教えない〟と言わせる。
成瀬に、〝杉下が守ろうとしていた〟と言わせる。
これだけふんだんに安藤の為、的な演出を繰り返しました。ここまでやれば大抵の人は杉下のN=安藤、と思いますよね。
大事なポイントがあります。〝何から安藤を守るのか〟という部分です。
大概の方は、これを切り分けていないのです。
事件が起こる前、確かに杉下は〝野口から〟安藤を守ろうとした。それは間違いありません。
しかし事件以後、杉下が〝捜査機関から〟安藤を守ろうとしたと言えるのか?
これは必ずしも真とは言えないのです。何からまもるのか?という対象が変わっているのですから、守ろうとする側の行動原理も変化している、と考えるべきなのです。
更に複雑なのは、その変化した行動原理の結果として、安藤の外鍵の隠蔽が行われたのですが、これが隠蔽を行おうとした三人(杉下、西崎、成瀬)の真の目的ではなく、それぞれがそれぞれに実現したい利益の、共通の手段として外鍵の隠蔽が行われた、という部分です。
ここで視聴者の目くらましに効果を発揮したのがタイトルです。『〜ために』という言葉の持つ多義性を利用した、原因、意図、効果のすり替え誘導です。三人の意図は別のところにある、そのための行動の効果として安藤の外鍵が隠蔽された、というのが真理なのですが、これがさも意図と視聴者がとってしまった。
もう一つ絶大な効果を発揮したのが、『大事な人のことだけ考えた』です。
これはレトリック操作が行われました。
大事な人=守るべき人=愛する人、というステレオタイプによる誘導です。
視聴者はこの言葉に被せられた安藤の鍵をかけるカットから以下の類推をした。
守られた人=安藤→大事な人=愛された人=安藤
このように見事に制作側に引っ掛けられたんです。
では、大事な人という表現は嘘なのか?
製作者は嘘を劇中に挿入したのか?というと、必ずしもそうではないんです。
真の目的を達成するための必須条件、中間目標も大事、と言い得るレトリック操作です。
三人が居合わせたのは偶然、という偽証を成立させるためには安藤の外鍵の隠蔽が必須条件、だから大切なのは安藤。
こうして安藤の外鍵の隠蔽にトリックが仕込まれたわけです。
参照
『トリックの場所』
『ミステリーとしての仕掛け』
『結局杉下は誰のために偽証したのか』
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