“…はい”
「西崎です。成瀬くん、もう一度杉下を助ける気はないか?杉下は誰の助けも求めていない。だがもしかしたら成瀬くんなら、と思ってね」
“相変わらず回りくどいですね”
「単刀直入に言おう。杉下は…胃癌で余命宣告を受けている。あと一年の命だ。しかし彼女は誰の助けも一切得ようとしない。まるで自分が助かる事を拒絶しているように。杉下はたった独りで最後を迎えようとしている。全ての真実を自らの命と供に墓場まで持っていく気だ」
暫く彼からの返事は無かった。漸く還ってきた言葉の前に、彼の喉が鳴る音を聴いたような気がした。彼はどんな顔をして今この話を聴いているのだろう。
“…誰か近しい人はいないんですか?”
「いない。君に電話した後、興信所を使って杉下の事を調べた。少なくともステディな関係だった人物は過去にもいないようだ。親とも殆ど接触を断っている」
“それでなぜ西崎さんが俺に知らせてくるんです?あなた自身は?確かにあなたのNは奈央子さんだった。でもあなたのエゴを全て受け止めたのは杉下であり、あなたは杉下に一生の借りがあるんじゃないですか?あなたはその借りを杉下に返すべきでしょう。まさにその時ではないんですか?”
「…やはり君は全て解っていたんだな。あの場では何も聴かなかったが…」
“そして杉下のNは西崎さん、…あなたですよ。あなただって気付いているでしょう?”
続く…
0 件のコメント:
コメントを投稿