2015年3月27日金曜日

ミステリーとしての仕掛け その二 「一番大切な人のことだけ考えた」(1)

『Nのために』論考

昨日に引き続き、ドラマのミステリーとしての仕掛けについて言及したいと思います。

これだけ判りやすさを避けたドラマの中でこの「一番大切な人のことだけ考えた」が非常に印象が強い言葉で、ここだけが明確に表現されているように感じられる言葉です。

この「一番大切な人のことだけ考えた」もタイトル同様、ミステリーとしての仕掛けだったと思います。

これはステレオタイプを利用したミスリード及び真の目的の前提条件も”大切”と表現しうるレトリック操作の為の言葉です。

今日はステレオタイプを利用したミスリードについて書きます。

これはスカイローズガーデンでの安藤に関する杉下の行動描写の部分で効果を発揮します。
公式サイトのファンメッセージで杉下の"N"は成瀬か安藤か、といった成瀬派、安藤派、中間派といったものが存在しました。

ステレオタイプとして

大切な人=守るべき人=愛する人

スカイローズガーデンで守られた人=安藤
そこから三段論法で、安藤が大切な人であり、安藤が愛された人、という構図が形成されていました。

これを素直に受け取った人たちが安藤派です。
一方ラストシーンでは杉下は成瀬と島へ帰りました。この帰結から安藤は杉下の上昇志向のシンボルとして若しくは弟を思うような気持ちで護られた、その意味で大切な人だったと理解したのが成瀬派です。
中間派はスカイローズガーデンでの時点では安藤としていますので、この部分だけとれば安藤派と同じ理解としてよいでしょう。

結局この三派はいずれも「一番大切な人のことだけ考えた」という言葉とラストシーンとのギャップにどう折り合いをつけるか、という処で苦慮していた訳です。

杉下に安藤の僻地行き阻止の為の行動を取らせ、危険を冒して西崎による奈央子救出計画を野口にバラし、安藤の外鍵の隠蔽を成瀬に依頼した。

杉下の行動は一貫して安藤を護る為の行動であり、安藤が大切な人であった、と全ての人に印象付けることに成功したわけです(この部分までは成瀬派も同じです)。

私は”大切な人=安藤”とは取っていません。
これも後ほど詳述することになりますが、安藤の外鍵の隠蔽は4人による取引が成立したからです。その取引には、一般的な意味での”大切な人=安藤”というロジックは存在しません。(一般的でない、レトリック操作によって”大切な人=安藤”という表現が成立するのですが、その部分は次回触れます)

ですので、「一番大切な人のことだけ考えた」はステレオタイプを利用したミスリードであると断言出来ます。

2 件のコメント:

motoさん さんのコメント...

しかし、ここでの演出は効果覿面でした。
安藤が鍵を掛ける映像に杉下のモノローグを被せた演出です。

その後に語られる事件の真実の流れを観ても杉下は安藤保護の意図のもと一貫して行動しているように見える。
このモノローグが後の展開の前振りであり、また後の展開がこのモノローグの演出(ステロタイプを利用したミスリード)を相互に補強してるんですよね。私みたいな捻くれ者じゃないと、この誘導を抜け出すのは容易じゃ無いですよ。

でも、これはあくまで振りであり、トリックであって、杉下のNは安藤では無い。その事に気付いて欲しいですね。
このドラマは、その先が本当の面白さなんですから

motoさん さんのコメント...

このころは、偽証が成立したのは、中の3人と安藤との間の”取引”(=中の3人は鍵には触れないから、お前(安藤)は黙っていろ)が成立したものと考えていました。

西崎と杉下に関しては、安藤が三人(西崎・杉下・成瀬)で会っていた事実を知る人間で、三人の共謀を壊しうる存在であり、また合理主義者である安藤は、こちらが外鍵に触れなければ、自身の立場を危うくする事(安藤が進んで外鍵をかけた事を証言する事)はしないだろう、と見えていたはずです。

事実、中の3人が外鍵に触れなかった事で、安藤は自らの行為には口を閉ざしました。少なくとも西崎と杉下には、安藤は自分の理を優先して、こちらの取引に乗ったと見えたはずです。

しかし、安藤側からみると、安藤が中の3人が会っていた事を証言してしまうと、中の3人の共謀として捜査が進んでしまい、杉下も無傷ではいられないことになる。安藤は奈央子による無理心中である事を理解していますが、その推論を口にすること自体が3人の共謀(事前に会っていた事)を話す必要が生じますから、安藤としては杉下を守るには自身の行為を含め、知らぬ存ぜぬを通すしかない。

この当時はまだ安藤側の行動原理が読み切れていなかったため、”取引の成立”と考えていましたが、安藤は安藤なりに「一番大切な人のことだけ考えた」のです。