杉下のN=安藤説を私が取らない理由の第四段です。
杉下が安藤に事件の真相を語らないのは、安藤が愛されていたから、という論が一般的です。
でも、それは本当でしょうか?
最終話で、事件から現代編へ切り替わる際の、スナップのスタックとして描写された、各キャラクターのその後のトップで、野ばら荘を訪れた安藤に、杉下が会うのを拒絶しているシーンがあります。
このシーン、表現としてはスナップのスタックとして、ごくサラッと挿入されています。
実はこのシーン、ドラマ全体の謎解きに決定的に影響するシーンです。
ある意味爆弾シーンなんです。
このシーンについて私は今まで言及された論を見た事が有りません。
俗にいう成瀬派、安藤派双方がこのシーンを説明でき無い。
説明でき無いのはなぜか?
安藤と杉下の関係、より具体的には安藤の外鍵の隠蔽行動に対する杉下の動機、目的に対する一般的解釈が間違っているからです。
成瀬派にしろ安藤派にしろ、外鍵の隠蔽は安藤を杉下が保護する意図で行われた、という解釈です。そこから安藤の将来が大事であり、真相を教えられない。では合わないのはなぜ?
誰にも邪魔されず、広い世界へ羽ばたいて欲しい、と思っていたなら、なぜこの時それを言わない?
安藤と杉下は事件の関係者間で、唯一その後も接触がある事になんら問題がない関係です。そうであるのに杉下は拒絶した。
さざなみでは、杉下は成瀬の事について偽証するような関係性でない、という事を装うために、成瀬との接触を断ちましたが、この時の安藤にはさざなみのような制約は無い。
それではなぜ?杉下は拒絶したのか?と考えると、一番スッキリするのは、『安藤が嫌われたから』
安藤がした行為は自分本位な理由から密室を作り出した、というものです。普通の感覚で考えてください。
あなたは、いたずらでトイレの外から閂を掛けた友人を、許せますか?その人間性に疑問を抱きませんか?その後、その友人と付き合いたいと思いますか?そのような人物と秘密を共有出来ますか?
高野と安藤の会話で視聴者は強い刷り込みをされています。しかし真相は上記の通りで、安藤は嫌われ、信用を無くしたから真相を教えてもらえないのです。
参照
安藤が真相を誰からも教えてもらえない理由
作戦の失敗について杉下の怒りが西崎へ向いていない事
杉下の安藤の外鍵隠蔽行動
杉下はなぜ事件後、安藤の訪問を拒絶したのか?
4 件のコメント:
初めまして。いつもブログを拝読しています。毎度の更新がとても楽しみです。
さて、この『安藤が嫌われた説』で一つ質問させてください。
それは、安藤と杉下の事件後の再会シーンです。
再会時、安藤に抱き寄せられた杉下は、安藤の背中(のほう)へ手を回す。
この動作、一般的な女性の感覚で言えば、人間性を疑うほどに嫌い信用ならなくなった相手に対しては、出来ないと思うのです。
嫌いな男性から抱きしめられたら、手はそのままだらんとした状態です。
この時、杉下は手を回した、これは相手に対して好意的であると受け取れます。
『安藤嫌われた説』でいくと、私にはどうしてもこの点がうまく合わなくなってしまうのです。
このシーンについての、moto様のお考えをお聞かせ願えたらと思います。
OA様
はじめまして。コメント頂けて恐縮です。
世間一般?の解釈から相当離れた暴論・異論を展開するこの論考(ですが本人は到って真面目に思考しております)に興味を持って頂いて感謝です。
過去記事含め、突っ込んでいただける部分あればぜひお願いします。
そろそろ自分の中で謎解きのネタが尽きつつあるので、他の方の視点はありがたいです。
さて、質問の件ですがこのとき安藤の抱擁に応えた杉下の心理については杉下が安藤に会うことにした目的と意図、及び杉下の行動原理を考える必要があります。
杉下が安藤に会うことにした目的は『高野が何を探ろうとしているのか?』を安藤から聞き出す為です。そして杉下は高野がさざなみにおける杉下の偽証と成瀬の放火を疑っているのを知っている。その高野が杉下と成瀬が再び接点を持ったスカイローズガーデンの関係者である安藤に接触したという事は、スカイローズガーデンを通じて再び成瀬を追う意図ではないか?と推測できるわけです。それを確認する為に安藤に会った。
杉下が安藤が高野の話題を出さなければ安藤と会うつもりがなかったのは、最初のメールを直ぐ削除しようとした描写から明らかです(逆に言えば安藤は杉下が自分に会わざるを得ない状況を作る為の口実として高野を使った、とも言えます。事実杉下と安藤は事件以後会っていません)。
その上で、安藤の抱擁に応えた描写をどう理解するか、です。
杉下にとって成瀬の事はのっぴきならない問題です。
しかも、のっぴきならない問題に対しては杉下は『何でも出来る』人物です。
成瀬を護る為にさざなみで偽証し、かつ偽証の正当性を担保する為自らの希望の光であった奨学金を差し出し、かつ自身の感情を抑圧して成瀬を遠ざけた。
自身の大学進学では恥も外聞も無く公衆の面前で父親に土下座した。
スカイローズガーデンでは、成瀬の為に偽証を受入れた(精神的には事件時の『究極の愛』の対象であった西崎を切り捨てた)
杉下とはこのような人物ですので、自身ののっぴきならない成瀬の問題でその情報を安藤以外から入手できないのであれば、自分の感情は脇に置いて安藤に”それっぽい”対応をする事は不思議では有りません。
ただし、この論は男目線からなので、女性目線では如何ですか?
返信ありがとうございます。説得力ある回答でした。
そうでしたね。杉下には、目的達成の為にはどんな手段も厭わない狡さと逞しさを持っているという一面がありましたね。
moto様の回答に大きく頷くことができました。ありがとうございます。
ただ、女性目線で気になる点があるとすれば、”それっぽい対応”であれば、もっと思いきりよく、わかりやすくする、といったことでしょうか。
この時、杉下は、安藤の「会いたかった」に呼応するかのように、小さく手を添えただけの静かな対応でした。
それゆえに、杉下も会いたくなかったわけではないんだな、と感じてしまいました。
とはいえ、私はいわゆる安藤派ではありません。
杉下のNは成瀬だと考えていますし、杉下が西崎に対して特別な感情あったいうことも一部同意しています。
ですが、真相を教えられなかったことによって安藤は守られたという説を捨てきることも出来ないのです。
moto様のブログはいろんな切り口で、ワンシーンずつ深く掘り下げて解説されています。異端とは仰いますが、きちんと筋も通っていて、矛盾点もありません。
私はそこを楽しみながら、自分の説もあてはめ、確認作業をしています。
これからも頻繁に覗きにきますね。
長く続いてほしいので、ネタ・アイデア等思いついたらコメントします。
ありがとうございました。
OA様
是非OA様のお役に立てれば、と考えております。いろいろ突っ込みして下さい。
機会があればOA様の論を是非お聞きしてみたいです。
そんな機会が訪れる事を願っております。
さて、『”それっぽい対応”であれば、もっと思いきりよく、わかりやすくする』について、ちょっと私の意見を。
このシーン、ラストの成瀬との抱擁シーンとセットで考える必要があると思っています。
このドラマ、相当に構造を作り込んでいて、一つにはミスリードを誘う為の描写が徹底的に作り込まれている。
でも一方で謎解きとして正解に近づく人の為にもチャンと道を整備してあるんですね。
このシーン、ミスリードを誘う為に杉下に安藤に気持ちがあると視聴者に見せたい。でも謎解きを一通り巡ってきた人の為(つまり私やAO様など)が、再度ここに来た時、『わかりやすく』描写してしまうと、謎解きの障害になるんですよ。ですからラストと比較して明らかに杉下の感情には差がある事を謎解きを途中の人には理解させつつ、それ以前の視聴者には安藤への気持ちを刷り込む、という目的を持つシーンとなる為、ここの描写は、これ位が適切なんだろう、ととっております。
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