2015年11月30日月曜日

杉下が一番辛かった時期

早苗が杉下を訪ねた際の杉下の心理を分析する過程で、面白い事に気付きました。
杉下が、一番辛かった時期がいつなのか?という問題です。
今日はそれについて書きます。

早苗が杉下を訪ねた際に『島にいる頃に引き戻されそうで怖い』と言っています。さも早苗の存在が島時代全体を呼び起こしているように見えますね。 ですが成瀬のプロポーズの際に杉下はさざなみの火で『父親も母親もあの女も…縛るものは誰もおらん』と上を向けた。そうすると彼女の中で、島時代 はさざなみ炎上の前と後では別物である事になる。

そうすると早苗が杉下を尋ねた際の『島にいる頃』といっているのは実は島時代全体ではなくてさざなみ炎上以降の時期を言っている事になるんです ね。

つまりさざなみ以前は火によりその辛い思いでも成瀬という存在に還元され、オブラートされたものの、さざなみ以降の事象についてはその端は成瀬で ありつつ成瀬ではオブラートできない時期であり、その頃が『島にいる頃』という事になるんです。

確かにこの時期が杉下にとって一番辛い時期だったかもしれません。
成瀬との約束が唯一のよすがだった。それ以外は八方塞がり状態。成瀬の為に希望だった奨学金を差し出し、進学さえも諦めざるを得ない状況に追い込 まれる。心の拠所、救世主たる成瀬を『頼れなく』なり遠ざけた。母親は依然自分を縛りつけようとする為、その母親を成瀬との約束を理由に切り捨て ざるを得なくなり、罪意識を抱えた。成瀬との約束の実現の為に不本意ながら狡賢さも身に着けた(父親への土下座)。

杉下という人物は基本的にはポジティブ思考の持ち主で、お城を追い出された以降も一部妄想(野望)に逃れつつも懸命に現実的対応を取ろうとしてい ましたよね。
それがさざなみ炎上以降はその現実的対応では如何ともしがたい状況に陥った。唯一成瀬との約束を拠所にし、それを根拠に非現実的対応を取らざるを 得なかったのがこの時期なんです。

ですから、ゴンドラの後野原のお爺ちゃんから『苦しかった事は忘れる事』で涙するのは、この時期の辛さ・苦しさが想起されたからだと思います。

0 件のコメント: