“お掛けになった電話番号は、現在使われておりません〟
“お掛けになった電話番号は、現在使われておりません〟
判っている。何度やっても同じ。結果は判っている。それでも繰り返さずにはいられない。携帯電話の発信履歴の一番上にあるあなたの名前を選んでリダイヤルする事を止められない。
成瀬くん。やっぱり私には成瀬くんしかいないんだ。成瀬くんじゃないとダメなんだ。成瀬くん、成瀬くん…
成瀬くん、手を繋いだ時、あなたの声が聴こえた。
『もう会わない。これでお別れだ。さようなら』
覚悟した。私の我儘の末に、成瀬くんと一緒にいたいが故に引き寄せてしまった事件。そもそも成瀬くんを巻き込んではいけないのに。
私の中にあった変な美意識が、下心が、勇気のなさが事件を招き寄せ、結局あなたを失う事になった。
これも自分の罪の一つなんだろう。そのための罰なんだ。それは解る。それでもあなたに会いたい、声を聞きたい。そうでなければ自分がどうにかなりそう。
成瀬くんゴメンね。
私、あの時成瀬くんにこんな思いさせていたんだ。私はあの時どうしても成瀬くんを守りたくて、そのためにはあの方法しか思い浮かばなくて成瀬くんを遠ざけた。でもそれが成瀬くんをどれだけ悲しませる事だったのか、今ようやくわかった。こんなに悲しい思いをさせたんだね。成瀬くんがなぜそうするのかが解るだけに、本当に悲しい。
成瀬くん、本当にゴメンなさい。だから、だからちょっとでもいい、一瞬でいい、その声をきかせて?
わかっている。
成瀬くんは意思の人だ。成瀬くんは一度決めた事は絶対に曲げない。だからもう二度と、二度と成瀬くんとは会えない。わかってる。わかっているからこそ悲しんだよ。会いたいんだよ。声を聞きたいんだよ…
成瀬くん、せめていつまでも私達が繋がっていると思ってもいいかな?奇蹟を信じる事位は許してくれるかな?ねえ、いいよね、成瀬くん…
着信とボイスメッセージの履歴には“安藤望〟が並ぶ。
安藤の電話には出られない。声も聞きたくない。
安藤!なぜあなたはチェーンを掛ける、なんて事をしたの⁉︎
あなたがそんな事をしなければ、二人が死ぬ事も、西崎が罪をかぶる事も、成瀬くんを失う事も無かったというのに!
『杉下!』
チャイムとともに声がする。
『杉下‼︎』
安藤だ。
『杉下、俺だ。杉下と話がしたい』
お願い!却って、お願い…
もうあなたとは会いたくない、話もしたくない。お願いだから、お願いだから却って…
お願いだから私の成瀬くんを還して!
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