2015年11月9日月曜日

杉下が希求していたもの

杉下が15年間、求め続けていたもの。それは『Home』。
余命宣告を受けて、成瀬に言った言葉。

『欲しいものはそんなにない…帰る家があって、それを誰にも取られなければ、それでいい』

ささやかであるのに、それでいて未だ手に入らないそれ。

英文科を専攻しながら建築会社へ拘って就職活動したのも、パートナーと住宅設計事務所を立ち上げたのも、誰かがHomeを得る助力をする事がそれを持たない自分にとっての代理行為と感じたから。決して父親の影響ではない。
でもそれが自らのHomeの獲得に繋がるわけも無く、ただひたすらに成瀬の『頑張れ!』を念仏のように唱え続けた。

彼女にとってのHomeは、お城でなく、幽霊屋敷でもない。それらはさざなみの火で焼き払われた。それは素の自分をなんら注文を付けず優しく受け入れてくれる場所。『いつも一緒にいてくれて、嬉しかった』成瀬。

しかしそのHomeたる成瀬が、殊杉下のとことなると簡単に崩れそうな吊橋を渡ってしまう。危険を顧みない。Homeである成瀬を失いたくない、それでいて最後の最後でその成瀬を頼りたくなる衝動。そのジレンマを解消するための『誰にも頼りたくない』

大切なHomeたる成瀬を守るために自らそのHomeと距離を取らざるをえない矛盾。満たされる事のない渇望と罪悪感と苛まれる絶望、限りある寿命。そしてリフレイン。

彼女が最後に望んだものはそんなHomeたる成瀬との奇蹟であったはずなのに、それさえも目の前にすると躊躇せざるを得ない恐れ。『甘えられん』

希求していたものにさえたじろぐ杉下という人物のいじらしさがとても好きです。

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